(2)
「それじゃボクたち、今日のお遊びは、なんでいきますかな?おタチ、ヨコ?それともおホモだち――」
いつも握りの言い出しっぺは藤井先生で、結局その日はヨコ握りということになって、浜やんと先生がパートナーになった。
先生は、太っているわりには器用である。飛距離はないが、小技がうまい。それに口と腹はでかいが、やることはせこい。
ロングホールのティーグランドで、ドライバーを使わずに、平然とミドル・アイアンを使ったりする。
その先生より一回り小ぢんまりとしたマスターは、4人の中では一番の飛ばし屋である。しかし安定性に欠けて、この日、三つのOBを出している。
師匠は、いかにもゴルフが楽しくて仕方がないというプレーをする。スコアに拘泥せず、ナイスショットをすると、腰を伸ばすようにして、おっとりと微笑む。その物腰は、円熟しているのに清淡で、とても70歳の老人とは思えない。さすが日本舞踊をやっているだけあって、仲間内では一番運動神経がいいようだ。
一方、浜やんは久しぶりだったので、パーもあればトリプルボギーもあるという、荒いゴルフをしていた。それでも、あきらかにOBと思われた球が木に当たってセーフになる、といったラッキーもあった。
結局、最終ホールをむかえて、浜やんと先生の組はふたつ勝っていて、もはや勝敗はついていた。
ところが、やめておけばいいのに、先生がふたりを挑発しだした。
「どうだい、きみたち。武士の情けだ、ここでプッシュしたっていいんだぞ。このホールでそちらが勝てば、勝負は分かれ。同スコアか負ければそちらの倍の払いだ。勝負してみるか?」
師匠とマスターが人の良さそうな笑みを浮かべて、それに応じた。
そして好事魔多し。
浜やんはボギーであがって、先生とマスターはダブルボギー。残るは師匠の、3メートルほどのパーセーブ・パットにかかっていた。
先生は、慎重にラインを読む師匠の前に立ちはだかって、突きでた腹のうえで両腕を組み、親切にもアドバイスをくりかえす。
「じいさん、短小じゃ穴に届かないよ。お嬢ちゃんでもだめだ。カツンと打ちなさい、カツンと強く――」
浜やんは見かねて、ささやいた。
「先生、そんなところに立って、師匠の邪魔になりますよ」
「大丈夫だ。集中してればそんなこと気にするか。――あ、じいさん、スライスラインは分かってるな。カップの左、10センチくらいだ」
「先生、そんなこと言って、もしも入ったらどうするんですか?」
「大丈夫、入らないって」と先生は断定した。
「だって、万一ってこともあるでしょう」と浜やんも食い下がる。
「万一もなにも、絶対に入らないんだよ」
先生は、その話はすんだといわんばかりにソッポを向き、ゆうゆうと師匠の白い頭を見おろしている。
浜やんは言葉を失って、太った老人の自信満々かつ傲慢な横顔を見るしかなかった。
3人の見守るなか、師匠がパットをした。
白球がグリーン上を滑り、ゆるやかにカーブして、カップの中にコトンと落ちた。
「アラッ――はいっちゃった」
先生は、落胆の表情をみじんも見せずにつぶやいた。それから、いかにも浜やんが悪いというように、にらみつけた。
浜やんは気弱げに、俯くだけだった。
これで勝負はチャラ――引き分けだった。
せっかくチョコレートをせしめられると思っていた浜やんは、先生の後ろを歩きながら、目の前で揺れ動く巨大な尻を、蹴っ飛ばした――空想の世界で。
ゴルフ場の広い風呂は気持ちがいい。とくにゴルフで汗をかいたあとは、格別だ。
浜やんは、10歳年下の演芸場の従業員、ヨッちゃんと男色初体験をすませて、男の裸に興味をもち始めていたので、それを鑑賞できるのが楽しみだった。
先に入った浜やんが湯船から見ていると、まず先生が現れた。
先生はけっこう、毛深い。豊満な胸には一面の、灰色がかった胸毛。でっぷりと突き出た腹の下、そこも灰色の茂みだが、極太の丸っこい亀の頭が露出している。それが観賞用の機能しかないのは、浜やんもとっくに知っていた。
次にマスターが入ってきた。
体毛が無く、手足の短いぽっちゃりとした体型は、思わず笑みを誘う愛嬌がある。
生憎、前はタオルで覆っているが、浜やんは、中身をすでに拝んでいた。ゲイバーに閉店までいれば、たいがい酔っ払ったマスターのヌードを見ることが出来る。体つき同様、皮被りのぽっちゃりとした色白の球根である。
最後に師匠が入ってきた。
マスター同様、体毛のない滑らかな肌をしているが、目を惹く色の白さである。
しかし、身体の一部だけは、異質の感があった。
