■ 悠久の彼方へ - (2)天地創造
(2)天地創造
【天と地が二つに分かれました。高天原(タカアマノハラ)に最初の神である、アメノミナカヌシ(天之御中主神)、タカミムスヒ(高御産巣日神)、カムムスヒ(神産巣日神)という三柱の神が出現しましたが、すぐに姿を消してしまいます。天と分かれた地上世界は、まだ水に浮かぶ脂のように宙に漂っていましたが、葦が芽吹くように二柱の神が現れ、これもすぐに消え去ってしまいました。
この五柱の神は特別な存在として、別天神(コトアマツカミ)と呼びます。
さらに、クニノトコタチ(国之常立神)トヨクモノ(豊雲野神)の二柱の神が生まれますが、またもや姿を消します。ここまでの神はみな、独神(ヒトリガミ)であります。
次に現れた神々は、男女の性を持つ対偶神(タイグウガミ)であり、五組十柱が続々と出現します。今度は姿を消すこともなくなりました。
この二柱と五組の神々を神代七代と言います。この中で最後に登場したのが、イザナキ(伊耶那岐神)とイザナミ(伊耶那美神)であります】
四つん這いになったアレの身体に、背後からぴったりと貼りついた形で、ホンジが結合した。二人は心と身体をひとつにして、前方の空間を茫洋と見ていた。
部屋の景色が霞のようにぼやけてきた。ついには灰色一色の何もない景色になった。
(なんだ、何も見えないじゃないか)
ホンジは焦れて、ついぼやいた。
(ホンジさま、余計なことを考えないで。私の口述した情景を念じ続けるのです)
アレの思念が伝わってきた。
灰色の空間がわずかに変化してきた。薄い青と黄土色に別れていく。
(これが天地の始まりか)
ホンジは泡立つものを覚えたが、あわてて心を鎮めた。
今や明確に、天地が別れるのを見た。地はどろどろの脂のようで、宙に漂っている。
その天地に神々が現れた。いずれも長い黒髪に白い衣をゆったりとまとい、腰帯を垂らしている。
(アメノミナカヌシは高天原の中心的存在です。タカミムスヒとカムムスヒは、産霊(ムスヒ)つまり、生命を生み出す力を神格化した存在です――)
ホンジの頭の中で、アレが神々の一柱ずつを解説するのが聞こえてくる。名前の文字からこれだけのことを読み取るとは、まさに神がかりの能力だ。
(現れてすぐ姿を消す独神たちは、身体を持たないので、目に見えない隠れたところで神としての働きを行うのです。生命の誕生や国土の元を成すなどして――)
つぎに、男女が対になった神々が現れたとき、ホンジは女神の豊満さに気を取られた。衣を身にまとっていても、たおやかな身体の輪郭がはっきりと分かる。
ふと、自分の屋敷にいる女中たちの、初々しい裸体が脳裏に浮かんでくる。ふっくらとした中心部に突き入れて、気持ちよく腰をうねらせる褥の交合――。
アレの体内に収められたヘノコが、なおもググっと容積を増してきた。ホンジは無意識に腰をうごめかせた。肉の滑脱による刺激が、興奮を急速に高めた。
(ああ、だめ!)
