愛欲の海(4)

60代半ばの元会社役員と、30代の青年教師の恋愛小説です。

不意にやって来るのが人の出会いです。爺さまとの出会いも、意図したものではありませんでした。爺さま60代後半、私が50歳の時でした。もう20年以上も昔の話ですが、少しだけ、記憶を頼りに文語りを綴りたいと思います。もやもやした、人間関係の渦にもがいていた、ピンチの時です。冷たい雨が降り止まぬ秋の宵のこと。今もはっきりその光景が頭に浮かびます。

私がよく行く店は、年配ばかりの居酒屋でした。店主は青森県出身の苦労人。気配りの効く人でした。男の店で遊ぶには、それなりの理由がある筈です。親爺のような年寄りを求める若いのは、結構、沢山います。悩みを聞いて、一緒に解決策を考えてあげるのが、青森の爺さまの役割です。いい人がいれば、若い客のために一肌脱ぐのも、大切な店の仕事です。

どの店にも、それと分かる年寄りがいます。もてそうな魅力のある年寄りです。その人を目当てに客が集まるフケは、簡単に言えば、客引きの道具に過ぎません。一人で来る客は、相方がほしいからやってきます。その希望にこたえるのが、老けの存在理由です。いい客だと分かれば、マスターもしっかり話を聞き、相手も探してあげます。もちろん店のためになるからです。

一緒に飲んで、一夜を共にしてくれる相手を探して紹介すること。若い男の希望に応えれば、また来て店に金を落してくれるのです。そして店は繁盛します。「三方良し」という日本の商慣習ですね。その原則が居酒屋で生きているのには、驚きました。男の店にも、「売って喜び、買って喜ぶという」、古い日本の商慣行がしっかり生きて働いているのですから。

金がある客を、店は放ってはおかきません。もちろん男の酒場の常識です。浅草にある、そういう店の一つに、見慣れない小柄な年寄りがやってきました。店主は入り口近くの席に、その客を案内します。今まで見かけたことのない小顔の年寄りです。もちろん知り合いもいない。マスターが、話し相手になり、やってきた訳を、注意深く聞き出します。

若いのが好きなタイプのフケでした。自分に合う若いのを探しに来たのです。彼の不満は、付き合ってみた若いのが、肌に合わなかった事です。太ったのは好きでいいのだが、趣味が違いすぎるといいます。金遣いも荒くて、一寸常識に欠けるところがある。同じ九州出身で、最初はよかったが、今はうつとおしくて仕方がない。何とかしてくれという、相談でした。

仕方がないとマスターは、腰を上げます。客商売ですから、なんとかするのは当たり前のこと。その爺さまに合う若い客を見つけて、連れてくればいいのです。良識があって金に困っていないインテリです。もちろんブスの子は最初から除外します。その爺様は相当の面食いだからです。厄介な客ですが、金離れがいい点は事実です。店に金を落とす客は、店にとっては神様で、どんな客でもエルカムのはずです。

「じゃんじゃん飲んで騒いで、若い人と仲良しになればいいのよ。そのうちいい人がきっと現れるに違いないから。」 

それが強調されたポイントです。マスターは爺さんに酒を飲ませて、当たり前の話を、何度も何度も、爺さんの頭に吹き込んだのです。

フケが好きな若者の中に、ケンちゃんという20代後半の青年がいました。横浜のマンションに住む一人暮らしです。ちょっとしたイケメンで、センスがあり、普段はBMWを乗り回しています。中肉中是で、あまり太ってはいないが、着るものも、身に付けるものにも、センスがあります。めったに店には顔を出さいが、たまたま用事があってやってきたのです。

「ケンちゃん、久しぶりだわね。元気だった。」

マスターは、気軽に話しかけます。

「ところでケンちゃん、一寸頼みたいことがあるのよ。今、時間ある。」

マスターが話したことは、もちろん、業務上の秘密事項です。ややこしい部分をはしょって、皆さんには紹介したいと思います。マスターの話は、ごく簡単なことです。

「最近よく来てくれるお客がいるのよ。かなり年配だけど、身なりもきちっとしていて、金にも不自由しない人よ。チップも欠かさないし、ルックスもいいわよ。あんたにぴったりの人なのね。」

マスターの説明は長くなるので、省略します。マスターはしたたかな人です。でも人情家でもあります。ルックスのいい年寄りに、希望があれば添い寝も厭わない人です。もともと老け専なのです。男の店で、メインがフケの店をやっているのだから、同情して世話を焼きたくなるのは、当然の話なのです。

「相方がいなくなって、もう3年になるわ。可哀想でしょ。どう、あんた、一度会ってみない。」

マスターのカンは鋭いと思いました。そして、あっという間にお見合いの成立です。ケンちゃんの理想は、もともと中肉中背の60代の爺
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