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無法者の町(3) |
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(8)
オークタウンでは、それまでにない動きがあった。 ジローの指示に従って町の男たちが駆り出され、にわか銃撃部隊が編成された。と言っても、ほとんどが銃など扱ったことのない農民である。砂浜に的を立てて、射撃訓練が行われた。 一方でジローは、お偉方を引き連れて町の通りを歩きながら、狙撃する男たちを配置する場所を指示していた。屋根の上や建物の陰、あるいは建物の中から。 そうした町の動きに身の危険を感じたのか、いつもは酒場にたむろしている無法者たちも、根城とする廃鉱山に引っ込んでいた。 その日の夜、宿に戻ったジローが部屋で湯に浸かっていると、タイヘイがやって来て、黙ってジローの体を石鹸で擦りだした。左目のまわりに、青い隈が出来ている。 「その目はどうした?」 ジローが訊くと、タイヘイは何でもないと言うように肩をすくめた。 「生意気言うな、と殴られました」 「誰にだ」 「オムロに――射撃練習のとき、ちっとも的に当たらないので、保安官のくせに何やってんだ、と言ったら――」 そのときドアがノックされ、当のオムロがやって来た。彼はタイヘイの姿を見てにらみつけ、ベッドの端に大きな尻を落とした。甲高い軋み音がした。 「ちょっと相談に来た。明日は鉱山に食料を持っていく日だが、どうしたものかと思ってね」 これまで1日と15日には、鉱山跡に住む無法者たちに、食料を届ける決まりになっていた。もちろん脅しによる取り決めだ。 ジローが黙っているものだから、オムロは自分の考えを述べた。 「もう必要ないと思ってるんだ。奴ら、恐れをなして逃げたからね」 ジローが黙って立ち上がった。長身の体を水が滴り落ちた。その股間をオムロが目を丸くして見つめた。 バスタオルで体を拭きながら、ジローが言った。 「保安官、しばらく湯に浸かってないだろう。ちょうどいい、ここで体を洗ったらどうだ」 オムロは躊躇したが、ジローの有無を言わさぬ表情を見て、仕方なく服を脱ぎだした。人前で裸になること自体が屈辱だった。タイヘイが面白そうにこちらを見ている。(畜生、タイヘイの奴、あとでこっぴどく痛めつけてやる) しかし、彼の屈辱はこれだけでは済まなかった。 オムロは石鹸を使って体中を洗った。垢が面白いように擦り落とされて、豊満な体が赤ん坊の肌のように赤らんでくる。 久しぶりの温浴に、いい気分になっているところに、ジローの声がした。 「きれいになったな。ところで、俺の要望は何でも聞くんだったな。じゃあ今夜は保安官の柔らかい尻を差し出してくれ」 ![]() (9) 次の日の早朝、ジローとタイヘイは2頭だての荷馬車を操って、山間に向かっていた。後ろの荷台には食料が満載されている。 「食料を絶てば、奴ら死に物狂いで町に押しかけてくる。ここは奴らを油断させるために、いつも通りに食料を持っていくんだ」と言うジローの言葉に従って、町で用意した食料だ。 タイヘイは複雑な気分だった。 昨夜目の前で、保安官が犯されている姿を見るのは、いい気分だった。でっぷりした尻の狭間に、硬く膨れ上がった肉杭が打ち込まれ、激しく行き来する。結合部のたてる濡れた卑猥な物音や、保安官の妙に哀れっぽい悲鳴が、今も耳に残っている――。 でもそれは、これから自分の身にも起こることだ。彼は無法者たちのもとに食料を運ぶたびに、嫌というほど尻を掘られてきた。奴らは溜まった精液を空にするまで、面白がってタイヘイの小さな体をもてあそぶのだ。 二人は小屋が見えたところで、荷馬車を止めた。小屋は、山間の低い位置に2棟あり、そこに至るカーブした下り坂が続いている。 地形と小屋の様子を観察していたジローが、いくつかタイヘイに指示を出した。そして自分はライフル銃と弾薬を持って、馬車から降りた。 ここからは、タイヘイひとりで行くことになる。タイヘイは気を引き締めて手綱を握り、荷馬車を前に進めた。 先にマンタが小屋に逃げ込んでいたことが、幸いした。