■ 爺の憩い処『グランパ』 - (3)常連客たち
(3)常連客たち
グランパに集まる常連客は独り身が多く、隠居している共通点はあるが、経歴も趣味も多士済々のメンバーたちだった。
神谷(通称カンちゃん)は70歳。白髪、小柄な体つきで、気楽な社交家といった老人である。彼は大手企業の重役だっただけに、なかなかの博識で、義明たちの店をグランパと命名したのも彼だった。
長年連れ添った老妻に先立たれ、一時期は生き甲斐を失って無気力な生活を送っていた。しかし、彼の前向き思考は、完全に消え失せたわけではなかった。
(このままではいけない、なんとかしなくては――)
ある日彼は、白シャツ、赤ネクタイに、紺のスーツをビシッと着こなすと、夜の街に繰り出していった。
そこまではよかった。
問題は、たまたま入った店が、フケ専のゲイバーだったことだ。
そこで出会ったのが、奥村であった。
奥村(通称オクちゃん)は、グランパ設立以前から義明や正彦と交流していた。68歳で身長176センチ、その年代にしては長身の元大学教授である。
とにかくいたずら好きの元気の良い爺さんで、友人たちから『ジャリ爺』と陰口をたたかれている。
彼は若い頃、イギリス留学時に男色を覚えて以来、タチ一筋で来た。馴染みの店で、たまたま出会った神谷を女にしたのも、彼だった。
その奥村と幼馴染で仲の良いのが、正井(通称マーちゃん)である。68歳、奥村ほどではないが、170センチを超える大柄な体格をしている。
あけぼの町の老舗和菓子店のご隠居で、坊ちゃん気質そのままに、根アカの遊び人と見られている。
彼も海外留学時に男色を覚えていた。タチウケ両方こなすが、キーさんに抱かれたときに受け身の深い悦びを味わって以来、ウケ方向に傾いたようだ
関(通称セッちゃん)は74歳、中肉中背のひょうきんな浮気者である。
若い頃はアパレル業界にいたらしいが、その後、風俗店の呼び込みをやったり、タクシーの運転手をやったりと、職を転々とした。
とにかく尺八大好き人間で、相手がお仲間であれば、誰かれ構わずおしゃぶりをしたがっている。
そしてノンケの板井(通称イタさん)。68歳、やや背の低い中肉体型、白髪頭にいつも野球帽をかぶっている。
彼は奥村や正井と同級生だが、ふたりとはしっくりいっていなかった。というよりも、他の誰とも折り合いが悪く、彼が気を許すのは御前さまとキーさんだけだった。
艶やかな唇を気難しそうに引き結び、口をついて出てくるのは嫌味だけ。彼が高校教師をやっていた頃は、生徒たちの隠れた人気投票で、いつも最下位にいた。
そんな人物だが、グランパに来る男たちは御前さまの顔を立てて、嫌々ながらも受け入れていた。
今日も、数人の仲間がグランパに集まって、四方山話に花を咲かせていた。そんな様子を御前さまは、隅のテーブルから優しく見守っている。
そのうち正彦が、外出先から戻ってきた。とたんに場の雰囲気が、一種独特の華やいだものに変わった。
腹も腰も尻もでっぷりとした、安定型の肉体。雲間から太陽が差し込んだような、なんとも温かい笑顔――。
その場に居るだけでも、正彦からは優しい父性が伝わってくる。
正井や関は、いつもながらに惚れぼれとするキーさんを見ながら、なんとか奥の仮眠室に引っ張り込みたいと思っていたが、今日は御前さまがいるので控えている。
彼らと同じように板井も、密かにあこがれの目を持って、キーさんを見ていた。彼は男色経験が無かったが、キーさんに一目惚れして、キーさんがお相手ならこの身を委ねてもいいと思っていた。
「どうだった、キーさん」
義明が声をかけた。
「ええ、断ってきました。先方は納得がいかないようでしたが」と正彦。
義明と正彦だけが理解できる会話だった。
あけぼの町には槌谷という不動産屋がいたが、その槌谷がグランパのある敷地を売ってくれと言ってきたのだ。
コンビニ用地にしたいということで、かなり良い条件を提示していたが、ふたりは端から断るつもりだった。
槌谷は、ひと癖ありそうな顔をした60代半ばの男で、あだ名を『ウタマロ』と呼ばれていた。体は小柄だが超絶倫男で、顔のど真ん中に鎮座するナスビ鼻同様、股間にぶら下げた巨根を売りにしていた。
