愛欲の海(14)

辣腕の向原と美少年柳原の出会いと恋の道行の話です。

辣腕の中堅商社マン

シカゴの先代、向原伸之助は、精力絶倫の男でした。身長165cm、体重65キロの細身の身体。よく気の付く人です。中堅商社の仕事は、決して生易しいものではない。旧帝大や有名私立出身ではない向原には、学歴もなければ閨閥もないから、頼むのは自分の二本の腕だけです。

向原(むかいはら)は、学生時代、柔道や空手に精を出しました。特長のない彼にとって、強健な身体だけが「資本」、元手だと感じていました。努力すれば報われるはずの世の中です。だから武道に邁進したのです。修練すれば、誰でも、黒帯はもらえる。柔道も空手も、公正な評価が生きる世界です。

やがて、ばりばり仕事をこなす向原は、コンピュータ付き営業マンと呼ばれるようになりました。そして数字に強いのが彼の長所です。その彼が選んだのが、わずか16歳の少年、柳原誠司でした。これには、みな驚きました。他に人材はいないのか。皆がそう思ったはずです。

人生には出会いがあります。向原は柳原少年を見た瞬間に閃(ひらめ)いたのです。天啓といういう言葉があります。天から降ってきた美青年。そう思えました。だから、有無を言わせず、抱きしめたのです。どうしてそうなったのか。理由など、何も分かりません。

辣腕の男が、美形に惚れたというだけでは、説明不足です。シカゴで仕事を始める相棒に、高校もまだ終えていない少年を選ぶのは冒険です。これまでの人生はつらい連続。波乱万丈そのものでした。柳原少年は、天が呉れた最後の機会に違いない。彼はそう信じました。

向原には分かっていたのです。少年に潜む類いまれなる才能を。いいえ、彼には鮮明に見えたはずです。迷いは無かったのです。未成年の少年を米国に連れて行くのはリスクです。ではどうすればいいか。外務省に相談しました。留学という手段があるのではないかと。

西海岸には、N社の支店があります。そこへ一時、預ければいい。地元のハイスクールに通わせ、事務の仕事を手伝わせてみよう。翌年には、シカゴの高校に転校させるのだ。まず英語を学び、高校を卒業後には、夜間大学に通わせればいい。計画は周到なものでした。

ビジネスは人次第。N社の経営者は常々そう言いました。優れた人材を自前で育ててこそ経営だと。人の褌を借りずに、自前でやり遂げてこそ事業だと、向原も考えていました。その始まりが16歳の少年と縁を結ぶこと。でも北米進出はN社には遅すぎた出発でした。

 やりがいのある跡継ぎの育成

少規模ビジネスでは、、何でも自分でやらねばなりません。向原は細かいことに気の付く人です。だから小企業の経営には向いていたのです。何でも人に任せておけない性質(たち)の人です。まもなく還暦という向原は、最後の仕事を、北米の市場開拓に絞りました。

相棒は16歳の少年、柳原誠司です。向原は、ビジネスの基本は効率性と考えていました。企業という船は、規模が小さければ小さいほど、資本を早く回転させねばなりません。回転率が高ければ、資本は増殖を始めます。あっという間に拡大して、中堅規模になります。

経営の現場で働いて半世紀。その間に身に付けた最大の教えが効率性でした。無駄を省くこと。大事なことは実際に手を取って教えます。雇った少年は、それを正確に理解して実現する力、つまり才能があります。聖徳太子は一を学んで十を知つたと言われています。

少年の学ぶスピードは、想像を絶するものでした。農家の三男だった向原は、英語は苦手で、散々苦労した経験があります。でも柳原は違ったのです。生まれつき頭がいいのでしょう。学べば覚えてすぐに実行できる。そんな奴は今まで見たことがないと思いました。

夜の時間を割いて、駅近くの英語学校に通わせました。この分なら、北米に行く前に、日常会話はマスターできると考えました。夜やすむ前に、一日の仕事や、学んだ内容を復唱させました。向原はだまって説明を聞くだけです。でも内容は綺麗に整理されていました。

柳原少年は、楽しそうに一日の出来事を話して聞かせます。これは才能なのだと思いました。中学を出てすぐ働かねばならないほど、家庭環境は、酷(ひど)かった筈です。片親で兄弟の多い家庭。弟妹の面倒までも見なければならないのは、気の毒な環境でした。

そんな状況でも、ひねくれていない。両親はいい人だったのです。向原伸之助はそう感じました。戦後に、病気で父親を失った柳原は、確かに意思の強い少年でした。学校の成績もよく、クラスでもまとめ役。リーダーシップは、彼には天性のものだったようです。

柳原にとって、仕事は楽しくて仕方なかった。やがて北米の会社で仕事ができる。それも希望が持てる条件でした。彼は思います。「親爺さんは仕事のできる人だ。何でも聞
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