私はときどきひとり旅をする。会社や家族のことを忘れ、日本各地の風物をカメラに収める。そして地元の人々と交流する。
実はその裏に、密かな期待感もあった。私と同じ趣味、つまり男好きの年配者と遭遇して交流することを夢見ていた。これまでのところ、その夢は実現したことは無かったが。
ある夏の日、私は週末を利用して、長野で農業をやっている義父を訪ねた。
北陸新幹線に乗って上田駅の改札を出ると、義父が待っていた。
小麦色に日焼けした顔が、私を見て人懐っこく白い歯を見せる。白の半そでシャツにベージュの作業ズボン――中肉中背の身体は、農作業を続けることによって、健康的に締まっている。義父はたしか67歳になるはずだ。
「お父さん、ご無沙汰しています」
私が声を掛けると、義父は眩しそうに私を見て、素朴な笑みを浮かべる。
「俊雄さん、久しぶりやね。家族は元気か?」
「ええ、皆変わりありません」
義父は私のことを、さん付けで呼ぶ。娘婿の私に遠慮があるようだ。義父にさん付けで呼ばれると、むずがゆい気分がする。かと言って訂正するのも面倒なので、そのままにしている。
挨拶もそこそこに、義父が駅前広場に駐車している軽トラックに乗る。
義父の家は、広い畑の一角にある。家の敷地も広く、瓦葺き屋根の母屋のほかに、作物や農機具を収める納屋がある。庭の片隅には鶏小屋もある。
番犬として飼っている柴犬が、人懐っこく吠えて私たちを出迎える。家の主人と一緒にいるので、私に対しては攻撃的に吠えない。
田舎ののんびりとした風情は、都会生活に疲れた私を生き返らせる。ゆったりとした時の流れを感じながら、私は義父の後に付いて家に入った。
義父はひとりで生活していた。それにしては、農家の大きな家をひとりで守るのは、大変だと思う。家に入るとまず土間があって、囲炉裏の切られた茶の間があり、その奥に広縁でつながった続き間の座敷がある。裏側には台所や浴室、便所、そして寝室に使っている洋間がある。
驚いたことに、どの部屋もきれいに清掃が行き届いている。義父はよほど几帳面なのか、あるいは私が来るというので特別に片づけたのか。
昼はもりそばが出た。義父が昨夜打ったものだと言う。色の黒い素朴な味で、私はお替りして二杯食べた。それを義父は、うれしそうに目を細めて見ている。
義父は腹ごなしに、今夜のおかずにする野菜を収穫すると言うので、私も手伝うことにした。家のすぐそばにある菜園で、トマト、キュウリ、ナス、チンゲンサイ、などを取り入れた。
作業の終わったあと、義父は私に訊いた。
「俊雄さん、せっかく上田に来たんだから、どこか行きたい所はあるかね?」
上田城には何度か行ったことがあるので、別所温泉の方面に行きたかった。
あちらには、北向観音や安楽寺の八角三重塔など古い建造物がある。それを義父に伝えると、うれしそうに頷いた。
「そちらに行くんなら、ついでに露天風呂に浸かりますか。わしがよく行く日帰り温泉があるんで」
義父の運転する軽トラックの助手席に乗って、まずは北向観音に行った。
ここは天台宗の古いお寺である。普通、お寺は東か南に向かって建てられるものだが、ここではお堂も観音像も北向きである。
ついで北の安楽寺に向かった。山門近くの駐車場で車をとめて、まずは本堂に行った。曹洞宗のお寺で、長野県で最も古い寺と言われている。
そのあと左の階段から、最上部に位置する八角三重塔を目指して歩いた。先を歩く義父は、さすが農作業をやっているだけあって、すこぶる健脚だ。義父に付いていくだけで息切れがしたが、目の前でムクムクと動くお尻を見るのが楽しみだった。
ようやくたどり着いた八角三重塔は、8本の母屋柱がある珍しい建築様式で、国内で現存するのはここだけである。
私は古い建造物が好きで、二つのお寺をまわるだけで2時間近くかけた。その間、義父は辛抱強く、私に付き合ってくれた。
夕方、義父は公共温泉施設に車を回した。ここはリニューアルしたばかりで新しかった。
入湯料500円だが、義父は回数券を持っていて、それで二人分払った。それに手回しよく、タオルは自前のものを2枚持ってきていた。
安楽寺の坂道で、義父の健康的な後ろ姿を見てきた私は、これからその裸を直に見られると思うと、期待に胸膨らませた。
脱衣室で裸になったとき、義父の色の白さに驚いた。普段露出している顔や腕は小麦色に日焼けしているのに、服の下に覆われた部分は、抜けるように色が白い。それに皮がめくれてカリの張った、形の良い性器――。想像以上のそそられる裸体に、私の下腹部がざわめきだした。
内湯に入らず、真っ直ぐ露天風呂に行った。脇に陶器の壺湯が二つあって、ひとりの老人がのんびりと浸かっていた。
石張りの露天風呂は解放感があった。垣根越しに、上田の市街地が眺望できた。
浴槽には、2,3人の年配の先客がいた。中の一人が、よう、と言うように義父に向かって手をあげた。義父もそれに応える。
義父の後に付いて、老人たちのくつろぐ湯に入った。ここの湯は、弱アルカリの硫黄温泉で、かすかに硫黄臭がする。
浴槽に浸かっていると、頭の薄くなった老人が義父に声をかけた。
「タッちゃん、今日は男前のあんちゃんと一緒か」
40男をつかまえて、あんちゃん、はないだろうが、老人から見ればそうなのだろう。
義父が生真面目に答えた。
「ああ、娘の旦那さんだ。東京から来らっしゃった」
