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(三)男色発展

その後もハルさんとの親密な夜の付き合いは続いた。
私はハルさんの明るくて穏和な性格を愛し、また、ハルさんの豊満できれいな肌の肉体を愛した。
しかし、いったん肉体的な絆を結ぶと、逆に、会社でのハルさんとのやり取りに気を遣うようになった。二人の男色関係が少しでも人に知られれば、会社生活の深刻な破綻となる恐れがあったからだ。
それでも、ハルさんとの男色行為が呼び水となって、ほかの気になる年配者たちに対しても、俄然興味が湧いてきた。
特にいつも使っている運転手の椙山に対しては、彼がハルさんと男色関係にあると聞いていただけに、これまでと違う目で見るようになった。

ある晩、客先との付き合いで遅くワンルームマンションに戻ったとき、運転手に「ちょっと寄っていけ」と言った。
椙山は私の声の調子からなにかを感じたようだが、言葉少なに「では、車を駐車してきます」と言った。
部屋に入って落ち着くと、私たちはコーヒーを飲みながら話をした。すでに夜の10時を過ぎていた。65歳の椙山が、女房と二人住まいで、彼の帰りが遅くなった時は、いつも女房は先に寝ている、と聞いていたので、遅い時刻でも気にしなかった。私は杉山に向かって、単刀直入に言った。
「ひとり住まいだと、ときに人肌が恋しくなる。どうだ、スギさん、今夜は私の相手をしてくれるか」
椙山は、ハッとして私の顔を見たが、ひと言「身体を洗ってきます。バスルームを使わせてください」と言って、浴室に向かった。

椙山がいとも簡単に、私の意を酌んだのに驚いたが、同時に、新たな期待に心が沸き立ってきた。彼ならフンドシが似合うと思って、引き出しから私のフンドシを取り出して脱衣室に持っていった。
風呂上がりのフンドシ姿の運転手は、眉毛の濃い野武士のような風貌と中背肉厚の身体つきをして、いかにも大人といった雰囲気があった。
私は多少気恥ずかしい思いから、あえてぶっきらぼうに命令した。
「よし、ベッドで四つん這いになって、尻を見せろ」
椙山は、黙って私の命令する姿勢になった。
菊座周りにも黒い体毛があって、皺の集合体が覗いている。太短いイチモツは、ハルさんのものとよく似ていた。

私は、前から、後ろから、年配の運転手を犯した。
椙山は太い眉をひそめて、いかにも痛そうな表情をしていたが、見かけほどは苦しんでいないようだ。ハルさんよりも締まりは良かったが、それでも肛門性交に慣れているらしく、滑脱はスムーズだった。
男らしい顔つきをして、肉厚、体毛の濃い熟年男を犯すのは、体毛のない滑らかな肌をしたハルさんとは違った、刺激があった。私はいつになく嗜虐的な気分になって、年上の運転手を乱暴に犯し続けた。
この夜以来、私はときどき、椙山運転手とも親密なひとときを過ごすようになった。ハルさんが私との仲を、この運転手に話したかどうか知らないが、私はあえて聞かなかった。

――*――

私が54歳になったとき、ハルさんは定年退職して、私が紹介したデベロッパー企業のマンション管理人として再就職した。
その年、私は本部長に昇格し、私の後任部長として飯田洋平がやってきた。飯田は私より4つ年下、大学院まで行った優秀な頭脳の持ち主だが、性格的には控えめな男だった。それに白いものの目立つ頭髪と小作りの顔立ち、小柄な体型から、あまり目立たない地味な印象があった。
私はこの飯田に、それまで担当していた外部法人を引き継いだが、ある社団法人だけは私が理事として引き続き担当した。
これには訳があって、その社団法人の理事長が、私の琴線を揺さぶるような老人だったからだ。

その理事長は絹ヶ谷覚(きぬがやまなぶ)70歳、都庁の局長から天下って社団法人に来ていた。そんな経歴の持ち主だが、本人は至って温厚で、決して偉ぶらず、子供のように素直な性格をしていた。
私は絹ヶ谷に初めて会ったときから、この老人に魅了されていた。
まず、穏和の極致といえるような容貌に息をのんだ。頭髪はすっかり薄くなって、肉付きの良い卵型の顔は、きわめて血色が良く、艶々としていた。金縁メガネの奥から澄んだ二重瞼の瞳が、慈愛に満ちてこちらを見ている。この老人が、仏の絹ヶ谷と呼ばれているのもうなずけた。
背は低いほうだが、学生時代ラグビーをやっていたと言う名残はあって、太い腰回りと大きな尻をしていた。それに老人特有の脆弱さが加わって、ほっこりとしたものやわらかい印象があった。

