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カンパニー(第1章 新会社設立) - (8)
(8)

「どうだ、最近の重役どもの様子は?」
神山薫は自宅のマンションでくつろいでいた。秘書の宮内がコーヒーを出し、向かいに座って話相手をした。
「お坊ちゃまの評判は、あまりよろしくありません。とくに藤沢常務は、お坊ちゃまの人格を厳しく見ているようです」
薫は秘書の顔をジロリと見た。
「おれの人格?おまえ、また藤沢に余計なことをしゃべったのじゃないだろうな?」
宮内はあわてて否定した。
「滅相もございません。私はお坊ちゃまの味方ですよ」
「ふん、味方かどうかは、お前の体に聞いてやる。ちょっとこっちに来い」



一時間後、薫はまだ息を弾ませながら、ベッドに横たわる宮内の裸体をいじっていた。
「お前、また太ったんじゃないか」
ふっくらとした肌をまさぐりながら、彼は言った。そこでふと思いついたように、宮内に命令した。
「宮内、あした藤沢のところに行け」
それまでぐったりとしていた宮内が、上半身を起こして、怪訝そうに主人を見た。
「何をしたらよろしいんでしょうか?」
「藤沢をこのマンションに連れて来い。重役どものボスはあいつだ。だから、一度、可愛がってやる。あいつさえ手懐ければ、他のやつらは押さえたも同然だ」
宮内は理解した。お坊ちゃまが可愛がってやると言ったら、今、彼の身に起こったことをやろうとしているのだ。裸にされ、尻を揉まれ、特大の性器を突っ込まれて――先ほどの苦痛を思い出して、彼は思わずひるんだ。
「あのじじい、生意気にも、おれに意見しおったからな。いつかやっつけてやろうと思っていたんだ」
薫は指であごを撫でながら、ニンマリとした。

「なんだね、宮内くん、改まって?」
「実は常務だけに、内密のお話がありまして」
宮内は神妙な顔をして、藤沢の部屋に来ていた。
「内密の話?なんだね?」
宮内はおずおずと言った。
「神山社長のことです。社長は最近、精神的にまいっているようです」
「神山社長が精神的にまいっている?そういえば、最近、様子がおかしいと思っていたけど――それで原因はなんだね?」
「それが――原因はあなたなんです」
「私が?――また、どうして。私がなにをしたんだね?」
「前に常務が、社長を厳しくたしなめられたことです。もっと真面目に人間をやれ、と。あの言葉は、あの方にとって、相当にショックだったようです」
藤沢は戸惑った。まさかあんなことで社長が傷つくとは――。

宮内は、藤沢の心を見透かしたように言った。
「常務には信じられないかもしれませんが、あの方は口では強がりを言っていますけど、けっこう繊細なんです」
「でもどうして、私のような年寄りが言ったことを、社長が気にするんだね?だって社長はいつも、私たち重役を手玉に取ってたじゃないか」
「それは常務が、社長の生い立ちをご存じないからです」
「社長の生い立ちが、どう関係するんだね?」
「あの方はお生まれになってすぐ乳母の手に預けられ、物心ついてからは家庭教師に育てられました。いつもあの方のまわりにいるのは、世話係の使用人ばかりだったのです」
「ふーん、私には想像もつかない世界だけど、結構な生活じゃないのかね」
「そうでしょうか?あの方は、ご両親の温もりを知らないんです。お母さまが添い寝をしてくれたり、お父さまが一緒にお風呂に入ってくれたり――そんな経験は、あの方にはまったくないのです」
「――」
「そんなことから、あの方はずっとご両親の愛情に飢えていたんです。特に、家ではめったに顔をあわせなかったお父さまには――」
「――」
「あの方があなたたち年配の方に、失礼なことをしたり言ったりするのは、お父さまに対する愛情の裏返しなんです」
「と言うと、私は社長のお父上の代替えだと言うのかい?」
「そんな単純なことではありませんが、まあそうだとも言えます。あなたたちに嫌われて社長は相当ショックを受けたようです」

