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(5)夕霧谷の兄弟 |
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6月に入った日曜日、良平は夕霧谷まで出かけることにした。高木に言われた観光資源の調査も兼ねてだ。目的地は半月ほど前、スギさんやテッちゃんと偲ぶ川で泳いだ地点よりも、もっと上流にある。
薄地のズボンにTシャツを着て、リュックにはバスタオルも入れている。この前のように、人目が無ければ、川で泳ぐつもりだった。 あけぼの荘を出たところで、朝散歩から戻ってきた高木と出会った。 「お、小宮くん、外出か」 「はい、偲ぶ川を伝って、奥の谷地まで行ってみようと思います」 良平の言葉に、高木はなにか気になるようだが、あっさりと言った。 「それは感心だ。気をつけてな」 もう夏の日差しだった。麦わら帽子をかぶって正解だ。偲ぶ川の土手道を歩いていると、川に沿って風が通り抜け、汗ばんだ肌に心地良かった。 澄んだ水の流れの中で、黒っぽい魚影がすいすいと泳いでいた。 ふと思った。(釣竿を持ってくるべきだった) 途中で土手道が途絶え、沢伝いに歩くのが困難になったので、並行して走る車道に出た。通過交通量はほとんど無い。 山城へと通じる石橋を横目に通り過ぎて、なおも奥地に進む。 支流が合流しているところがあって、水を湛えた淵になっていた。向こうの高台に、赤い鉄板屋根の民家が見えた。 良平は道から外れて、淵のほうに降りて行った。大きな岩が転がっている。 平らな岩の上に腰を下ろして、小休止した。持ってきた水筒からスポーツドリンクで喉を潤す。 淡い緑がかった水の色から推測するに、淵の深さは1メートルちょっとだろう。あたりには誰もいない。良平は水の誘惑に負けて、服を脱ぎだした。脱いだ衣服は風に飛ばされないよう、リュックの下に置いた。 そっと足先を水につけてみる。冷たい!ゆっくりと先に進んだ。白い裸体が水に映えて揺れ動いた。 水面がじょじょに上がって、股間に来る。性器がきゅっと縮こまる。膝を曲げ、思い切って肩まで水に浸かった。そのまま我慢していると、冷たさに慣れて心地良くなってくる。良平はゆったりと泳ぎだした。 ふと気が付くと、二人の男たちが裸になって、こちらに歩み寄っていた。 見覚えがあった。スーパー横の屋台にいた兄弟だ。たしか兄のほうは一二三(ひふみ)、弟は二八(にはち)と取締役が呼んでいた。年の頃は40代前半、良平より年下にみえた。二人とも背は低いほう、朴訥そうな顔をしているので親近感を覚えた。 「よう、お邪魔するよ」 兄らしき男が手を挙げて挨拶する。兄弟とも筋肉質の、全身よく日焼けした肌をしている。いつも全裸で川に入っているのだろう。剥き出しの性器がどうしても目を突く。彼らの健康的な肉体を目にして、良平の胸が少しざわついた。 「すっぽんぽんで泳ぐって、気持ちいいね」 弟が頭からもぐって、良平のすぐ近くに来た。 3人は水の中でふざけあって、しばし童心に返っていた。 「おれたちの家はこの上の方にある。お茶をご馳走するから寄らないか」 泳ぎ疲れた頃、兄が誘った。二人は夕霧谷に住んでいて、林業と猟をやっているという。 丸太を組み合わせたログハウス風の家だった。前広場の端に、長さ3メートルほどの丸太が積まれ、軽四輪のトラックが止まっていた。 家の中は、手造りらしい木のテーブルと炊事の簡易セット、部屋の奥のほうに二つのベッドがある。熊の毛皮が壁に掛けられていた。調度類は少なく、独身兄弟の質実な生活をうかがわせた。 出されたお茶は、どぶろくのように白濁して、舌が痺れるような得体のしれない飲み物だった。それを二人の兄弟は、さもおいしそうに飲む。良平もがまんして飲んだ。体の芯が火照ってくる。 兄の一二三がさりげなく言った。 「じゃあ、良平さん、ちょっと楽しいことをやろうや」 (えっ、なに?) いぶかる良平は、奥のベッドのほうに連れて行かれた。そこで服を脱がされだして初めて、兄弟がやろうとしていることに気づいた。 「ちょっと、それは――ダメ。ぼくはそんな――いやっ、やめてっ!」 良平は抵抗するが、二人がかりではどうしょうもない。みるみる素っ裸に剥かれてしまった。 