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無法者の町(1)



――これは銃の携帯が許された国のお話。

(1)

海岸沿いに広がる草原が、山脈によって狭められる地域に小さな町があった。
広場の中央には、見事な枝ぶりの樫の木がある。その大きさから推測するに、もともと樫の木が存在していて、それを囲むように町が出来たのであろう。それを裏付けるように、町の名前もオークタウンという。
海と山に挟まれた地形の影響なのか、この町は季節によって変貌した。
春は1年の内で最もまともな季節だ。町を取り囲む草地に、白い小さな花が咲き乱れ、人々の気持ちを明るくする。また海も穏やかで、町の住人は砂浜に繰り出して、釣りや水遊びに興じる。
夏はカンカン照りが続いて、乾燥した道に砂埃が堆積する。風のある日はとてもまともには出歩けない。
冬は寒風吹きすさび、海岸線に高波が押し寄せてきて白い飛沫をあげ、岩を侵食する。この時期、海に近づくのは命の危険すらある。

この町には大した産業も無く、せいぜい宿場町として、通過する旅人たちが足を休めるくらいだ。住民の大半は、町の外にある牧場や農地で働き、残りの住民が宿屋や銀行、鍛冶屋などのサービス業に従事している。
外から来た人が奇異に感じるのは、子供が一人も見当たらないことだ。
この町の住人は、子育てに合わない土地と見做しているからだ。必然的に住人の大半は男ばかりで、女もいることはいたが若い女は1人もいない。
その原因は、過去に何度か忌まわしい事件があったからだ。
新しいところでは、5年前に政府の金を積んだ馬車がこの町を出たあと、6人の護衛と共に消息を絶った。そして3年前、保安官が3人の悪漢どもになぶり殺しにされ、広場の木に吊るされた。

現在の町のお偉方は3人。アイダ町長、カネダ銀行主、そして宿屋の主トマリが町の行政を取り仕切っている。彼らは町に何か事が起きれば、3人集まって問題を解決してきた。
そして今、彼らの頭を悩ましているのは、町にはびこる無法者たちだった。
無法者たちは町からそう遠くない、山間にある鉱山跡の家屋を根城として、昼間は娯楽を求めて町にやって来るのだ。

町の唯一の娯楽の場は、宿屋の1階にあり、酒場と踊りのショーがある。ショーと言っても、登場するのは厚化粧で皺を隠した年増女か、あるいは女装した男娼である。
無法者たちは、終日この場に入りびたり、博打をしたり酒を飲んだり、ときに舞台のショーにヤジを飛ばしたりしている。そして彼らの収入源は、町から用心棒代をせびり取ったり、旅人に難癖つけて日銭を稼いだりしていた。

(2)

大地の乾燥しきった夏のある日、ひとりの流れ者が馬に乗ってやって来た。
男は悠然として馬の手綱を引き、町の通りを闊歩した。背が高く、つば広ハットを目深に被り、右の腰には拳銃を帯びている。顔半分が髭で覆われているため、顔の表情は分からない。
樽に腰掛けた二人の男が、やって来た流れ者を眺めていた。
ひとりは保安官のオムロ。50半ばで肉太恰幅の良い体格をしている。保安官とは名ばかりで、暴力沙汰があればいち早く隠れるほうだ。
もうひとりは便利屋のタイヘイ。童顔で、身長140センチの体格から若く見えるが、すでに50歳を超えている。サーカスの団長が、酔った勢いで侏儒の娘に手を付けて、生まれた子供が彼だという。彼は町のあちこちに出入りして、小間使いをやることで駄賃をもらって生活している。

流れ者は、厩で馬を預けると、荷物を入れた革袋を肩にかけ、通りを渡って酒場に向かった。
そこへ派手なドレスを着た女が斜めに歩いてきて、勢いつけてぶつかった。
ところが男はびくともせず、女のほうが弾き飛ばされた。
この女、実は女装した男で、酒場でエロチックな踊りのショーに出演したり、気に入った客に春を売ったりする、マンタという男娼だった。流れ者を見て、ついチョッカイを出す気になったのだ。
男が何事もなかったかのように立ち去るのを見て、マンタはがなり立てた。
「ちょっと、あんた!ぶつかっておいて、謝らんかい!」
男はふと立ち止まったが、そのまま歩きつづけた。
「畜生、待てっ!」
マンタは追っかけて、男の腕にしがみついた。

男は振り返ると、マンタの顔、ついで全身を黙って見やり、やおらマンタを片腕に抱えて逆方向に歩きだした。
「畜生、何をする!放せ」
マンタはじたばたしたが、男はまったく意に介さず、先ほどの厩の横にある納屋に入った。そこで藁の山に、マンタの体を放り投げた。
「女装趣味はあまり好みじゃないが――」
つぶやきながら、男はガンベルト、次いでズボンのベルトを外すと、マンタの体の上に覆いかぶさった。
「あっ、何をする!畜生、放せ!」
マンタは抵抗したが、大人と子供ほどの体力差があった。ドレスをまくり上げられ、パンツを引き脱がされた。尻穴に唾をつけられ、まさぐられていたと思ったら、いきなり激痛が襲った。
「ぎゃああっ!痛い――引き裂かれるゥ」

