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(四)愛するお年寄りたち |
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11月に入った土曜日、私は愛車を駆って鬼怒川に向かっていた。
横には軽装の絹ヶ谷理事長が、満ち足りた表情で乗っている。以前二人で神田のバーに行ったとき、一泊の温泉旅行を約束していたのだ。 老人がのんびりと言った。 「あなたと二人きりで温泉に行くなんて、なんだか夢を見ているようです」 私はハンドルを操作しながら応えた。 「私も同様です、理事長とご一緒できるなんて――。この時期、鬼怒川は紅葉が進んで、風情がありますよ」 返事をしながらも、私は絹ヶ谷夫人に対して後ろめたい思いが残っていた。 今朝、絹ヶ谷の私邸に車で迎えに行ったとき、玄関先に夫人が出てきて、「主人がお世話になります」と言って、丁寧に頭を下げたのだ。上品な感じの女性だった。彼女は、まさか鬼怒川で彼女の夫と私が男色関係を結ぶなど、微塵も疑っていないのだ。しかも彼女の夫は、何食わぬ顔をしているところを見ると、仏の絹ヶ谷と呼ばれながらも、結構したたかな老人である。 その上お茶目なところもあって、「車に乗っている間、あなたの膝の上に手を置いていても構いませんか」などと言って、私を笑わせる。 宿に着くと浴衣に着替えて、さっそく温泉風呂に向かった。 岩組みの露天風呂は、紅葉がすぐ近くまで迫って、晩秋の風情がある。昼下がりだったので、入湯客はまばらだった。 絹ヶ谷理事長の裸を見て、私はますます老人に惹かれた。やや小太りの肉体は、さすがに弛み気味だが、太い腰に続く大きな尻はまだ肌に張りがあった。それに皮の剥けた立派なイチモツである。それを仏様のように、慈愛に満ちた穏和な顔立ちの老人がぶら下げているのは、なんとなく浮世絵の世界を想わせた。 ![]() 私たちは湯に浸かって、ゆったりと会話した。 「理事長は、とても70とは思えない、艶やかな身体をされてる。若い頃、ラグビーをやっていたお陰ですね」 「あの頃は、男の世界に憧れていましたからね。でも、私の体格でラグビー部に入ったのは、無謀でした」 絹ヶ谷は昔を思い出すように、遠い目をした。「私は部の中で、一番小柄でした。そのせいで、いつも控えに回されていました」 私は一歩踏み込んだことを言った。 「先輩に衆道を教え込まれた、と言われてましたね」 「ああ――そのことですか」 絹ヶ谷は少し間を置いて、おっとりと話し始めた。「その当時の学生寮は、そんな風潮があったのです。先輩が、新入生をひとり選んで、庇護する。蛮カラ転じて武士道の真似事です」 「でも実際に――男色行為はあったのですか?」 「もちろんです。念者と若衆――年下の私は当然若衆、つまり受け手でした」 そこで理事長は笑った。「あなたはご存じのくせに。あなたのようにいい男なら、女ばかりでなく、何人もの男たちも泣かしたのでしょう」 否定しても仕方がないので、私は素直に答えた。 「そんなに多くはありませんが、男色関係を結んだことはあります。もっとも、私が想いをかけるのは、お年寄りの男性だけですが」 「いわゆるフケ専ですね」 意外にも理事長は、業界用語(?)で言って、微笑んだ。「それで、私はあなたのお眼鏡にかなったのでしょうか?」 私は熱意を込めて答えた。 「理事長は最高です。私の人生で最も理想とするお年寄りですよ」 「それは光栄です」 絹ヶ谷はちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。 その夜、私は絹ヶ谷理事長を抱いた。老人が、男色行為をしていたのは学生時代だけ、と聞いていたので、先を急がずじっくりとことを進めた。 理事長はいつも自然体で人に接しているだけに、昔からの関係のように、すぐ私に馴染んだ。キスはしたことがないと言ったが、素直に私の言う通り舌を出して私の舌と絡みつかせた。 