(1)
どの町にもボス的存在の人間はいる。しかし、そのボスが二人いた場合、事情は少々ややこしくなってくる。
ここ、あけぼの町では、野本克彦と大島啓二がそんな存在だった。
野本克彦は不動産業を手広くやって財を成し、かたや県会議員をやっている。58歳、ずんぐりした肉体に、用心深そうな小さな目、鼻梁の太い獅子鼻と頑固そうな二重あご。
見るからに海千山千、しぶとそうな親父顔である。
彼は当時、プロ野球の球団をいくつか渡り歩いて優勝に導いた某野球監督に似ていることから、親しい人間に監督と呼ばれていた。
一方、大島啓二は、生まれながらの資産家で、60歳の大学教授である。身長175センチのスマートな体格と、毛並みの良い上品な顔立ちをしている。その甘さを含んだ端正な顔とトレードマークの和服姿は、経済学者としてテレビに出演していることもあって、あけぼの町ではテレビタレント並みの著名人だった。
二人は町の名士でありながら、生まれも人格も職業もすべてが正反対で、そのこともあってか、あらゆる会合の場で反目し合っていた。
ふたりの共通項と言えば、長年、合気道をやっていることである。共に6段、師範の資格を持っていたが、それさえも反目の原因になっていた。
合気道は通常、乱取り稽古は行われず、試合形式もなかった。したがって、どちらが上とも判別できないが、二人とも、自分の方が上だと吹聴していた。
もうひとつの共通点、これはあまり表に出せることではないが、愛の行為の対象を女ではなく男にしていることだ。
二人の仲がいよいよ険悪になったのは、初秋のある夜のことである。
大島啓二の家には、5年ほど前から水原昌三という使用人が住み込みで働いていた。背が低く、可愛らしい顔立ちの72歳になる爺さんだが、男好きの大島には、別の意味で重宝する存在だった。
その夜も、使用人を自分のベッドに誘い込んで、親密なひとときを過ごしていたのだが、なんとなく違和感を覚えた。老人の尻の動きがいつもと微妙に違うのだ。
勘の鋭い大島は、昌三を詰問した。
ついに老人は、涙ながらに告白した。先生の名代として夏祭りの寄付金のお願いに、野本克彦の事務所に行ったとき、手込め同然に犯された――と。
(あの野郎、どうしてくれよう)
大島の頭の中で、およそ学者とは程遠い、様々の暴力的なシーンが駆け巡った。
やがて、方法が思い浮かんだ。眠れないときに使っている睡眠薬を、野本に使うのだ。
野本が眠っている間に縛りあげ、目を覚ましたら、思う存分いたぶってやる。
使うアイテムも決めていた。彼自身、愛用している張形だ。そして、恥ずかしい姿をデジタルカメラで記録しておく。
体面を気にする野本のことだ、決して騒ぎ立てはしないだろう。
問題は、どうやって野本をこの家におびき寄せ、睡眠薬を飲ませるかだ。用心深い野本の性格は、充分知っている。
あれこれ考えた末、昌三の色気を使うことにした。さっそく使用人と下打ち合わせをし、野本のもとに送り込んだ。
しかし、こういった策略にかけては、世慣れた野本のほうがずっと上手だった。
なにしろ、裸一貫から県会議員にまで成りあがった男だ。悪だくみにかけては、坊ちゃん育ちの大島啓二と格が違う。
「――ですから、うちの先生が、お祭りに寄付していただいたお礼に、一献さしあげたいと申しているのです」
震える気持ちを鼓舞して、必死に説明する昌三は、最前から相手の股間が気になって仕方がなかった。手渡された礼状にざっと目を通す野本の股座には、ギョッとするほどもっこりとした大きな膨らみが浮き出ている。
昌三は大きなモノに目が無かった。
その日の野本は、彼の身上とする聞えよがしのボヤキも、ネチネチとした物言いもなかった。彼は書類から顔を上げるや、昌三の話を遮って、野太い声でストレートに言った。
「まあ、その話は後にしろ。せっかく来たんやから、この前の続きをやろうやないか。奥の部屋に来いや」

それから一時間後、昌三はすっかり夢うつつ状態で、ベッドの上に突っ伏していた。
野本は、濡れタオルで自慢の逸物を拭いながら、悠然と昌三を見下ろした。
「やっぱり、爺さんの尻は名器や。大島ひとりに味あわせておくのは、もったいない」
そこでドスを効かせた声で言った。「それじゃ、大島がお前を寄越した、裏の話を聞かせてもらおうか」
昌三は仰天した。とぼけようとしたが、見透かすような目で睨まれて、縮み上がった。
彼は野本以外の男とも遊んでいたが、それは先生に気づかれていない。そんな初な先生と、海千山千の野本とでは、どちらが怖いか考えるまでも無かった。
先生の屋敷に戻った昌三は、後ろめたさを覚えつつ、ぼそぼそと報告していた。
「――というようなわけで、野本は先生のお心遣いに、大変感謝しているそうです。で、今度の金曜日なら都合がいいが、生憎ひとりきりなので、事務所を離れられない。出来れば、先生が事務所にお越しいただけないか、とのことでした」
