(2)
清司が道舟斎の家に来て、3ヶ月ほどが経った。
その日の夕方、清司は道舟斎に稽古をつけてもらっていた。普段は滅多にない師匠の直接指導に、清司は心弾ませていた。
組手は、道舟斎が「取り」、清司が「受け」で行われた。投げを打つとき、道舟斎の手が、股間や尻に触れることが多いように感じられた。
そのうち清司は、異様な感覚にとらわれてきた。なにかウズウズとした力が湧き出るような、それでいて思いっ切り苛められたいような、不思議な感覚だった。
その感覚は、性的倒錯に近いものだった。
稽古が終わったとき、清司は頬をバラ色に染め、息を弾ませていた。それは必ずしも、疲労に因るものだけではなかった。
その夜、清司は、道舟斎の部屋に呼ばれた。夜具が敷かれ、その横に道舟斎が端座していた。薄明かりの中で、浴衣姿の小さな体が、清司の官能を刺激した。――昼間、稽古のとき覚えたウズウズとした感覚が甦ってくる。
彼の心を読み取ったように、道舟斎は静かに話し出した。
「以前、お前は男たちに犯されかけた。そのとき受けた傷も治ったようだな」
清司は、道舟斎が何を言おうとしているのか分からないので、黙って聞いていた。
「どうだ、わしに抱かれてみるか」
清司はハッとして、道舟斎を見た。からかっている顔ではなかった。
「お前を見ていると、気脈をあまり開いていない。体中の経路を開けば、お前の合気道もずっと前進する」
どうやら道舟斎に抱かれれば、清司の経路が開くということらしい。
「先生、お願いします」
清司は神妙に言って、頭を下げた。

「ああっ!あーっ!」
清司は声をあげ続けていた。
枯れた小さな手が、40男のみずみずしい肢体を這い回り、快感のツボを的確に刺激する。まるで清司の性感帯の全てを、熟知しているかのようだった。
触られた体のあちこちで、快感の渦が波状に広がり、融合し、より大きな快感の渦に呑み込まれていく。四肢がバターのように蕩けて、力が入らない。
清司は道舟斎の愛撫を受けながら、自分の体が男を迎え入れる乙女のように、濡れて、開いていくのを感じた。
やがて、尻だけを高く掲げてうつ伏せにされ、受け入れ体勢を取らされた。
(ああ、いよいよ女にされるんだ――)
募る興奮と不安のなかで、清司の体は震えていた。
道舟斎が背後からあてがった。じんわりと圧力が強くなる。紫がかった茶色に染まって、傘を開いた特大の松茸が、つつましやかな開口部を押し開いていく。
「あ――先生――」
「うん?」
「ああ――先生――」
清司はシーツにしがみついて、道舟斎の名を繰り返し呼んだ。そうすることで、少しでも苦痛から逃れようとした。
異様なほど発達したカリの部分が、肛門括約筋を極限まで押し広げていく。
清司はシーツを握り締め、顔を押し付けて、苦痛に耐えた。
「顎を大きく開け。丹田を意識しろ」
道舟斎の声が聞こえてきた。ともすれば漏れ出る泣き声を抑えて、清司は口を大きく開け、丹田に意識を送った。
少し楽になった気がする。
途端、亀頭がズルリと入ってきた。
「ひいっ!」
清司が悲鳴をあげたのもつかの間、道舟斎はそのまま奥まで入れてきた。
痛みを感じる間もなかった。70代の老いた肉根が、信じられない逞しさで、根元まで貫入した。
不思議なことに、苦痛が消え去っていた。
まるで、苦痛に満ちた外の世界から、快楽を呼び覚ます内側の世界に、肉の砲弾が突き抜けたようだった。
道舟斎はそのまま、内部の若い息吹を味わうように、じっとしていた。
清司は太い肉杭に貫かれたまま、息をひそめていた。まるで自分の尻の狭間が、巨大な女陰と化したような気がしていた。
道舟斎が腰をうねらせだした。
