戻る / 目次 / 次へ

後ろから失礼します

(1)

やわらかい間接照明の光に包まれて、二つの裸体がうごめいている。
全身しっとりと汗ばんで、心地よい律動で揺れ動く――。
うつ伏せになったのは、でっぷりとした恰幅の良い年配者の肉体。
その上にのしかかるのは、肌に張りのある、引き締まった肉体。
筋肉質の丸みを帯びた尻がムクムクと動き、二人の肉体の結合部から、湿った卑猥な音が漏れ出る。
「ううっ――」
くぐもった声をあげたのは、上の男だった。「いきそうです――」
下の男が応える。
「構わん。中で出せ」
最後の激しいピストン運動――。男の体がビクリと痙攣した。
「ああ――いくっ!」
「おおぉ――いいっ」
二人の呻き声が重なった。

恰幅の良い男は、シャワーで汗を流したあと、素肌に直接バスローブを羽織って、ソファーにゆったりと背を預けた。60代半ば、美食と好色に慣れきった、肉付きの良い顔である。
男はガラス窓を見ながら、手にしたワイングラスをグビッと傾けた。大きな窓からは、東京の夜景が一望のもとに見渡せる。
もうひとりの男がやってきた。こちらはシャワーを使ったあと、粋な服装を身に付けている。甘い色気のある顔立ちだが、目じりの小じわから推測すると50歳にはなっていそうだ。

バスローブの男は、服を着た男をじろりと見上げて、ひとこと言った。
「今日は早かったな」
ドレスアップした男は、媚びるような目つきで年配者を見た。
「ノモさんが悪いんだよ。アソコの具合がすごくいいんだから」
年配の男は満更でもない表情をした。気だるそうに立ち上がると、サイドボードに歩み寄って、皮のカバンを開けた。
戻ってくるなりガラステーブルの上に、分厚い札束をバサッと置いた。
「やってもらいたいことがある」
50男は無造作に札束を懐に入れながら、年配者に訊いた。
「何でしょう?」
「爺さんを、お前の自慢のデチ棒で垂らし込んでくれ」
「わかりました」
男は何の躊躇もなく、了解した。
「情報はメールで送る。いいか、爺さんが男無しでは生きていけないほど、可愛がってやれ」
「了解」
男はひとこと言って、部屋を出て行った。

(2)

あけぼの商事会長兼社長の山賀和善は、見ていた雑誌を引き出しに仕舞い、慎重に鍵を掛けた。
あのとき――なんで雑誌を持ち帰ったのか?後で考えても、自分の行動の説明がつかない。持ち帰った雑誌を何度も読み返した。それこそ一言一句逃さずに。
男同士の秘密の世界があるとは、おぼろげながら知っていた。それが、その本によって明白になったのだ。
古希になって、下腹部が騒めくことは滅多にない。いや、もっと前、彼が52歳のとき女房に先立たれて以来、閨を共にする者はいなかった。
それが、雑誌を見たとたん、股間がざわざわと泡立ち始めたのだ。
会長は吐息をもらすと受話器を取り、やわらかい声で言った。
「あ、大島くん、コーヒーを頼む」

和善は70歳になる。至って健康体である。おでこの禿げあがった血色の良い顔に、つぶらな瞳。背の低い福々しい風采は、童人形のように可愛らしい。しかし、経営手腕は確かのようで、彼が創業した会社は長年順調な業績をあげている。
彼の魅力は、誰からも愛されることであろう。それこそ男女を問わず、若手から幹部社員に至るまで、誰もが彼を愛していた。

それは、ほんの些細な出来事だった。
小春日和の日曜日、和善はひとりで上野公園まで出かけた。行き当たりばったりに東京の下町を歩くのが、彼の息抜きになっていた。
すっかり花の落ちた桜の木立を歩いているときだった、ふと水音がしてそちらを見た和善は、アッと小さく声をあげた。
中年の男がズボンの前を開いて、立木に向かって小便をしていた。明るい陽光のもと、男のシンボルが細部までくっきりと見えた。その先端から健康的な放物線を描いて、小水が飛び出している。
なぜかドキドキした。これまで意識下で隠れていた何かが、頭をもたげてくる。その場を去ったあとも、垣間見た男の性器が脳裏にちらついていた。
しかし、和善を動揺させる出来事は、このあとも続いた。

