第七章 ガーデンシティー六甲苑

(1)

「よう、大社長。商売のようすはどうだ?」
マンションのモデルルームに、めずらしくフジ電子の川勝会長が訪れた。伊室部長が後ろに付いている。川勝はホールに設置された自社製品のパソコンほか電子製品を見つけて、いたって機嫌が良かった。
「おかげさまで、しごく順調です。それにしても会長、相変わらずお元気ですね」
出迎えた紳一が言った。
「ふん、きみの言葉はすなおに喜べんわ。なにか裏がありそうな気がする」
「会長、素直になりなさい。わたしは真っ直ぐな性格をしていますから、いつも素直な気持ちで言ってるのですよ」
「よく言うよ。それはそうと、この伊室が、ここのマンションを買いたいらしいぞ」
「ありがたいことです。伊室部長なら、最高級の部屋を用意しておきます」
伊室があわててさえぎった。
「そんなに給料は貰っていませんよ」
川勝が伊室の顔をジロリと見た。
「伊室、するとなにか――きみはフジ電子の給料が安いとでも、言いたいんだな?」
「い、いえ、そんな――」
伊室はうろたえた。「つまり、子供たちは独立して夫婦ふたり住まいですさかい、そない広い部屋はいらないということです」
そこで彼は、ニヤニヤする紳一の顔を見た。「しばらくの間、木原社長と麻雀をやらなければ、なんとか一番安い住戸くらいは買えそうですわ」
「またまた。大会社の部長さんがなにをおっしゃいますか」
紳一は、伊室の尻をピシャリと叩いた。「太っ腹の会長さんが、ひと部屋分くらいは、入居祝いで出してくれますよ」
そして、福井に向かって言った。「伊室さんに、マンションのご説明をしてあげてくれ」

福井が伊室の応対をしている間、紳一は川勝会長と展示コーナーを見て回った。
「どうやらきみの冒険は、大成功のようだな」
「冒険ではありませんよ、確信があっての新規事業ですから。でも、これも会長ほか皆さんのおかげです」
「きみがそんな神妙なことを言うと、なんだか尻の穴がこそばゆくなってくるぞ。自分の力だと素直に言えよ」
「とんでもないです。皆さんのおかげで、ここまでこぎつけたんですから。ほんとに持つべきものは友ですね。この前も、宇野商事の社長が、あるテレビ局で10戸の予約を決めてくれましたし、東京の藤森会長も、三友銀行の関西各支店の従業員から、購入希望者を30人も募ってくれました」
一瞬、川勝会長は黙り込んだが、いつもの負けん気があらわれた。
「なんだ、たったそれだけか。ふたりともケチやな。それに、それくらいで喜ぶきみも小さいぞ」
「マンション分譲は四期まで、全部で600戸ですからね。先は長いですよ。川勝会長も、販売協力をよろしくお願いします」
「任せとけ。1割で60戸か。それくらいはわしがまとめてやる。そのかわり、オフィスの賃料は安くしろよ」
「途端になんだか頭痛がしてきました。でも、フジ電子はメイン・テナントですから、できるだけのことはさせてもらいます。それから、賃貸住宅の利用のほうも、よろしくお願いします」
「おいおい、オフィスだけじゃなく、賃貸住宅でもフジ電子から金を毟り取ろうと言うのか」
「そうじゃなくて、御社の経費節減に協力しようとしてるんです。社宅を持ったりホテル代を払ったりするより、六甲苑の賃貸住宅を利用したほうが、はるかに経済的です。これからは資産を持つより、必要施設を利用する時代です。こんど御社の厚生部に説明に参ります。会長からもよろしくおっしゃってください」

分譲マンションの一期販売は、平均倍率10倍という高倍率で即日完売した。震災と経済不況の暗いニュースのつづく関西で、『ガーデンシティー六甲苑』の大成功は、一躍注目を集めた。そのこともあって、一期分譲の締め切り後も、客からの問い合わせの電話やマスコミの取材がつづいていた。
マンションの発売が一段落すると、紳一は社員たちを集めて、次のステップにむけての会議を開いた。
「きみたちの苦労が報われて、第一期分譲は大成功だ。それに三浦チームのオフィスと江口の担当する商業施設のテナント募集活動も、ほぼ満床になるところまでこぎつけた。
しかし、いつまでも楽勝ムードにひたっていては駄目だ。世の中は絶えず変化してるんだ。きみたちには、いつも先のことを見越して、行動してもらいたい。
太田のチームは、今回の抽選で洩れた客のフォローや、新規有望客の開拓だ。マンション分譲は四期までつづくんだからな。
三浦と江口のところは、予約契約までもっていけなかった法人でも、これはと思う優良企業は継続的にフォローしろ。賃貸事業というのは、いつもテナントの入れ替わりがつきまとうものなんだ。
具体的な方法は、きみたちに任せる。ただしマンネリ化には気をつけてくれ。だいたい、先細りになる会社は、形式にとらわれすぎて、いつのまにか世の中の流れから取り残されているんだ。皆には
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