(2)
宿舎の部屋に戻ったとき、千秋は無口になっていた。
露天風呂で目撃した、年配の男たちの行為。そして、永井の勃起した性器を目にしたときの衝撃。それらが脳裏で渦巻いていた。
そんな千秋の心を読み取ったように、永井は彼の体を無造作に抱きしめた。ついで、唇が押し付けられてくる。
(えっ!えっ!)
驚く千秋にかまわず、永井は口づけをしながら、千秋の手を取り、自分の股間に導いた。恐る恐る握ると、すぐに芯が通って、グングン成長する。
反応の良い66歳の逸物に、千秋は新鮮な驚きを覚えた。
永井が浴衣の前をはだけ、自ら越中を外した。――グンと弓なりに反る逸物。
それを目にした途端、千秋の頭の中で何かが弾けた。
彼は引きずり込まれるようにしゃがみこんで、目の前の股間に顔を埋めた。
あぐ――んぐ――。
口をいっぱいに開けて、張り詰めた亀頭を頬張った。
「おおっ!」
永井が驚いて、両手で千秋の頭を挟んだ。
たちまち口の中の逸物が膨張して、力強く脈動しだした。息苦しさよりも興奮で、心臓が破裂しそうに高鳴った。
あまりにも太くて、舌を使う余裕はなかった。そのままゆっくりと奥の方に呑み込んだ。先端が喉の入り口に突き当たって、思わず、むせ返る。
んぐう――ぐふっ!
隆起した陰茎がビクンと動き、頭の上のほうから、永井の気持ちよさそうな声が聞こえてくる。
千秋はマゾ的な喜びに圧倒された。
自ら喉の苦しさを求め、全長を呑みこもうとした。
両手で永井の大きな尻を引き寄せながら、ググウッと呑み込んでいく。
膨れ上がった亀頭が、喉粘膜を押し広げながら、食道のほうへと侵入してくる。
んん――ぐううっ――。
息苦しさに胃が痙攣する。涙がにじみ出た。
実際は全長の3分の2ほどしか呑み込んでいなかった。苦しさをこらえていると、不思議な喜びが湧いてくる。――逞しい男を我がものにした喜び。
永井は腰を引いて離れると、千秋にささやきかけた。
「今夜は、私を受けてみるか」
千秋は経験がなくても、相手の言っている意味を理解した。唾液に濡れて禍々しく張り詰めた男根は、見ていて恐ろしくなるほどだった。
(こんな大きなものが入るのか?)
――怖かった。
しかし、それ以上に好奇心のほうが強かった。千秋は、訴えるように永井の顔を振り仰いで、小さくうなずいた。

千秋は浴室に連れて行かれ、徹底的に直腸を洗浄された。こんなことをされるのは、予想外のことだった。腰を屈め、恥ずかしい部分を晒して、心まで裸にされた気分だった。
しかし、部屋に戻ってからの永井は優しかった。
布団の上で裸になり、ゆったりと時間をかけて、千秋の全身を愛撫した。
大きな手が大胆に、それでいて芯は優しく、肌の上を滑り、それを追いかけて、器用な舌が繊細に這い回る。
あちこちで湧き上がった小さな快感の渦が、合流し、増幅し、大きな快感の波となって押し寄せてくる。
やがてうつ伏せにされ、尻を開かれた。
ヌメっとした舌が肛門を舐め始めたとき、未知の快感が湧いてきた。どこか自分の知らない領域まで押し上げられていく、不安な昂ぶりを覚える快感だった。
その内、舌に代わって指が、開口部を拡げ出した。先を急がず、じんわりと、それでいて明確な目的意識を持った指の動きだった。
(ああ――女にされていく)
苦痛と奇妙な快感のなかで、千秋は倒錯した思いに興奮した。
「入れるぞ。最初は痛いけど、我慢できなければ言ってくれ」
永井の声がして、尻が引き上げられた。ついで肛門に、暖かいものが押し当てられる。
(今まで女しか知らない自分が、男に犯されようとしている)
その思いは圧倒的で、千秋の体は小刻みに震えた。
不安と興奮に包まれる中、男のモノが入ってくる。それと共に、自分の体が大きく押し開かれていく――。
苦痛が増してきた。
千秋はシーツにしがみついて、苦しさに耐えた。我慢できなければ言えと永井は言ったが、
全部受け入れてみたいという思いのほうが強かった。
それに意地もあった。
「口を大きく開けてみろ。そのほうが楽になる」
永井に言われるまま、千秋は口を開けた。少し苦痛が薄らいだ気がする。
永井がグイと力を込めた。
ひっ!うわあっ!
