(5)
雲ひとつない青空に、花火が弾けた。大通りでは賑々しくパレードが繰り出し、その年の港祭りは絶好の天気に恵まれていた。
『ROCK ON ROKKO』
赤地に白抜き文字の旗が、木の緑に映えて風にたなびいている。木原酒造の出店は、公園の一角にあった。白いテントの横には特設ステージが設けられ、その上には、スピーカーやアンプ類の音響機器が所狭しと並べられている。
早朝から忙しそうに準備をしていた従業員たちは、奇妙な組み合わせだった。20才前後の若い男女と老人の男たち。
彼らはおそろいのユニホームを着ていた。白地に赤の縞模様のはいった野球帽と白の半袖Tシャツ、それに真っ赤なショートパンツ。シャツの胸のところには、ノボリ旗と同じ文字が赤く染め抜かれている。
夏休みの日焼けが残る若者たちは、ユニホームがよく似合っていた。一方、年配の男たちは、どことなくユーモラスな格好だった。小太りの体に貼りついた赤白のユニホーム、目に染みる色白の短い手足。彼らはさしずめ、童話の7人の小人を連想させた。
「はいはい、いらっしゃい!本日新発売のロック・オン・ロッコーだよ。ひとつ200円のところ、今日に限り100円。はい、いらっしゃい!」
杜氏の笠原が、三々五々集まりだした客に向けて、声を張り上げた。
「おとうちゃん、なかなか板についてるやないか。昔、バナナのたたき売りでもやってたんとちゃうか」
施設の植田課長がからかった。
「アホ言うてないで、課長もはよ手伝いなはれ。ほら、そこのお客はんに氷をあげて」
笠原は、ふたたび声を張り上げた。「さあさあ、いらっしゃい。ロック・オン・ロッコーだよ。甘口、辛口、どちらもあるよ。あ、そこのお兄ちゃん、いい男やねえ。どうだい、ひとつ」
アルバイトの女の子たちが、クスクスと笑った。それから彼女らも、黄色い声を張り上げだした。
3人の男子学生が、エレキギターを抱えて急ごしらえのステージに上がった。
ほどなくパンチの利いた、軽快なロックミュージックが流れ出した。
テレビのCMは1週間前から流されていたので、聞き覚えのある曲に惹きつけられて、若い男女が集まりだした。
そのCMは、若者たちの間で評判になっていた。軽快なロックミュージックをバックに、ウインドサーフィンに興じる若者たち。カメラが神戸の海から六甲山の遠景に移る。そこで山頂に、目にもまばゆいレーザー光線が、素早く線画を描いていく。それが巨人の姿に具象化する。俳優はいまテレビで人気の、二枚目半を売り物にする若者を起用していた。巨人は手にした紙パックを豪快に飲み干す。そして溜め息。はあーっ!
そのあとナレーターがとぼけた口調で言う。
──ロックで飲む酒、ロック・オン・ロッコー。もちろん、冷やでもどうぞ――。
用意した清酒の紙パックが、見る見るうちに売れていった。この特殊加工された紙で出来た容器は、大小、二種類あった。
酒の容器を紙パックにしたのはポール・マッケンナの発案で、若者向けのシンプルなデザインにまとめあげていた。角張った容器だが、上端が斬新なカーブを描いて、その中心に筒状の注ぎ口がついている。筒の先端にあるプラスチックのキャップを外せば、そのまま直に飲むことができるし、あるいはグラスなどへ注ぎ込むこともできる。
人が人を呼んで、今や木原酒造のテントの前には、長蛇の列が出来ていた。
「部長!工場に電話して、追加してください。これじゃあ昼までに売り切れちゃう」
笠原がうれしそうな悲鳴を上げた。露出オーバー気味のユニフォームを着て、気恥ずかしそうにしていた川井田がうなずいた。その横では、もうひとりの杜氏の後藤が、忙しそうに段ボールのケースから、紙パックを取り出している。
昼近くになって、紳一が家族連れであらわれた。木原社長夫妻も一緒だった。紳一が仕事中の彼らに声をかけた。
「よう、オールドヤングたち、がんばってるな。しかし、あんまり無理をするなよ。救急車を呼ぶはめになるからな」
植田がテントからでてきた。両手にオリジナルの酒パックを持っている。
「部長、一杯どうです。あ、社長、どうぞ一杯」
彼は酒を手渡すと、離れて立つ紳一の家族の方を見た。「きれいな奥さんでんなあ。それに可愛らしいお子たちだ」
植田はテントに戻ると、子供向けの景品を取ってきた。そして子供たちに声をかけた。
「はーい、お嬢ちゃんにぼくたち、こちらにおいで」
子供たちに話しかける植田の姿は、どこにでもいる好々爺そのものだった。若者たちに店を任せて、笠原も出てきた。
「可愛いお子たちだ。何歳です?」
「7、5、3だ」
「さすが部長ですね」
「べつに誉められることでもない。生殖機能さえあれば、だれだってできる。それにしてもそのユニホーム、なかなか似合ってるな。それに――」
紳一は手を伸ばして、笠原のぽってり
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