私は一方的に、相手の老いた身体を味わった。口づけから乳首へと舌ねぶりを移し、次いで灰色のデルタ地帯へと伝い下りる。力感は失っているが、皮の剥けたボリューム感のあるイチモツだった。それを舌先で湿らせ、口に含む。 「ああっ!」 微かに理事長の喘ぎ声が聞こえた。 私は、老いたイチモツを咥えているだけで幸せだった。それは口の中で膨らんできて、硬さも増してくる――。でも肉を貫通するまでの逞しさにはならない。 長いブランクがある理事長の尻に入れるのは、時間がかかった。私は先を急がずじっくりと、老人の秘孔を舌と指を使ってほぐした。 いよいよ挿入する段になって、私は正常位で、老人の表情を見ながら慎重に腰を押し進めた。 仏様のような慈顔が、苦しそうに歪んでくる。目をしっかりと閉じ、口を開き加減に、顎をこわばらせている。 私は浅く挿入したまま、覆いかぶさって老人の口を吸った。少しでも老人の苦痛を和らげようとした。 「理事長、私のほうを見て。ほら、あなたを愛している男の顔ですよ」 老人がわずかに目を開けて、私の顔を見た。私は、老人を安心させるように微笑みかけ、再び口づけした。 理事長の身体が弛緩するのを感じて、奥へと押し進めた。 ああっ――。老人が喘いだ。 思い切ってズグズグと奥まで侵入した。 愛する男の前で処女の蕾が濡れて花開くように、理事長の身体は私を受け入れてくれたのだ。 感動の一瞬だった。 私は深く入り込んだまま、老人の精妙な息吹を感じ、深い一体感を覚えていた。 温泉旅行を境に、私と理事長の間は一気に近づいた。それまでは、いくら親しくても、他人同士という遠慮があったが、身体を許し合った親近感から、親子のような感覚が生じた。 各企業からの理事が集まった会議の席でも、絹ヶ谷理事長と目が合った途端、暖かい思念が伝わって来るような気がした。 そして理事長と二人きりになったときの胸ときめく思い――。私たちは血を分けた親子のような安心感と、衆道という古風な愛情で、しっかりと結ばれていた。 ――*―― 春先、人事部長が私のデスクにやってきて、「外人技術者を一人雇用したいのですが――」と打診してきた。本部の電子システムの整備と、後進の育成が目的だと言う。 渡された履歴書を見ると、ポール・ヤンス、65歳とある。写真が貼ってあって、のんびりとした顔つきの老人だった。経歴書によれば、MITを出て米国の先端技術会社で働いていたが、リタイア後、日本の現地法人に再就職した。2年働いた後会社をやめたが、そのまま日本が気に入って住み続けている。電子工学の博士号まで持っていた。 私はなんとなくこの外人が気に入ったので、人事部長に頷いた。 「いいんじゃないか。私が面倒見てやるよ」 こうしてポール・ヤンスは、私の本部で働きだした。 彼は、白人にしては背が低いほうだが、日本では中背といったところだろう。 薄くなった白髪に血色の良い小さな顔、銀縁メガネの奥からリスのような可愛らしい瞳が輝いている。 それに愛嬌のあるフレンドリーな性格の持ち主で、すぐ本部の社員たちと馴染んでいた。特に、パソコン知識のある法人営業部長の飯田洋平とは話が合うのか、よく一緒の姿を見かけた。飯田は地味な性格をした学者タイプの男で、ポールとは優秀な頭脳の持ち主同士、惹かれ合うものがあるのだろう。 ポールが来て1年が経過し、彼の電子工学の知識は大いに役立って、本部内の電子システムは飛躍的に向上した。 私はポールを部屋に呼び、彼の労をねぎらって、ご褒美に何か希望はあるか、と聞いた。 以前から考えていたのか、ポールは即座に答えた。 「日本の温泉に連れて行ってください。――本部長と二人きりで」 (えっ!?)私は思わずポールの顔を見た。彼一流のジョークかと思ったのだ。 私が戸惑っていると、ポールはなおも言った。 「本部長――」 「なに?」 「あなたが好きです」 いきなりパンチをくらった気分だった。外国人は直截にものを言うが、これほど直球でくるとは――。 新緑薫る5月、私は自家用車を運転して、ポールを鬼怒川温泉に連れて行った。