公園のベンチで休憩していると、男がやって来て横に腰掛けた。男はすぐ立ち去ったので、和善は気にも留めなかった。
ふと横を見ると一冊の雑誌があった。先ほどの男が置き忘れたのだろうか?
何気なく手に取り、開いて見た和善は、ぎょっと息を詰めた。
熟年男性の裸写真が極彩色で載っていた。それも、男同士が絡みあって、卑猥な行為をしている光景だ。
和善はあわてて周囲を見回した。
――誰もこちらに注意を払っている者はいない。
和善はまるで天啓でも得たように、雑誌を小脇に抱えて帰路についた。

(3)

電車の通過する音が、微かに聞こえてくる。
和善はうつ伏せになって、放心状態だった。まだ尻に、硬いものが入っているような感覚が残っている。
「すごく良かったです。あなたは名器の持ち主です」
背後から覆いかぶさった男が、汗にぬれた和善の背中へ頬を寄せてささやいた。まだ荒い息遣いだった。
晩春の昼下がりの日差しが、ガラス窓に射している。密閉された部屋の中は空調が効いているにもかかわらず、甘美な熱戦の気配を残していた。
蕩けるように柔らかくなった秘口に、まだ力を失っていない亀頭が押しつけられる。そのまま浅く抽送する。
疲れきった体に新たな快感が湧いてくる。その気持ち良さに和善はうめいた。
「ああ――いい」

どうしてこんなことになったのか?
事の発端は、ふたたび上野の公園に行ったときだ。
公衆トイレで小便器の前に立っていると、健康的な水音がした。何気なく横を見て驚いた。この前、立小便をしていた男だった。
トイレを出ると、先ほどの男がすっと寄ってきて、和善の尻をサワッと撫でた。次いでズボンの上から尻の窪みに指を押しつけ、小声で言った。
「どう、ここでチ〇ポを受けてみる?」
和善は驚いたが、騒ぎ立てなかった。尻を触られたとき、ズンと快感が走ったのだ。雑誌に載っていた、男同士の絡みが頭に浮かんだ。
怖いけど、怖いもの見たさもあった。それに彼は人一倍好奇心が強く、おまけにこういったことに意外と大胆だった。
それで男の後について、連れ込みホテルに入ったのだ。

(4)

室内に重苦しい空気が流れていた。デスク上のパソコンを挟んで、3人の男たちが難しい顔つきをしている。
副社長の野本が、「こんなものが私の元に届きました」と言って、USBメモリーを持ってきたのが始まりだった。
記録されたデータは、ポルノ動画だった。四つん這いになった和善を、男が背後から犯している。
この動画を撮るために、上野の公衆トイレで、男が和善に接近してきたのは明らかだった。でも何の目的のために?
野本がおもむろに口を開いた。
「金が目的か、嫌がらせか――会長、何か恨みを買うような心当たりは?」
和善は首を傾げた。
「さあ、とくに思い当たることは無いが」
そこで秘書室長の大島に向かって、「大島くん、きみはどう思う?」
大島は思案顔で答えた。
「この後、先方から何らかの要求があるかも知れませんね。会長、警察に届け出ますか?」
大島の意見に、副社長があわてた。
「きみ、それはまずい。会長のプライバシーに関わることだよ」
そこで取って付けたように言った。「会長はあけぼの商事の代表者だ。犯人もそこに目を付けて、狙ったのかも知れん」
「だったら私が会長をやめたら収まるのか」
和善は腕を組んで考え込んだ。

野本副社長が部屋を出ていったあと、和善は秘書室長の顔をじっと見た。
大島は最前より何か考えているようだ。口数が少なく律儀な顔つきなので、凡庸と見られがちだが、意外に世故に長けている。和善はこの男に、満幅の信頼を置いていた。
「何か考えがあるようだな」
会長の問いかけに、大島は控えめに答えた。
「ちょっと調べてみます。USBメモリーをお借りしますよ」

その日の夜、秘書室長の大島は、男に会っていた。
大島はUSBメモリーの動画をパソコンで見せたあと、状況を説明した。
話が終ると、男はあっさりと言った。
「この男、新宿では爺殺しで有名だ。たしか城島とか言ったな。痛めつけて吐かせるか」
「いや、暴力沙汰は極力避けたい。背景だけ調べてくれ。それから――」
大島は内ポケットから写真を取り出した。「副社長の野本克彦だ。策士だから、何か絡んでいるかも知れん。こちらも調べてくれ」

