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紫陽花屋敷(2) |
![]() (5) 香奈の家は本所の外れにある、御家人用の屋敷だった。家屋は小さいが、庭には食用となる野菜類を植えている。 髪の白い老武士が二人を出迎えた。彼は香奈を優しく睨んだ。 「帰りが遅いので、心配しておったぞ」 「お爺さま、ごめんなさい。ごろつきに絡まれ、この方に助けていただきました」 香奈は謝って、長三を紹介した。一瞬、老武士は警戒するように長三を見て、すぐ丁寧に頭を下げた。 「孫を助けていただいて、かたじけない。拙者、平林藤兵衛と申します」 これで香奈と老武士の関係が分かった。長三は、「いや、たいしたことは」と言って頭を下げた。 白めしにみそ汁、ふろふき大根、青菜の辛子和えが出た。みそ汁には刻んだ人参とネギが入っている。これらを老武士が作ったとは驚きだ。 長三は努めてゆっくりと味わいながら食べた。空腹であることを割り引いても、美味かった。 それにしても――二人は祖父と孫としているが、藤兵衛の様子を窺うと、香奈に対して遠慮があるように思えた――まるで主従関係のような。 ――*―― 泰山の屋敷に住むようになり、翌朝から家屋の痛んだ箇所を修理し始めた。 蒸し暑い梅雨時である。朝から始めて夕七つに作業を終えると、全身汗でしっとりと濡れていた。 陽平爺がやってきて、「旦那さまが湯から上がりました。どうぞ長三さんも、汗を流して下さい」と言う。 そう言う老人も作業の手助けをしたので、丸っこい身体が汗で濡れている。 長三は誘った。「じゃあ、陽平爺も一緒にお入り」 二人は交互に湯船につかり、洗い場で背中を流し合った。 陽平は異質なほど色の白い肌をしていた。それがほっこりしたふくよかな身体と相まって、艶めいた雰囲気がある。肌艶が良いため歳が読み取りにくいが、聞くと六十二になると言う。 陽平の背中を布で擦ってやっているとき、尻置きから横に膨らんだ白い尻を見て長三の血が騒ぎだした。考えてみれば、このひと月ほど精を抜いていない。 それに、風呂に入ったときから気づいていた、陽平の目つきは、大奥の女どもが長三を見る眼つきと同じだった。 「今宵はわしの部屋においで」 思わず長三は言っていた。驚いたことに、陽平は素直にうなずいた。 その夜、行燈のほの明かりの中で、二人は衆道の契りを結んだ。 長三は入れる前に、陽平の菊座をまさぐった。触られた秘門は、くねくねと卑猥な感じで動いた。いかにも入れてください、とねだっているようだ。 事前に香油を塗り込んでいるらしく、いい香りがした。穴の中に指をゆっくりと潜り込ませると、陽平がすすり泣くような声をあげた。 充分ほぐれてくると、陽平爺を四つん這いにして、後ろから挿入した。 すこしずつ亀頭が埋まっていく。カリの部分が入ると、ゆっくり抽送させながら奥へと進む。陽平の肉筒は、ヘノコの大きさにすぐ馴染み、気がついたときには太い陰茎を根元までくわえていた。 陽平爺がすすり泣きはじめた。なにしろ長三の性技は、女でも男でも善がり狂わす、百戦錬磨の技だ。 長三は老人のすすり泣きを聞きながら、心地良く腰をうねらせた。 その最中でも襖越しに人の気配を感じていた。(見られている)しかし、殺気はないので、そのまま続けた。 亀頭が秘肉のなかを深くえぐり、陽平爺が声を上げて泣きはじめた。 かまわず長三は、腰の動きを速めていった。 (6) 紫陽花の花がいっせいに咲き始めた。屋敷のあちこちで葉の緑を背景に、淡緑色の色彩が出現した。近隣で紫陽花屋敷と呼ばれる由縁だ。 香奈はときどき絵を習うため屋敷に来て、泰山と二人きりで奥座敷にいた。 長三は口を利くことも出来ず、たまに遠くから姿を見るだけだった。 一方、屋敷には弥太郎という三十代の男がいた。歌舞伎の女形のような顔立ちをしている。長三は、この男と陽平爺が衆道の関係にあると睨んでいた。 ある晩、長三は屋敷を抜け出し、闇を縫って香奈の家に忍び込んだ。香奈と老武士の世を捨てたような暮らしが、気になっていたのだ。 屋根裏伝いに進んでいると、藤兵衛と香奈の声が聞こえてきた。 