カリの部分が通過したとき、思わず声が出た。
それで終わりではなかった。張り詰めた男根が奥の方に入ってくるにつれ、苦痛が増大した。千秋はシーツを握り締めて、痛みを我慢したが、ともすれば泣き声が漏れ出てくる。(ああっ、もうダメ!)
その時、苦痛の塊がズルッと退いた。
「今晩は、このへんにしておこう」
永井の声が聞こえた。
中途半端な気分だった。確かに苦しみは大きかった。しかし千秋は、最後まで入れてくれ、と永井に懇願した。
とうとう根負けした永井が、再度入れてきた。
苦労の末、二人の下腹部が密着したとき、永井がそっと伝えた。
「全部、入ったぞ」
千秋は感動した。
(とうとう自分は、大きな男を受け入れた)
その思いは圧倒的で、痛みがどこかに消え去ったようだった。
しかし、永井は動かなかった。根元まで挿入したまま、千秋の体が大きさに馴染むのを待つように、じっとしていた。
しばらくして、千秋の体から引き抜いて、言った。
「合気道の練習と同じだ。最初から無理をする必要はない。続きは明日だ」
次の夜、永井はふたたび千秋の体に入ってきた。その苦痛は相変わらずだったが、我慢できないほどでもなかった。
永井はいったん道をつけると、今度は体位を変えて、前から挿入しようとした。
大股開きに秘部を晒し、しかもお互いの顔が見える体位に、千秋は両足を抱え込みながら恥ずかしさで一杯だった。
永井が千秋の顔を見ながら、ゆっくりと入れてきた。
体内に侵入してくる男根の感触が、背後から入れられる時と違っていた。今度の方が苦しかったが、逆に、相手の動きが見える安心感があった。
永井は先を急がず、千秋の表情を見ながら、ゆっくりと挿入行為を続けた。
千秋はふと、開腹手術を受けているような気分になった。それも、信頼のおける名医のもとで、安心して身を任せているような気分だった。
永井が完全に入り込んだ途端、どんでん返しが起こった。
まるで苦痛のトンネルを抜けて、めくるめく快感の世界に入り込んだようだった。
千秋は思わず喜悦の声を上げていた。
その変化を、永井も感じたようだ。彼は緩やかに腰をうねらせだした。
永井はあごを心持ち反らせて、目を閉じ、口をわずかに開けている。快感にひたるその顔を見ていると、むしゃぶりつきたくなるような愛情が募った。
動きが徐々に大きく、変化を付けて、千秋の小さな体内を滑脱する。
荒い吐息に、甘い善がり声が絡まった。
忘れていた力が甦り、グングン上り詰めていく。
千秋は永井の全てを受け入れようとした。両足で永井の腰を締め付け、自らも尻をうねらせた。
最後の瞬間、永井はくぐもった呻き声を上げて、腰を強く押し付けてきた。
その途端、体内で何かが迸るのを感じた。
すっかり終わったとき、千秋は大きな胸にしがみついて、むせび泣いた。初めて女にされた悦びを噛みしめながら――。
――**――
阿蘇から戻った千秋は、ごく平凡なリタイア生活を送り始めた。
合宿で初めて経験した、男色行為を忘れたわけでは無かった。あのとき、残り日数を惜しむように、毎晩、永井の蒲団にもぐり込み、愛を受けた。
しかし、日常生活に戻った千秋は、あの時のことを「火の国、阿蘇のもたらした熱情」と片付けていた。
札幌に戻った征四郎とは、全くの音信不通だった。というよりも、もともとお互いの住所すら知らせていなかった。
それから4年が経過した。
千秋はリタイア倦怠期に入っていた。合気道の練習や、趣味の旅行も滞りがちだった。
