第四章 改革宣言

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冬のボーナスは、木原酒造始まって以来の大判振る舞いだった。
新商品『ロック・オン・ロッコー』が空前の売れ行きだったからだ。ロックか冷やで飲む酒にもかかわらず、この寒い時期に入ってからも、その売れ行きは衰えを知らない。その相乗効果もあって、木原酒造の名が若者たちの間にも広く知れ渡り、ほかの製品も売れ出した。
ボーナスの出た5日後、幹部会議が開かれた。まだ不況がつづいているとはいえ、会社の業績が良くなったこともあって、出席者は全員、明るい表情をしていた。
しかし、社長と専務だけは難しい顔をしていた。
会議室の隅には、総務部の福井次長、それにポール・マッケンナと若い江口が並んでいた。正面の壁には銀色の大きなスクリーンが垂らされ、いつものVIP席は取り払われている。
(なにかあるな――)
出席した幹部たちは緊張した。
大園専務は、はっとするほど厳しい顔つきで、開会の辞を述べた。
「本日は、今年最後の幹部会や。本来なら一年を振り返って、新商品の画期的な成功を祝い、また皆さんの労をねぎらって終わりたいところや。
しかし先般、総務部の施設課からある提案がなされた。今日はその説明会とした。我が社にとって、非常に影響のある提案や。始めてくれ」

真山取締役が立ち上がった。
「ご存知のように、施設課の仕事は、会社施設、なかでも当社業務の中心である酒造工場の円滑な運営です。この点につきましては、さいわいこの数年間、さしたるトラブルもなくやってまいりました」
真山は、まったりと口調で、ゆっくりと話をつづけた。
「さて、施設課にはもうひとつの役割があります。それは、当社保有資産の有効活用の促進です。この一年間検討してきましたことを、本日ご提案いたします。青雲荘の再開発です」
室内でざわめきが起こった。
それが静まるのを待って、真山は話を続けた。
「これから皆さまのお手元に資料をお配りします。極秘資料ですので、お取り扱いは慎重にお願いします」
江口とポールが、A3サイズの資料を配り出した。
「本日は計画の骨子だけをご説明します。お配りした資料は、あとでじっくりとお読みください」

真山にかわって木原紳一が立ち上がった。彼は正面のスクリーンの前まで歩いていくと、みんなの方に向き直った。
「先ほど青雲荘の再開発と聞いて、皆さんがたは驚かれた。その理由は、私も承知しています。青雲荘――別名、木原別邸は、木原善衛門が別宅として建てて以来、200年の歴史がある。その間、新年会、お水取り、その他木原酒造の主要な行事は別邸で行われてきました。青雲荘はずっと、木原酒造の象徴でもあったわけです」
紳一は全員を見渡した。
「古きよき時代を偲ぶ――皆さんが青雲荘に、一種の神格化された愛着をもたれるのは当然のことです。しかし、考えてください。この青雲荘にも変化があったことを。大正時代に、当時貴族院議員だった平一郎が洋館風に全面改築し、また近くは、先代社長の繁が、木原家所有から会社所有に切り替え、記念館として外部にも開放した」
話しながら紳一は、目で江口に合図した。江口が映写機に近づいた。
「わたしは、経営とは改革だと思っています」
紳一は少し間を置いた。
「世の中は絶えず変化しております。それは、企業でも同じことです。高度の情報化社会で、若者たちは経験がなくても、どんどん仕事をこなしてしまう。一方、世の中は高齢化社会と言われています。定年を過ぎてもまだまだ働ける、元気なお年寄りはたくさんいます」
神妙な顔で立っている福井のほうを見て、紳一はつづけた。
「やがては福井次長のような優秀な社員たちが、この会社を切り盛りしていく時代がやってきます――それも早い時期に。そのとき、彼より年上の人間はなにをやるか。今回の提案は、単に土地の有効活用だけにとどまりません。むしろ主題は、高齢者の第二の職場作りにあります」
紳一は福井に向って、うながすように言った。
「前置きが長くなりました。本題に入ります」

紳一にかわって福井次長が前に出た。彼はチームメンバーを前にしての予行演習がものをいって、簡潔にわかりやすく説明しだした。
開発の主体は、オフィスと住居であること。オフィスは恒常的な賃貸収入が目的で、メディア系先端技術の企業を誘致する。住居は500戸の分譲マンション、100戸の賃貸住宅を建設する。分譲マンションは短期的な資金回収源として、賃貸住宅は地の利を活かして滞在型のホテルとして機能させる。そして、オフィスや住戸の補完的な施設として、店舗などのサービス施設を考えている。
概要の説明が終わると、福井はスクリーンの映像を使って、計画している各施設のイメージを紹介しだした。スクリーンの上では、国内外の開発事例が、次々と映し出された。
映写が終わり、室内が明るくなると、皆一様に溜め息をつ
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