ブニュウ、プチュチュ、ピチャピチャ――。
濡れた音が賑やかになった。神谷は背後から、内村の大きな体にしがみついて、可愛らしい尻を機敏に繰り出していた。
初めて奥村の巨根を突っ込まれたとき、神谷は死ぬような苦しみを味わった。しかし、慣れてくると、ウケの悦びを感じるようになっていた。
そうなると持ち前の好奇心が騒ぎ出して、タチにも興味が湧いてきた。
神谷とて小振りながら、まだまだ元気なイチモツを持っていた。タチもやってみたいと思っていたところ、絶好の実験台が身近にいた。それがグランパの従業員、内村だった。
内村とは、大人と子供ほどの肉体的な差があったが、自分の体の下に大きな肉体を組み敷いていると、男の征服欲を満足させてくれる。
それに内村は、大企業の会長と言っても通用する雰囲気があったので、その肉体をいじめるのは、ある種の倒錯した悦びがあった。
神谷は、一番感じるツボを探るように、別の角度から肉門を突きあげた。
「ひえっ、あああっ――」
内村が顎をのけぞらせて、あえいだ。どうやら感じるところを突かれたようだ。
神谷はにんまりとし、そこを重点的に責めだした。丁寧に、力強く、愛撫するように。
「ああ――いいっ――あはあっ――」
内村が、その大きな体に似合わず、可愛らしい声で泣き始めた。その声に、神谷はますます元気づいて、肉厚の秘門を責めだした――。
「ところで今日は、カンちゃんの姿が見えないね」
正彦が話題を変えて、皆に話しかけた。
「カンちゃんは、お励みになっているよ」
奥村が仮眠室のほうに親指を反らせて、面倒臭そうに言った。
正彦は、店内に内村の姿も見えないのに気づいて、苦笑した。
「やれやれ、昼間っから、お盛んなことだ」
男色経験のない板井が、キーさんにつられて軽口を叩いた。
「しかし、あんな小さい体で、会長を満足させることが出来るのか」
「カンちゃんだって、イタ公には言われたくないよな」
すかさず奥村が言うと、それに加えて正井が揶揄する。
「ああ、男の価値は体の大きさじゃない。ナニの性能で決まるんだ」
「そうだ、短小は黙ってな」と奥村。
同級生だけに、ふたりとも板井に対して遠慮がない。板井はなにか言い返そうとするが、ふたりのナニの大きさは子供の頃から知っているので、反論のしようがない。
あわてて正彦が、間に入った。
「はい、そこまで。みんな、仲良くしようね」
しかし、奥村の暴言は押えられなかった。彼は御前さまがいるのに、およそ元教職者らしからぬことを言った。
「おい、イタ公、一度キーさんのでかいチンポを突っ込んでもらえよ。そうすれば、男の世界がもっと分かるようになるぞ」
密かにあこがれている人を引き合いに出されて、その言葉は板井の心をグサリと突き刺した。彼は顔を赤らめ、一言、「バカッ」と叫んで、店を出ていった。
しばらくして、気まずい雰囲気を払うように、正井が言った。
「オクちゃん、ちょっといじめすぎだ。イタ公がかわいそうじゃないか」
少し言いすぎたかなと反省していた奥村だが、彼は強気に出た。
「おや、イタ公を庇うとは、お前、あいつに気があるのか」
「ああ、あいつの艶のある唇。あれで咥えてもらったら、気持ち良さそうだなと思っているよ」
正井がジョークで返して、ウインクした。
それまで黙って聞いていた関が、横から口出しした。
「マーちゃん、おれが咥えてやるよ」
正井はあっさりと断った。
「いい。お前はもう飽いた」
そのとき、神谷と内村が、ようやく奥の部屋から出てきた。ふたりとも身繕いを整えているが、紅潮した頬に情事の名残をとどめている。
「よう、お疲れさん」
奥村が屈託のない態度で、ふたりに声をかけた。
声を掛けられたふたりは、気まずそうな顔をして、それぞれの居場所に移動した。
カウンターの奥にいた笠原が、さっそく紅茶をいれて、神谷のもとに運んだ。その姿は、足が短くて、撫で肩、腰と尻だけはでっぷりと横に張っている。
見ていて微笑ましくなるような笠原の姿に、奥村が立ち上がった。
「じゃあ、俺たちとバトンタッチするか。おい、カーさん、出番だぞ」
そう言うと奥村は、笠原の横に張った腰に腕を回して、仮眠室に向かった。