永井征四郎の記憶は薄れたが、不思議なことに、彼への思慕の念は強まっていた。顔もはっきりと思い出せない人物に対する、憧憬だった。
夜、蒲団にもぐり込んでいるとき、パンツの後ろに手を入れて、指を尻の窪みにそっと押し当ててみる。菊座にツンと走る淡い快感。永井に押された刻印の感触が、鮮明に蘇ってくる。
しかしもう永井はいない――。やるせない思いが募った。
11月の始めに、娘の結婚式があった。
千秋はその日、女房に急き立てられて、早めにホテルに行った。女の衣装は時間がかかるので、モーニングに着替えた千秋は、親族待合室で時間をつぶした。
一時間ほどして、和服に着替えた女たちが戻ってきた。
そして程なく、娘と新郎が姿を現した。
純白のウエディングドレスに身を包んだ娘を見て、さすが千秋も目頭を潤ませた。
「孝子、綺麗だ。本当に綺麗だよ」
「有難う、お父さん。母さんの若い頃にそっくりだ、なんてノロケないでね」
「けっ、そんなこと言うか!お前は私似なんだよ」
「あなた、何か言いました?!」
背後から淑子の声が飛んだ。
それまで会話に加われなかった新郎が、横からおずおずと言った。
「あのう、これからお義父さんに、私の両親を紹介したいんですけど――」
千秋は、冷たい視線を新郎に向けると、皮肉っぽく言った。
「それは有難う。式の直前になって、気を使ってもらって」
言った途端、淑子が厳しい声で叱った。
「あなたっ!それはないでしょう。結納のとき、津田さんのご両親が来られたのに、あなたは用事があるって、すっぽかしたじゃない」
「すっぽかしたんじゃない。本当に大切な用事があったんだ」
「あらっ、結納は大切な用事じゃないって、おっしゃるの?」
やっぱり口じゃ、女房にかなわない。千秋は完全に黙り込んだ。
新郎の両親が待つ部屋に入った途端、千秋はアッと驚いた。なんと、阿蘇の合宿で一緒だった、永井征四郎がいたのだ。
征四郎は穏やかな笑みを浮かべて、頭を下げ、そして千秋に話しかけた。
「お久しぶりです。阿蘇の合宿では、大変お世話になりました。」
「――」
千秋は、何とも答えようが無かった。
「あら、津田さんは、うちの主人とお知り合いでしたの?」
淑子が、怪訝そうに尋ねた。
征四郎は、彼女の疑問に答えた。
「お名前を伺って、ひょっとしたらと思っていましたが、今、岡本さんのお顔を拝見して、阿蘇でお会いした方だと確信しました」
それから、千秋のいぶかる顔を見て、微笑んだ。
「結納のとき、奥様にお話しましたが、お恥ずかしながら私たちは離婚しています。私は入婿だったので、離婚したとき津田姓から元の永井姓に戻しました。でも子供の結婚式の時は、両親の姓が違うと、いちいち説明するのも面倒なものですから、津田姓を名乗るようにしています」
確かに津田夫婦、いや元夫婦と言うべきだろうが、二人の間には、他人行儀的な雰囲気があった。
そして、疑問の解消した今、征四郎の顔を見ていると、胸に熱いものがこみ上げてくる。4年ぶりの再会――千秋が65歳だから、永井はもう70歳になるはずだ。それにしても肌ツヤが良く、体の調子はすこぶる良さそうだ。
そのとき征四郎が、千秋の顔を真っ直ぐに見ながら言った。
「私はしばらく東京にいます。どうですか、久しぶりに再会したんだ、ご都合がよろしければ、お付き合い頂けませんか」
征四郎の横で、元夫人が元夫の顔をチラリと見て、わずかに眉をひそめた。
それに気づいた千秋は、二人が別れた理由をなんとなく理解した。
千秋は、弾む気持ちを押さえて、真面目な口調で返事をした。
「いつでも結構ですよ。私はサンデー毎日ですから」