昌三の報告を聞いて、大島啓二の心は良否半ばした。野本がこちらに気を許しているのは良いが、向こうの事務所で、というのが気にくわない。
あれこれ迷った末、事務所には野本ひとりしかいないと聞いて、ついに決心した。こんなチャンスは滅多にないだろう。
次の金曜日、大島はポケットに睡眠薬、手提げカバンにロープや張形、デジタルカメラを忍ばせて、野本の事務所に出向いた。
しかし、大島の企みはまったくの空振りに終わった。
勧められるままにビールを飲んだが、相手のグラスに睡眠薬を入れる隙もなかった。
そのあと急に睡魔に襲われた。
猛烈な眠気の中で、裸にされ、バスルームに連れて行かれた。そこで、さんざん浣腸されたまでは、夢うつつに覚えている。
目が覚めたとき、大島は素っ裸にされて、ベッドの上で大の字になっていた。両手両足は縒った黒い紐によって、ベッドの鉄柵に繋がれている。
そういえば、やけに苦いビールだと思ったが、あとの祭りだった。大島自身が一服盛られたのだ。
そのとき野本が現れた。
服を脱いだ肉太の体に六尺フンドシ――白い布地がもっこりと膨らんでいる。
「目が覚めたか。眠ってる間におまえの体を味わってもよかったが、それじゃ味気ないんでのう。じゃあ、さっそく、旬の男を味わおうか」
野本はベッドの端に腰を落とした。
マットが沈んで、そちらのほうに自分の体が傾くのを意識しながら、大島は沈黙して相手の出方を探った。
野本は太い腕を伸ばして、大島の乳首を人差し指と親指で摘み、プルプルと揉んだ。
「ほう、ピンク色をして、かわいらしい乳首じゃのう。ほれ気持ち良いか」
指から逃れようとして、大島は上体を揺すったが、両手両足を引っ張られた状態では身動きもできず、口で抗議するしかなかった。
「やめろ、この変態!」
野本はちっとも気にせず、乳首を揉みつづけた。
「お、乳首が立ってきた。なんや、口じゃ、いやや言うとるが、体は正直なもんや。こんどは味をみるか」
野本は顔を寄せて、乳首を分厚い舌でベロリと舐めた。
「ばかっ、やめろ!こんなことをして、タダじゃ置かんぞ」
「タダじゃない。夏祭りの寄付のお代だ」
野本は傍若無人に舌を使い、大島は身悶えた。
舌の先で転がされ、吸われ、コリッと噛まれて、なんだか妙な気分になってくる。意思に反して、体の芯から快感がじくじくと湧き出す。
「可愛い奴だ。もうチンポを、おっ立ててるやないか」
野本はベッドに上がり込むと、大島の開かれた足の間にうずくまった。
「さすが、でかいチンポやな。雁首もえらが張って、いい形をしてる。それにうまそうな色や」
野本のほくそ笑む声。ついで逸物を握られた。
「こりゃまた太いのう。片手じゃ握りきれんぞ」
肉厚の柔らかい手が、大島の陽物をゆっくりと扱きだした。
「でかいのう。お前、わしより二つ上や言うてたな。てことは60歳か。それにしては少し柔らかいな。――ははあ、お前、昨晩、爺さんとやりまくったな」
ネチネチと相手をいたぶるのが、野本流である。今も、しつこく話し掛けながら、大島の逸物を弄んでいる。
一方、大島は、怒鳴りつけたくなるのを、グッと押さえた。へたに騒ぎ立てて、野本を刺激すれば、何をされるか分からない。ここは我慢して、反撃のときを待つのだ。
相手が黙っているものだから、野本はますます図に乗って、いやらしい手付きで陽物を扱き、ときおりグッグッと握り締める。
早くも先走り液が出て、野本の指を濡らした。
「このチンポで、爺さんを悦ばしているんだ。しかし、おまえ、えらい助平やのう、こんなにすけべ汁を出しおって」
野本は握ったまま、親指の腹で鈴口をいやらしく撫でる。それからまた、ゆっくりと扱きだした。もう一方の手が玉袋を弄ぶ。
「タマもでかいのう。さぞかしたっぷりと、男汁を溜め込んでいそうやな」
もはや抵抗しても無駄だと悟った大島は、身体の力を抜いた。
(――この狸オヤジ、はやく済ましちまえ)
じれったさに、大島は腰を前後にゆすった。
「そう急くな。先は長い。よし、こんどは味見だ」
息を感じたと思った途端、亀頭を咥えられた。舌が鈴口をチロチロと舐め、ジュルジュルといやらしい音を立てて吸われる。
「フム、いい味や。塩味がほどよう効いとる」
雁首のくぼみ伝いに舌が這い、棹を横咥えにする。
大島が首を伸ばして下腹を見ると、野本は片手で陽物の根元を掴み、牛のように分厚い舌でねぶっている。
今度は先端からゆっくりと呑み込まれた。湿ったぬくもりが、棹伝いにじわじわと下りてくる。亀頭が喉の奥に突き当たるのがわかる。
野本は、グフッと喉を詰まらせながらも、ゆっくりと口を上下に動かしだした。
(ああっ!いいっ、いいい――)
大島は快感を覚えて、いつしか無意識に腰を揺すっていた。