最初のうち、その動きは緩慢だった。内部のデリケートな快楽のツボを探るように、微妙に角度を変えながら、ゆっくりと抽送する。
やがて清司の体が馴染んでくると、一定のリズムで肉根を前後に擦りつけた。
ズニューウッ――ズッ、ズッ、ズッ――。
突き進むときは、よどみなく奥まで。
引くときは、三回に分けて、傘の開いたカリ首で擦るように。
合気道の三呼一吸と同じ要領だ。
逸物で腸壁を擦られながら、前に回した小さな手が乳首を揉みしだき、背中の溝伝いに舌がじんわりと舐め下がる。
清司はいきなり、快楽の真っ只中に引きずり込まれていた。あまりの快感に、どうにかなってしまいそうだった。
「ああーっ、ああーっ、ひいいっ!」
気絶しそうな深い快感の中で、善がり声が他人の声のように聞こえていた。
すっかり終わったとき、清司は半ば失神して、蒲団に突っ伏していた。
「とうとうセイちゃんも、先生のお情けを頂戴したようだね」
師範代の丸山が清司に近づいて、そっと耳打ちした。どうして分かったのかといぶかる清司の顔を見て、丸山はクスッと笑った。
「セイちゃんの顔艶を見ればすぐ分かるよ。先生のお道具で気を送り込んでもらえば、誰だって艶が出てくるからね」
老人はコロコロと太った体を、卑猥にくねらせた。
「これでセイちゃんも、私たちのお仲間だ」
道舟斎にはその後も、月に一回のペースで抱かれたが、いつも失神するほどの快感を与えられた。それも回を重ねるにつれ、清司の性感帯が磨かれて、ますます感じやすい体になっていた。一晩の交わりで、数回失神することもあった。
道舟斎の家で暮らし始めて、7年の歳月が流れた。清司はすでに50歳、中年太りが始まって、すっかり丸っこい体つきになっている。
超人的な道舟斎も、80歳を過ぎた頃から、清司たちを抱くことが無くなっていた。
そしてこの春先、風邪をこじらせて床に臥せり、そのまま帰らぬ人となった。
死ぬ間際、道舟斎はひとこと「そろそろ行くぞ」と言って、息を引き取った。
享年82歳、穏やかな死に顔だった。
「セイちゃん、これからどうするの」
「はあ、実家に戻るつもりです」
弟子たちが集まって、ささやかな葬儀を行った後、丸山が清司に話しかけた。丸山も72歳になって、すっかり好々爺然としている。
「昨年、父が亡くなりました。これからは母の面倒を見ます」
「それは感心だ。しかし、先生の亡くなった後、道場はどうするかなあ。坂本さん、あんた、先生に何か聞いていたかね?」
「いや、私は何も――」
坂本が困ったように顔を曇らせた。彼も64歳、今は退職して悠々自適の身だ。
「ふうん、てっきり先生は、あんたに秘伝を教えていると思っていたが」
丸山の言葉に、清司は質問した。
「秘伝って何ですか?」
「良くは知らんのだが――」
丸山は肩をすくめた。「もともと先生は、流派なんて堅苦しいことがお嫌いだった。それでも、独自の合気道を編み出したのは確かだ。いつだったか、先生はおっしゃっていた。どんな剛の者も、意のままにできる極意を編み出したって」
「ああ、それは私も聞いたことがある」
坂本が相槌を打った。
結局、道舟斎が秘伝をだれに託したのか、謎のままだった。いや、そもそも秘伝なるものが存在したのかも、不明だった。
その後、清司は母のいる実家で暮らすようになり、道舟斎のいない道場からも自然に足が遠のいていった。風の便りに、道場はサヨさんの息子が継いだと聞いたが、一度も行くことは無かった。
――**――
清司は65歳になっていた。
母が死んで、今は一人住まいだが、寂しくはなかった。近所に同年輩の男がいて、よく遊びに来たからだ。
この岡本千秋という男とは、合気道の縁で知り合った。
あけぼの町内に北井という造り酒屋があって、そこのご隠居も合気道をやっていた。