「おう、うぶなお尻。処女の味見は久しぶりだな」 一二三はうそぶくと、おむつ替えの格好にされた良平の前に膝を着き、いきなり尻の狭間に吸いついてきた。そのまま「ぴちゃぴちゃっ」と音を立てて舐めまわし、舌先をとがらせて秘口をつつく。 「いやあっ!」 良平は尻を揺すって抵抗するが、弟のほうに両足をがっちりと掬い上げられて、なすすべもない。 男の唾液で溶かされたような感触を残し、薄皮を剥ぐように舌先が貼りついたままゆっくりと下へ移動して――尻穴に侵入しようとしている。 奇妙な快感を覚えた。舌で刺激された細胞のひとつひとつがざわざわと泡立ち、ひくひくとうごめく。 「そろそろ咥えさせてあげようか」 興奮した男の声と共に、開いた股の中心部に、ヌンとあてがわれた。ヌグヌグと擦られ、ヌンメリと逸物の頭が押し入ってくる感触――。 「ああっ――」 良平はあえいだ。複雑な気持ちだった。ネット動画で何度も見たあのシーン。 それを今、現実に受け入れようとしているのだ。その思いは圧倒的で、無意識に体がぶるぶると震えた。恐れ――屈辱――そしてちょっぴり期待感? 密着した尻に男の開いた股座がなおも押しつけられ、無遠慮に押し入ってくる。 「くくっ――」 苦痛を覚えて、良平はあごをのけ反らせた。 「うんっ、痛いか。ちょっと我慢しろ。すぐに良くなる」 男はズグッと腰を押しつけた。 「兄貴、入ったのか?」 二八が聞いてくる。 「ああ、根元まで入った。くううっ、締めつける。こりゃあ名器だ」 唸った男は、挿入した先をゆっくりと出し入れしだした。 想像したほど痛みは感じなかった。ただ良平は仰向けになり、体内を行き来する異物の感触だけを鮮明に覚えていた。 二人の接触部分から、ぬちゃぬちゃと湿った音が聞こえてきた。 腰の動きが速くなった。 ゆったりした動きが、ちゅぶちゅぶっ、ぐいっ、と荒々しく腸壁を押し広げながら滑る。 「あっ、ああ――」思わず声が出た。 もはや痛みは感じなかった。代わってなんとも不思議な快感が湧いてきた。 女のように犯される倒錯した思い。 堅柔らかいモノが内臓をくすぐりながら行き来して、何かを追い求めるような男の顔が、愛しく見えてくる。 泣きたくなるような、どうにかしてほしいような気持ち――。 「ああっ、ああっ、ああ――」 いつしか良平の口から、男のピストンに合わせて喘ぎ声が漏れ出ていた。 ぐちょぐちょ、びちゃびちゃ――湿った摩擦音に男の荒い息づかいが重なる。 ふいに男の体が硬直した。 体内を穿つ先端がグワッと膨らみ、爆発するように果てた。腸の奥深くで何かが流れるのを感じた。 やっと終わった――。 思う間もなく、弟の二八が良平の体に取り付いた。 痴戯は延々と続いた――。 ![]() 目覚めたとき、目に入った部屋の光景に、一瞬どこにいるのか分からなかった。じょじょに意識が戻ってくる。 兄弟に何度も何度も犯された。まるで小鬼が人間にお仕置きするように。 まだ男のモノが尻に入っている感触がした。 これまで想像したもの、頭では分かっていたものが、現実となったのだ。 部屋は薄暗く、夕方になっていた。 男たちに対して、怒り?それとも歓び?彼は混乱したまま起き上がり、衣服を身につけだした。 それに気づいた二八が、親しさを込めた笑顔で声をかけた。 「良平さん、目が覚めたの。なあ、これから一緒に暮らさないか」 人の体をさんざん弄んでおいて――厚かましい申し出に、怒りを覚えるべきであろうが、不思議に憎めなかった。 そのとき、家の外で車が止まる音、ほどなくチャイムが鳴り響いた。 「いまどき誰だよ」 いぶかりながら二八が玄関ドアに歩み寄り、ドアスコープを覗いた。そして兄に向かって言った。 「兄貴、高木の旦那が来た!」 「なにっ!」 慌てた様子で、一二三が椅子から跳ね起きた。彼は良平のほうをチラリと見て、ぶつぶつ言いながら部屋の中を右往左往しだした。 ピンポン、ピンポン――急かすように、チャイムが立て続けに鳴る。 「ああっ、うるさい!」 一二三は叫ぶと、棚の上から木箱を抱えてテーブルの上に置き、蓋を開けて猟銃を取り出した。 「おい、兄貴!」 二八があわてて声をかける。 「大丈夫だ、弾は込めていない。脅すだけだ」 一二三は猟銃を持って、玄関ドアのほうに向かった。