「記紀」と称される「古事記」と「日本書紀」は、天武天皇の時代に編纂が始められ「古事記」は712年、「日本書紀」は720年に完成している。
この2大歴史書は、「帝紀」と「旧辞」という資料をもとに編纂されているにも関わらず、その構成や内容において異なる点が多い。
日本書紀が複数の皇族や官人で編纂された「正史」的な意味合いを持つのに対して、古事記は稗田阿礼(ヒエダノアレ)が口述した内容を太安万侶(オオノヤスマロ)が加筆修正したもので、壮大な物語風に仕上げられている。
私が中学生時代、心ときめかせて読んだのは、古事記の方である。古事記は多くの詩を織り込んで演出を加え、人間の愛情や哀切も描き、文学的色彩が濃い。
奈良を訪れたとき、私がいつも感じる大いなるロマンは、この古事記を読んだ夢多き中学生時代の感傷が引きずっているのではないかと思う。
古事記は一般に「コジキ」と読まれているが、「フルコトブミ」と読むのが正式のようである。また古事記の作成時期や真偽についても諸説あり、作者とされる太安万侶や稗田阿礼についても、色々と謎は多い。
しかし本書は私の書いた小説であるから、例によって、何が正しいとか何が間違っているとか、一切お構いなしである。独断と偏見、魑魅魍魎、嘘八百、百花繚乱――もう何でもありである。単に余生を傍若無人に生きていく、年寄りの戯れ話としてお読みいただければ、幸いである。