女のようにしっとりとした白い体の中心部に、百戦錬磨の罪深い男のお道具が、どっしりと垂れ下がっているのだ。それは70歳の持ち物と言うより、壮年男の図太さそのまま。カリが盛り上がったように隆起した亀頭部は、渋茶色にふすぼけている。

「す、凄く――立派だ」
湯の中でマスターが、どもりながらつぶやくのが聞こえてくる。どうやら彼は師匠のモノを目にするのは初めてのようだ。
そのマスターを、例によって先生がいじくりだした。
「なんだ、マスター。お前はまだ、じいさんのチンポを味わっていないのか」
横にいる浜やんは嫌な予感がしたが、黙っていた。
しかし先生は、浜やんを見逃してくれなかった。
「おい、浜やん、お前のもマスターに見せてやれ」
「なんで――」
躊躇する浜やんを見る先生の目が、すっと細くなった。氷のように冷たい視線だ。
「おや、お前は、男道を教えてやったのに、恩師の願いをつれなく断ると言うのか」
(恩師の願いだって――冗談じゃない。絵の題材にするから、ヨッちゃんのおカマを掘れって、無理強いしたのは誰だ!それに、俺のチンポをさんざんしゃぶって楽しんだのは、先生のほうじゃないか――)
喉元まで出かかった言葉を呑み込んで、浜やんは気弱に微笑んだ。ここで言うことをきかなければ、そのうち先生が癇癪を起こしだすのは、目に見えている。
マスターはと見やると、同年輩のよしみで同情しているかと思いきや、期待を込めた目つきでこちらを見ている。
浜やんは仕方なく、湯の中で立ち上がった。カリの発達した亀頭が、湯に濡れて、明かりを反射してテカテカと輝いている。
マスターが見上げて、目をまん丸くした。
その横では、先生が余計なことを言う。
「マスター、おしゃぶりしてみろ。もっと大きくなるぞ」
ゴルフ場の浴室で師匠と浜やんのモノを見て以来、マスターの様子がおかしくなった。
彼の目つきは、ねっとりとろりと年増女の濃密さで、店に来る浜やんの身体――おもに、脚のつけ根あたりを見る。相手の視線に気づいて、あわてて目を逸らし、しばらくして、再びもとの箇所に視線がうつろう。
当然のことながら先生も、マスターの習癖に気づいている。その証拠に、浜やんと二人きりのときに、マスターを抱いてやれ、などとたきつける。
浜やんも正直なところ、マスターの女のように大きな尻を思い浮かべると、まんざら興味がないわけでもない。女房に誓約書を出したのは、対象が女だから、男が相手なら誓約違反にはならないはずだ。
浜やんは、まだまだ煩悩をもつ弱い人間だった。ときに生理的渇きを覚えることもある。いよいよどうしようもなくなって、50歳の誕生日に、演芸場の従業員と実験的結合を試みた。ヨッちゃんは、初心っぽい顔とぽっちゃりした肉体をした40男だが、すでにウケとして男を経験していた。
そのヨッちゃんに、男の道を教えたのが藤井先生だ。もっとも、先生が衆道に入った動機は不純で、男性同士が結合する体位を研究して、浮世絵の題材にするためだった。
その罠にはまったのが、浜やんとヨッちゃんという訳だ。
ヨッちゃんとの初結合は、先生立会いのもとで行われた。先生はまず、浜やんの如意棒を口に咥えてじっくりと味わった後、ふたりにあれこれと指示を出した。かなり変態的な体位までとらされたが、浜やんが、女とは違う快感を覚えたのも確かだった。
こうして浜やんは、禁断の味を覚えたわけだが、まだ完全には、性の対象を女から男に切り替えたわけではなかった。
となると、実験的結合のあとは、快楽追求型結合しかなかった。
でも不安はあった。男の身体で快楽を追求したら、いよいよ禁断の世界の深みに嵌るのではないか――悩みは多く、ハムレットの心境がつづいた。
ところが、案ずるより生むが易し――ある晩、酔った勢いで、とうとうマスターに持ち掛けたのである。
いざとなるとマスターは、複雑に揺れ動く心の葛藤そのままに、頭をかいたり、眼鏡を外したり、もみ手をしたり、もじもじするばかり。薄い色つき眼鏡を外したところを見て、初めて気がついた。小さくて、生真面目そうな瞳だった。それが頬をうっすらと赤らめて、恥ずかしがっているのだ。
浜やんは、ずいぶん久しぶりに、恥ずかしがる大人の姿を見て新鮮な感動を覚えた。
そこでひと押しした。
「いいじゃないか、マスター、経験豊富なんだろう。私に教えてくれよ」
「教えてくれって言ったって――浜やんのほうが、経験豊富じゃないか」
「女に対してはね。頼むよ、マスター。ほんの先っぽだけ――痛くしないからさあ」
「でも、浜やんのは、大きすぎて――おしゃぶりのほうが、好きなんだけどなあ」
「もちろん、それもやらしてあげるよ。だからさあ――」
やっとのことでマスターは了承して、いよいよ快楽追求型結合を試みることになったのである。