藤沢は考え込んだ。名家の生活がどんなものか想像もつかないが、少なくとも神山薫の子供時代に同情した。宮内の話からすれば、家庭的な雰囲気は無いに等しかった。
藤沢は訊いた。
「それで、私はどうすればいいんだね?まさか社長を、子供のように慰めてやるわけにもいかないだろう?」
慰めるという言葉に、宮内の体がぴくりと反応した。彼は気を取り直して言った。
「一度、社長のマンションに来られて、じかにお話してください。話す内容はなんでもいいんです。できれば仕事を離れたことを話してくだされば」
「そんなことなら、お安いご用だ。いつでもいいよ」
藤沢はあっさりと承諾した。「しかし、神山社長も幸せ者だな。きみのような主人思いがいるんだから。いつから彼に仕えているの?」
宮内は複雑な表情をした。彼は下唇を湿らせて、慎重な口振りで返事をした。
「私は20年ほど、神山家に仕えています。お坊ちゃまのお世話は、大旦那様に言われて3年ほど前から始めました」
「ふーん、きみもいろいろと苦労はあったんだろうな。なにしろあのお方に仕えてきたんだから。――わかった、ほかならぬきみの頼みだ。私はきみに協力するよ」

藤沢の言葉に感激したのか、宮内の目が湿っていた。彼はもじもじとして、藤沢の部屋にとどまっていた。
そんな宮内を見て、藤沢は明るい声で言った。
「さあ、きみはもう行きたまえ。予定が決まったら、私はいつでも社長のところに出向くから」
「それは――駄目です」
思わず言ってしまって、宮内は両手で口を押さえた。
「駄目――?」
藤沢が不思議そうに宮内を見た。「だって、きみが頼んだことだぞ」
宮内は頭を下げた。
「すみません!本当のことを話します」

それから10数分後、藤沢はあ然としていた。
宮内の話したことはあまりにもあほらしくて、俄かには信じられなかった。このまま神山社長の家に行けば、彼の身に何が起こるのか。そこで彼は、ある作戦を思いついた。

――◇――

神山薫はそわそわとして、部屋を行き来していた。
「遅い――遅いな」
薫は秘書に声を掛けた。「おい、宮内。じいさん、本当に来るのか?」
「来られますよ――お坊ちゃま。まだ予定より5分遅れているだけです」
宮内は不満たらしく言ったが、その顔には、どことなく後ろめたい表情もあった。
それから遅れること10数分で、藤沢が姿をあらわした。
薫は内心の苛立ちを押し隠して、藤沢を迎えた。
「いらっしゃい。あまり遅いんで、もう来られないかと思っていたところです」
彼は旧来の友のように、藤沢の腰に腕を巻き付けて、リビングのソファーに導いた。
「遅くなって、すみません。道路がちょっと混んでおりまして」
藤沢が申し訳なさそうに言った。
「いえいえ、とんでもない。さあ、どうぞお掛けになって。宮内、水割り!」
宮内が二人にウイスキーの水割りセットとツマミを出して、奥の部屋に引っ込んだ。

薫は改めて藤沢の顔を見ると、生真面目な態度で言った。
「宮内から聞きましたが、なにか私にお話があるとか」
(自分で宮内に命令しておきながら、とぼけおって――)
藤沢は内心、苦笑したが、何気ない顔つきで言った。
「いえいえ、たいしたことではございません。ただ最近、社長とあまりお話しする機会がありませんでしたから、一度、プライベートにお会いしたいと思っていたところです」
薫は嬉しそうな顔をした。
「藤沢さんなら、いつでも大歓迎ですよ。それで、お話とは?」
「いえ、立ち入ったことを伺うようですが、社長はご立派なご家族がおありなのに、どうして一緒に住まわれないのだろうか、と」
「――いろいろと事情がありましてね」
答える薫の声に、少し不機嫌そうな調子が混じっていた。
「どんなご事情ですか?」
訊ねたあと、藤沢はあわてて言い直した。「あ、いや――もしお差し支えなかったら、お聞かせ願えないかと思いまして」
「だったら、差し支えありますから、話せません」
いまや薫は、不快そうな声の調子を隠さずに言った。
「あ、失礼しました。お機嫌を悪くされたのなら、謝ります」
「いえいえ、構いませんよ。ところで、こんどは藤沢さんのことを聞かせてください」
「私のことですか――どんなことをお話しましょうかな?」

