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■ 海路の日和�T -  (2)
(2)

蓼科に来て以来、晴天続きだった天候が、1月4日に崩れた。空はどんよりと曇り、朝から小雪が降っていた。
桂樹はアンリとその日いっぱいスキーをやるつもりだったが、雪の降りが大きくなってきたので保養所に戻った。
ゲイルの姿が見えなかった。探していると、スキーから戻ってきた若者グループのひとりが、昼の2時ごろリフトの最上部で彼の姿を見かけたと言う。
すでに4時近くで、外は暗くなりかけていた。それに風が出て、吹雪になりそうだった。桂樹の胸中に、不安感が広がった。彼はその気持ちを努めて押さえて、明るい声でアンリに言った。
「スキーにきても世話のやける親父だよ。アンリ、ぼくはちょっとG・Gを捜してくる」
アンリが心配そうに言った。
「桂樹、わたしも行く」
「きみはここに残っていろ。G・Gがひょっこりと戻ってくるかも知れないから」

他の若者たちが集まってきた。
「高山さん、ぼくたちも手伝おうか」
桂樹は彼らを見てうなずいた。
「ああ、人数が多いほうが、見つけるのも早い。だけど捜索に行った者が遭難にあっては、しゃれにもならんからね。気をつけてください」
リフトの係員が、年配の外人がリフトに乗る姿を見かけたと言った。そこで桂樹らは、まずリフトに乗って、最上部から捜すことにした。
風が強くてリフトは動いていなかったが、係の人に事情を話して動かしてもらった。

最上部に行くと、横一列になってゆっくりと滑り降りながら、彼らはゲイルの名前を呼び続けた。風はますます強くなり、吹雪いてきた。コースの中腹を過ぎても、ゲイルは見つからなかった。
途中、山を回り込むカーブのところで、桂樹は立ち止まった。なにか声が聞こえたような気がしたのだ。
そこは溶けた雪が、アイスバーンになっていた。スロープの一端は、馬の背状に落ち込んでいて、下はブナの木立ちだった。
桂樹は木立をすかし見たが、雪にさえぎられてよく見えなかった。
他のメンバーが集まってきた。桂樹は彼らに言った。
「さっき声が聞こえたような気がしたんだ。気のせいかも知れないけど」
「ひょっとしたら、カーブを回り切れなくて、下に落っこちたかもしれないな」
「よし、降りてみよう」

一行はスロープの横の斜面を降りた。雪が深く、降りるのに苦労した。
桂樹は大声で呼びかけた。「G・G!」
そのとき、弱々しい声が聞こえてきた。
木立の間に、青い色が見えた。ゲイルのスキー服だった。
近づくと、ゲイルは半ば雪に埋もれていた。彼は寒さに震え、すっかり消耗しきっていたが、命に別状はなさそうだった。
雪の中から助け出していると、ゲイルが痛そうにうめき声をあげた。どうやら足首をくじいているようだ。
桂樹はゲイルをおぶって歩きだした。雪が深く、ゲイルはでっぷりと太っていたので、斜面を上がるのは一苦労だった。ゲレンデに出ると、ゲイルをおぶったまま慎重に滑りだした。若者のひとりが先に滑り下りて、救急車を呼びに行った。

スキー場の入り口に戻った頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。ヘッドライトを閃かせて車が到着し、ゲイルはそのまま病院に連れて行かれた。桂樹は車に同乗して、ゲイルに付き添った。
ゲイルは衰弱していたが、凍傷もなく、右の足首の捻挫もたいしたことはなかった。
医者の治療が終わった頃、アンリが病院に駆けつけてきた。桂樹は簡潔に状況を説明すると、ゲイルのいる病室に彼女を連れていった。

ゲイルはベッドの上で横になっていた。すっかり落ちついて、顔色も戻っていた。
アンリが心配そうに声をかけた。
「パパ、大丈夫?」
「ああ、もうすっかり良くなった。それにしても桂樹――」
ゲイルは桂樹の方を、恨めしげに見た。「もう少し早く、助けに来て欲しかったな。雪の中で2時間も埋もれていたんだぞ」
「パパ!」
アンリがたしなめた。「桂樹たちは必死になって、パパを捜してたのよ。それを、なんてことを言うの」
「いいんだ、アンリ」
桂樹が遮った。「それでG・G、なんであんな危険なことをしたんだ?」
「最後の日だから、ひとりでリフトの一番上から、滑り降りてみようとしたんだ。ところがアイスバーンで滑ってしまって、アッと言う間に雪の中だ。どうもがいても、雪から抜け出せなかった」
アンリが批難した。
「パパ、なんでそんな危ないことをしたの。パパは、そんなにスキーが得意じゃないでしょう」
「ああ、きみたちがいちゃついてばかりで、わたしに付き合ってくれなかったからな」
「――」
桂樹とアンリは顔を見合わせた。しばらくして、アンリが言った。
「ところで桂樹の休みは明日までだし、パパはどうするの?足をくじいてるんじゃ、当分動きようがないし――」
桂樹が冷たく言い放った。
「ここに置いていくほかないな」
「いやだ!一緒に帰る」
ゲイルが駄々をこねた。
桂樹は年配者を見ながら、諭すように言った。
「ぼくは仕事があるんだ。だから明日は東京に帰るけど、G・Gはここでしばらくゆっくりしてくれ」
ゲイルはあわてた。
「わたしも仕事がある。いいか、絶対に、一緒に帰るからな」
「ま、その話しは明日だ。今日はもう遅いから、ぼくたちは保養所に戻るよ」
「おい――」
ゲイルは不安そうな顔をした。「このまま戻ってこないんじゃないだろうな?明日も絶対、ここに来るんだぞ」
すかさず桂樹が言った。
「お願いします、は?」

