目 次
あけぼの町物語(前編) - 第1章 馬と大福(2)
(2)

それはふいに襲ってきた。
昌三は声も出せず、強烈な快感にのけ反った。全身が瘧(おこり)にかかったように打ち震える。射精するときの絶頂とは明らかに違っていた。体の奥底から湧きあがってくる、なんとも表現しようのないものだった。
(ああっ、死ぬう!)
彼の心を読み取ったように、体内を滑脱する動きが止まった。
そして安息の闇が押し寄せてきた。

意識を取り戻したとき、長い顔がじっと見つめていた。
「気が付いたか?」
達雄がそっと問いかけた。どうやら気を失った昌三を、ずっと見守っていたようだ。
見慣れてくると、達雄の長い顔も、本当に良い男だと思えてくる。
昌三は気だるげに訊いた。
「どれくらい――」
「ああ、ほんのちょっとの間だ」
答えたあと、達雄は顔を寄せて唇を吸った。
ふたたび陶然とした気持ちになってくる。そのまま両足のひざ裏を抱え込まれ、丸めた尻の狭間に硬直したオトコが入ってくる。
――あああっ!
菊襞が極限まで押し開かれ、奥深くまで入ってくる。
根元まで完入したところで、しばしとどまる。
(これが女の悦びなのか)
昌三は、ツボに嵌った充実感にうっとりとした。
やがて、達雄がゆるやかに腰をうねらせだした。ふたたび、じくじくとした快感の渦が湧きおこる。
――はあっ!いいぃっ!
未明の部屋に、昌三の声が染み渡った。



ふたりが同棲を始めて、早くも半年が経つ。
東京近郊、あけぼの町にある間原達雄の家は、一戸建てだが、2DKの古くて狭い住居だった。それでも菜園のできる小さな庭があるだけましだった。
達雄は会社勤めをしているので、家事は昌三が受け持った。
毎日、達雄を会社に送り出したあと、掃除、洗濯、それから食料や日用品の買い物と、かいがいしく主婦業をやった。
田舎育ちの昌三にとって、都会の生活は目新しいものだった。スーパーや利便施設は大きくて、交通機関も発達している。
それに、どこへ行っても人で溢れていた。
すべてが発達し過ぎて賑やかな環境に、最初のうちは落ち着かず、疲れ易かった。
あまり好きでなかった農作業が、懐かしくなった。ふと思い立って、狭い庭を耕し、ナスやキュウリ、トマトなどを作り始めた。
昌三は都会の雰囲気が好きになれなかったが、間原達雄との生活には満足していた。達雄はぶっきらぼうな口利きをするが、性根は優しい男だった。
昌三は64歳、達雄は52歳。年齢はちょうどひとまわり離れていたが、二人の立場は逆だった。昌三がわたし、あなたと言うのに対し、達雄はおれ、おまえだった。

達雄が仕事から帰って来てからの、夜の時間は楽しみだった。精力絶倫の達雄は、ほとんど毎晩のように昌三を愛してくれた。
「おまえの体はめったにあるものじゃない。男を喜ばせるように、神様が作ったんだ」
達雄は交わったとき、よく言う。
その夜も練熟の腰遣いに、気の遠くなりそうなほど高みに押し上げられ、絶頂を迎えたあとだった。
うつ伏せになった昌三のしっとりと濡れた肌をまさぐりながら、達雄は言い聞かせるように話をつづける。
「尺八だって、おまえの口や舌、喉のすべてが絶妙の動きで、おれを悦ばせてくれる」
そこで、昌三の尻に指を入れて、「ほれ、言われなくても、自然に体が反応して、締め付ける。理屈なんか無い。すぐにおまえは、体で応えてくれるんだ」
確かに達雄の言うとおり、昌三は自分の体が変わっていくのを実感していた。達雄の声を聞いただけで、体の一部が反応するのだ。
そうなったのも、全て達雄の調教のせいだった。
――よし、そこで締めてみな。足指を内側に丸めるようにして、肛門を閉めるのだ――行為の途中で、達雄はあれこれと指示を出す。いずれもツボに嵌った的確なものだ。
昌三の体は、その要求にみごとに応えてみせる。
そのうち、言われなくても自然に体が反応しだす。
昌三は自分で思っている以上に、男を悦ばせる体になっていた。そして彼自身も、もはや男無しでは生きていけない体になっていた。

