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(3)父の秘密

ぼくは銀行に勤めるサラリーマン一家の一人っ子で育った。幼少期のぼくは異質の可愛らしさだったらしい。
父は小柄で、母よりも背が低かった。優しい反面、几帳面で心配性の性格だ。
生前の母はおおらかな性格をしていたので、ぼくの養育について、両親の考えはずいぶん違っていたようだ。
父はぼくの可愛らしさが心配で、変質者がぼくに目を付けることを恐れて、あまり外に出さないようにしようとした。
逆に母は、ぼくに社会性がつくよう、できるだけ多くの人たちに会わせようとした。母のお陰で、ぼくはあまり人見知りしないで、集団生活にも馴染むことができた。
その母は、ぼくが12歳のとき病死した。
以来、ぼくは、父一人子一人の生活を送ってきた。

ぼくは父親似で身体が小さく、クラスではいつも一番前の席だった。お陰でよそ見できず、先生の話も真面目に聞いたので、学業成績は良かった。ほかには絵を描くことが得意だった。
母の実家は江戸時代よりつづく金沢漆器の工芸で、金沢の町に店と工房を営んでいる。金沢漆器には高度の蒔絵技術があって、ぼくが絵を得意とするのも、母の実家の血が流れているからかも知れない。

ぼくは小柄だったので、大きい人にあこがれを抱いていた。そんな気持ちが成長と共に変化して、大人の男性に特別の思いを持つようになった。
もちろん父も大好きだったが、ほかの男の人に抱く気持ちとは違っていた。
母が死んで、父はぼくの精神状態を心配していた。そんな父の気持ちがよく分かったので、ぼくは努めて明るく振舞った。
仕事と家事の両方をこなす父の負担を少しでも減らそうと、ぼくは掃除、洗濯、そして料理までもするようになっていた。

母の兄にあたる人で、澤木幸太郎という伯父さんがいた。
伯父さんは金沢漆器の店をやっていて、ときどき仕事の関係で富山までやって来た。その夜は、必ずぼくの家に泊った。
伯父さんは遊び人だということで、親戚の間ではあまり評判が良くなかったが、ぼくはこの伯父さんが大好きだった。
家に来るときは、いつもぼくのために土産を持ってきてくれたし、「おお、大きくなったなあ」などと言ってぼくを抱き上げてくれる。そんな包容力のある大きな身体が好きだった。

ぼくが高校3年生になったばかりの頃だった。ぼくは来年の大学受験に備えて、毎晩遅くまで勉強していた。
その日、幸太郎伯父さんが家に来て、父とお酒を飲んでいたが、ぼくが受験勉強するのに気を遣って、早々と2階のあてがわれた部屋に引きあげていた。

深夜、勉強を終えて寝る前にトイレに行った。伯父さんの寝室の前は、音を立てないように注意して歩いた。室内の明かりは消えていたので、すでに寝ていると思ったのだ。
トイレから出たあと、水を飲もうと1階に降りて、台所に向かった。
そのとき、人の声を聞いたような気がした。
リビングの方を窺うと、父が寝室に使っている、和室の戸襖の隙間から、光が洩れていた。
(あれっ、お父さん、まだ起きてるの?)
不審に思っていると、また声が聞こえた。
今度はそれが、伯父さんの声だとはっきり分かった。それに喘ぎ声のような息遣いが重なった。

ぼくは俄かに緊張した。こんな夜遅く、伯父さんが父さんの寝室にいる。それに声の調子から、なにか異様な空気を感じた。
ここに居てはいけないという思い、何をしているのか知りたいという思い、両方がぼくの中で葛藤した。
結局、好奇心のほうが強かった。
ぼくは慎重にリビングを横切り、戸襖の隙間から覗き見た。

薄明りの中、ベッドの上で絡み合う裸体が目に入った。なんと、父と伯父さんが抱き合って、しきりに口を吸い合っていた。
信じられなかった。大人が、それも男同士が、愛の行為をしているのだ。
ぼくは男女の性愛に疎かったが、それでもこの頃は、男と女がどうやって愛し合うのかくらいの知識はあった。
それを今、父と伯父さんがやっているのだ。



