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老春の街(前) -  (2)
(2)

ふたりが裸になって風呂に入ったとき、小玉の思いは吹っ飛んだ。
(こんなの無理!ぜったいに無理!)
それほど会長のモノは太かった。170センチ80キロほどの堂々とした肉体は、肉が厚いが弛んだところが見当たらず、すこぶる健康体に見えた。そして股間の逸物は、王者の風格を見せて、ものうげにぶら下がっている。
小玉は、これほど立派な亀頭を始めて見た。丸っこい先端部から周囲に向けて湾曲して、カリの部分はこぶが隆起したように盛り上がっている。それが百戦錬磨の兵(つわもの)を思わせて渋茶色にふすぼけているのだ。
心臓がドキドキしてきた。
(いま会長が迫ってきたらどうしよう?会長の大きさでは、大人と子供ほどの差がある。無理やり犯されたら、きっと裂けちまう)
小玉の頭の中で、もろもろの感情が渦巻いた。

しかし会長は迫ってくるどころか、大きな体を湯に沈めて、ゆったりと小玉を見上げた。
「さあ、湯につかりなさい。昼間の風呂もいいものですよ」
小玉は湯桶で湯を汲んで、股間をざっと洗うと、会長の向かいにおずおずと身を沈めた。ふたりが同時に入っても、まだスペースに余裕があった。
「どうですか、この風呂の感想は」
会長に言われて、初めて風呂の様子に目を配った。
大きな窓から光が差して、室内は明るすぎるほどだった。湯に漬かった会長の肉付きの良い肉体が、克明に見える。下腹部の陰毛やふてぶてしいほど大きな性器までも――。
窓の外は築山を背景に、鮮やかな緑の草花が植えられていた。明らかに風呂からの景観を考慮して、造園されたものだ。
小玉が感想を述べると、会長は嬉しそうに目を細めた。

風呂での会話は、もっぱらふたりの家族のことや、日常生活についてだった。小玉がこの屋敷に来た用件に関わることは、一切話題に出なかった。
会長は現在64歳。62のとき会社をやめて、身体がなまるので週に2回は室内プールで泳ぐようにしている、と言った。
それを聞いて、小玉は納得した。会長は大きな身体つきだが、弛んだところがひとつも感じられなかった。
そのことを褒めると、会長は微妙な表情をした。そして、あっけらかんと言った。
「わたしが体調を整えているのは、じいさんどもを可愛がってやるためです」
一瞬、小玉は、聞き間違いかと思った。会長の顔を見ると、いたずらっぽい表情が浮かんでいた。
「私が爺さん好きになったのは、父親のせいでね」
会長は説明を始めた。「どうやら、私の家系は好き者が多いようです。爺さんは外に何軒も妾宅を持っていたし、表立っては女を囲っていなかった親父も、何人かの女に給金を与えていました。物入りの多いことから、親父は考えたのでしょう。もし息子が自分と同じようなことをやったら、この先、仲間家が崩壊するのは目に見えている、と」

小玉は、会長が話しながら、その手が無意識に股間にいってるのに気づいた。指の先が微妙な動きをする。
「そこで、18歳の私に、家の老僕を女代わりにあてがった。爺さんを相手にしているかぎり、家をつぶすことはないだろうと」
会長は皮肉な笑みを浮かべた。「その親父の思惑に、私は見事に嵌りました。なにしろ当時は、穴があったらなんでもっていう年齢でしたからね」
小玉は何とも反応しづらくて、黙っていた。
「まあ、普通に女と結婚して、ふたりの娘ができましたが、私の爺さん愛はその後もつづいて、今に至っていますよ」

そこで会長は立ち上がって、湯船の縁に腰を下ろした。
分厚い胸板、形よく膨らんだ腹、そして太ももの間では、大きなタマタマの上に乗っかって、小玉を睥睨しているような図太い亀頭――それらがアップで、小玉の目に迫った。
その迫力に、小玉はゴクリと生唾を呑み込んだ。
会長は小玉の目を見ながら言った。
「爺さんが好きだと言っても、誰でも良いってわけではありません。でも正直言って、大将のようなタイプの男は抱きたくなる」
(いよいよきたか)
予期されたこととは言え、実際に言われてみると、小玉は反応に窮した。私は地主ですと言って、笑いを取るのか、それとも――。
小玉は、会長の笑顔を見たとき覚えた、自分の感情を思い返した。心の底から暖かくなるような笑顔。目の前の大きな身体に抱かれたときのことを、想像しようとした。
目の片隅に、大きな性器が映った。先ほどより大きくなっていた。
(ああ無理。あんなの絶対に入らない――)
会長は、小玉の心の葛藤を読み取ったように、にっこりと笑顔を見せた。小玉の心を虜にした、あの笑顔だ。
「無理をする必要はありません。大将の援助をするかどうか、その判断と、大将が抱かれるかどうかの判断は、まったく別物です。それだけは言っておきましょう」
そう言うと、会長は風呂から出ていった。