そこで慎重にドアチェーンをかけ、ドアを細目に開けた。 「何だ?」 外から高木の声が聞こえた。 「そちらにうちの社員が来ているだろう。彼に会わせてくれ。迎えに来た」 「そんなやつ、来てない」 「嘘をつけ!小宮がお前たちと家に入るのを、見たものがおるんだ。さあドアを開けろ!」 「――」 一二三はぐっと詰まったが、妙に弱々しい声で言った。「ダメだ。この前のように、俺たちにひどいことをするんだろうが」 「何もしない。約束する。ただ小宮を連れて帰るだけだ」 高木の声はこれ以上ないほど、優しい声音だった。これって猫なで声? 一二三はしばらく逡巡していたが、なおも言った。 「だったら裸になれ。何も持っていないことを見せろ」 (なんでそこまで慎重になるのだろう?) 玄関ドアのやり取りを聞いていて、良平は不思議に思った。それに兄弟は、高木をひどく恐れているようだ。 そばにいる二八が、ささやき声で説明した。 「前にあの旦那、おれたちをスタンガンで痛めつけたことがあるんだ。何もしないなんて言っておきながら――」 あの大らかな高木が、そんな乱暴なことをするだろうか。俄かには信じられなかったが、二八が嘘を言っているとも思えない。 そのうち、外から声が聞こえた。 「さあ、裸になったぞ。中に入れろ」 ドアの隙間から覗きながら、一二三が言った。 「フンドシの前の膨らみは何だ?凶器を隠してるだろうが」 「まあ凶器は凶器だが、これはおれのチ○ポの膨らみだよ」 「嘘をつけ!そんな大きな膨らみがあるか。フンドシも脱げ」 「疑い深い奴だな」しばらくして「さあ、フンドシも取った。中に入れろ」 一二三は渋々ながらドアをいったん閉めてチェーンを外し、一歩さがった。 高木がドアを開けて、両手を挙げながら部屋に入ってきた。降参の白旗のように、片手にはフンドシを掲げている。 素っ裸だった。大柄で分厚い肉体、股間では存在感のある逸物が、どっしりとぶら下がっている。 場違いな高木の裸体を見て、良平の心臓が早鐘を打ちだした。 高木は、一二三の手にする猟銃を見て、オヤと言うように目を細めた。 「お前、商売道具の銃を人に向けて嚇すとは――駐在が知ったら、即、免許取り消しだぞ」 「弾は入ってない」 慌てて言って、一二三はしまったという表情をした。 高木はベッドにいる良平のほうを見て、のんびりとした声で言った。 「うちの社員をずいぶん可愛がってくれたようだな」 良平は恥ずかしさに、縮こまった。 高木の右手が背後に回された途端、「ぐわっ!」と異様な声をあげて、一二三の体が弾け飛ぶように倒れた。そのまま床で、手足を痙攣させている。 それに構わず高木はベッドのほうに来た。 「小宮、大丈夫か。さあ、帰るぞ」 話しかけながら、側にいる二八の股間にスタンガンを押し当てた。 「んぎゃあっ!」 悲鳴と共に、こちらも床でのたうった。 一二三が床に倒れたまま、哀れっぽい声で言った。 「何もしないって約束したじゃないか」 それに対して、高木はのうのうと言った。 「先に約束を破ったのは、お前たちだ。前に約束しただろ、もう二度と男を家に引っ張り込みませんと――」 良平は兄弟が可愛そうに思えたが、片や疑問にも思っていた。(取締役は、どこにスタンガンを隠し持っていたのだろう) その疑問は、帰りの車の中で解消した。取締役は言ったのだ――ダイハードって映画を思い出してな。裸の体の後ろにテープで銃を貼り付けるんだ――。 それから数日後、厳さんが夕食にジビエ料理を出してくれた。夕霧谷の一二三が猪の肉を持ってきてくれた。あいつにしては珍しく手際のよい下処理がされているから、臭みも雑味もない、という。 皿に盛られたロースト肉は、低温調理したあとフライパンでカリッと焼き上げられていた。それにコクのある手製ソース、庭で採れたハーブやナッツが添えられている。ほかにみそ仕立ての鍋料理も用意されていた。 この前の侘びのつもりなんだろう。そのことを知るのは、良平と高木だけ。二人はそっと目配せした。 |
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25/01/05 07:43 神亀
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