膝が震え、心臓がドキドキしてきた。ぼくは立っておれず、床にしゃがみこんだ。それでも室内の様子から目を逸らせなかった。
ぼくの見守る前で、信じられない行為が繰り広げられた。
二人はお互いの性器を口に含み、ついで伯父さんが父の尻を開いて、狭間を舌で舐めたり指を入れたりしだした。
父がうつ伏せになって、尻を浮かした。伯父さんが覆いかぶさる前、股間から突き出たチ〇ポが見えた。
太い――太かった!こんなのが入るのだろうか?
二人の身体が密着したとき、父が声をあげた。苦痛ではなく、悦びを伝える声だった。顎をのけ反らせたその顔は、うっとりとした表情だった。
こんな父の顔は初めて見た。
大好きな父と大好きな伯父さん――。ぼくは異常な興奮の中で、二人に嫉妬していた。その時のぼくは、まさか将来において、ぼくも同じようなことをするとは思ってもいなかった。

大学に進学して、学生寮で同室になる先輩に会ったとき、ぼくは運命の出会いを感じた。
名前は榊原鉄平、ぼくより2つ年上だった。やや太めの体型、精悍でありながら大らかな顔立ちをしている。物事に動じないような態度から、頼りがいのある包容力の大きさを感じた。
富山から付き添ってきた父も、先輩が気に入ったようで、別れ際に言った。
「いい先輩と同室になって良かったな。じゃあ、身体に気をつけて」

榊原先輩との共同生活は、毎日が夢を見ているようだった。ぼくは一人っ子で兄が欲しかったが、その夢が一挙にかなったのだ。
そしてぼくは、先輩に恋をした。と同時に、これまで何度か覗き見た、父と伯父の秘密の情景が重なった。
ぼくは新妻になったつもりで先輩に尽くした。部屋の掃除をしたり、先輩の下着や衣類を洗濯したりした。それこそ先輩が求めれば、肉体関係を含めて、何でもする積りでいた。

大学に入って、最初の夏休みがやってきた。ぼくは寮に残って、先輩と一緒に過ごしたかった。
しかし先輩は、バックパックを背負って、海外旅行に出かけた。アメリカからカナダにかけて、ヒッチハイクで旅をするという。
仕方なくぼくは、幸太郎伯父さんが経営する金沢漆器の工房で、アルバイトをすることにした。絵を描くことが好きなぼくは、蒔絵の絵柄作りで、伯父さんが驚くほどの才能を発揮していたのだ。

その後の先輩との共同生活は幸せだったが、物足らなさもあった。もっと親密な関係――それが何を意味するのか十分知ったうえで、ぼくは渇望していた。

12月に入って、ぼくの密かな想いがかなった。
その夜、先輩は部活のコンパでアルコールが入っていた。寮室に戻った先輩は、着替えの途中でぼくの視線に気づいた。そしてなんと、全裸になってベッドに潜り込んできたのだ。
もう天地がひっくり返ったような興奮だった。ぼくは先輩の大きな身体に抱きすくめられ、生娘のように震えていた。
先輩はこういった行為が初めてのようだったが、ぼくには父と伯父の行為を覗き見た知識があった。
先輩の性器は、チ〇ポもタマタマも、ぼくの倍ほどの大きさがあったが、ぼくは舌と指を使って献身的に尽くした。

その夜を境に、先輩は毎晩のようにぼくを愛してくれた。ぼくは完全に結ばれることを渇望したが、先輩の性器は大きすぎた。
それでもひと月ほど経った頃、極限まで押し開かれた瞬間、ズルリとぼくの中に入り込んできた。
感激の一瞬だった。
痛さなどは吹っ飛んでいた。ただ先輩の大きな分身を体内に納めて、興奮と悦びに酔いしれていた。
ぼくはこのときの感動を、生涯忘れないだろう。

先輩は、ぼくたちの関係を冷静に見ていた、そして正直に話した。
「俺はもともとフケ専だ。だから、お前とこんな関係になるとは、思ってもいなかった。それだけお前は気立てが良くて、可愛らしいということだ――」
「でも、あと1年ちょっとすれば、俺は社会人になって、この部屋を出て行く。その後は、お前と会えるかどうか約束はできん。いい女と出会えば、結婚するかも知れん――」
「お前が俺の言ってることを理解したうえで、なお愛されたいと言うのなら、俺は卒業するまで、全身全霊をもってお前を可愛がってやる」
言ったあと先輩は、茶目っぽく笑った。「全身全霊だなんて、ちょっとオーバーだったな」

