私の好きな作家のひとりは、アガサ・クリスティーです。
彼女が書いた推理小説に登場する主人公のエルキュール・ポワロは、映画やテレビで、多くの俳優によって演じられてきました。
中でも私が好きだったのは、ピーター・ユスティノフです。映画『ナイル殺人事件』に出てくる白いスーツ姿のポアロ――恰幅の良い大柄な身体つき、淡いグレーかブラウン混じりの白髪、ときどき股間に浮き出る太いふくらみ。原作のちび・でぶイメージとはだいぶかけ離れていますが、肉付きの良い温厚そうな顔とゆったりとした仕草は、世のフケ好きにとって垂涎の的ではないでしょうか。今は亡き有名な映画評論家の淀川長治さんは、生涯独身を通して男好きでしたが、ピーター・ユスティノフがお気に入りだったとか。
さて、アガサ・クリスティーに比べて、いささか脳の質は劣りますが、私も彼女に倣って「カンパニー」を書き進めてきました。私が約40年間に及ぶサラリーマン生活で見聞きしたことをベースに、妄想を逞しくして企業犯罪をテーマにしています。
また、アスカビルとメディア21という二つの企業を舞台にしているだけに、登場人物もざっと50人以上になりました。
これだけ多くの登場人物がいると、読者もさぞかし混乱していることでしょう。
そして私自身も、必然的に、多重人格にならざるを得ません。それぞれの登場人物になりきって、思考し、行動し、会話をしなければならないからです。
男、女、偉そうな人物、気の弱い人物。年配、若輩。はたまた、悪い奴――等々。
この小説を書き終える頃には、立派な多重人格者が出来上がっていることでしょう。