あくまで慇懃無礼に受け答えする藤沢に、薫はいらだってきた。彼は藤沢に聞いた。
「たとえば、男色のこととか。それだけ艶やかなお顔をされてるんだ。男性から言い寄られたこともお有りじゃないですか?」
藤沢はあっさりと答えた。
「ええ、昔あるお方にお世話になりまして――。たまたまそのお方が、その方面の趣味がおありで、お付き合い致しました。でも、そんなのは麻疹のようなものですよ。すぐ正常に戻りました」
藤沢が男と付き合ったことがあると聞いて、薫は内心驚いたが、そんなことはおくびにも出さず、意地悪く訊いた。
「もう一度、麻疹に罹りたいと思うことはありませんか?」
(やはり、そう来たか――)
藤沢は澄ました顔で言った。
「それはお相手次第です。でも少なくとも、相手構わずやりたがるお方は、敬遠したいですね」
一瞬、薫は、藤沢の顔を訝るように見た。
「それって、ひょっとして私のことを言ってるんですか?」
「おや、そんな風に聞こえましたか?」と藤沢。

そこで薫はプッツンした。彼はがらりと声の調子を変えて、藤沢に言った。
「さっきから、チクチクとおれを刺すようなことを言いおって――じいさん、おれに何の恨みがあるんだ」
「べつに恨みなどございません。正直に申しますと、私は社長が好きです。ただし、前に申し上げましたように、もっと真面目に人間をやっていただきたいと思っています」
「効いた風なことをぬかしおって。おれが好きなら、これから可愛がってやる」
藤沢は少しも動じなかった。
「ああ、ようやく本性をあらわしましたね。そんなことじゃないかと思っていました」
「そうかい。そこまでお見通しなら、おれもやりやすいぜ。さあ、こっちに来な」
薫が手を伸ばした。
藤沢は社長の手から逃れて、きっぱりと言った。
「待ちなさい!その前に条件がある。今後あなたが真面目に人間をやること。それから、ご家族と一緒に暮らすように、奥様やお父様と話し合うこと。このふたつを誓いなさい」
すかさず薫は、胸に手を当てた。
「私は誓います。今後真面目に人間をやります。家族とも一緒に暮らすよう努力します。アーメン」
彼は早口で言うと、藤沢に襲いかかった。

「さ、さ、じいさん。まずは裸になれよ」
「待ちなさいっ!」
服を脱がされながら、藤沢は叫んだ。「口先だけじゃなく、誓約書を書いてください!」
薫は老人の言葉を、ちっとも意に介さなかった。
「面白いじいさんだぜ。誓約書はあとで書いてやる」
薫は藤沢のズボンのベルトに手をかけた。二人はもみ合ったが、力の差は歴然としていた。藤沢はソファーに押さえつけられ、ズボンを引きおろされた。
「思ったとおりだ。可愛らしい尻をしてるじゃないか」
「やめてください。やめて――」
藤沢は喘ぎながら叫んだ。「そろそろ、お客さまが来られる!」
薫の手の動きが止まった。
「なに!誰がくるんだ?」

そのとき、まさに絶妙のタイミングでチャイムが鳴った。
それまで隣室のドアの裏側で、耳を澄ませて事の成り行きをうかがっていた宮内が、いそいそと玄関に向かった。
玄関から聞こえてきた声を聞いて、薫はギョッとした。彼の父親、神山一郎の声だった。彼はバネ仕掛けの人形のように、藤沢の体から離れた。
「バカ、早くズボンを履かんか!」
[19/01/11 07:07 神亀]
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