アレが警告するまでもなかった。
ホンジは一気に昇りつめた。――息の止まるような痙攣。
途端にそれまで見えていた景色が消えて、二人は部屋に戻っていた。
アレは身を離すと立ち上がって、怒ったようにホンジを見下ろした。彼の太腿伝いに、滲み出た白い液体が流れ落ちた。それに気づいてアレが言った。
「あーあ、こんなに出しちゃって。まったく、早漏なんだから」
初めての合体転移の術は、途中で失敗したが、ホンジは少し自信を持った。曲がりなりにも幻視ができたのだ。
しかし、アレは厳しかった。
「このままでは合体転移の術、ひいては古事記の編纂も、完成までもっていくことが出来ません。そこで提案があります。一度お互いの役割を変えて、ホンジさまが受けをやってみてください」
ホンジは仰天した。
「そんなバカな!なんでわしが、受けをやらなくちゃならんのだ」
「ずっとやれ、とは言いません。一度受けをやって逆の立場が理解出来たら、持続力も高まると思うんです」
「駄目だ!わしはやらんぞ」
「おや、そうですか」
アレの目がすっと細まった「じゃあ私は、王さまの元に帰らせていただきます」
ホンジはあわてた。
「ま、待て!どうして帝のもとに帰るのだ?」
「だから、王さまに伝えます。多品治さまは、古事記編纂の事業にちっとも協力的ではありません、と」
どうして交合の受けをやらないことが、古事記の編纂に協力的でない、と言うことになるのか。反論はあったが、とりあえずホンジは、別の切り口から突いてみた。
「わしに受けをやれと言うけど、おまえは――そのう、入れることが出来るのか?」
彼の疑問に、アレはいともあっさりと答えた。
「当たり前です。私はまったくの正常体ですから」
(28歳にもなってまだ女を知らないお前が、なんで正常なんだ)と思ったが、それを言うとまたアレが、王さまの元に――なんて言い出しそうだったから、彼は黙っていた。
アレが念を押すように、問いかけた。
「それでどうなんです?受けをやるのですか?」
「――」
「ご返事は?」
「ああ――分かった」
とうとうホンジは折れてしまった。
悪夢のようだった。
ホンジは毛皮の敷物に爪を立てて、悲鳴をあげ続けていた。
彼の背後ではアレが身体を重ねて、しきりに尻をうねらせている。アレのヘノコは、皮を被っていると言っても、ホンジのものより大きかった。カリがさほど発達していないのが、せめてもの救いだ。
「ひいっ!アレ、もう少し優しくやってくれ」
「これでも優しくやってるつもりです――それにしても――すごく締まりがいい」
「ああっ!――これ、そんなに激しくすると――ひいいっ!」
重厚な肉体の中年男が、女のように色白小柄な男に犯されている姿は、なんとも現実離れして見えた。
肉づきの良い大きな尻に向かって、クリッと締まった小さな尻が、力強く繰り出され、ひき臼のように回転する。
動きが激しくなってくると、ロウソクの炎が揺れ、床に落ちる二人の影絵が、悪鬼の踊りのように揺れ動いた。
やがて、至高の一瞬が訪れた。
すっかり終わったとき、マロは死んだようにぐったりと突っ伏していた。同じ男色体験でも、受けは快感どころか、絶えず苦痛の伴うものだった。
【イザナキとイザナミは、高天原に住まう天つ神一同から、漂う大地を固め、形を整えるよう命じられます。その委任のしるしとして、玉で飾られた天の沼矛(ヌボコ)を授けられました。
二柱の神は天の浮橋に立ち、沼矛を使って、まず淤能碁呂島(オノゴロ島)を作りました。その島に降り立った二神は、天の御柱と神殿を建て、夫婦神として国生みを始めます。天の御柱を左右から回り、出会ったところで初めて男女の性交の儀式を行うのです。
ところが、最初と2番目に生まれたのは障害のある子でした。
二柱が天つ神の指示を仰ぎますと、女神のイザナミが最初に声をかけたのが良くない、と助言されました。
そこでやり直し、今度は出会った時、イザナキが最初に声をかけました。こうして二柱の間に淡路之穂之狭別島(アワジノホノサワケノシマ。淡路島)を始めとして、大倭豊秋津島(オオヤマトトヨアキヅシマ。本州)などの八つの島(大八島国)が、そのあと更に、六つの島が生まれました】
「ホンジさま、今夜は国生みの情景を見ますよ。といっても、決して気負わないように、お気持ちを楽になさってください」