宿は、前に絹ヶ谷理事長と泊ったところだ。 鬼怒川までの車中、ポールはあっけらかんとして自分の性の遍歴を話した。 ハイスクールに行っていた頃、クラスメイトの女と付き合ったが、1年と経たずに別れた。そのとき気づいた。どうやら自分は、女より男のほうが好きだと。 男色初体験の相手は大学の教授だった。それを皮切りに、66歳の現在まで複数の男性と付き合ってきた。中にはひどい経験もした。 最悪だったのは30代の頃、初老のトラック運転手といい仲になって、彼の家に遊びに行ったとき、3人の運転手仲間が待ち構えていて、有無を言わさず輪姦(まわ)された。お陰でしばらくは男性恐怖症に陥った、と言う。 そんなひどい経験をしたにもかかわらず、ポールは飄々として話をつづけた。 宿に着くと、さっそく温泉に入りに行った。 風呂の脱衣場で、ポールは何の気後れもなくさっさと裸になった。外人にしては体毛が無く、すんなりとして、思春期前の少年のような肉体をしていた。それに66歳という年齢を感じさせない、しなやかな肌をしている。 彼の後ろ姿、沁みひとつない艶やかな尻を見て、私の好き心が疼いた。 湯に浸かると、ポールはいかにも気持ちよさそうに言った。 「フルモンティで露天風呂に浸かるのは、いい風習ですね。日本人ほど、人生の楽しみ方を知っている国は、世界のどこにもありません」 その夜、ポールとの男色行為は、私の経験に無い新鮮なものだった。 ポールはウケだが、受け身に徹するのではなく、自ら快楽を求めて積極的に動いた。細身でしなやかな身体つきは、男女の性別を超えた異質の感があった。 私たちは全裸でベッドに横たわり、足を絡ませながら抱き合って、お互いの感じるところを手と口を使って刺激し合った。 肌と肌の接触が、これほど気持ちの良いものだとは思わなかった。ポールの器用な手が、私の肌の起伏を探るように愛撫して、そのあとを唇と舌がなぞる。 やがて合体する頃合いになってくると、ポールはコンドームを取り出して、器用な手つきで私の隆起したイチモツに装着した。 次いで私の腰に馬乗りになると、慎重に位置を合わせながら尻を下ろしてきた。 湿った暖かい感触がじんわりと覆い包む――結合は滑らかだった。 ポールの眉をひそめた表情が、じょじょに陶然とした表情に変わる。 体毛のない白い身体が、しなやかに上下動しだした。 私は仰向けに寝たまま、老人のもたらす快楽を味わっていた。 中性的な肉体が、私の全長を呑み込んで、滑らかに上下する。ときおり回転を交えて、締め付け、滑脱する――。 徐々に熱い血がたぎってくる。と同時に、嗜虐的な気分になってきた。 私は起き上がると、ポールをうつ伏せにして尻を引き上げ、背後から深々と突き入れた。 「うわあっ!」 ポールの悲鳴が聞こえたが、私はかまわず乱暴に抽送運動をつづけた。 翌朝、食堂の片隅で、コーヒーを飲みながら朝食後のひとときを過ごしていると、ポールが恨みがましい眼つきで言った。 「本部長ったら、激しいんだから。お陰で今も、お尻がヒリヒリしていますよ」 私はそっと周囲をうかがって、素直に謝った。 「ごめん、つい、夢中になって。でも、それだけポールのお尻が可愛らしいってことだ」 「おや、それなら、ヨーヘイのお尻のほうが可愛らしいですよ」 ポールの言うヨーヘイとは、法人営業部長の飯田洋平のことである。まさか飯田の名前が出るとは思っていなかったので、私はポールに訊いた。 「飯田部長の尻が可愛らしいって?ポールは彼とデキてるのか?」 「ヨーヘイは男色経験なしです。彼が言ってたから本当でしょう。でもその気はあるようです。内緒ですが、彼は本部長に片思いしていますよ」 「――」 私は呆気に取られて、何とも言えなかった。 |
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22/11/12 22:55 神亀
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