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(4)入日色の秋

「掃き溜めに鶴」ということわざがあるが、植木悠平の場合は「掃き溜めに天子」といったところだろう。劣悪な環境の中にいても、幼い天子のような清らかさを生まれながらにして備えていたからだ。
悠平が生まれたのは、足立区の千住の中でも戦後、赤線があったエリアである。母親は、羽振りの良かった旦那のめかけだった。最初でこそ暮らしぶりは安定していたが、そのうち商売に失敗した旦那に捨てられた。
路頭に迷った親子は、高齢の伯母がひとりで暮らす、浦和の家にたどり着いた。柳腰の母親は、雑貨店の売り子をしたり、家で縫い物をしたりして、一人息子の悠平を養った。
隣の家に悠平と同い年の、和子という女の子がいた。二人は隣同士ということもあって、小さいころからよく一緒に遊んだ。いつも和子のほうがお姉ちゃん役でまめまめしく悠平の世話を焼いていた。

伯母は高齢だし、母親も朝から晩まで働いていたので、悠平は小学生のころから家事を手助けした。それこそ朝晩の食事の支度から、掃除洗濯までだ。
几帳面な彼は、万事手抜きをしなかった。とくに料理は安い食材を使ってレシピ以上のものを作るので、母親と伯母を驚かせるほどだった。

悠平は高校を卒業すると、浦和の割烹料理店に住み込みで働きだした。病弱な母が心配だったが、朝晩の仕事があるので通いは無理だった。
店では早くから頭角を現し、彼が任せられる料理も増えていった。
働きだして5年が経過した頃、店の馴染み客だった陶芸家の誘いを受けて、陶芸教室に行ってみた。試しにろくろを回して、湯のみを作った。意外に面白い。
粘土を成形し、乾燥させ、素焼きする。それから釉薬がけして本焼きする。
出来上がった陶器を見て、陶芸家がうなった。
「初めてにしては、なかなか見事な出来栄えだ。技術的には未熟だが、独特の味わいがある」
単独で作業する陶芸は、職人肌のこだわりを持つ悠平の性に合っていた。いつしか空いた時間は、陶芸教室に通うようになっていた。
そのうち、悠平の才能を見込んだ陶芸家が誘いをかけた。
「どうだ、陶芸の里に来ないか。わたしのもとに弟子入りすれば、毎月の給料も出すぞ」
そう言って、今の割烹料理店の給金以上の額を提示した。
陶芸家の佐山は、和紙造りで有名な小川町の山林に居を構えていて、普段はそこで陶芸の窯焼きをしている。50代の独身で、小柄な体つきをしていた。
父親の年代の男性にあわい憧憬の念を抱いていた悠平は、迷った末、佐山の世話になることを決心した。

陶芸の里は、小川町でも民家から離れた所だった。茅葺屋根の家に、佐山一人で住んでいた。悠平は陶芸の修行だけでなく、家事いっさいをやらなければならなかった。しかし、小さいときから家事に慣れていた悠平は、それを苦とも思わなかった。
佐山は優れた陶芸家だったが、仲間内では変わり者で通っていた。生涯独身を貫いていたうえ、酒癖が悪かったからだ。
普段は温厚だが、酒を飲むと人が変わったように怒りっぽくなる。これまで人と喧嘩をして、警察沙汰になったことも何度かある。
悠平はいっしょに生活していて、そのうち佐山の性癖を知ることになった。そのときは、作った陶器を投げ割ったり、悠平自身も殴られたりした。
それでも悠平は我慢した。母に仕送りする給料をもらうため、そして面白くなった陶芸の技を磨くためだった。

それに小川町の自然風景が好きだった。
秋のこの季節、ハゼが紅葉して、まるで夕陽のような暖かいオレンジ色に輝いている。紅葉を見ていると、自然にくちずさむ。
 ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋みつけた〜♪
サトウハチローの詩だ。その3番にハゼノキが出てくる。
 はぜの葉 あかくて いりひいろ〜♪
この入日色を見ていると、なぜか心が騒ぎだす。オレンジ色に緑色や赤色が重なり合い、色彩の大合唱だ。いつかは陶器で表現してみたい、と思っていた。