先輩の言葉で、ぼくは少し冷静になれた。そして割り切って考えることにした。
先のことを考えるのはやめよう。今ある先輩との生活を、精いっぱい楽しもう。
ぼくは毎晩、体内に嵌められて脈動する先輩の息吹を味わいながら、刹那の幸せに浸っていた。

大学2年の夏休み、ぼくは昨年と同様、金沢の伯父さんの工房で、アルバイトをしていた。いっぽう先輩は、これまで3年越しで海外に出かけていたが、最後の夏は日本の山歩きをすると言って出かけていた。
ある日、ぼくは伯父さんに相談を受けた。
今度、アメリカの美術商と販売提携の契約をするのだが、先方の用意した契約書をチェックしてくれと言うのだ。当然のことに、契約書は英語で書かれていた。それも10ページほど、ぎっしりと文字を連ねている。
ぼくは即座に、榊原先輩の顔を思い浮かべた。先輩がゼミの研究で、欧米諸国との商取引をテーマにしている、と聞いていたからだ。
さっそく先輩に電話した。
先輩は上高地にいた。内容を伝えると、契約文をメールで送れるかと言う。伯父の了承を得て、さっそくメールした。

驚いたことに、1時間ほどあとで先輩から電話があった。
「先方に支払うリベートがちょっと高いな。ほかに2、3点、修正したほうがいい項目もある。契約日はいつだ?」
「今週金曜日と聞いています」
「3日後か。よし、これからバスに乗って金沢に向かう。着いたら電話するから、迎えに来てくれ」
「ええっ、先輩!手助けしてくれるんですか?」
「ああ、可愛い後輩のためだ。報酬はお前の身体で払ってくれ」

その日の夕方、先輩は金沢の店にやってきた。さっそく顧問弁護士を交えて、打合せが始まった。
先輩はこちらに来る道中で、ゼミの教授に連絡を取り、今回の契約について参考意見を聞いていた。そして伯父と弁護士に向かって、リベートほかの条件について、修正すべき点を説明した。
ぼくは傍で聞いていて、改めて先輩に惚れ直した。
即決即断で、伯父たちをグイグイ引っ張っていく。しかも英文10ページの契約書を、一言一句逃さずチェックする緻密さも見せた。

契約当日、ぼくの父がやってきた。
「あれっ、父さん。金沢に来たの」
「ああ、今度の取引でうちの銀行を使ってくれると言うんでね。今日は立会人として来た」
先輩が横から父に挨拶した。
「お父さん、先だっては大変お世話になりました」
「ああ、鉄平くん。今度はこちらがお世話になってるようだね」
お父さん?鉄平くん?いかにも親密そうな呼び方だ。ぼくはポケッとして二人を見ていたが、気を取り直して父に訊いた。
「父さん、先輩といつ会ったの?」
父は多少気まずそうに答えた。
「ああ、先週、鉄平くんが富山に来たんだ。生憎、お前は不在だったが――」
(当たり前だろ、ぼくは金沢でバイトしてるんだ。それにしても、ひとこと知らせてくれてもいいじゃないか)
ぼくはあえて質問した。
「先輩を家に泊めてあげたの?」
「そ、それはそうさ。せっかく富山まで訪ねてきたんだから」
父の声は、うろたえ気味だった。その夜何があったのか――憶測はできたが、ぼくは追求しないことにした。

先輩は叔父に頼まれて、ぼくの父や弁護士に同行して出かけた。
その日の契約は無事終了し、修正事項も折り込まれた。父や伯父は、すっかり先輩に信頼を寄せているようだ。
「いやあ、鉄平くんは大したもんだ。外人さん相手に、一歩も引けを取らず、堂々と渡り合ったんだから」
「そう。相手は国際取引慣れした、海千山千の外人さんですからね。鉄平くんがいなければ、われわれ田舎者は完全に丸め込まれていましたよ」
父や伯父は口々に先輩を褒めた。
二人が先輩を見る眼つきには、信頼というより個人的な思惑が感じられた。
まるで年配者たちと先輩の間を、生温かい空気が包み込んでいるようだった。
(このままでは先輩を取られてしまう――)

そのとき、ぼくの気持ちを汲み取ったように、先輩が言った。
「じゃあ、私はお役御免ですね。これから良一くんに、金沢の町を案内してもらいます」
ぼくは涙が出るほど嬉しかった。
言ったあと先輩は、サワッとぼくの尻を撫でた。
思わず声が出そうになるのを、ぼくはぐっと我慢した。

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21/08/15 10:04 神亀

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