絹ヶ谷理事長と会う機会が重なるにつれ、この老人に対する私の思慕の念はますます強くなっていた。そしてどうやら理事長のほうも、私と会うことを心待ちにしているようだった。
何の用だったか忘れたが、ある昼下がり、私は絹ヶ谷理事長に連れられて、神田神保町にある学士会館に行った。ここは旧帝国大学出身者のための倶楽部施設だが、現在では一部施設を除いて一般者の利用が可能となっている。絹ヶ谷は学士会会員だったので、一般人が入れない施設にも出入り自由だった。
学士会館のレストランで夕食を取り、建物を出たときは暗くなり始めていた。
このとき絹ヶ谷が、行きつけのバーがあるのでちょっと寄って行きましょう、と私を誘った。

連れて行かれたのは、路地にある古びた小さなバーだった。狭い店内に入ると、カウンターに向き合って4,5人の先客がいた。皆、リタイアした老人らしく、自由気ままな服装をしていた。
カウンターの奥から60代と思われるバーテンが、絹ヶ谷に向けて顔なじみの笑みを交わし、私には愛想よく「いらっしゃいませ!」と言った。
どうやらここは、旧帝国大学出身者が愛用する店らしく、昔の東大校舎の写真や角帽が、板張りの壁に飾られている。
それにしても、私たちを見る年配の客たちの、親しみを込めた表情には、戸惑うばかりだった。それも、どうやら絹ヶ谷に向けてではなく、私のほうを見ているような気がした。

「この店に来る客は、昔、学生寮にいた連中が多いのです」
カウンター前の止まり木に腰掛けて、ウィスキーのロックをちびちびと飲みながら、絹ヶ谷が説明した。そこでチラリと客たちのほうを見て、「今、店に来ている連中もみな、寮生でした」
「絹ヶ谷さんの時代には、古き良き蛮カラな風潮が残っていたのでしょう」
私が言うと、絹ヶ谷は微妙な表情をした。
「古き良きかどうかは知りませんが、蛮カラであったことは確かです。お陰で、私は先輩に衆道を教え込まれました」
私はギョッとした。衆道とは、昔の武士の間であった男色である。そんな言葉がまさか、絹ヶ谷理事長の口から聞けるとは思わなかった。
(これは面白い。今夜は理事長の艶話を、じっくりと聞いてやるか)
私は内心期待しながら、その前にトイレに立った。

ひとつしかない小便器に向かって小便をしていると、ドアの開く気配がした。客のひとりの老人だった。私は急いで雫を切って、ズボンに収めた。
振り返って、お待たせしましたと言うと、老人は「そのまま、そのまま」といいながら、私の前に屈みこんだ。
(えっ、何?何が起こったの――)
私は戸惑い、次に仰天した。
なんと老人は、私のズボンの前を開き、我が愚息を引っ張り出したのだ。
濡れた温かい感触――。老人はやおら尺八を始めた。

親心に反して、愚息がみるみる反応した。人目を心配するよりも、快感の誘惑のほうが強かった。私はなすすべもなく、老人の口淫サービスを受け続けた。
舐めて、吸いついて、抽送させて――濡れた卑猥な音がつづいた。
私は決して早漏ではないが、あまりにも絶妙な老人の口技に、ものの10分ほどで精を吐き出してしまった。



トイレから戻ると、絹ヶ谷理事長が悪戯っぽい目つきで、私に言った。
「ずいぶん遅かったですね。不良爺さんにでも、ちょっかいを出されましたか」
何とも答えようがなく黙っていると、理事長が声を押さえて言った。
「お気を付けなさい。あなたは、私たち老人から見れば、本理想と思えるようないい男なんですよ。だから狙われやすい」
それを聞いて、フケ専の私は悪い気がしなかった。それで老人に訊いた。
「――理事長は私のことを、どう思われているのですか?」
「もちろんあなたが大好きです。あなたがお相手なら、私は娼婦でもなんにでもなれますよ。――もっとも、大年増の娼婦ですが」

そのときバーテンが、赤ワインの入ったグラスを二つ持ってきた。
驚いてバーテンを見ると、彼はカウンターの向こうを指して言った。
「あちらの方からの差し入れです」
先ほどトイレで強引に尺八した老人が、ワイングラスを掲げてこちらに微笑みかけた。
私は、後ろめたい思いで絹ヶ谷に遠慮しながら、そっと老人にグラスを掲げた。

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22/11/07 07:13 神亀

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