紳士は咥えるのがお好き

啓蟄を過ぎると、なんとなくムズムズする気分になる。頭に浮かんでくるのも、つい下ネタ絡みになりがちだ。
そこで思いついた――イラマチオって何?
私は知らなかったので、ちょっと調べてみた。語源はラテン語の「吸わせる」というirrumoからきていて、オーラルセックスの一種だそうだ。
では、イラマチオとフェラチオはどう違うのか?
ここからは、私の独断的解釈である。
要は、「吸わせる」と「吸う」の主語の違いだと思う。
分かり易くウケとタチの立場で説明しよう。
フェラチオは、ウケが主体となって咥えて「吸う」行為。それに対してイラマチオは、タチがウケの口を使って「吸わせる」行為。それもウケの後頭部を手で押さえつけて、かなり強引に咥えさせてやる行為のようだ。

そもそも、咥える(銜えるとも書く)とはどういうことか?
辞書をひくと二つの意味が書かれている。
1.物を口内に半ば含み、上下の唇や歯の間にはさんで押え、そのままの状態を保つこと。
2.従える。引き連れる。伴う。
2は浄瑠璃で語られているような古典語になっているので、もっぱら1の意味で話を進めていく。

あなたは「咥える」と聞いて、何を連想されますか?
おしゃぶり?――ああ、赤ちゃんに咥えさせる、おもちゃのこと。すぐ思いついたあなたは、小さなお孫さんがいるんでしょう。実際、まだ歯の生えていない赤ちゃんに指先をおしゃぶりされると、気持ちのいいものですね――はっ!何か良くないことを言ったような――。
咥え込む?――咥えるより強い意味になる。奥深くしっかり咥えるイメージ、あるいは、密室に引っ張り込まれる光景を連想させる。
そのほか、花を横咥えすればフラメンコ、指を咥えれば、うらやましがりながら何も出来ない情景が浮かんでくる。
このように、何を咥えているかで、さまざまな状況や場面が変わってくる。
今回は紳士が主語になっているので、咥える対象を絞って考えてみよう。

まずは「咥え楊枝」。
1970年代のテレビドラマで、「木枯らし紋次郎」なる番組があった。いわゆる股旅物で、「あっしには関わりのねぇこって」の決め台詞のように、他人との関わりを嫌う主人公のニヒルな生き方と、それを演じる中村敦夫のクールな風貌が見事にマッチして、大好評を博した。
当時は紋次郎の真似をして、咥え楊枝で街を歩く男性の姿を、よく見かけたものである。

つぎに「咥えタバコ」。
(禁煙運動の盛んな今の世の中では、ひんしゅくを買いそうだが――)
私はまずハンフリー・ボガートを思い浮かべる。ハードボイルド・スターとしての地位を確立したころの、ボガートの格好良さ!
険のある風貌に大人の哀愁を漂わせ、タフでダンディーなヒーロー役。ソフト帽を目深に被り、トレンチコートの襟を立て、紙巻きタバコを斜めに咥えたスタイルは、彼のトレードマークとなった。
そのボガートの真似をした、咥えタバコから始まる名画もある。ジャン=ポール・ベルモンドの映画「勝手にしやがれ」。
若きベルモンドがボガートのポスターの前に立って、同じようなポーズでタバコを咥え、ソフト帽の傾きをちょっと直す。ここから映画がスタートする――。
これが同じタバコでも、「咥えギセル」となると、歌舞伎や浮世絵のような、日本の古典的風景が浮かんでくる。

こうしてみると、同じ咥えるでも、楊枝やタバコは男を格好良く見せる、小粋でおしゃれなアイテムだったと言えよう。
でも、格好良いハードボイルドに付きものの拳銃――この銃口を口に咥えるとなると――そこはもう、世をはかなんだ光景しか見えてこない。
ちょっとSМ風になると、「猿ぐつわ」と「口かせ」がある。
猿ぐつわは何となく分かるが、口かせというのは、もうひとつイメージが湧いてこない。そこでまた調べてみた。
――口の中に、ゴムやラバー質のものを入れて、歯を押え、取り付けたバンドを後頭部にまわして固定する器具。言葉を発したり舌を噛み切ったりという行為を防ぐほか、開いたままの口中に何かを挿入する用途でも使われる――。

話がマニアックになりそうなところで、ネタも尽きた。このへんでおしまいにする。
えっ、咥えるのなら、まだ肝心のモノが残っているだろうって?
ええっと――ごめんなさい。思い当たりません。



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