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(4)パートナー |
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サロン陶仙房がある路地の入口付近に、うどんや親子どんぶりを出している飲食店がある。
店の名前はアソコ。少々不謹慎な名前であるが、働いているのは60代の男二人である。 店主は古坂澄夫、62歳。血色の良い小さな顔にロマンスグレーの頭、背は低いが均整の取れた体つきをしている。 もうひとりはポール・ヤンス、65歳のユダヤ系フランス人である。 小さい頃両親が離婚して、母親に連れられてアメリカからフランスに移住した。18のときヨーロッパ中を渡り歩いたが、160センチほどの背丈ときれいな肌をしていることから、行く先々でゲイに狙われた。そしていつしか、尻を犯されることに悦びを覚えるようになっていた。 その後、日本にやって来て、大阪から東京へと移り住んで20年になる。今や関西弁を交えて、日本語を流暢に話す。 二人は、お父ちゃん、ポールと呼び合って、仲睦まじく店をやっていた。 生真面目な澄夫が調理をして、お調子者のポールが客の相手をする。愛嬌のある白人の店員がいる、という珍しさもあって、店はそこそこ繁盛していた。 サロン陶仙房の小林一成も、この店を贔屓にしていた。喫茶店の方でもよく出前の注文をしている。 一成の開口一番は決まっている。 「ポール、夕べ、やったか?」 「会長はん、はしたないこと聞かないの」 「夕べ、やったやろ」 「そりゃあ――2回やりましてん」 「面白い――そんな見栄を張るんなら、尻に芋を突っ込むぞ」 「どうせなら、会長はんのマツタケを突っ込んでください」 ポールは客の人気者だった。そして大半の年配客は、店主とポールがいい仲であることを知っていた。 実際、澄夫とポールは老いてなお、相思相愛の仲だった。どちらがタチで、どちらがウケとも決めていない。そのときの気分次第で、役割が決まるのだ。 しかし、仲の良い二人にも、これまで何度か波風が立った。 その原因は、いつもポールの方にあった。ポールは人を疑うことを知らないお人好しで、乗せられやすいタイプだった。その結果よく人に騙されて、金を取られたり、無駄な借金をしたりした。 その度に、肩代わりするのは澄夫のほうだった。澄夫は愚痴を言いながらも、いつもポールを助けていた。 そのポールが、また騙された。投資詐欺にあって、借金だけが残った。怖いお兄さんが二人やってきて、さんざん脅された末、澄夫がなけなしの預金をはたいて300万円もの金を返済した。 澄夫はポールをなじった。 「馬鹿野郎!どうしてお前はこう人に騙されるんだ。いつも俺に心配させやがる。ちったあ、俺の身にもなってみろ」 ポールは涙をぽろぽろ流しながら「ごめん。お父ちゃん、堪忍して」と繰り返すばかり。 澄夫は叱りながらも、しょげかえったポールが可愛くて仕方がない。最後は二人して抱き合い、おいおいと泣き続けるのだった。 澄夫は、先行き考えると暗澹としてきた。なけなしの金が無くなって、これでは家賃どころか、商売の食材も買えない。 そこでサロン陶仙房の小林会長のところへ相談に行った。 会長は大股開きにでっぷりした体をソファーに沈め、両腕を組んで聞いていた。澄夫の話が終ると、おもむろにへの字に結んだ口を開いた。 「じゃあ、なにかい。店の運転資金のため、わしに300万円用立てしてくれって言うんだな」 「はい、申し訳ございません。利子は会長さんの方で決めてください。必ずお返し致しますから」 会長はじろりと澄夫の顔をにらんだ。 「ポールが騙されたのは、これが初めてじゃないだろうが。お前は金を返すと言ってるが、この先、ポールが二度と騙されない保証はあるのか?」 「はあ、それは――」 正直言って、保証できなかった。ポールの性格は簡単に変わるものではない。 澄夫が返事をためらっていると、会長が言った。 「ポールに対するお前の愛情は、良く分かった。よし、300万円貸してやる。利子なんかいらん。その代わり条件がある。金を借りる前に、お前とポールで汗を流せ」 澄夫は、はやる気持ちを押さえて、会長に訊いた。 