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(7)棟梁の愛 |
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「蓼食う虫も好き好き」と言うように、人の好みは千差万別である。だから男と男の愛、それも熟年男性同士の愛もありだと思う。
さてここに、同棲生活を続ける二人の熟年男性がいる。 家主の矢都木芳郎は70歳、画壇では知名度の高い洋画家である。 色白やや面長の顔に切れ長の目――そのみやびた顔立ちは、遠く先祖をたどれば京の公家ではないかと思わせる。食糧事情の悪い、戦中生まれにしては珍しく、欧米人のようにスマートで堂々たる肉体をしている。 撫肩、胸囲が小さい割に腰回りと尻が大きい、下重心の体型なので、なんとなく親しみの湧くまったりした雰囲気がある。 いっぽう寺井裕二は55歳、地元の市役所に勤める公務員である。 男にしては小づくりで、あまり見栄えがしない。二重瞼の可愛らしい目と几帳面そうな顔立ちだが、些事にこだわらない飄々とした性格をしている。 二人が出会ったのは上野のホモバーである。共に歳を食って独身であることからすぐ身体を許す親密な関係になった。 惚れ込んだのは大きい身体をした芳郎の方だった。裕二を家に囲い込んで、それこそ大事な宝物のように扱っている。 通常、男同士の性愛関係は、タチとウケに分かれるが、誰が見てもタチは身体の大きな芳郎と思うだろう。ところが事実はその逆、裕二のほうがタチである。 チビの太マラとはよく言ったもので、裕二は思わず見とれるような巨根の持ち主だったのだ。 今夜も二人は芳郎の寝室で、久しぶりの艶めいた行為を始めようとしていた。 全裸になった老画家がベッドに寝そべって、誘うように尻を見せている。 老いたとはいえ、見応えのある裸体だった。沁みひとつない色白もち肌で、壮年の張りと艶を保っている。横幅のある尻は、後ろにも肉が付いているので、老人特有の薄っぺらさがなく、全体に豊満な丸みを帯びている。 その尻に続く無毛の足は、白くてすんなりと伸びて、異国人の血が混じっているのではないかと思わせる。 「さあ、おいで――」 芳郎の誘いに、裕二がベッドに上がりこんだ。 二人はお互いの身体に腕を回して、戯れるように口づけを繰り返した。 裕二の身体は小さいので、母親に甘える子供のようだった。しかし身体の一点、股座でふすぼける逸物だけは、立派な大人だった。平常時でも十分大きいので、怒張時のことを考えると空恐ろしくなるほどだ。 いつもサービスするのは裕二だった。裕二はたっぷり時間をかけて、画家の感じるところを探索して、老いた身体が潤ってくるのを待つ。 募る快感に堪え切れなくなって、老画家が腿をよじらせながら懇願する。 「ねえ、ユーちゃん、早く入れて――」 そこで裕二はおもむろに、白桃のような尻を割って挿入行為に移る。 硬く脹れあがった先端をあてがい、じんわりと力を加える。 すぼまっていた肉壺が広がっていく。まるで処女の蕾が愛する男のために、開花の兆しを見せるような感じだ。 頭が半ば埋もれたところで、ズググと奥まで押し込んだ。 「ひいーっ!」 脳天を突き抜ける痛みに、芳郎は喘いだ。 これまで何度交合しても、この痛みはいつもの通過点なのだ。 そして――その後に続く、えも言われぬ快感。安心と幸せと充実が、一遍にやって来たような悦び――。 芳郎はこの瞬間が好きだった。 体内で息づく肉根。その全長をぴっちりと押し包む腸壁を通じて、壮年男の生気が沁み込んでくる。 老画家が肉体に打ち込まれた男根の感触を楽しんでいると知ってるので、裕二はすぐには動かず、じっとしていた。 ときおりいきんで、嵌め込んだ性器をびくつかせる。 画家が敏感に反応する。 「ああっ――動いてる」 おもむろに裕二は抽送運動を開始した。 最初はゆるやかに、全長を使って大きく――。 それだけで芳郎は、気が飛んでいきそうな快感を覚えた。我知らず、善がり声が口をついて出てくる。 動きがじょじょに速くなる。押して、引いて、捩じって――。 体位も変化させる。後ろから、前から、横から――。 二人の性行為は、いつも長時間に及んだ。先を急がず、じっくりと性感覚を味わい、疲れてくれば小休止して、そしてまた交わる。 