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(3)お屋敷探索

墓地の板塀には木戸が付いていた。向こうから錠をしているらしく、押しても引いても開かなかった。よく見ると、傷んだ木戸の隙間から、引っ掛け錠が下ろされているのが見えた。ぼくは地面から木切れを見つけてきて、板戸の隙間に突き入れ錠を外した。板戸を開けると、そこは屋敷の敷地より上部の踊り場で、下に降りる階段があった。

ようやく屋敷の敷地内に入れた。ポーチに立って、両開きの重厚な木製ドアを見あげた。頑丈さだけが目立つドアだった。鋳物製の取っ手がついた金属プレートに鍵穴があった。
「ねえ――」
背後の声にぼくはギョッとした。幽霊がついて来ているとは思わなかったのだ。
幽霊は懇願するように言った。
「さっきも言ったけど、わたしには記憶が無い。だから、せめてわたしがだれなのか、なぜ死んだのか、記憶を取り戻したいんだ。このままでは、もやもやとした気分のままで――」
(あ、その気持ち、よく分かる。ぼくにも失った記憶があるから)
そう思ったが、ぼくは黙っていた。
「ねえ、きみも、わたしの胸の模様に気づいていたでしょう?」
幽霊の問いかけに、ぼくは彼の胸を見た。青白い体の中で、より濃い青色の模様があった。ヒトデのような形をしている。前から気づいていたが、それを聞くのは失礼だと思って黙っていた。
「この模様は、わたしが最後に見たものだと思う」
そんなことより、なぜ裸でいるのか――そのほうが不思議だった。それでぼくはぶしつけに訊いた。
「ねえ、なぜ裸なの?」
幽霊はちょっとひるんだが、おずおずと話しだした。
「わたしが死んだとき、裸だったからだと思う。この胸の模様も、死ぬ間際に、わたしが関わったものだろう。だから、この模様が何なのか分かれば、わたしがなぜ死んだのか、その訳も分かると思うんだ。だからお願いだ、わたしが記憶を取り戻すのを助けて欲しい」
(でもぼくはG・Gを探さなくちゃいけないし、それに父さんにも会いたい)
ぼくは声に出して言った。
「助けてって――そんなこと急に言われても、ぼくにはできないよ」
「できるよ。きみはわたしが見えるし、わたしの声も聞こえる。お願いだ、一緒にいさせてくれるだけでいい。そうすれば、失った記憶を取り戻す手がかりが、見つかるかもしれない」

ぼくは考えた。おそらくこの幽霊は屋敷に住んでいたのだろう。一緒にいれば何かの役に立つかもしれない。ぼくは了承することにした。
「分かったよ。じゃあ一緒に行こう。実はぼくは父さんに会いに来たんだ。でも一緒に来たG・Gとはぐれた。だから、あなたは記憶探し、そしてぼくは父さんとG・G探しだ」
「分かった。これからは、わたしのことをリョウと呼んでおくれ」
幽霊の言葉に、ぼくは自分も名乗っていないのに気づいた。
「あ、ぼくは浅香俊郎――ぼくのことはトシって呼んで」
そこで余計なことをつけ加えた。「現在、21歳になる大学生です」

いよいよお屋敷探索のスタートである。
ぼくはダメもとで、重厚な木製ドアの取っ手を掴んで押してみた。ギイッという音と共に少し開いた。
(えっ、なんで!門の扉は、鍵がかかっていたのに――)
屋敷に入るとき、リョウがためらっている。彼は言い訳するように言った。
「ずっとこの時を待っていたのに――なんだか怖い気がして」

「ごめんください。だれかいませんか?勝手に中に入りますよ」と小声で断りながら、ぼくはドアを押し開けて中に入った。
室内は照明が付いていなくても、窓からの外光でじゅうぶん明るかった。
舞踏会でも開けそうなほど広かった。ホールは吹き抜けになっていて、高い天井からは豪華なシャンデリアが2基ぶら下がっている。
上部壁際には手すりの付いた2階の廊下が、ホールを囲むようにコの字型に伸びていた。そして正面上部の壁には、大きな人物画が掛かっていた。

「G・G!」
ぼくは大声で呼びかけた。室内はシンとして、何の反応も無かった。自分が間抜けに思えて、大声を出すのをやめた。
そこでリョウの姿がないのに気づいた。目で追っていると、2階廊下の壁面にかかった肖像画のところにいる。
2階にあがる階段が二つ、左右に分かれて斜めに伸びていた。ぼくは右の階段を上がって、リョウに近づいた。彼は宙に浮いて、肖像画をじっと見つめている。大きな肖像画だった。白髪と白いひげ、立派な顔立ちの老人だ。絵の下に真鍮のプレートがあって、水原壮一郎とある。