男がマンタを手籠めにする光景を、羽目板の隙間から、小男のタイヘイが固唾をのんで見守っていた。彼は保安官の命令で、男の後を付けていたのだ。
男は情け容赦なくマンタを犯しつづけた。凶器と化した男の肉杭が、小さな尻に打ち込まれ、荒々しく行き来する。最初は悲鳴をあげ続けていたマンタも、気持ち良くなったのか、いつしか善がり声をあげている。
欲望を果たしたあと、男は立ち上がって悠々とズボンを引き上げた。それから身なりを整えて、納屋から出て行った。

(3)

流れ者は酒場に入り、カウンターに歩み寄ると、宿の親父、トマリに向かって、言葉少なに言った。
「ビール。あとバーボンをひと瓶」
腹の出っ張った親父は注文の品を出すと、男に訊いた。
「お泊りですか?」
「ああ、ひと晩、頼む」
言って男は、肩の革袋をカウンターに置いた。「預かってくれ」
「かしこまりました」
トマリは革袋を背後に置くと、宿帳を出した。「名前をお願いします」
流れ者はペンを取って『ジロー』とだけ書いた。

ジローはビールジョッキを片手に、カウンターに背中を預け、室内を見渡しながら、ゆっくりとビールを飲んだ。髭の中で切れ長の目がクールに輝いている。
部屋にたむろしていた男たちのひとりが、ジローのほうにやって来た。
「兄ちゃん、どっから来たんだ」
ジローは男を無視して、ビールを飲んでいる。
男が粋がって怒鳴った。
「野郎、シカトするのか!顔を壁にぶち込んでやろうか」
ジローは平然と言った。
「やめとけ、腕が違う」
「何を、このっ!」
男が殴りかかった。
ジローは軽くかわして、空のジョッキを男の頭に叩きつけた。
男の体が膝からへなへなと崩折れる。
もう一人の男の手が腰の拳銃に伸びたとき、ジローの声が飛んだ。
「死にたくなければ、じっとしてろ」
いつの間にか、ジローの手には拳銃が構えられている。
男があわてて両手をあげた。それを見届けると、ジローは店主に訊いた。
「床屋はあるか?」
呆気に取られて見ていたトマリが、部屋の隅にいる小男に声をかけた。
「タイヘイ、床屋まで案内しろ」
待ってましたとばかりに、タイヘイが進み出た。
ジローはカウンターの上に銅貨を投げると、小男の後について店を出た。まるで大人を引率する子供の有り様だ。

(4)

床屋に行くと、細面の爺さんが揉み手をして出迎えた。
ジローは椅子にゆったりと腰掛けた。「髪を切ってくれ。髭は剃らなくていい」と言ったところで、続きの小部屋にバスタブがあるのに気づき「風呂も使いたい」と付け加えた。
床屋がジローの髪を散髪する間、タイヘイがバスタブに湯を満たした。
散髪が終ると、ジローは店主の前で平然と服を脱いで、湯の中に体を沈めた。
頼まれもしないのに、タイヘイが、石鹸を使ってジローの体を擦った。大量の白い泡が立ち、面白いように垢が湯面に浮き出た。

3人の男たちが通りを渡って、床屋へ近づいてきた。
それに気づいたタイヘイが、ジローの耳元でささやいた。
「さっきの男たちが3人、こっちに来ます」
言ったあとタイヘイは、素早く部屋を出て行った。
男たちが床屋に入ってきて、裸で湯に浸かるジローを取り囲んだ。
ひとりの男が、床屋の剃刀を手にした。
「先ほどは世話になったな。お礼にお前の髭を剃ってやる」
男は剃刀をグッと前に突き出した。「それとも、お前のタマを切り取って、食わせてやろうか」
途端、泡の中で轟音が弾けた。
剃刀を持つ男の額に穴が開き、男の体が背後に吹っ飛んだ。
他の二人が、慌てて腰の拳銃に手を伸ばす。
再び轟音が2回、連続してさく裂した。男たちの体が壁にぶち当たった。
またたく間に3人の男たちが、死体となって床に転がった。
ジローは湯の中でゆったりと立ち上がった。その手には拳銃が握られている。
恐る恐る戻ってきたタイヘイと床屋は、ジローの手の拳銃を見やり、ついで股間にぶら下がる男の性器を、目を丸めて見つめた。

男たちの死体は急造りの棺桶に入れられ、荷馬車に積まれた。
ジローは木の手すりに寄りかかり、手にしたバーボンを飲みながら、荷馬車が町の外れにある墓地に向かうのを見ていた。
そこに保安官のオムロがやってきた。でっぷりと太って、女のように大きな尻をした男だ。彼は殺された男たちのことには触れず、ジローに持ちかけた。
「どうだ、保安官助手になる気はないか」
「興味はないね」
ジローはあっさり言うと、宿屋のほうに歩き去った。

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23/07/03 07:17 神亀

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