ご隠居は、自分の屋敷内に小さな道場を作っていて、その道場で清司と岡本千秋は、共に合気道の練習をしていた。
二人には共通項が多かった。年齢も、背の低い小太りの体型も。そして何より、男好きという性向も。
生憎、二人ともウケタイプだが、それでも楽しむ方法はいくらでもあった。
この日も千秋がやってきて、二人でイチャついているとき、千秋が言った。
「ところでセイちゃん、2駅先の太田道場って知ってる?」
もちろん清司のよく知っている道場だが、黙って聞いていた。
「そこの先生が、爺さんたちに大人気らしい。なんでもすごい技を持っているって」
千秋は、秘密めいた笑みを浮かべた。「技と言っても、寝床の技だよ」
清司はにわかに興味を持った。
(あの道場はサヨさんの息子が継いだと聞いていたが――たしか、親ちゃんだったな)
彼は、とぼけて訊いた。
「へーえ、チーちゃんも、その先生のお相手をしたことがあるの?」
とんでもない、と言うように、千秋は丸っこい肩をすくめた。
「私には、北海道に大切な人がいるんだ。いくら遠方にいるからって、浮気はしないよ。私は身持ちが固いんだ」
「じゃあ、今、ぼくとやってるのは何だい?」
千秋は、口に含んだ逸物から顔を離すと、何を言ってるんだという顔で清司を見た。
「こんなの浮気の内に入るか。ちっこい松茸を、おやつ代わりにしゃぶってるだけじゃないか」
次の日の昼下がり、清司は電車に乗って、なつかしい太田道場を訪れた。道舟斎が死んでから15年ぶりだった。
清司は外から道場を覗いて、オヤッと思った。思いの外、活気があるのだ。子供が10人ほど。それに混じって、5、6人の爺さん連中がいる。
彼らを指導する50歳くらいの恰幅の良い男は、頭が薄くなっているが、見覚えがあった。愛嬌のある童顔――サヨさんの息子、親一だった。
15年のブランクがあったが、親一は清司を覚えていた。
「清司さんは、素敵なお爺ちゃんになりましたね。どうですか、久しぶりに稽古をしますか」
親一は、目も口元も和ませて、愛想良く言う。
さっそく清司は道衣に着替えて、親一と組手稽古をした。
ほどなく清司は、奇妙な感覚にとらわれていた。年齢や体格は全く違うが、親一が道舟斎に思えてくるのだ。――技を掛けられた時に覚える、ウズウズとした感覚も。
清司は疲れたわけでもないのに、頬を染め、息を弾ませていた。
その夜、清司は親一の部屋に泊まって、大きな体に抱かれていた。
どちらから誘ったわけでもなかった。ただ自然に、そうなっていたのだ。
親一と同衾して、再び、道舟斎に抱かれているような錯覚に捕らわれた。
胡座を組んだ親一の大きな体にすっぽりと抱かれ、清司は思わず声が出るほどの快感に、我を失っていた。
口を吸われ、乳首を吸われ、肉厚の手が尻を揉みほぐす。
快感で蕩けた体の中心部を、太い逸物がズグズグと突き上げる。
ああっ!いやっ、いやっ!――あっ、いい――。
清司は声をあげて泣き、親一の大きな体にしがみつき、尻をくねらせた。太い陰茎を呑み込んだ菊門が、盛んに収縮を繰り返す。
熱いうねりが股間から、体の芯を通って脳天に突き抜ける。死ぬほどの悦びに、意識が遠のいていく――。
自分を取り戻したとき、心配そうにのぞき込む親一に気づいた。
「ああ、ようやく気がつきましたね。清司さんの反応が、あまりに激しいので、びっくりしました」
肉付きのよい顔の中で、小さな目がいたずらっ子のように輝いている。
その目を見て、清司は唐突にひらめいた。
サヨさんの大きな体に種を仕込んで、親一を産ませたのが誰だったのか。そして、親一の神業とも思える性技を受けて、ふと思った。
(――先生の秘伝とは、このことだったのじゃないか)