(5)

(どうしょう。部屋へおいでとおっしゃって――。いったい会長は、どうなされたのだろう)
中野圭一は不安を抱えて、会長の寝室に向かっていた。
彼は住み込みで働く、会長専属の運転手だった。55歳、固太りの大柄な体格をしている。見た目、恰幅が良くても、威圧感がないのは、やさしく輝く小さな目と柔らかい物腰からだった。

部屋に入ると、バスローブを着た会長が、ベッドの端にちょこんと腰掛けている。風呂上りなのか、頬が赤ん坊の肌のように艶々としている。
会長は待ちかねたように言った。
「ケイちゃん、さあ服を脱いで。きみの裸を見せておくれ」
(へっ!?)中野は鳩が豆鉄砲をくったような顔をした。
「何をしている。早く脱ぎなさい。パンツもだよ」
会長が急いた。なんだか、自分の思い通りにいかない子供が、地団駄踏んで親に抗議しているようだ。

中野は訳が分からないまま、着ているものを脱いだ。
色白肉厚の堂々たる肉体が、天井灯のもとで鈍く輝いた。とくに目を惹くのは、股間の一物だ。
顔は優しいのに、禍々しい形状をしていた。カリが異様に発達して、陰茎も太いので、重量級の威容を誇っている。

和善は驚嘆する思いで、運転手の股間を見ていた。ズボンの健康的な膨らみから大きいとは予想していたが、まさかこれほどとは――。
怖さもあったが、興味もあった。
(これが臨戦態勢になったときは、一体どんな大きさになるんだろう?)
そして思った。(こんな大きなモノを尻に納めきれるのか?)
和善は見知らぬ男に尻を犯されたあと、苦痛と裏腹に覚えた快感が、忘れられなかった。
そんなときふと、立派な体つきをした運転手の顔が思い浮かんだのだ。

戸惑いながらも全裸になった運転手に向けて、和善は優しく言った。
「さあ、こちらにおいで」
そして自らバスローブを脱いだ。下には何も着ていなかった。

その頃、同じ東京の夜空の下、ホテルの一室では、二人の男が親密な熱戦を繰り広げていた。副社長の野本と爺殺しの城島だった。
やがて――荒い息づかいが治まると、キスを交えて会話した。
「どうだ、あの会長は」
「ふふ、すごく具合が良かったよ」
「そんなことは聞いてない。男狂いになりそうか」
「それはもう。初めてなのに、女になり切っていたからね」
情事の後、ふたりはシャワーで汗を流し、衣服を着て部屋を出ていった。

そのあと、男が部屋に忍び込んで、隠しカメラを回収した。

(6)

大野は社長室で、忙しく働いていた。デスクの上には、未決済の書類が山と積まれている。
4月の役員会で、秘書室長の大野が社長に指名されたときは、周囲が驚いた。
なにしろ三段跳びの昇格である。
一体何があったのか?社員たちは憶測さえできなかった。そしてまた、なぜ急に野本副社長が会社を辞めたのかも――。

その頃、山賀会長は、会社近くのホテルの一室にいた。
「さあ、ケイちゃん、早く」
会長はベッドの端っこで跪き、尻を突き出して催促した。シャワーを浴びてまだ湿り気のある肉体が、鈍く輝いている。プルンとした丸っこい尻が開かれ、可愛らしい蕾が垣間見える。
「後ろから失礼します」
運転手はあてがい、慎重に押し入れていった。見た目とても無理と思えた小さな開口部が、じんわりと広がり、大きな一物を咥え込む。
完全に入り込むとしばしの休憩、それからゆるやかに動きだした。
「あ――ああ」
会長が身も世もない風情で、喘ぎ声をあげる。
段差のあるカリの部分が、肉襞を引っ掻くように行き来する。
侵入したものが大きいだけに、与える快感も大きい。
(ああ、いい――これが求めていたものか)会長はうっとりとして、極上の快感に酔いしれた。

しばらくして向かい合わせに抱き合った。
幅広い腰がゆるやかに動きだすと、会長が泣きだした。泣きながら、柔らかい膨らみに満ちた肉体が、大きな体にひしとしがみつく。
悦びにむせび泣きながら、会長はくりかえし言う。
「私をこんなにしたのは、みんなお前のせいなんだよ」


戻る / 目次 / 次へ

23/07/07 06:09 神亀

top / 感想

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b