男たちはマンタの体で性の欲望を満たしていたので、タイヘイの体には無関心だった。 タイヘイは食料を大きいほうの小屋に運び込み、外に出ると荷台の毛布をはがした。そこには数個のダイナマイトの束があった。それをジローに指示された位置に投げた。2棟の屋根上と壁の隅に1つずつ。 それから馬車を操って、来た道を戻って行った。 ジローは小屋の見通しの良い、斜面の岩陰にいた。タイヘイが小屋から充分離れたところで、空に向けてライフル銃を放った。 ターン!山間に乾いた音が鳴り響いた。 しばらくして、大きいほうの小屋の中から男がひとり、用心しながら出てきた。窓にも外を窺う男の顔が見えた。 ジローは慎重に狙いを定め、外の男を撃った。頭を打たれた男の体がコマのように回転して、地面に倒れた。 次いで窓めがけて打った。こちらは男が窓の陰に隠れた後だったので、ガラスを割っただけだった。 男たちが反撃に出た。ドアの隙間や窓の端から、銃を撃ってくる。しかしジローの位置を正確に掴んでいないので、メクラ撃ちだった。 屋根の上のダイナマイトを狙った。2発目で命中した。 轟音と共に屋根がはじけ飛んだ。さぞかし小屋の悪漢どもは、肝を冷やしたことだろう。 今度は壁の根元にあるダイナマイトを撃った。1発で命中。壁が吹き飛んで、室内の家具が見えた。 たまらず男たちが、ドアから外に駆けだした。 ジローは冷静に男たちを倒していった。その中にマンタの姿を見つけ、ジローはにやりとした。ライフル銃で狙いをつけたが、引き金は引かなかった。 反撃する男たちの銃弾も、近くの岩に当たり始めた。外の物陰に隠れる者、まだ家の中にいる者、その両方から撃ってくる。 ジローは残りのダイナマイトを狙って爆発させたあと、タイヘイの待つ馬車まで退いて行った。 ――*―― 「こりゃあ、おったまげた」 ヤスがのんびりと言った。 刑務所から逃亡した3人は、鉱山跡の隠れ家に辿り着いたところだった。ジローが襲撃して3日後のことである。 ふたつの小屋は大破して、5人ほどの死体も放置されたままだ。そして生き残りの男たちも、他の町に逃げたあとだった。 ケンが疑問を口にした。 「町の奴らがやったのか」 カンジが否定した。 「いいや、町の奴らは臆病者ばかりだ。おそらく、ここの連中が仲間割れして、こうなっちまったんだろうよ」 カンジはせせら笑った。「構うことはねえ。明日、町に行こうぜ」 (10) 教会の鐘がけたたましく鳴り響いた。 前もって決められていた、町に危機が迫る警報だ。 町の住民は、へっぴり腰で銃を片手に、それぞれの持ち場についた。 一方、ジローは床屋に行って、爺さんにひとこと、「髭を剃ってくれ」と言って椅子に掛けた。タイヘイはおとなしく見守っている。 保安官のオムロは落ち着きなく、床屋の前の通りを右往左往していた。 いっぽう町のお偉方3人は、息を潜めて、家の中から外の様子を窺っていた。 やがて、床屋からジローが出てきた。 髭を剃った顔を見て、オムロはギョッとした。まるで、3年前に殺された、保安官のソーマが生き返ったかと思った。 ジローは宿屋に戻って革袋を肩にかけると、通りを横切り、厩から自分の馬を表に出した。そして馬にまたがり、通りを北に向かった。 カンジたちがくる方向とは逆の方向だった。 それを見送るタイヘイは、我に返って、宿屋の床下にもぐり込んだ。 町のお偉方たちは、前を通り過ぎるジローの姿を、呆然として見守っていた。 彼らは、まるで亡霊でも見たような、恐怖の表情を浮かべている。 カンジたち3人が、馬を疾駆させて町に入ってきた。雄叫びをあげ、町の通りを走り抜けながら銃を乱射する。 勝負は戦う前から決まっていた。 町の住民たちは悪漢どもの勢いに押されて逃げ惑った。中には勇気を振り絞って銃を撃つ者もいたが、あっさり撃ち殺された。 「おや、デブのオムロがいたぞ」 ケンが馬を駆って、広場を逃げていくオムロに近づいた。そこで投げ縄を打ち、肥った体を引きずり回した。 一方カンジは、町長の家に押し入った。アイダは寝室の奥で見つかった。 「町長、久しぶりだな。俺たちを垂れ込んで、ムショに入れた礼に来たぜ。と言いたいところだが、お前たちの返事次第では、命を助けてやらんこともない。