(4)
座卓の料理がひととおり片付いたころ、会長が小玉に目で合図を送った。
小玉は頷いて、奥の部屋で裸になると、白と紺の市松模様の浴衣に着替えた。その下には六尺フンドシを締めている。それから尻端折りして、赤布でたすき掛けにした。
支度が整うと、小玉は皆の前にあらわれて正座し、口上を述べた。
「ええ〜酔玄亭小玉と申します。いつも酔っ払って翌朝げんなりしてるから、酔玄亭だろうってお客さまがいますし、タマタマが小さいから小玉って言うんだろうって、お客さまもいます。――どちらも当たってるんですよ」
そこでドッと皆が笑った。その中から、会長の声がした。
「そんなことはない。タマは結構でかかったぞ」
すかさず他の声が飛んだ。
「会長!なんでそんなこと知ってんの!」
ふたたびドッと笑いが巻き起こった。
小玉は続けた。
「会長さんには、いつもお世話になっています。また今日は、おめでたい席にお呼びいただき、ありがとうございます。それでは、かっぽれを踊ります」
小玉は立ち上がった。
「今日はわたし、六尺を締めてきました」
彼は両脚を開いて、股間を見せた。
客席から、オッという声が聞こえた。
もっこりとした膨らみの艶っぽい姿を見せつけて、小玉は姿勢を直した。
「普段はこんな格好をしないんですが、今日は会長さんのためにお神輿を担ぐつもりで、締め込みスタイルにしました」
手ぬぐいの両端を持ってねじりながら、話をつづけた。
「かっぽれの始まりは諸説ありますが、江戸の昔、大阪の住吉大社の住吉踊りから転じたものだ、というのがよく言われています」
ねじった手ぬぐいを器用に、頭に巻き付けた。
「もともと大道芸でありますから、本来は座敷で踊るものではなく、外で踊るものです。でも今日はおめでたい席ですから、ここで踊らせていただきます」
彼は背後に控える囃し方に合図した。
三味線と太鼓の拍子に合わせて、小柄な身体が舞った。66歳とは思えない身軽さである。太ももまで肌をむき出しにして、休みなく動かす手足の隙間に、ちらちら見える六尺フンドシが色っぽかった。
かっぽれが終わると、宴席の拍手を受けながら、小玉は、頭に巻いた手ぬぐいをほどいて顔の汗を拭った。ついで尻端折りを戻し、たすき掛けを解いて着物を整えた。
「では次は、一人芸などご披露いたします」
前にこの屋敷に来たとき披露した芸だ。襖を立てて、陰の旦那と艶っぽいやりとりを始めると、客のほうからやんやの喝さいが起こった。
出し物が終わって、着替えを済ませた小玉が宴席に戻ったとき、湯島の店にいたしゃれ者が歓声を上げた。
「大将、素敵っ!うち、大将に惚れちまったわあ。うちの盃を受けて」
そう言って立ち上がろうとする肩をごつい手で押さえて、横の坊主頭の老人が言った。
「バカッ!やめとけ、ホーケイ。アツのものに手を出すな」
「ええっ、どういうこと、ツーさん。アツのものって、どういうことなん」
「じゃかましい!アツのものは、アツのものだよ」
ふたりの漫談のような言い争いの横で、誰かが言った。
「会長、せっかくお座敷芸を見たんだから、会長の渋い喉を披露してよ」
「えっ、会長、小唄でも唄うの?」
「ああ、俺も聞いたことがある。いい声だったな」
皆の注目を浴びて、会長は面映ゆそうに言った。
「昔の話だ。もう忘れた」
「そんなこと言わずに、会長。おめでたい席だから」
会長はちょっとためらったが、後ろに控える三味線の女に向かって言った。
「じゃあ、たぶん外すと思うけど――都々逸(どどいつ)を」
すかさず年増が三味線をひき始めた。
それに合わせて、会長がうなった。
腹の立つときゃ 茶わんで酒を〜
酒は涙か ため息か〜
心のうさの 捨てどころ〜
渋くていい声だった。
小玉は内心、驚いていた。会長の隠れた才能。(さすが会長となると、なんでもできるんだ)彼は改めて会長に惚れ直した。
その日の宴会が終わって、客たちが三々五々帰って行った。
帰り支度をしていた小玉のところに会長が来て、そっと言った。
「今日はありがとう。どうだ、もうちょっとゆっくりするか――風呂でも入って」
会長の言葉の調子にハッとして、小玉は顔をあげた。
目が合った瞬間、小玉は理解した。――会長が何を求めているかを。
そのあとは、一種の夢遊状態だった。
夢うつつの中で、今日付き合ってくれたふたりの年増に、執事の用意した花代を渡し、大木奈運転手の車で先に帰らせた。
陽はまだ高かったので、浴室は透明感にあふれていた。
小玉は湯の中で、会長の大きな身体に抱かれていた。背後から膝にのせて、小柄な身体を愛撫しながら、会長がゆったりと言った。
「おまえは、本当に可愛らしい身体をしている。――口を吸っていいか」
小玉は横抱きにされ、夢にまで見た大人顔が迫った。口を吸われたとき、自分がどんどん女の身体になっていくのを感じた。大旦那に抱かれる芸者の気分である。
敏感になった乳首を、器用な指が刺激する。
「ああっ!」