陶芸の里で働いて10年の歳月が流れた。
師匠の佐山は、このころ寝込むことが多くなった。酒の飲み過ぎで、肝臓を悪くしていたのが原因だった。
そんなとき幼なじみの和子から、「ハハキトク」という電報が届いた。
慌てて駆けつけたが、救急病院に着いたときには、母は帰らぬ人となっていた。
呆然自失した悠平に代わって、和子が葬式その他の手続きをすべてやってくれた。彼女は一度結婚して、独身に戻っていた。

悪いことは重なるもので、悠平が陶芸の家に戻ったとき、佐山が嘔吐と発熱で苦しんでいた。あわてて救急車を呼んだが、総合病院に運ばれる途中、佐山は死んでしまった。急性胆管炎だった。
今度も和子がやって来て、いろいろの雑事を引き受けた。彼女が依頼した星野という法律家が、佐山の遺産の処分等、法的な諸手続きをやってくれた。
和子は浦和の市民病院で看護婦として働いていたが、わざわざ悠平のために休みを取ってきたのだ。彼女には頭が上がらなかった。
すべてが片付いた夜、二人は静まりかえった佐山の家に泊まった。そのとき和子の誘導で、悠平は33歳にして童貞を失った。

浦和に戻った悠平は、新しい職を探さねばならなかったが、これも和子が世話をした。佐山の件で法的な処理をやってくれた星野が、文化会館内にある和食の店を紹介してくれたのだ。
新しい仕事を得ると、悠平は和子と夫婦になり、賃貸アパートで暮らしだした。
毎日が幸せだった。しかし二人の間に、子供は出来なかった。和子は子供のできにくい体質で、それが前の夫と別れた理由でもあった。

和子と二人の平穏な生活が続くなか、悠平は自分の心の中に、隙間があるのに気づいていた。年配の男性に対するあわい想い――。
そのころ、彼の就職を世話した星野が、文化会館の館長になった。そして星野はまるで悠平の心の隙間を見透かしたように、急接近してきた。
そしてほどなく、悠平はホテルの一室で、星野によって女にされた。背後を貫通される苦痛のなかで、彼は倒錯した悦びも覚えていた。

次の日、悠平は和子を前に、涙ながらに告白した。ぼくは星野さんと――きみを辱めるような行為をした。どう償ったらいいのか――。
意外にも、和子はあっけらかんとしていた。
「わたしだって初心じゃない。男同士の世界があるってことぐらい知ってるわ。あの星野さん、男好きだから、いつかはユーちゃんが狙われるのではないか、と思ってた」

――*――

愛川孝志は、転職のことで迷っていた。
住んでる家の大家は、閉めた1階の喫茶店のあとを継がないかと言う。自分の店を持つのは魅力的だが、自分には店舗経営のノウハウが無いし、店をやっていく自信も無い。
そんなことを考えながら浦和の街を歩いていると、前を歩く見知った男に気づいた。文化会館内にある和食の店で料理人をやっていた、植木悠平と言う男だ。義父によく連れて行かれたので、孝志も知っていた。そのとき、この店の料理人が星野館長といい仲である、ということを義父に聞いたことがある。
その料理人、植木悠平は中肉やや背が低く、孝志より10歳年下だった。小作りの目鼻立ちは品が良くて、清らかな楚々とした雰囲気がある。孝志はこの料理人に会うたびに、いつかは抱いて見たい、という欲望を抱いていた。
先日、館長が死んで和食の店が閉められた、と聞いていた。前を歩く植木の姿を見ると、肩を落として心なしか影が薄い。相方を失った影響だろうか。
孝志は男に近づいて声をかけた。
「やあ、お久しぶり」
言って男の肩に触れたとたん、孝志は思わず声をあげそうになった。
火傷しそうなほどの熱い感情だった。孝志に対する思慕の念――この大人しそうな男のどこに、こんな強い感情が潜んでいたのか。