「思い出した――この人を知ってる」
リョウがつぶやいた。彼は感慨深げに、老人の絵を見ていた。
「みんなは大旦那さまと呼んでいた。怖い存在だったけど、わたしには優しい人だった気がする」
(怖くて優しい――正反対じゃないか)リョウの言葉に、ぼくは訝った。
リョウがぼくのほうに振り返ったとき、ぼくは目のやり場に困った。彼は宙に浮いていたので、ちょうどぼくの目の高さに彼のそのう――おチンチンがあった。いくら半透明とはいえ、オトコの形状はくっきりと分かる。薄い陰毛に覆われた恥丘部や、丸っこいタマタマ、その前に鎮座するむき出しのおチンチン。それがすぐ目の前にあるのだ。
ぼくは咳払いして言った。
「記憶を取り戻す第一歩だね。次は1階から調べてみようよ」

ぼくたちは1階に戻ると、右の両開きのドアを開けた。応接室らしい広い部屋だった。ソファーセットが二つ配置され、奥のほうにグランドピアノがあった。
窓際の低いテーブルの上に銀色の灰皿があった。タバコの吸い殻が数本残っている。かすかに渋い匂いがした。
(父さんが吸っていたのかな――あれっ、これって)
吸い殻に混じって銀色の鍵があった。頭の部分に半円が二つ並んだような、奇妙な形をしている。どこかの鍵だろうと思って、ぼくはポケットに入れた。
灰皿の横に、文字がびっしりと並んだ用紙があった。
(なんだろう?)手に取って見ると、タイプライターで印字した文章だ。ぼくはざっと読んでみた。

――青々としたイネの実る農道を歩く途中、ふと足を止めた。一人の老人が腰を屈めて、イネの状態を見ている。その横顔を見て思い出した。
(あのお爺さん、前に会ったことがある。今よりずっと若かったけど――)
10年ほど前、お寺の本堂に行ったときだった。背が低く小太りの男が、恥ずかしいワンワンスタイルになって、背後から犯されていた。寺のお坊さんが、太くてズル剥けのち○ぽを男の尻に突き入れ、激しく攻めていた。盛りあがった白いお尻が、汗をしっとりと滲ませて、ズンズンクイクイ、まるで野獣のように荒々しく動いている。
「泣け――泣け――思い切り泣け」
尻を激しく振り立てながら、お坊さんは吠えた。その顔は、乱暴な行為にもかかわらず、信じられないほど優しい表情をしている。目も口元も慈愛に満ちて、男が愛しくてたまらないといった風情だ。
今度は男の体をひっくり返し、おむつ替えの格好を取らせると、前からズグズグと突き入れた。そして、腰を使いながら上体を倒した。男の頬の涙を分厚い舌でべろりと舐め取った。涙の滲んだ目を見つめて、あやすように言う。
「今日からおまえは、わしの稚児になったんじゃ。可愛らしいお稚児さんじゃ」
男のほうは何も言わないが、涙で濡れた瞳は切なそうに、お坊さんの顔を見つめている。その気持ちを表すように、汗で濡れ光る逞しい体に手を這わせ、しっかりと抱きついた。
やがて、お坊さんは激しい腰の動きと共に、ずんずんとせり上がる男の体を引き寄せては、さらに腰を使い、野獣の雄叫びをあげた――

(えっ!こ、これってエロ小説じゃない)ぼくは驚いたが、一方で、勃起したズボンの膨らみに、リョウが気づいていないか気になった。
リョウもぼくの横から目で文章を追っていたが、何やら考え込むような表情をしている。
ぼくは用紙をテーブルの上に戻すと、他に何かないかと室内をぶらついた。
部屋の奥のグランドピアノのところに行って、椅子に腰かけた。低くて子供用の高さだった。鍵盤の前に楽譜が開いて置かれている。表題は『エリーゼのために』――ヴェートーベンの曲だ。
ぼくは一時期、ピアノをやっていたので、椅子の高さを調節して、弾いてみた。長い間、調律されていないと思えるのに、音程の確かな澄んだ音がした。
ふと横を見ると、リョウが雷に打たれたような表情でこちらを見ている。彼はつぶやいた。
「そうだ、女の子がその曲を弾いていた。お気に入りの曲だった――」
「何て名前の子だったの?」
リョウは頭を抱え込んだ。
「うーん、何て名前だったかな。顔のイメージは浮かぶんだけど」


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26/08/06 15:28 神亀

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