(2)
腕組みをして黙って聞いていた木原社長が、口を開いた。
「ふむ、良く考えているようやな。それで、若い人たちと一緒に商品開発をやってきた川井田くん、きみの意見はどうなんやね」
とつぜん指名された川井田は、一瞬、沈黙して、ゆっくりと立ち上がった。
「開発計画は、ハイカラで素晴らしいもんやて思います。でも醸造部の立場から言わせてもらえば、せっかく新製品を開発したばかりです。ロック・オン・ロッコーがもっと飲まれるような、店を作ってもらいたいと思います。だから、高級店舗より、若者たちの集まる大衆店舗のほうがいいんじゃないでしょうか」
紳一が、川井田の言葉を遮った。
「ロック・オン・ロッコーが売れるのは、ほんの一時期ですよ。あんなのは、すぐに他社が真似をする。それに消費者だって気まぐれだ。世の中は、絶えず変化しているんです。それに乗り遅れないよう、次の商品を開発するのが先決問題でしょう。もちろん、すでにやられてると思いますけど」
紳一は皮肉を込めて言ったが、それは他の幹部に対してだった。彼もポールと同じことを言ったのだ。先月、川井田の出した焼酎用の設備投資の提案、それが否決されたことだ。それに気づいた何人かの幹部は、後ろめたそうな顔つきをしていた。
人事課長の速水が、おずおずと質問した。
「あのう――さきほど木原部長は、高齢者の雇用のことをおっしゃっていましたが、それがこの開発計画とどう関係するんですか?」
紳一は、そんなことも分からんのか、というように速水をにらみつけた。
昨夜は遅くまで、プロジェクトチームの全員が、今日にそなえて資料の最終仕上げをしていた。真山や福井の顔を見ると、彼らにも疲労が色濃くにじみ出ている。
紳一は苛立ちを隠さずに言った。
「今回の計画は、さきほど福井次長が言ったように、一時期の収益だけが目的ではありません。将来にわたる、恒常的な収益を生み出すものを造ることが目的です。したがって、ビル経営、建物の管理、賃貸マンションや店舗の運営。高齢者の働く場所は、いくらでもあると思いますけど」
速水がねちっこく聞いた。
「つまり、木原部長がおっしゃるのは、建物の管理運営も当社でやっていくということですね」
そんなこと言うまでもないだろうが、と言うように紳一はそっぽを向いた。彼の苛立ちは、限界近くまできていた。
木原社長が言った。
「オフィスのテナントはどうなんや?この不況の時期に、来てくれる企業があるのか?」
「それは、これからの営業活動によります。しかし、テナント誘致の自信はあります。収支計画だって、じゅうぶん賃貸相場に対抗できる賃料を設定していますから」
いつもは陽気な社長が、憮然とした表情で紳一をにらんだ。
「いくらハイカラな建物を作っても、事業成否のポイントはテナントや。あいかわらずの楽天家やな、きみは。収支計画も、楽天的な数字でなければいいが」
紳一はムッとした顔で社長をにらんだ。
「もちろんオフィスビルは、テナントの目処がついてから着工します。それに収支計画は、経理の角岡課長にチェックしてもらっていますから、彼に聞いてください」
とつぜん自分の名前が出されて、角岡が顔を赤らめた。その角岡を、社長と専務がジロリとにらんだ。
社長は横にいる大園専務に言った。
「ほう、角岡くんも今回の計画に参加していたのか。どうも、私の知らないところで、いろいろと物事が進んでいるようやな」
「そのようでんね。私も角岡から、ひとことも報告を受けてませんわ」
大園は角岡課長に向き直った。「それで角岡、今回の収支計画に対するきみの意見はどうなんや?――正直に言うんやぞ」
角岡は、おずおずと立ち上がった。テーブルについた手が、かすかに震えている。
「投資総額は300億円ですが、実際の借入金は、ピーク時で200億円以下になると思います。分譲マンションの売り上げで、事業途中からの資金回収ができますさかい。
さいわい青雲荘には、さほど抵当権はついておりません。銀行評価が相場の8掛けとしても――800億円くらいにはなる、と思います。既存の抵当権分を差し引いても、担保価値はじゅうぶんにあります。
また収支計画は、数字だけで見れば、余裕のある試算です。あとはピーク時の年間返済金利、わたしの試算では7億円くらいですが、これをしのげれば十分にやっていけると思います。ただし――」
生真面目な角岡はうつむいて、黙り込んだ。
大園がうながした。
「ただし、なんやね?」
角岡はモジモジした。そして思い切ったように顔を上げた。
「問題は――社長がおっしゃったように、テナントが予定通りに決まるかということです。それに、分譲マンションは、一戸当たり平均7千万円の売値を設定しています。単価はそんなに高くありませんが、グロス金額は高額です。それが関西で500戸も
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