それはひと月に1度か2度行われる、濃厚な愛の交歓だった。 二人の住む家は老朽化して、あちこち不具合が出てきた。そこで思い切って家を建て替えることにした。 裕二の幼馴染で、矢内源造という設計事務所をやっている人間がいた。お互いに「ユウ」「ゲン」と呼び合う気安さもあり、家の設計を頼んだ。 20畳大のリビングに2つの寝室、予備の寝室、画家の使う12畳大のアトリエと書斎――二人住まいなのに50坪ほどの規模になった。 施工会社は矢内の推薦する工務店に決まり、いよいよ新築工事が始まった。 矢内の指名により、工務店からやってきた大工の棟梁は、大谷憲三という67歳の男だった。中肉中背、がっしりした固太りの体型をして、無口な頑固者だが、腕のほうは確かだという。 棟梁が引き連れてきたのは、ベテラン大工の宮原靖彦と、棟梁の孫にあたる若い大工、大谷建一だった。 宮原は72歳と高齢だが、皆からヤス爺と呼ばれて親しまれ、肉体的にも豆狸のようなほっこりとした愛らしい体型をしている。 建一は背のヒョロッと高い20歳の青年で、サラリーマンの父親より大工をしている祖父の跡を選んだようだ。 基礎工事、それに続く棟上げが終わり、それまで手伝っていた大工たちが引き上げて、あとは棟梁たち3人の大工仕事となった。 その頃には、庭の一角に簡易の小型プレハブ小屋が立てられ、大工たちの休憩やときおり来る設計者矢内の現場管理に使われた。 近くの賃貸アパートを仮住まいとする、芳郎や裕二もよく現場にやって来た。 とくに芳郎などは毎日のように来て、現場風景のスケッチをしていた。 たまたまやって来た裕二が、プレハブ小屋で芳郎と話をしているとき、庭の隅で立小便をする若い大工の姿を目にした。簡易トイレなので、性器を持つ手元まで丸見えである。それを眺めながら、裕二がのんびりと言った。 「先生、あの光景を見るために、毎日ここに来てるんでしょう」 芳郎は否定しなかった。 「ああ、いい目の保養になる。しかしこの頃の若いのは、大きいだけで造形的には魅力が無い。皮かぶりで寸胴だからな。その点、棟梁の太いモノは見応えがある。ズル剥けカリ高で、いかにも力感がある――」 そこで裕二の顔を見て「でも、ユーちゃんのチ〇ポにはかなわない。やっぱり、ユーちゃんが一番だよ」 口数の少ない棟梁に比べ、老大工のヤス爺は気楽な性格だけに、施主の芳郎ともよく会話した。 「わたしは気が弱いくせに、頑固者なんです。いったん腹を決めたら、意地でも譲らない。それでいて、脅されたら一目散に逃げる。こうやって72年間、生きてきました」 こういう肩の力が抜けた老人は、なんだかホッとさせられる。芳郎はヤス爺が気に入って、小柄で丸っこい姿のスケッチを何枚も描いた。 あるときプレハブ小屋で、設計者の矢内源造と芳郎・裕二の施主側で設計変更の打ち合わせをやっていた。そのわきでは大工たちが、裕二の差し入れた昼の弁当を、折り畳み椅子に腰かけて食べている。 打合せが終わったとき、矢内は持ってきた酒の一升瓶をテーブルの上に置いた。 「この前、信州に行ってきました。そのとき手に入れた地元の銘酒です。先生に進呈します。どうぞお家で召し上がって下さい」 それを聞いて、弁当を食べていたヤス爺が、顔を上げて目を輝かせた。彼は無類の酒好きなのだ。芳郎がそれに気づいた。 先に食べ終わった棟梁が小屋を出たとき、芳郎は声をかけた。 「ヤス爺、ちょっと利き酒するかい?」 ヤス爺が大きくうなずいた。その横では、建一が何か言いたそうな顔をしたが、黙っていた。 芳郎は、グラスのコップになみなみと酒を注ぐと、ヤス爺に渡した。 ヤス爺はいかにも旨そうに飲んだ。あっという間にグラスが空になった。 「こんな上等の酒を飲んだのは初めてです。ご馳走さまでした」 大工二人が出て行ったあと、しばらくして、外で怒声が聞こえた。 「馬鹿野郎!仕事中に酒を飲むやつがおるかっ!」 3人が窓から外を見ると、棟梁のごつい手がヤス爺の頬に飛んでいた。 バチンッ! ヤス爺の身体が、文字通り吹っ飛んだ。 棟梁は容赦しなかった。地面に倒れたヤス爺に向かって、なおも言う。 「てめえ、今日はもう帰れ!」 見ている芳郎はつぶやいた。 「私が勧めたのが悪いんだ――」 芳郎が外に出て行こうとすると、矢内が引き留めた。 