思わずあえぎ声が漏れ出る。その声さえも、女のように儚い声だ。
しかし唯一、女になり切れないものがあった。
健康的に隆起した逸物が、大きな手で握られた。ついで、硬度と大きさを測るように、ゆっくりとしごかれた、
「さすが、浅草で浮き名が立っていたわけだ。形の良い見事なチンポだ。それに、この歳になっても元気がいい」
性器をいじられて、小玉は恥ずかしさでいっぱいだった。どうして会長が、浅草時代の自分を知っているのだろう、という単純な疑問も浮かばなかった。大きくて柔らかい手のもたらす快感は、逃れようのないものだった。
手が竿から玉へと移動し、尻のはざまに指が這い入った。
「おまえ、男を知っていたのか」
会長の驚いたような声がした。菊座の柔らかさと開き具合を、指先で感じ取ったのだ。
「いえ――」
小玉は恥ずかしさでいっぱいだった。「張り形を使いました。――いつか、会長とこうなるのではないかと」
会長は感激したようだ。小玉の身体をぎゅっと抱きしめて、ふたたび口を吸った。そしてささやくように言った。「今夜は、私の情けを受けてみるか」と。
ふたりは抱擁を解いて、会長が湯船の縁に大股開きに腰かけた。
小玉の目の前には、カリの出っ張ったずる剥けの亀頭が、重々しくぶら下がっていた。
見ていて、そのチンポを思いっきり口に入れてみたいと思った。彼は無意識に会長の太い腰に両腕を回し、股間に顔を埋めていた。
あんぐりと口をいっぱいに開け、ぐんなりしたチンポを咥えた。それはみるみる膨らんできて、口いっぱいにパンパンになった。
あごが外れそうに、いっぱいいっぱいだったけど、会長のチンポを口いっぱいに入れている、という誇らしい気持ちだった。口では息ができず、鼻を膨らませて、懐かしい匂いと共に息をした。舌を使うことはできなかったが、幸せ感でいっぱいだった。
その夜、小玉は会長の屋敷に泊まった。
ベッドを照らす卓上ランプの明かりの中、会長は、小玉の身体を背後から抱いた。
旦那と幇間の艶っぽいやりとりそのままに、襟ぐりから忍び込んだ手が、ほどよく脂肪の付いた柔肌に添わせてすべった。
胸の突起にたどり着くと、指の腹でゆるやかに弄ぶ。
「あ――そこは」
ほっこりとした身体がピクリと動く。その体から浴衣をはがして、ひとこと言った。
「うつ伏せになれ」
小玉は全裸ですなおにうつ伏せになり、両膝を立てて尻を開いた。小ぶりな双丘は、すんなりと肌が張って、谷間の切れ込みが深かった。
双丘に手が添えられ、左右に開かれた。
中心部の敏感な部分に風を感じたのか、ククッと閉まった。
グッと押し開くと、いびつになった蕾がピンクの細道を覗かせる。そこに会長の分厚い舌が割り込んでいく。
「ひっ――ううっ」
腰を引きかけると、強い力でグイと引き戻された。
淫らな舌ねぶりが続いた。とろけるように柔らかくなった粘膜を、ぬめぬめと蠢く舌が侵入していく。
「ああ――もう」
小玉はすっかり陶酔の世界に嵌っていた。もはや男同士の違和感はすっかり消え失せて、女になりきっていた。
やがて――硬く、熱くて、まがまがしく膨れ上がった男の根が、背後にあてがわれた。
じんわりと力が加えられる――。
(あっ、入ってくる――)
次に来る苦痛に備えて、小玉はシーツを強く握りしめた。
肉襞の細道が、男の太い肉棒によって押し広げられ、路がじょじょに通されていく。
「くうっ――ひ、ひいい」
苦しむ姿が、会長を高ぶらせたようだ。肉根がますます太くなった。それでも強引に奥まで貫通しなかった。締りが良すぎて傷つける恐れがあった。
(ああ、駄目――もう駄目)
小玉は弱気になっていた。(この日に備えて、張り形を使ってきたのに――)
そのとき、小玉の弱気を感じ取ったように、会長が離れた。そして横抱きに身体を合わせて、ささやいた。
「もう70歳だ。昔のようにはいかない。今日は疲れた。またにしよう」
そこで小玉の口を吸った。「なあに、老人は朝になれば、素敵な元気がでてくるさ」
翌朝になっても、完全な結合には至らなかった。
「どうも、もうひとつ元気が足らんな」と会長は言った。
小玉は会長の優しさが嬉しかった。そして不甲斐ない自分を恥じた。
会長は、これ以上強引に入れれば、小玉を傷つけることを恐れたのだろう。だから自分の元気の無さのせいにして、小玉を庇ったのだ。
その心配りは小玉にも、十分すぎるほど分かっていた。
でも、小玉は満足していた。完全な結合とまではいかなかったが、夢にまで見た会長と抱き合えたのだ。自分に対する会長の気持ちも確認できた。あとは張り形を使って、もっと自分を拡張するだけだった。
「会長、大変お世話になりました。今度お邪魔するまでに、もっと幇間芸を磨いてきたいと思います」
小玉は別れ際に、しっとりとした口調で言った。
会長はもちろん、その言葉の裏に隠された意味に気づいていた。
「ああ、楽しみにしているよ」
会長は鷹揚にうなずいた。「でも、早くしてくれよ。私もそう若くないんでね」