「へーえ、てっきりタッちゃんのこれかと思った」
老人は悪戯っぽい顔で、親指を上に立てた。
「また馬鹿なことを――」
言いながらも、義父はちょっと慌てていた。
もう一人の老人が会話に加わった。こちらは白髪である。
「今夜はタッちゃんの家に泊まりか。メシはどうする?」
「豚しゃぶ鍋にしようと思っている」
義父が答えると、老人はすかさず言った。
「コンパニオンは呼ぶんか?」
「そんなもんは呼ばん」と義父。
「せっかく東京から婿さんが来たのに、そっちのサービスは無いのか」
白髪の老人が言い、それに頭の薄い老人が横やりを入れた。
「わしがコンパニオンの代わりに行こうか?あんちゃんさえよければ、わしの尻を貸してもいいぞ」
「それは無理だ。エーちゃんの尻穴はちっこ過ぎる。このあんちゃんのでっかいヘノコじゃ、壊れちゃうぞ」と白髪の老人。
そこで義父がきっぱりと言った。
「二人ともいい加減にしてくれ!」
それから私のほうを見て「俊雄さん、すまんのう。礼儀知らずの年寄りどもで」
私はなんとも反応し難かった。老人たちは土地の人らしく、素朴で、人懐っこい。農作業をしているらしく、彼らには老人らしい脆弱さが見られず、いかにも健康的な身体つきをしている。それに冗談とも本気とも受け止めかねる、男色まがいの会話――。
私はただ愛想笑いを浮かべて、彼らの会話を聞いていた。
家に戻ると義父は豚しゃぶ鍋を料理してくれた。季節違いの料理と思えたが、大きな農家で食べるとしっくりくる。囲炉裏に炭火を入れて、その上に鍋をかけ、タレは味噌とポン酢の好みで食べる。
飲み物は長野のそば焼酎を出してくれた。湯割りにして飲むと、ほのかな甘い香りがあって、柔らかな味わいがある。
アルコールが入ると、義父は私に対する遠慮が消えたのか、自分から話をするようになった。
「本当は息子が欲しかった」
義父はぽつりと言った。
「でも今は、私がお父さんの息子です。私は息子としてどうですか?」
私が言うと、義父は目も口元もほころばせてこちらを見た。
「ああ、俊雄さんは息子として申し分ない。わしにはもったいないくらいだ」
私が露天風呂で会った老人たちのことに話題を向けると、義父は面映ゆい表情を見せて、とつとつとした口調で話しだした。
あの老人たちは、女房を先に亡くしている。同じ境遇から、とくに仲が良い友達同士だ。農作業で助け合ったり、お互いの家で酒盛りしたり、露天風呂に入りに行ったり――。
アルコールが進むにつれ、義父は素の自分に戻り、少し感情を露わにしだした。
義父は、私が好きだと言う。それも初めて会ったときから――。
「私もお父さんが好きです」
義父は嬉しそうにしたが、私がお愛想で言ったと思っているようだ。
「嬉しかった――俊雄がこんな田舎まで来てくれて」
義父は本音で語りだした。他人行儀をやめて、私の名前を呼び捨てにした。私はそれが嬉しかった。
「もっと早くに来るべきでした。お父さんをひとりぼっちにして――こんな大きな家にひとりで、さぞかし心細いでしょう?」
私の言葉に、義父は黙り込んだ。素朴で生真面目そうな顔がゆがんだと思ったら、その目から唐突に涙が滲み出た。義父はつぶやいた。
「寂しい――けど、我慢するしかない」
私は一瞬、エッと思った。そこで義父の孤独を感じた。妻に先立たれ、一人娘や孫たちも東京の私の元にいる。義父の孤独がどんなものかと思うと、胸が痛んだ。
私は義父の肩に手を回し、そっと抱き寄せた。義父はかすかに震えていた。
黙って背中や腰を擦ってやった。手に感じる義父の肉体の温もりに、下腹部がざわめきだした。
そのとき、義父がつぶやくように言った。
「せっかく上田に来たのに、俊雄には何もしてやれん」
そして付け加えた。「やりたければ、わしの尻を使ってくれ」
聞き間違えたかと思ったが、露天風呂で老人たちが言ったことを思いだした。
(婿さんが来たのに、そっちのサービスは無いのか)
(わしの尻を貸してもいいぞ)
義父は私のズボンの膨らみに気づいて、私が春情を催しているのを知ったのだ。
それで、自分の身体を差し出すつもりでいるのだろう。
でも義父は、男色行為の何たるかを知っているのだろうか?私はその疑問を口にせず、当面のことを言った。
「お父さん、そろそろ片づけますか」
その夜、私は義父の床で同衾した。
私は本能の赴くまま、義父の身体を愛撫した。浴衣を開き、下着を引き上げて乳首を刺激する。乳首に吸い付きながら、片手を下に伸ばして褌の膨らみを揉みしだく。次いで褌を解き、逸物を口にした。きれいに皮が剥けて、形の良い亀頭だった。
その間、義父は自分から何もせず、私のするままに任せている。
しかし、私が菊座に指を忍ばせると、さすがに身を引きかけた。
私はかまわず、挿入の準備作業を続けた。オイルをつけて閉まった菊門を、じょじょに開いていく。
指を抽送させていると、楚々とした菊門が色づき、弛んできた。
「お父さん、入れますよ」
いよいよ挿入の段になって、私は一言声をかけた。
義父は両脚を抱え込んで、目をしっかりと閉じている。
私はあてがうと、思いを込めてグッと押し込んだ。
「うわっ!あああーっ!」
義父が思わず声をあげた。その苦悶の表情を見て、一瞬可愛そうに思ったが、欲望のほうが強かった。私は緩やかに腰を動かしだした。
「ああっ――ああっ――ああっ」
大きな農家の闇に、義父の喘ぎ声が細く長く流れだした。