「いま行けば火に油を注ぐようなものです。しばらく様子を見ましょう」 ヤス爺がすごすごと帰ったあと、それまで呆気に取られていた建一が、呪縛が解けたように、棟梁に意見した。 「爺ちゃん、叩くことないだろ。ヤス爺がかわいそうだ」 「てめえは口出しするなっ」 棟梁の興奮はまだ納まらないのか、声が震えている。それでも、孫のほうも負けていない。なおも食い下がって意見した。 「口出しせずにおれないよ。ヤス爺は、ほんのちょっぴり飲んだだけだ」 「なにおっ!」 棟梁は思わず右手を上げて、そこで思い直したように手を下げた。「それで大怪我することもあるんだ――」 「えっ、爺ちゃん、何かあったの?」 「――昔、酒を飲んだヤスは2階の梁から落ちた。折れたあばら骨が直るのに、一年かかった――」 「――」 建一はしばらく考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。 「さっき爺ちゃんがヤス爺を叩いたの、愛情からだったんだ。あのままヤス爺が仕事をしていたら、万一ってこともあるからね」 「――そうかい」 「相手の身を思い、心を鬼にしてぶっ叩く。爺ちゃん、人遣いが上手だな」 冷静さを取り戻した棟梁は、諭すような口調で孫に言う。 「上手と言うより、ヤス爺を思う本心からだ。67歳になっても、俺くらい心が清らかなのは、珍しいくらいだぜ」 「それは――気付きませんでした」 孫の懐疑的な反応に、棟梁は畳み掛けた。 「普通はすぐに気付くもんだぞ」 建一は少し考えて、言葉少なに「はい」と言った。 それを棟梁は、「張っ倒すぞ」と言わんばかりの顔つきで、睨みつけている。 「なんか、悪いことをしちまったな。私が余計なことを言ったばかりに。棟梁とヤス爺の仲が悪くならなければいいが――」 芳郎がぼやいたが、矢内は全く気にしていない。 「それは全然心配ありません。あの二人、今夜は久しぶりにヤッていますよ」 裕二がそれを聞き咎めた。 「ゲン、ヤッてるって何のことだ?」 矢内は、幼馴染のユウと画家の先生が、男色関係にあるのを知っていた。だから正直に答えた。 「棟梁とヤス爺は昔からいい仲なんだ。棟梁は人前でヤス爺に辛く当たっているようだけど、本音はヤス爺を深く愛しているんだよ」 そこで矢内は悪戯っぽく笑った。「だから、厳しく叱った今夜は、優しくヤス爺を可愛がると思うよ」 その夜、矢内が予測した通り、棟梁はヤス爺を抱いていた。 長年カンナ掛けして、木肌の微妙な凹凸も感知する名工の手だ。ヤス爺の柔肌を愛撫する手は、ちょっとした身体の窪みにひそむ性感帯を見逃さず、デリケートな刺激を与え続ける。 ヤス爺はうっとりとして、ときに身悶えして、棟梁の手の動きに反応する。 まるで演奏者によって、さまざまな曲を奏でる楽器のように。 やがて――熟練の指先が、老いてゆるんだ菊座に集中する。圧し、揉みほぐし、ヌプッヌプッとノックしていたかと思うと、不意にズヌーッと侵入する。 「ひっ!ひいいっ!」 ヤス爺が顎をのけ反らせて、甘い悲鳴をあげる。 二人はぴっちりと身体を合わせた。 深く挿入されると肉筒の奥に、ヤス爺を狂わせる核がある。そこを刺激されるとたまらず意識が飛んでしまう。 ヤス爺はなるべくそこまでの侵入を許さないよう、身体を歪めるが、カリの張り出した先端が、どうしても当たる。 ズーンと衝撃的な快感が、頭の芯まで駆け抜ける。本人の意思に関係なく、肉襞が蠕動を活発にしながら侵入物を絞り上げる。 棟梁は余裕をもって、太い腰を使いだした。 気の遠くなるような快感が、一突きごとに増幅され、目もくらむような高みへと追い上げられる。 「もう――死ぬうっ!」 ヤス爺は悲鳴をあげた。 ![]() 人生の晩秋に入ってなお煩悩を捨てきれない、67歳と72歳――。夜のとばりに包まれた密室で、老いた大工の身体が絡みあい、うねりあった。 その熱気をよそに、濃い群青色の夜空では、無数の星が瞬いていた。 |
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21/08/23 07:39 神亀
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