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全体計画に先行してマンション建設が始まった頃、それぞれの会社に出向していた社員たちが戻ってきた。
紳一は建築着工に先立って、マンションの仮設モデルルームを2タイプ造らせていた。実物大のモデルルームを使って、担当社員による徹底的な検査・検討が加えられた。間取り、仕上げ材料、設備位置――それこそコンセントのひとつにいたるまで、じっくりと検討された。
ある日、紳一は全社員を前に、細かな指示を出していた。
「これからが正念場だ。みんな、これまでにそれぞれの出向先で学んできたことを、フルに発揮してもらいたい。
太田、きみの役割は、マンションの発売前に、いかに多くの有望顧客を集めるかだ。そのためには、広告反応客のフォローだけじゃない、優良企業にアタックをかけて、説明会や資料の社内回覧などをさせてもらうんだ。人数が少ないから、効率的に動くようにしろよ。
それから、三浦。きみの役割はオフィス棟の着工前に、100パーセント、テナントを集めることだ。きみのチームは2人しかいないが、大丈夫だな?――返事は」
元気良く返事をした太田にくらべ、三浦は控えめに返事をした。ふたりは共に32歳、同期生だがいつも太田の方が目立っていた。
太田が、明るくひょうきんで、その場のムードメーカーになるのに比べ、三浦は口数の少ない控えめな性格で、どうしても目立たない。しかし紳一は、三浦の実力を評価していた。震災復興のときには、彼の粘り強い働きぶりや、いざと言うときの胆力を何度か目にしていた。
最後に紳一は、福井にむかって言った。
「福井部長、『ガーデンシティー六甲苑』の総合パンフレットは、手直しする必要があるな。あれじゃ概略すぎて、六甲苑の魅力がもうひとつ実感として伝わらない。もっと掘り下げて、それぞれの機能をアピールしてほしい。太田や三浦のチームがこれから企業訪問するとき、担当物件だけでなく、開発団地全体をセールスできるように。分かったな?」

震災後、いち早く大型開発に取り組んだ木原ビルは、多くのマスコミに明るいニュースを提供した。そのパブリシティーと広告の相乗効果で、『ガーデンシティー六甲苑』は一躍脚光を浴び、マンションのプレセールスは順調に進んだ。木原ビルの事務所には、毎日ひっきりなしに問い合わせの電話がかかってきた。そのために紳一は、モデルルームを予定よりも早くオープンさせることにした。

モデルルーム・オープンの初日は、押すな押すなの大盛況で、整理券を発行するほどだった。応接ホールは、大きめに造ったにも関わらず、人の波で埋め尽くされていた。
木原ビルの全社員や、販売業務の委託を受けた平成不動産の社員たちが、客の応対にあたった。そのほかに、木原酒造からも臨時に応援部隊が来ていた。時間の空いた杜氏の笠原や後藤が、車の誘導をし、若い女子社員たちが記念品やパンフレットを配っていた。
取締役に昇格した川井田までが、慣れぬ受付をやっていた。久しぶりに見る温顔に、紳一は疼きを覚えた。彼は川井田に礼を言って、そっと耳元でささやいた。今日は晩飯に付き合ってくれ、と。

「どうだ、福井部長。おれの言った通りだろう」
「恐れ入りました。これほど賑わうとは思ってもいなかったです」
雑踏の片隅で、紳一は福井部長と会場の賑わいをながめていた。彼らはそこから、来場客の応対がスムーズに流れるように、時々スタッフに指示を出していた。
「ところでおまえ、ポールとはうまくいってるのか?」
「はあ、お互い、あまり干渉しすぎないよう気を付けていますから、まあ、うまくいってるほうです」
福井とポールが同棲していることは、紳一だけが知っていた。福井の幸せそうな顔を見て、紳一はちょっと後ろめたさを覚えた。有馬温泉でポールと燃え上がるような愛を交わした2日間のでき事は、福井が知る由もない。
そのとき会場の入り口に、紳一の次男坊の手を引いて、戸惑った表情をした木原社長の姿が現れた。どうやら、ちょっと遊びがてらに見学と思っていて、予想外の賑やかさに驚いているようだ。
「おっと、本社のボスの登場だ。おれはちょっと出かけるんで、ふたりを頼んだぞ」
紳一は福井の尻をポンと叩くと、外に出ていった。

紳一は年配の知人たちを通じて、できるだけ多くの関西の財界人に会ってきた。面会したとき、まず震災復興の話題を持ちだし、おもむろに『ガーデンシティー六甲苑』のパンフレットを差し出すのだ。
この日、紳一は、宇野商事の社長に同行して、大阪に本社のあるテレビ局を訪問した。
TV局社長の白取は、人の良さそうな顔つきの初老男で、そのずんぐりむっくりとした体型は、紳一の叔父の木原社長を連想させた。
開口一番、白取はお世辞を言った。
「お若い社長さんやな。それに、うちのテレビタレントとしても充分に通用する男前や」
紳一は、おもむろ
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