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(10)第二の故郷

部屋の窓から見る宝亀山神社が、すっかり秋の色に染まっていた。
外に出て、神社に向けてそぞろ歩いた。イチョウの黄葉とクスノキの濃い緑色の葉が、鮮やかなコントラストになって、いつになく神社を霊験あらたかな雰囲気にしている。ただひとり、普段着を着た猪狩宮司だけは、のほほんとした色好みの雰囲気をまったく変えていない。
宮司と顔を合わせたついでに、菊ちゃんの言っていた乙女ヶ滝の謂れを話した。
ところが宮司は、そんな話は聞いたことが無い、それに滝の側の祠は、竜神を祀った社であって、乙女の霊を鎮めるなんて話はとんでもない、と言う。
やはり菊ちゃんの作り話か――ふと彼を懲らしめる方法を思いついた。
そうだ取締役に報告しよう――前に菊ちゃんは、取締役にむかって訳の分からないことを言っていた、「ターさんたら激しいんやから。もう壊れるかと思うた」
だったら取締役が、菊ちゃんを折檻してくれるかもしれない。

このところ高木取締役のベッドに潜り込んで愛撫されるのが、夜の習慣になっていた。そして寝物語に高木は、菊ちゃんの尻を性処理にしていることを話した。そのことは、良平もなんとなく気づいていたので、さほど驚かなかった。むしろ話を聞いたときは、ちりちりとする嫉妬心のような気持ちが湧きあがった。
高木は、良平を抱くたびに、少しずつ、少しずつ、良平の体を拡張していった。愛情をもって優しく、先を急がずじんわりと。
――そしてついに。

高木取締役はベッドの外から腰を落とし、良平の開いた尻にあてがった。それから、これから入れるぞ、というように「良平」と声をかけた。
「ぬん」といった感触が「ぬぐぐ」とさらに強まり、太い頭が分け入ってくるのが伝わってきた。
怖さが先に立って、どうしても引き締めてしまう。
「ほら、力を抜くんだ。ゆっくりやるから怖くないぞ」
(ああっ、い、いた――)思わず口に出そうとしたら、いったん引き抜いて、オイルを尻の穴に押し込むように塗られた。
ふたたび当てがわれ、先の丸みを感じた途端、少しずつ入ってきた。尻に密着した高木の股がぐぐっと押しつけられ、なおも奥へと入ってくる。
「くくくっ――」
良平は緊張を解こうとして「ああ、取締役」と意味もなく呼びかけた。
「うん――」高木も応えるが、小さく出し入れしながら奥へと侵入してくる。
「あっ、痛っ!」
思わず声をあげると、ズニュンと引き抜いてオイルを塗り足し、すぐまたヌググと慎重に入れてくる。
高木の腰の動きがじょじょに大きくなって、痛みがどうにも堪らなくなった。
苦しそうに顔を歪める良平を見て、高木は分厚い体をかぶせて、良平の頭の下に腕を差し込み、引き寄せた。それから口づけして、舌をねじこんできた。
口の中を掻きまわすように、舌先が暴れる。
と同時に、静止していた腰が小刻みに動きだした。
チュブチュブ、ピチャピチャ――濡れた音を伴って、往復運動が再開される。
「ああっ!ああっ!」
良平は、あたりはばからず声をあげ続けた。急に下腹部が熱くなった。
動きが、ゆったりと、大きくなる。
硬く太いものが腸を押し広げ、滑る感触をはっきりと覚えた。
(ああ、自分はいま取締役に犯されているんだ)
そんな思いが良平を、これ以上ないほど興奮させた。
痛みはいつしか消えていた。代わって何とも言えない快感が湧きあがった。
たとえて言えば、愛する人に処女を捧げる献身の気持ち?それとも、圧倒的に強大な力にねじ伏せられて、強引に犯される気持ち?

高木が体位を変えてきた。今度はうつ伏せになって、尻を後ろに高くつき出した形を取らされた。
高木の動きが乱暴になってきたように感じられる。
後ろからあてがわれると、ズグズグッと一気に奥まで突き入れられた。
「ひいっ!」
背後から腰をつかまれ、ズボン、ズグンと傍若無人に出し入れされた。
まるで性の奴隷にされたようだ。でも嫌な気分ではなかった。むしろ歪んだ悦びを覚えた。
心がアブノーマルな悦びで満ち溢れ、もう、どうしていいのかわからない、歓喜へと登りつめていく。
しばらくして、再び前向きにされ、開いた尻の狭間に男の下腹部が密着した。
高木の分厚い胸に、汗の雫が滴り落ちていた。息づかいが荒くなって、腰づかいも激しくなってきた。
二人の下腹部がぶつかり合い、体内の奥深く入り込んだ男根が、卑猥な音を立てて往復運動を早くする。
グッチョ、グッチョ、ビチャ、ビチャ――二人の体の間から漏れ出る濡れた音がにぎやかになり、高木が絶頂へと駆け上っていくのが分かる。
ふいに高木の体がビクンと揺れた。
「うっ!ふうう――」
すっかり終わったとき、良平は分厚い胸にしがみついてむせび泣いた。嬉しくて、甘えたくて、もうどうにかして欲しい気分だった。