「若、人前で娘になるのは、お辛くありませんか」 「確かに辛い。出来れば男子として過ごしたい」 「いかに世間の目を欺くとはいえ、お労しや。世が世であれば、予之介さまは、征夷大将軍になられるお方なのに」 「爺、それを言うな。わたしは爺と二人きりの、今の生活で満足している」 天井板の隙間から、夜具に仰向けになった予之介の姿が見えた。衣の裾が割れて男の道具が覗いている。すんなりとしたすぼけ(包茎)である。 仰向けのまま、予之介が言った。 「しばらく気をやっていない。爺、わたしを吸ってくれ」 その後は、長三の予想さえしない光景が見られた。なんと藤兵衛が、予之介の前を開いて、若いヘノコを口に含んだのだ。 老若二人の艶めいた行為を見たあと、屋敷を出たところで、後を付ける何者かの気配を感じた。 長三はわずかに背を丸め、夜の町を歩いた。そして大店の角を曲がったとき、素早く水桶の陰に隠れた。 そのまましばらく待ったが、追跡者は現れない。 通りに出ようとしたとき、上のほうから声がした。 「長兵衛、お久しぶりね」 聞き覚えのある声だ。すかさず長三は、大店の屋根によじ登った。 小さな影がひそんでいた。甲賀のくノ一お満。色仕掛けで男を篭絡し、含み針を使う。長三と同じ得意技であることから、競い合ってきた仲だ。甲乙つけようと、男女のまぐわいをしたこともある。 長三はいつでも攻撃できるように、長針を右手に隠し持った。 「お満か。わしをつけるとは、何用じゃ」 「フフフ、たまたまお前を見かけただけじゃ。首を斬られたと聞いたが、やはり生きていたか」 (生かしておけぬ。わしが生きていると知られれば、お頭が――) 殺気を感じて、影がするすると後ろに下がった。 「殺気立つな、長兵衛。お前の生死など関係のないこと。それにわたし自身、抜け忍の身じゃ」 長三は頭巾から覗く目を見て、真意を探ろうとした。相変わらず妖艶な目をしている。そのとき、天啓を得たように閃いた――弥太郎の目だ。 「お満、弟がいると言っていたな。泰山のところの弥太郎か」 一瞬、お満が身体を緊張させたが、ふっと力を抜いた。 「放浪癖のある弟だが、ただ一人の身内。たまに様子を窺っている」 「ではわしが同じ屋敷にいるのを知っていたのか」 「だから、たまたまと言ったじゃろう。今日、初めてお前を見た」 「と言うことは、ずっとわしの後を付けていたのか」 「ああ――若と爺の艶事も見た」 不覚だった。ずっと付けられていたのに、気づかなかったのだ。苦い思いを押し隠して、長三は訊いた。 「若と言ったな。お満、あの二人の素性を知っているのか?」 「長兵衛こそ知ってるくせに――」 お満はフフフと含み笑いした。そしてひとこと「葵」と言った。 (やはりな)予之介が公方の隠し子ではないか、と思ったのは天井裏で下の二人の会話を聞いてからだ。彼はボソッと言った。 「世襲争いから逃れたのか」 お満は、ああ、と応えた。 「予之介さまは爺好きじゃ。だから、御城から逃れるとき、お気に入りの台所頭平林藤兵衛をお伴にした」 長三は複雑な思いがした。純粋無垢と見えた香奈が、その実若衆で、男同士の愛欲に染まっている。 お満が忠告した。 「長兵衛、気をつけろ。狩野泰山は絵師で有名だが、若衆好きでも知られているぞ。あの男が予之介さまに目を付ければ、ただでは済まされぬ。それに弥太郎も何をしでかすか分からん」 「弥太郎は忍びなのか」 「忍びではないが、心得はある。あれが十歳のとき、ある武士の養子となって、甲賀の里を出た」 (7) 庭の紫陽花が満開となった。淡緑色から白色になり、そして早くも青紫色に染まっている。七変化と呼ばれる所以である。 長三はお満の話を聞いて、迷っていた。お満の話が本当なら、この後、予之介の身に何が起こるか分からない。あの若者が泰山に穢されるなど、考えただけで怖気がくる。 その夜、長三は密かに、絵の作業場としている奥座敷に忍び込んだ。壁際の棚に和紙が重ねられている。調べると、風景画や草花の絵だった。 ふと長三は目を止めた。浮世絵があった。男と男の絡み絵――明らかに長三が、陽平を犯している構図だった。(あのとき感じた気配は、泰山だったのか) ほかに陽平と弥太郎の絡み絵もあった。 