皆を酒場に集めろ」 酒場に、町の主な人間が集められた。町中を馬で引きずり回されたオムロは、服の布地が擦り切れて裸同然だった。その全身が擦り傷だらけだ。 集められた者は、全員意気消沈していた。 頼りとするジローが行ってしまった。しかもその顔たるや、死んだソーマに生き写しだ。何が何だか分からなかった。 カンジは町のVIPに向けて言った。 「いいか、チャンスは1回だ。お前たちがネコババした国の金を寄こせ。そうすれば、俺たちにしたことは帳消しにしてやる」 アイダとカネダ、トマリの3人は無表情を装ったが、動揺は隠しきれなかった。 町長のアイダが唇を湿らせて、恐る恐る言った。 「私たちで金は出す。でも国の金とは何のことだか――」 言ってる途中で轟音がして、アイダの額に穴が開いた。その体がゆっくりと背後に倒れていく。 集まった連中が悲鳴をあげる中、カンジは平然と言った。 「チャンスは一回きりと言ったはずだ。よし、今度は銀行屋のカネダだ。お前にもワンチャンスやろう」 「銀行にある!」 カネダは慌てて言った。「銀行の奥に隠し金庫があるんだ」 そこまで言って、カネダはがっくりとうなだれた。 それを宿屋のトマリが恨めしげに見ている。町の連中が聞いている手前、もはや3人の犯した犯罪は、隠しようがなかった。 カンジは上機嫌でカネダの肩に腕を回した。 「よしよし、いい子だ。じゃあこれから銀行に行って、見せてもらおうか」 カネダの言ったとおり、隠し金庫には政府の金が山と積まれていた。露見するのを恐れて、町のVIP3人は小出しに使っていたのだ。 外は暗くなり始めていた。金庫の鍵を取り上げたカンジは、いったん宿に戻って祝杯をあげることにした。 バーボンをひと口あおったところで、ヤスの姿がないのに気づいた。 「おい、ヤスはどこに行った?」 「外にでもいるんだろ。ちょっと見てくる」 ケンが言って、外に出て行った。 ところが今度は、ケンもなかなか戻ってこなかった。 さすがにカンジは危険を察知した。何かがおかしい。彼は銃を抜くと、外の様子を窺った。月明かりに照らされた通りには、人の姿がなかった。 そのとき奇妙な光景に気づいた。広場の中央にある樫の木の枝から、黒い物体が二つぶら下がっている。まさか! 目が慣れてくると、そのまさかだった。ケンとヤスの死体だ。 そのとき、木の陰から背の高い男が現れた。男はゆったりと前に出た。月明かりが男の顔を浮き立たせた。 カンジは凍り付いた。3年前、吊るし首にしたソーマの顔だった。 慌てて銃を発射した。 ふたつの銃声が重なり合った。カンジの右腕に激痛が走り、銃を手放した。ついでもうひとつの銃声と共に、左の太ももに衝撃を受けた。 たまらずカンジは、地面に倒れ込んだ。 ジローはゆっくりと歩み寄った。その手にはロープが握られている。 カンジの首にロープをかけると、その体を抱えて馬に乗せた。それから手綱を取って、樫の木の所に行った。その間、終始無言だった。 ジローがロープを枝に架け、端を木に固定したところで、カンジがくぐもった声で訊いた。 「お前は誰だ?」 「ソーマの弟だ」 一言答えて、ジローは馬の尻を叩いた。 馬が前に走り出した。 カンジの体が宙に浮き、ついで首のロープに体重がかかった。 2日後に国の保安官たちが、オークタウンにやって来た。 責任者と一言二言交わして、ジローは馬のほうに歩み寄った。 タイヘイが近づいて来て、バーボンの瓶を渡した。 「よければ、わしも連れて行ってくれんか」 ジローはバーボンを荷袋に入れ、肉付きの良い小男の体を面白そうに見た。 「俺と一緒だと、お前を女代わりにするが、それでもいいのか」 タイヘイは頷いた。 「女代わりにされるのは慣れている」 ジローはタイヘイの体をひょいと抱えると、馬の背に乗せた。それから自分も後ろに乗って、北のほうへと馬を進めた。 |
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23/07/05 07:17 神亀
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