『少年愛の美学』を読み終えた良平は、大きくため息をついた。
今の彼には、性愛を口から肛門にいたる筒(つつ)に例えた、稲垣足穂の言わんとしたことが、よく理解できた。まさに彼がターさんの愛を受けるのは、上と下の筒だったからだ。
親密な関係を築いた二人は、おたがいの呼び名を変えていた。
『ターさん』と『良』――もちろん二人きりのときだけである。良平は取締役に向かって、最初は言いづらそうにしていたが、いつしか慣れてしまった。それにターさんというのは、町の人たちも以前から使っている呼び名だった。

あけぼの荘は、いつもの穏やかさを保っているように見えるが、変化もあった。ゲンさんが亡くなって、代わってスギさんが食堂の板前になったことだ。
スギさんは予想以上の才能を発揮している。今のところ、料理本のレシピを参考にしているが、それに彼独自の味付けを加えて、それが人気を得ている。愛嬌のあるずんぐりした体で調理する姿は、またゲンさんとは違った風景である。
この日はイタリア風料理だった。
前菜は海鮮料理――貝柱、セコガニとアボカド、ラディッシュのサラダ。メインはカモ肉のローストと甲羅に詰めた野菜煮込み、それにクリームパスタである。新任板前として、気合の入ったスギさんの手の込んだ料理である。少々、量多めだが、そこはスギさんの大きな体格からして仕方がない。

あけぼの町――わずか半年余りだが、この町は良平にとって、第二の故郷になりつつあった。
毎日が喜びの連続だった。
秋色に染まる野山を、ターさんとそぞろ歩く喜び――。
これまで行ったことのある、山城や灯台、宝亀山を二人で辿った。滝に至るトンネルでは、ターさんは相変わらず怖がったが、それはそれ、手を繋ぎ合う喜びがあった。
ときに人目のない木陰や岩陰で、性風俗的にはよろしくない行為もしたが、そこはまた、お互いの愛情を密にする意味で、良しと言えるかも知れない。

町の人々との交流も喜びだった。
喫茶アルプスの前広場、木陰のテーブル席でかぐわしいコーヒーを飲みながら、店主のセイちゃんと他愛もない世間話をする。
本屋のキューちゃんが店から出てきて、会話に加わる。ときに灯台山から、セイちゃんの弟、ケイちゃんが町に降りてきて、仲間に加わったりする。
老人たちとの心温まる、ゆったりとしたひとときである。
彼らの演奏するクラシック音楽は、町の風物詩である。あけぼの町の雰囲気を、豊かに、上品にしている。
演奏を聴くとき、良平はこの上ない安らぎを感じる。
そしてあけぼの荘の住人たち。
いつも明るい女将のハルさん。行動派のテッちゃんは、スギさんと一緒の漁の機会が減ったので、単独行動が増えている。
いつも大らかなスギさんは、もっぱら料理に入れ込んでいる。テッちゃんと漁に出るのも、食材探しのためだ。
隙あれば良平を弄ろうとする男好きの菊ちゃん――。彼独特の鋭い勘で、良平とターさんがデキたことを知って、夜の相手をもっぱら、テッちゃんに切り替えたようだ。

このところ高木取締役は町役場に行って、町長たちと会合する機会が増えていた。良平も同伴して、スタッフ役を務めている。
いよいよCOSMの業容拡大の一環、観光事業の始動である。
観光事業について、高木は一貫した考えを持っていた。それは山と海に囲まれた地元民の暮らしそのものを、観光資源にすることだった。
宝亀山神社の参拝や夏祭り、街角のクラシック演奏会、海での漁や川釣り、灯台山や宝亀山へのハイキング――ありのままの町の暮らしに、観光客が参加する。その味付けに、山城や灯台、乙女が滝などを整備する――。
こういったことを高木は、町長にとくとくと説明している。

良平はひとり、灯台山にある石碑を訪れた。
石碑に刻まれた木原茂の横に、新たな名前が加わっていた。――篠田厳。
高台から景色を眺めていると、岩に腰掛けて海を眺める、父とゲンさんの幻影を見た。ゲンさんの横で、父は幸せそうな顔をしていた。


――おしまい――

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25/01/10 06:01 神亀

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