そのころ、和菓子店の社長、正井博信は、広い庭を散策していた。
せっかく当たった宝くじを失くしたような気分が、まだ尾を引いていた。
会長が風呂に入って話をしよう、と言ったとき、天にも昇る思いだった。彼は以前、会長と風呂に入って、しゃぶらせてもらったことがあった。あの時怒張した逸物を見て、心臓が止まるほどのショックを受けたのを覚えている。
そのうえ、小玉大将の可愛らしい裸も見れるのだ。
でも今は――自分の体に残る縄や鞭の傷跡に思いが至って、愕然とした。しかも股間の陰毛は、ツルツルテンに剃り上げている。
(いま嵌ってる、SMごっこがばれてしまう)
正井は、いかにも老舗店の大旦那らしく、貫禄のある風采をしている。しかしその裏に、M指向の男色家の顔があった。彼は月に一度の割合で、ゲイ専門の風俗店の経営者と密かに会っていた。そこで徹底的に調教された。
裸に剥かれ、荒縄で縛られ、ロウソクの雫を垂らされたり、鞭打たれたりした。陰毛を剃られ、極太のディルドを陰門にねじ込まれたりもした。古い傷跡が消えかかったころ、また新たな傷が増えた。
だからそんな裸など、会長や大将の目に晒すわけにいかなかった。

そこである思いに囚われて、彼はハッとした。
なんでもお見通しの会長のことだ、ひょっとして、彼が密室で何をやっているか知っていて、わざと風呂に誘ったのではないか。
屋敷のほうに目をやると、庭に面した広縁の奥の座敷で、白髪の執事が座卓や座布団を並べてなにやら用意している。
正井はふっとため息を漏らすと、屋敷の中に戻っていった。



風呂から上がると、白いフンドシが二つそろえられていた。会長は大きいほうを手に取って、身に着けながら、小玉に言った。
「それはチュウが使っているものです。だいたい丈は合っているはずですから、遠慮なく使ってください」
チュウとは白髪の執事のことだと理解した。自分の下着が見当たらないところをみると、おそらく執事が洗濯をしてくれているのだろう。
衣服を整えて応接間に戻ると、今度は座敷のほうに案内された。広縁の向こうに緑あふれる庭園が見える部屋だった。
3人は改めて、座敷にしつらえられた席に着いた。座卓には銚子と猪口と、ちょっとした酒のつまみが用意されていた。
銚子が2本ほど空いたところで、会長が本題に入った。
「大将が幇間(ほうかん)を続けたいという気持ちは、良く分かった。しかし気持ちだけでは、この先、うまくいくかどうか分からない。だから次は大将の芸を見せてください。それで、私がお手伝いするかどうか判断しましょう」

予期せぬ会長の要望だったが、小玉はどの芸を見せるか考えた。得意なのは踊りだが、三味線や太鼓がなければ拍子抜けする。小唄もそうだ。
そこでふと思いついて、一人芸をすることにした。(そうだ、あれをやろう)
小玉は立ち上がると、二間続きのあいだの襖を半分開けた形にした。
その頃には、執事が現れて座に加わった。

小玉は正座して口上を述べると、立ち上がって一人芝居を始めた。
襖の陰にいる、架空の旦那とのやりとりである。
「おや、旦那、今日はきれいどころがいませんね」
「えっ、なに、わたしでいいって。旦那、嬉しいこと言ってくれるじゃないですか」
落語家と同じような語り口だが、立ち上がって色々の動作を入れるところが違う。
「でも旦那、男同士じゃ、ちょいと色気がありませんね」
「えっ、何ですか、ちょっとこちらにおいでって」
そこで襖の陰に行って、
「あっ!旦那、何を――およしになって」
襖から半身を見せて、
「ああ、旦那、そんなに引っ張ったら、袖がちぎれちゃいますよ」
そこで引きずり込まれるようにして、襖に隠れ、次に顔半分を襖から出して、
「旦那、無理やりキスなどして――うむぐぐぐ」

幇間と旦那との艶っぽいやり取りに、見ているほうから笑い声が沸き上がった。幇間の見えない片手が、旦那の手のように現れて、本当に襖の陰に旦那がいるような錯覚を、見る者に起こした。
それだけ小玉の芸が、見事だということだ。
長年磨いた踊りの技で、小柄な小玉の動きには、ひとつひとつ、しなやかな艶があった。
最後は尻端折りして、小腰をかがめた姿勢で、襖の陰に尻を差し出した。
「――あたたたっ!旦那のは太すぎるう!」
そこで見ている会長たちに向かって「これがほんとの、ふてえ野郎だ」

「いやあ、見事だ。大将の芸に惚れ込んだ」
席に戻った小玉に酒を進めながら、会長が話しかけた。
上機嫌の会長を見て、正井が念を押すように聞いた。
「じゃあ、会長。大将の援助をしてくださるのですね」
「援助じゃなくて、投資だ。大将の芸に投資するんだ」
そこで会長は具体的に言った。「深川のあけぼの町に、空き家がある。私の爺さんが手当てした妾宅だった家だ。大将のお眼鏡にかなうかどうか知らんが、気に入ったら自由に使っていい。それから、用立ては1億ほどでいいか?」
[19/08/21 07:26 神亀]
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