アレがホンジの気を静めるように、落ち着いた声で言った。
ホンジは受けを何度か経験するうちに、早漏も治ったように感じていた。それでもまだ不安が残っていた。今回は男女交合の儀式を見るのだ。はたして平常心でおれるか。
ホンジが四つん這いになったアレの背後に突き入れると、アレが気を引き締めるように声をかけた。
「さあ、行きますよ」
目の前がぼやけたと思ったら、情景が浮かんできた。全体に霞がかかったように、不鮮明だった。まだ合体転移の術が完全ではない、ということだろう。
高天原でイザナキとイザナミが天つ神たちから命令を受ける場面、天の浮橋の上で沼矛をさし降ろしてオノゴロ島が出来る場面が連続して流れた。
島に降りた二柱の神の会話が聞こえてきた。
イザナキ「おまえの身体はどうなっている」
イザナミ「ほぼ出来上がっていますが、ひとつだけ欠けたところがあります」
イザナキ「私の身体もほぼ出来上がっているが、ひとつだけ余分なものがある。これでお前の欠けている部分をふさぎ、国土を生み出そうと思うが、どうだ」
イザナミ「いいですわ」
(二柱の名前のイザは、さあ!と誘いかける意があります。そしてキは男、ミは女の意です)とアレの思念が届いてきた。
二神は、天の御柱を左右から回り始めた。
(いよいよ二柱による男女交合の様子が見れる)
ホンジの心臓が高鳴った。
男女神による交合が始まったとき、それはホンジの予想したものではなかった。なにしろ神が国生みをするのだから、天地が鳴動して揺れ動くほどの激しいものだと想像していたが、二柱の交合は人間の営みのように、ごく普通のものだった。しかも陰部は布で隠されているので、結合部の状況も見えなかった。
それでもお互いを慈しむ気持ちが伝わってくるような、しっとりとした性交の様子に、ホンジのヘノコがアレの肉筒の中でぐんと膨れ上がった。
へそに力を入れて、ホンジはぐっと我慢した。
二柱による14の国生みが終わったとき、アレの思念が届いた。
(最初、イザナミが先に声をかけて障害児を生んで失敗し、イザナキが先に声をかけて成功した話は、男尊女卑、つまり男の優位性を説いているのです。――ではホンジさま、そろそろ戻りますよ)
現実世界に戻ったとき、アレがホンジに言った。
「ホンジさま、よく我慢しましたね」
言われたホンジは、すっきりしていなかった。彼の股間では精のはけ口を求めて、赤く膨れたヘノコがなおも生え立っていた。
「今夜はだめです。精力は大切に温存しておいてください」
ホンジの欲望を読みとって釘をさすと、アレは話を続けた。
「ところで、大八島の八つの島はどこであるか分かっているのですが、オノゴロ島は、はっきりしません。別れる意味のサワケノ島とあるように、おそらく最初に出来た淡路島の一部だと思うのですが――」
「わしもそう思った」
ホンジが同意すると、アレが話題を変えた。
「ところで、そろそろ旅をしませんか。あとの話の展開を考えますと、出雲の国がいいでしょう。合体転移の幻視だけじゃなく、実際その土地に行って調べてみるのも、編纂作業に役立つと思います」
「うむ、出雲の国か。アレは行ったことがあるのか?」
「ございません。途中の近江大津宮に住んでいたことはありますが――」
「大津宮にいたのか。わしも住んだことがある」
二人は共に近江大津宮にいたことがあると知って、にわかに親近感を覚えた。アレは天武天皇が大海人皇子と名乗っていて吉野に移ったときも、ずっと同行していたのだ。
「で、出雲に行くには、どれぐらいの日数がかかると思う?」
「おそらく行くだけで、20日くらいはかかるでしょう。ですから、旅の支度は万全の準備が必要かと思います」
ホンジは、すらすらと答えるアレに驚いたが、口に出しては言わなかった。
次の日から、二人は旅支度を始めた。料理用の鉄の鍋、米や塩・味噌の食糧、薬草類、替えの衣服と革靴、水を入れる皮の袋。交合の時に使う香油も忘れずに、荷物の中に入れた。
それに旅は、賊や獣に襲われる危険があったので、二振りの鉄の剣も用意した。
旅の準備があらかた整ったころ、二頭の馬が届いた。帝が官人に言って、届けさせたものだ。これは旅をするうえで、大いに助かった。
もっとも、アレは馬が初めてだったので、それは徐々に覚えながらということで、最初はもっぱら荷物運びに使うことにした。