「汗を流すって、どういうことをやればよろしいんでしょうか?」 「なあに、お前たちが毎晩やってることだ。わしの店の常連客を集めるから、その前でセックスしろ」 聞いた澄夫は、あいた口が塞がらなかった。 そろそろ暗くなる時刻、サロン陶仙房の3階に、年配の男達が続々とやってきた。サロン陶仙房の常連客たちだ。一成の幼馴染、榊原桂介や神谷雄一も来ている。澄夫たちの返済金に充てるため、会費2万円としている。 部屋の中央に、一成が使っているキングサイズのベッドが運ばれた。 そしていよいよ、澄夫とポールのピンクショーの始まりだ。 澄夫は、62歳にしては、色白で肌理の細かい肌をしていた。小柄な体にうっすらと脂肪がついて、丸っこい尻が可愛らしい。性器は細身だが、カリがプリッと張って、それなりに力感がある。 一方、ポールは白人特有の肌の白さで、体毛の無い滑らかな肌をしている。外人にしては小柄な肉体、包茎の性器も並みサイズだ。 澄夫は緊張気味だが、ポールはすぐ二人の世界に入っていった。彼は切なそうに相方に口づけして、腰を落とすと尺八を始めた。 ベッドに上がり込んでからは、肢体を絡ませ、愛撫をしながら、口づけしたり、乳首を吸ったり、性器と戯れたり――いつもの行為に入った。 観客たちは、ほおっ、と吐息まじりに見物していたが、中にはもっとよく見ようと、間近に顔を近づける者もいた。 やがてポールが仰向けになり、両足を抱え込んで尻を持ち上げた。 白い双丘の狭間に、淡いピンク色をした菊座が露わに見えた。慎ましやかな皺の集まりは、東洋人によくある、黒ずんだところはひとつもない。 澄夫が舌でほぐしだした。唾液を塗りつけ、ヌメヌメと舐め、舌先を固くして開口部をこじ開ける。 今夜は澄夫がタチ役のようだ。こんなことは何回もやっているのだろう、いかにも慣れた様子で、開いた尻の狭間に、形よく勃起した陰茎がスムーズに呑み込まれていく。 最初は扱くようにゆっくりと。動きが滑らかになってくると、一定のリズムで抽送運動が始まった。結合部から、かすかに濡れた音が漏れ出ている。 ポールが可愛らしい善がり声をあげだした。 「ああっ!お父ちゃん――お父ちゃん、いい――」 次はポールがベッドの中央で四つん這いになり、その尻に澄夫がのしかかるようにして結合した。澄夫の可愛らしい尻と、陰部に食い込んだ逸物の様子が露わに見えた。小さな尻が上下に並んで、湿った音を伴って律動する。 ![]() 見物客の中で、画家の神谷が友のわき腹をつついた。榊原が顔を向けると、何やら企んだ顔つきで、ベッドの二人にあごをしゃくった。 「あの二人、そそられる尻をしてる。どうだ、このあと、味わうか」 榊原はにんまりした。 「おれも今、それを考えていたところだ。イッセイに断りを入れておくか」 澄夫とポールにとって不運だったのは、その夜、町内札付きのワル爺が、二人いたということだ。 やっと終わってホッとしているところに、小林会長がやって来た。後ろには議員先生と画家の先生がいる。そして会長は当然のことのように、二人の相手をしてくれ、と言う。 この場合、ポールはまだよかった。海外でさんざん大きな逸物を体験してきたからだ。ところが澄夫は、ポールの細身のモノしか経験がない。 二人の先生たちは、これまで澄夫が見たことのないような巨根の持ち主だった。しかも自分よりずっと年上なのに、壮年男のように元気がいい。 同じベッドの上で、ポールが善がり声をあげる傍ら、澄夫は悲鳴をあげっぱなしだった。そして小林会長は、ズボンから出した太い逸物を慰めながら、4人の熱戦をベッドの外で見守っていた。 澄夫たちは苦労の末、300万円を手にして店を続けることが出来た。 しかし、一難去ってまた一難。 ポールの体調が良くなかった。食欲がなくなって腹がぐるぐるすると言う。それに痛みも周期的に襲ってくる。 総合病院で検査した結果、胃がんだと分かった。それもほかに転移して、手の施しようがない状態だと言われた。――よくもって、あと1年。 愕然とする診察結果だった。二人は声もなく、病院を後にした。 それから一週間、あれこれ思い悩んだ末、ポールは決断した。病院に入院せず、このまま店で働きながら薬餌療法する。 しかしポールは日に日に弱っていって、店で働くどころではなくなった。