二人は孝志の住むビルの屋上に来ていた。
丸太のプランターボックスが屋上に設置され、思いがけない庭園に、悠平は驚いていた。しかし、すぐ間近に見える文化会館からは目を背けていた。
ベンチに腰かけた二人の前では、ちょうどハゼが紅葉して入日色に輝いていた。悠平はふと陶芸の里で見た風景を思い出した。その気持ちが影響したのか、普段は口数の少ない悠平が、とつとつと心情を吐露しだした。
――長年付き合ってきた館長が死んで、心の張り合いを無くしました。だから、館長の思い出が残る文化会館の店をやめたんです――。
悠平の隠された感情を知っている孝志は、率直に訊いた。
「亡くなった館長は――お前を愛してるよ、でももうおれのことは気にせず、新たな愛を育みなさい――と言えるような人だったかい?」
悠平は驚いて孝志の顔を見た。そこにどんなことでも受容するような、やさしい笑顔を見て、彼は涙ぐみながら何度もうなずいた。
「館長は優しい人だったから、きっとそう言うと思います。でも何で愛川さんがそんなことを聞くんですか?」
孝志は正直に白状した。
「わたしにも心を通わせた人がいたから――」
思い浮かべるように、宙を見た。「義父はわたしへの遺書に、死者の思いは残された者が決める、と書いていました。死者を善人にするか悪人にするか、それは生きている者の生き方次第、だってね」

会話のあと、孝志はなかば強引に、悠平を3階のバスルームに連れて行った。
体を洗ってやっていると、そのころには、悠平も自分の気持ちに素直になって、しがみついてきた。肌と肌を合わせたことで、情感が昂った。
二人は素裸のまま寝室に行った。
悠平は長年館長と付き合って、経験豊富と思っていたが、意外にも未熟だった。指を使って、受け入れる大きさまで広げようとするのに手間取った。未通の菊座のように狭いのだ。
ラブオイルをたっぷりと使い、時間をかけて拡張作業をつづけた。
やがて、思い切って挿入行為に移った。亀頭を蕾に合わせて、小刻みに腰を振りながら、陽根をじんわりと埋め込んでいった。
しかしあまりにも未熟だった。悠平は、挿入される痛さに泣くのではなく、痛みに耐えながら、初心な尻を肉杭にすりつける。
その仕種のあまりの可愛さに、孝志は感動し、ますます昂った。
はやる欲情を抑えながら、相手の体を傷つけないように、慎重に、何度も入れて抜く行為を繰り返した。
ようやく内部が性器の大きさに馴れて、嵌入することができた。痛いほど締め付けてくる。
孝志はそれ以上進めず、引き抜いて、この日は終わりとした。
それには克己的な意志が必要だったが、なんとか耐えた。これ以上やれば、かえって悠平の愛を失うと思ったのだ。



息が収まって身づくろいすると、悠平を1階の閉めた喫茶店に連れて行った。
「どうだ、ここで店をやってみる気はないか。何の店だっていいんだ」
孝志は大家から聞いた事情を話した。「開店資金はわたしが出す。大家に相談すれば、足らない資金は出してくれるだろう」
悠平は、すぐには返事をしなかった。やめた前の店のすぐ近くで、新しい店を始めるのに、気後れした。かと言って、いつまでも病院で働く、和子の収入に頼るわけにはいかない。
逡巡する悠平に対して、孝志はのんびりと言った。
「まあ、このことはじっくりと考えて、返事をくれ。それより、アレはまだ最後までやってないからな。続きをやりたくなったら電話をおくれ」
孝志は電話番号をメモに書いて、悠平に渡した。

その後、二人は2度逢瀬を重ね、ついに完全合体した。
孝志の大きさに馴染んだ腸壁は、今まで味わったことがないような快感をもたらしてくれた。女で言えば、まさに名器といえるものだった。
悠平の肉筒は怒張した全長にぴっちりとまとわりつき、収縮をくりかえす。肉杭の前後の動きにつれて、悠平が可愛らしい泣き声をあげた。
悠平が泣けば、孝志もまた呻き声をあげながら、ますます腰の動きを速める。
それが最高潮に達したとき、悠平は四肢を赤んぼうのように縮めて、尻だけを後ろに押しつけ、クククッと声を殺して泣いた。
悠平は小さく縮めた四肢を、なかなか元に戻さなかった。そして孝志も根元まで埋め込んだ性器を抜こうとはしなかった。
小さな壷は根元まで入った亀頭や陰茎を、微妙な蠕動で揉みつづけていた。

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26/09/09 08:45 神亀

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