次の日、長三が庭の掃き掃除をしていると、縁側から泰山の声がした。 「精が出るのう。どうじゃ、少し休んで茶でも飲まぬか」 泰山は言って、背後に控える陽平を見た。「陽平、茶道具を持ってきてくれ」 勧められるまま長三が縁側に腰掛けると、泰山はのんびりと話しだした。 「紫陽花は香奈のようじゃな。暗い梅雨空の下にあっても、そこに居るだけで、まわりが明るくなる。それに、初心な淡緑色から白色、そして青紫へと染まっていく。まるで生娘が男によって女に変わるようじゃ」 泰山の露骨な表現に、長三は不快感を覚えた。彼にとって香奈、いや予之介は、いつまでも無垢であって欲しかった。 陽平が茶の道具を持ってきた。それを使って泰山が茶をたてた。 「まずは味わってくれ」 長三は茶を飲んで、違和感を覚えた。薬種の訓練をした忍び特有の感覚だ。 これは――?一服盛られたと気づいたとたん、長三は反応した。すかさず縁側から庭先へと跳んだ。 跳んだ先に、いつのまに来たのか、弥太郎の姿があった。 「おや、どこにいこうというのか、長三」 弥太郎が揶揄するように言った。 長三は機先を制して、弥太郎の耳の後ろの壺を押そうとした。しかし身体にしびれがきて、動作が緩慢だった。難なくかわされた。 それどころか、二の攻撃に移った長三を楽に押さえつけて、身動きできないようにした。優男のわりに、意外にも力が強い。長三は急所の壺を押されて、意識が遠のいた。 (8) どれほど意識を失っていたか分からない。目を覚ました時、あたりは薄闇に包まれていた。どこか奥の部屋に運ばれたようだ。 身体のしびれは取れていた。両手足は縄で結ばれていたが、忍びの技で解くのは容易だった。 そのとき、襖越しに声が聞こえた。 「ああっ、お師匠様、そこは――」 「ふふ、予之介、いいではないか。ほれ、もうこんなに硬くして」 「ああ、いい――」 「いいか、よし、今度はわしを吸ってくれ」 泰山と予之介の声だった。泰山は、香奈ではなく予之介と呼んでいる。ということは、すでに香奈の正体を知っている、ということになる。 そのうち、激しい息遣いや喘ぎ声が聞こえてきた。見なくとも、何が行われているか明白だ。 (泰山め、許さぬ!)長三は殺意に駆られて、襖を開けた。 行灯の薄明かりのなかで、この世のものと思われぬような、妖艶で隠微な光景が繰りひろげられていた。 胡坐を組む泰山に、予之介が背後から抱かれていた。衣の合わせ目がはだけて、贅肉のないすんなりとした肢体が露わになっている。開かれた股間に食い込む太いヘノコが垣間見えた。 長三は予之介の顔を見て、愕然とした。 上品で端正な顔がすっかり男色に染まっていた。悩まし気に眉を寄せ、開いた口から喘ぐような声が、とぎれとぎれに漏れ出ている。 泰山が長三に気づいて、予之介の耳元でささやいた。 「ほれ、長三が見ているぞ。思う様に見せつけてくれようぞ」 予之介が童のような幼い顔をして、嫌々するように顔を左右に振った。 泰山が肥った腰をわずかに突き上げたとき、若者の顔に、恐怖にも似た感情が走った。そして太いヘノコが根元まで埋められてからは、唇を半開きにして、ひたすら目を閉じていた。 泰山が小さい尻を掬うように抱えて、上下に揚げ降ろしした。 大きく膨れ上がったヘノコが、若者の初心な秘孔をいっぱいに広げて、腰の動きにつれ、ズルリズルリと滑脱する。 「ああっ!ひっ、ひいいーっ!」 たまらず予之介が声をあげて泰山の首にしがみついた。しかしその表情たるや、何の苦しみも感じさせず、ただひたすら悦楽を味わっている。 泰山は若者を思うさまに凌辱しながら、空いた手で、若いヘノコや乳首をもてあそびだした。 ――予之介様は、爺好きじゃ――お満の言っていたことは、すべて事実だった。予之介を助けようとした長三であるが、今やただただ、目の前で繰り広げられる二人の痴戯を見守るだけだった。 |
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23/06/24 07:31 神亀
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