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ふるさと
わたしには、故郷の記憶がほとんどない。
離婚した母は5歳のわたしを連れて東京の実家に戻り、それ以来、別れた夫と会うことは一度もなかった。
何が原因で離婚したのか、母の口からは一言も聞き出せなかった。
わたしはほとんど記憶にない父に、淡い憧憬の念を抱いて育った。その想いが高じて、あまり人に知られたくない世界に入り込んだ。年配男性との禁断の愛の世界である。
一昨年、父の訃報が届いたとき、ようやく母は重い口を開いた。滋賀県は琵琶湖の畔、父はそこで生涯暮らして、村役場の職員を皮切りに、市会議員にまでなったと言う。
それ以来、父が生涯を過ごした故郷を見てみたいという思いが募った。父はどんな人物で、どんな生活をしていたのだろうか。
わたしは50歳になった節目に、父の故郷を訪れることにした。