都会では男の二人暮らしも、さほど奇異には思われない。皆、隣人に無関心なのだ。
それでも中には、厚かましく近づいてくる男もいる。
特に昌三のような可愛らしい顔をして、小柄でぽっちゃりとした老人は、フケ好きから見れば垂涎の的だ。
昌三が東京に来て2年目の夏祭りのときだった。
達雄と昌三は、揃いの浴衣姿で夜祭に来ていた。
提灯に明かりをともした表通りには、昔ながらの金魚すくいや的当て、それにリンゴ飴や綿菓子の夜店が立ち並び、公園の広場では、盆踊り用のやぐらが組まれていた。
そして多くの見物客でにぎわっていた。
なかには縁台をもちだして、ステテコに肌着姿の年配の男たちが将棋や囲碁に興じている。酔っぱらって、気持ち良さそうにふらついている男もいる。
達雄は町内会の催しに出席するため、途中で昌三と別れた。
昌三はひとり、束の間の童心に返って、夜店をのぞきながらそぞろ歩いた。彼の形よく突き出た腹を包む、白地に紺の亀甲模様の入った浴衣姿は、けっこう様になっていた。
しかし彼は気づいていなかった。その柔らかい体の線を惜しげもなくさらした浴衣姿に、目を付けている男たちがいることを――。

昌三は裏通りに入って、トイレで用を足した。そこは夜店で明るい表通りと違って、薄暗かった。
引き戸の開けっ放しになった、プレハブ小屋の前にさしかかったときだった。
突然、背後から誰かに抱きつかれた。すかさずもう一人の男が、彼の両足を抱えた。
何が起こっているのかはっきりと知覚しないままに、昌三はふたりの男に抱きかかえられて、プレハブ小屋のなかに運び込まれていた。
その間、誰も異変に気付いていなかった。
男たちは昌三の体を小屋の中に放り込むと、一人の男が入り口のドアを閉め、ついで窓にカーテンを引いて、照明がつけられた。
これまで町内で、見かけたことがあるような気がする男たちだった。
Tシャツに着古したズボン、歳の頃、50前後だろうか。そして、こんな状況下にしては、彼らはそろって善良そうな顔つきをしていた。ただし、目だけが違っていた。彼らの目はアルコールと欲望で、ねっとりと濁っていた。
床に放り出された昌三は、恐怖で声も出せず、畳の上をじりじりとあとずさった。そのとき、浴衣の裾がめくれて、ぽってりとした太腿がむきだしになった。
それを見て、男たちが獣欲をむきだしにして襲いかかった。

相手が二人掛かりでは、抵抗する間もなかった。昌三は有無を言わさずうつ伏せにされ、浴衣と下帯を引きめくられた。
大きな手が、むき出しにされた双丘を掴み、左右に押し開いた。
男たちが息をのむ気配がした。
「きれいだ――ピンク色をして。この爺ちゃん、そそられる尻をしているぜ」
男のひとりが足の間に膝を割り込ませていたので、昌三は脚を閉じることも出来ず、恥ずかしさと恐怖に体をすくませていた。
「どれ、味見する前に、ちょっとお湿りをあげようか」
押し開かれた尻の狭間に男の息を感じた。と思った途端、男の舌が昌三の敏感な部分に触れてきた。
「ああ――いやっ!やめてっ!」
昌三は腰をよじらせて、舌の攻撃から逃れようとした。
しかし男は攻撃をゆるめなかった。舌先が菊のふくらみを舐め、秘めた細道の内側までも侵入してくる。
嫌がる気持ちとは裏腹に、ゾクッとする快感がじんわりと湧きあがる。体の奥深くから滲み出た炎は、みるみる下腹部全体に広がっていく。
「爺ちゃん、初めてじゃないな。なら、やり易い」
男はうそぶくと、執拗に菊座を舌先でなぶりつづけた。
ざらざらとした舌の感触が鮮明に感じられた。
昌三はいつしか抵抗を止め、喘ぎ声をあげていた。思考能力が麻痺したように、何も考えられなくなった。