「桂樹、ありがとう。あなたはパパの命の恩人よ」
「オーバーなことを言うなよ」
「だって本当のことだもの。あのままパパが雪の中に埋もれ続けていたらと思うと、ゾッとするわ」
「G・Gの雪だるまってのもいいな――ごめん、冗談だ」
桂樹は謝ると微笑んだ。「もうすんだことだよ。彼は助かったからいいじゃないか。忘れようよ」
桂樹とアンリは部屋に戻って、就寝前のひとときを過ごしていた。これまではゲイルがいて、賑やかにおしゃべりをしていたが、二人きりの今夜は、お互いを意識するほど静かだった。
二人はソファーの上で寄り添って、ものも言わずにお互いの温もりを感じていた。桂樹はアンリの肩に手を回し、そっと引き寄せながらキスをした。そのまま彼女の体を横抱きにして、自分の膝の上に乗せた。
彼女は抵抗しなかった。
桂樹はいつになく大胆になっていた。片腕で彼女の体を支え、もう一方の手で彼女の脚をやさしく愛撫していた。若い情熱が燃え上がって、二人は切なげに息を荒げ、お互いの唇を求めた。
「アンリ――きみが欲しい――」
桂樹がささやいた。アンリは何も言わなかったが、つのる興奮から、桂樹にしがみついてきた。
「アンリ――やろうよ――いい?」
桂樹のささやきに、アンリは黙っていた。それを同意の印と見て、桂樹は彼女の体を抱きかかえ、ベッドまで運んだ。

二人はその夜、初めて愛を交わした。
アンリは最初のうち、体を強張らせていたが、桂樹は先を急がず、じっくりと彼女の緊張を解きほぐしてやった。
二人はものも言わずに、お互いの肌の感触と温もりを求めた。やがて桂樹がアンリの体を開いたとき、彼女は恥ずかしそうに言った。
「桂樹――わたし初めてなの」
その声は震えていた。
「大丈夫だよ――そっとやるから」
桂樹は安心させるように優しくつぶやくと、彼女のふくらみに押し当てた。彼女はひるんで、腰を引いた。
「あ、まって――ああっ!」
桂樹は熱く滑らかな感触に包まれ、歓喜の吐息を洩らした。いっぽうアンリは、未知の侵入物に恐怖を覚え、もうやめてと訴えていた。
しかし桂樹は、途中でやめるつもりはなかった。彼は深く入り込むと、アンリの様子をうかがった。彼女は目を閉じ、顎をのけぞらせていた。半ば開いた口から、苦しげな喘ぎ声が洩れ出ている。
桂樹は彼女に口付けをして、ささやいた。
「アンリ、ぼくと結婚してくれ」
アンリが目を開いた。涙で濡れていた。
彼女はあえぐように言った。
「いいけど――こんなに苦しいものなの?」
「初めてだからね。慣れれば気持ちよくなるよ。ぼくを感じてごらん。そうら、気を楽にして」
桂樹はゆっくりと動き出し、アンリが苦しげにあえぎだした。そのうち彼女の内部が潤い、動きが滑らかになってきた。熱情が高まって、桂樹は腰をうねらせながら、うめくように言った。
「ああ、アンリ――愛してる――」
彼は最後の瞬間、深く突き入れ、ほとばしる熱い精液で、彼女の内部を満たした。

二人は抱き合って、興奮の余韻が治まるのを待っていた。彼女は桂樹の胸に頬をのせ、つぶやいた。
「大変!わたし、妊娠したかも知れない」
「いいじゃないか。結婚するんなら、子供は早いほうがいいよ」
「でも――G・Gはなんて言うかしら」
「きみの貞操を心配してたからね。でも、これは二人の問題だよ」
「ええ。きっとG・Gは喜ぶわ。義理の息子ができるんですもの。彼は以前から、一緒にキャッチボールをやってくれる男の子を欲しがってたの」
「G・Gがぼくの親父になるのか。なんだかしっくりこないな」
「あなたたちは仲が良すぎて、しょっちゅう喧嘩をしていたから?」
「仲がいいのかどうかは知れないけど――」
「ねえ、桂樹――」
「なんだい?」
「結婚したら、新居はわたしたちが住んでいる家にしてくれる?」
「と言うことは、G・Gが一緒か?」
「そうよ。G・Gは寂しがり屋だから、独りぼっちでは生活できないの」
「G・Gと一緒に生活するのは、ゾッとしないな」
桂樹は、微笑んだ。「だけど、きみと暮らすためには、仕方がないか」
しばらくして、二人はごく自然に愛の行為を再開した。
[20/03/13 09:01 神亀]
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