痛みをこらえてけなげに働くポールを、澄夫は強引に家で休ませた。 澄夫は心配を押し殺して、冗談交じりに言う。 「ポール、俺より先に死ぬんじゃないぞ」 「お父ちゃん、そんな無茶な。あたしはお父ちゃんより3つ年上でっせ」 「それでも駄目だ。俺が許すと言うまで、逝ったらいかん」 澄夫の無理な言い分に、ポールは弱弱しく微笑んで反論しない。 そのこと自体が不憫に思えて、澄夫は胸が絞めつけられる思いがした。 とうとうポールが寝たきりになったとき、澄夫は思い切って店を畳んだ。ポールの看病に専念しようと思ったのだ。 ポールは目を覚まして、窓の外で色づいたケヤキの葉が散るのを見ながら、ふっとささやいた。 「ああ――もう秋も終わりやなあ」 沈む気持ちを奮い立たせようと、澄夫は訊いた。 「ポール、今一番やりたいことは何だ?」 「――ママと暮らしていた頃のパリの街を見たい」 ポールはポツリと言って、ふっと微笑んだ。「そんなの無理やけど」 澄夫はポールの望みをなんとかかなえてやりたい、と思った。小林会長に借りた金は、250万円ほど残っている。この金でフランスまで行ける。でも、借金の返済ができなくなる。 (ええい、なるようになれ。ポールをパリに連れて行くぞ) しかし、澄夫の思いは実行できなかった。 その日は、朝からポールの容態が悪かった。救急車を呼ぼうとしたとき、ポールが声を振り絞って止めた。 「あかん、お父ちゃん!」 「なに、ポール、どうした?」 ポールは必死に声を出そうとしていた。 「お父ちゃん、堪忍や――先に――逝ってしまう――」 「なにっ!しっかりしろっ!」 ポールの顔が、ふっと穏やかになった。そして、か細い声で言った。 「――お父ちゃん――ありがとう」 それがポールの最後の言葉になった。 澄夫にとって、その後の記憶は薄れている。内輪の葬式をして、遺灰は壺に入れてアパートに残した。 ポールの荷物を整理していると、封筒が出てきた。My daddyとある。言葉は話せるが文字が苦手だったポールは、英文で書いていた。 辞書を片手に、何とか書いていることを読み取った。 ――お父ちゃんがこれを読んでいる頃、あたしはもう、この世にいないんだね。死ぬのは怖くない。怖いのは、ボケてお父ちゃんが分からなくなること。お父ちゃん、ずいぶん迷惑かけたね。こんなあたしでも、捨てずに面倒見てくれた。 本当に、お父ちゃんにはいくら感謝しても、感謝しきれない。ありがとう。 ああ――懐かしいなあ。お父ちゃんの作ってくれた親子どんぶり。お父ちゃんの笑顔。お父ちゃん、あたしの分まで長生きしてね。 ポールより 読んでる端から、涙が出てきた。もっとポールを大切にしてやればよかった。 ポールと暮らしてきた、色んな事が思い出された。あまりいいことなかったけどそれでも幸せだった。でも、ポールはもういない。 澄夫は小林会長あてに、借りた金は全額返せない旨、詫び状を書いた。そして、250万円と腕時計を封筒に同封して、サロン陶仙房の玄関わきの郵便受けに、そっと入れた。 ――*―― どす黒い空の下、風があって、足元の揺れを感じた。眼下には青い海があった。波が立って白い飛沫をあげている。 澄夫は、伊豆の城ヶ崎海岸の吊り橋の上にいた。天候が良くないので、観光客はまばらだった。 手すりにしがみつくようにして、小脇に抱えた壺のふたを開けた。ポールの遺灰だった。(海に流せば、パリに繋がる) 遺灰がまたたく間に飛び散っていく。 (ポール、俺もすぐそこに行くからな) 壺を下に置くと、手すりを掴み、足を縁にかけて身を乗り出そうとした。 そのとき、誰かの手が澄夫の肩をつかんだ。 振り返ると、小林会長と店のマスターがいた。 会長が静かに言った。 「お前がポールのもとに行くのは、まだ早い。あいつは、そんなこと望んじゃいない。ポールの分まで生きろ」 そして付け加えた。「東京に戻ったら、サロン陶仙房の手伝いをしてくれ」 澄夫は抑えていた感情を解き放ち、堰が切れたように泣き続けた。 |
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22/03/11 08:08 神亀
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