しばらくして、男はようやく顔を離した。
今度は仰向けにされ、両足が引き上げられた。
小太りの男が足の間に入り込んで、膝立ちになり、ズボンのベルトをゆるめた。
昌三はぼんやりと男を見上げていた。
男はアンダーシャツを胸元までまくりあげ、ズボンをずりおろした。白く丸っこい腹、その下からずんぐりしたイチモツが突き出ていた。先端部は球根のように丸っこく、薄皮で覆われて、わずかにピンク色の頭部がのぞいている。昌三の慣れ親しんだ達雄のお道具に比べると、貧弱ともいえるものだが、どことなく愛嬌があった。
男がイチモツを握ってしごくと、ピンク色の丸い頭がニューッと露出した。まるで腸詰め肉でつくった松茸のようだ。
ついで男がおおいかぶさってきた。菊座に温かいモノがこすりつけられ、次の瞬間、じんわりと入ってきた。

町内会の用事が済むと、達雄はこれからどうしようかと考えた。だいぶ時間がかかったので、昌三はもう家に帰っているだろう。
彼は仮設トイレに寄ったあと、家路についた。
男たちが二人、プレハブ小屋から出てくる姿を見かけた。ホモバーでときどき見かける中年男たちだ。よほど良いことでもあったのか、彼らの顔には満ち足りた表情が浮かんでいる。
達雄の見ている前で、小太りの男がもうひとりの男に向かって、腰をくねらせながら何か言った。それに答えて、痩せた男が忍び笑いをした。
太った男の卑わいな仕種が気になって、達雄は歩き去る二人の後ろ姿を見守った。
そのとき、さきほど男たちが出てきた小屋から、昌三がよろけながら出てきた。その表情を見て、小屋の中で何があったのか、達雄は瞬時に悟った。

家に連れ帰ると、昌三の体を浴室で洗ってやった。その間、達雄は無言だったし、昌三も黙っていた。
達雄は責任を感じていた。信州へ旅をしたとき、自分でも抑制できない衝動に突き動かされて、昌三を手籠めにした。
そして今日、昌三はほかの男たちによって、同様の目に遭ったのだ。
これまで達雄は、多くの老人たちを抱いてきたが、昌三のような老人は初めてだった。
肌理のこまやかな白い肌は、芸術品の域だった。触れれば指先が埋もれるほど柔らかく、手のひらをあてると、しっとりと吸い付いてくるような肌触り――。
そんな体だから、達雄でなくとも、昌三をわが物にしたいと思う男は大勢いるだろう。
ときどき昌三の体を開けるだけ開いて、体の隅々までじっくりと観察することがある。そして、精妙なくぼみのひとつひとつに舌を這わす。
「恥ずかしい――」
昌三は両手で顔を覆うが、またその初心な仕草が達雄の情欲をそそる。
今や昌三の体は、達雄が開発してきた以上に、男の心を惹きつけるものになっていた。
こんな宝を手に入れて、つくづく自分は幸せ者だと思う。

一方で、達雄は不安に思っていた。
自分がもしものときの、昌三の身の振り方だ。
彼はときどき行為の最中に、激しい苦痛に襲われることがあった。それでも愛の執念で、昌三に気付かれることなく行為をつづけてきた。
自分の健康状態について、夢は抱いていなかった。癌に蝕まれたこの体だ、先行きそう長くはないと分かっている。
だから生きているうちに、昌三のような宝をたいせつにし、今ある幸せを、せいぜい楽しもうと割り切っていた。
しかし、自分自身は良いが、昌三のことを考えると、心配になってくる。昌三は世間慣れしていない純朴な老人で、一人では路頭に迷うだろう。
そこで達雄は、その時に備えて町内の人物を物色した。これと思う人物には、昌三を連れて行って、親交を深めた。そして彼は心に決めていた――自分の病気のことは、死ぬまで昌三に話すことは無い、と。

9月の半ばになると、さわやかな風が吹き始めた。それでも晴れた日には、暑いほどの日差しが降りそそぎ、物の影が濃かった。
達雄の体力はめっきり落ちていた。立って歩くのも億劫だった。
硝子戸を開け放った縁側で、達雄はロッキングチェアにもたれかかり、庭先で作業する昌三の姿を眺めていた。
昌三は小さな菜園で収穫物をとっている。小腰をかがめた、ふくよかな尻のふくらみ――いつ見ても、心ときめく眺めだった。
大きな笑顔でナスを掲げ、昌三が縁側の達雄に声をかけた。
「ほら、こんなに大きく育った。タッちゃんのナニといい勝負やろ」
達雄は目を細めて、麦藁帽と作業服に身を包んだ愛らしい姿を見ながら、やわらかい笑みを返した。今、このひとときは、何物にも代え難い幸せだった。
[17/04/29 14:43 神亀]
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