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聖なる杖 - (4)香月佳代
(4)香月佳代

香月佳代は、父親の顔を知らなかった。
生きているのか死んでいるのかさえも知らなかった。父の話題になると、母はいつも不快そうに顔をそむけ、あいまいにはぐらかすのだ。
しかし佳代は、見知らぬ父を慕っていた。その思いは彼女が成長するにつれ、ますます強まった。父の写真は一枚も残っていなかったが、いつしか佳代の胸のうちで、父親のイメージが出来上がっていた。そのイメージは彼女が成長するにつれ変化していったが、変わらないのは、優しくて、穏やかな父親のイメージだった。

彼女の母親は、駅裏の路地で小さなスナックをやっていた。
小柄で美人の母には、いつも違う一夜かぎりの愛人がいた。佳代は子供のころ、一部屋しかない寝室の闇のなかで、母と愛人に気づかれることなく、大人たちの愛しあう姿を見守ってきた。
しあわせそうな息づかい、甘ったるい善がり声、それが切羽詰った調子に変わり、絶頂に達した喘ぎ声で終わる。急に静まりかえり、やがて、ふたりの満足しきった溜め息が聞こえてくる。
子供の頃から大人の夜の交わりを知っていた佳代だが、それが信じられないほど彼女の容貌には、一種独特の清らかな雰囲気が備わっていた。
成長と共に、あどけなさが品のよい清楚な顔立ちにかわり、口からあごにかけての線に、将来を予感させる色気が、そこはかとなく漂いだした。
彼女の体はほっそりとしていたが、思春期を向かえて、妙に男の気を惹く柔らか味を帯びてきた。肌はぬめるようなきめの細かさと、透き通るような色の白さをもっていた。

佳代は15歳のとき、同じアパートの隣室に住む、50歳の男によって女にされた。男は無類の好色漢で、これまでになんどか佳代の母親とも肉体的に交わっていた。
初めての経験にもかかわらず、佳代は恐れを抱かなかった。ただ、その時思ったのは、これで自分もおとなの仲間入りができる、ということだけだった。
男は一見、人の良い温和な顔をしていた。おだやかに話しかけながら彼女の服を脱がせ、彼女の裸体をやさしく愛撫した。
男も衣服を脱いだとき、その持ち物をはっきりと目にした。それは奇妙な形状をしていた。マシュマロのように白くて柔らかそうだった。先端部は生皮をむいたように滑らかで、すこしピンクに色づいていた。
男は彼女をベッドに横たえ、彼女の脚を大きく左右に開いた。ついで、熱い吐息を股間に感じた。
(あそこを見られている――)その思いに、なぜか身体が熱くなった。

そのとき、膝立ちになった男の股間のものが変化するのに気づいた。まるでそれ自体が独立した生き物のように、ムクムクと頭をもたげてきたのだ。容積と固さを増した先端部は、張りつめて、ゆで卵のようにつやつやとしていた。
彼女は魅せられたようにそれを見つめた。恐怖は感じなかった。むしろ、どことなく愛嬌のある可愛らしさを感じていた。
男が覆い被さり、割れ目に押しつけられたと思った途端、鋭い痛みが走った。だが、それも長くは続かなかった。いつしか彼女は、男の体にしがみつき、自分からすすんで男の感触を覚えようとしていた。

初体験は不思議な感覚だった。
快感はなかったが、心臓の高まる興奮を覚えた。体内を行き来する異物の感触を、はっきりと知覚していた。
男は恍惚とした表情で目を閉じ、しきりに肉付きのいい体を押しつけてくる。その体は汗ばんで、かすかにタバコの匂いがした。
男は彼女の体からいったん引き抜くと、屹立した肉棒に奇妙なものを装着した。それがコンドームだということは、あとで知った。男はふたたび挿入すると、本格的に動き出した。そのうち男の息があらくなり、その体が強ばった。とたん、彼女の内部で男のものが、ググッと膨らみ、そのあと男がぐったりとのしかかってきた。

そのときから彼女は、セックスのとりことなった。
男は一週間後に、ふたたび彼女のもとにやってきた。
こんどは違ったやりかただった。男は唇と舌をつかって、まだ刺激に慣れきっていない彼女の微妙な柔らかみをまさぐった。
未知の快感に、彼女の全身がおこりにかかったように震えた。器用な舌先が裂け目にもぐりこんできたとき、彼女はおもわず声をあげていた。
そのうち男は起きあがると、彼女の片手を股間に導いた。それは生暖かく湿っていた。男に言われるままに指で愛撫していると、にわかに息づいてきた。太くて硬くて――まるで別個の生き物のように脈打っていた。
男は気持ちよさそうに腰をうごめかせていたが、今度は別の要求をした。口に咥えておしゃぶりしろと言うのだ。すっかり興奮していた彼女は、なんのためらいもなくそれを口にした。少ししょっぱくて、そして絹のようになめらかだった。

それ以来、男は彼女にあらゆるサービスを要求しだした。しかし彼女は拒まなかった。むしろ自分からすすんで卑猥な体位をとって、男が興奮するのを喜んでいた。
男の暖かくて柔らかい体と一体になっているとき、彼女は顔も知らない父親の存在を強く感じた。
自分の体によって喜ぶ父親、自分のために汗を流す父親――彼女は小さな体で男の大きな体を受け入れながら、父親の匂いをかぎ、父親の感触を味わっていた。

佳代は、高校を中退して東京に行き、年齢をいつわってクラブのホステスとして働きだした。その店のオーナーは、ハゲでずんぐりむっくりした初老男だったが、初日のうちに彼女の小さな体を押し開いた。
オーナーはひどい汗かきで、太った体型そのままの短くてずんぐりした逸物をもっていた。彼女が初体験した男のように、色白のきれいな持ち物ではなかった。茶色で不格好な形だが、彼女はべつに不快とも思わなかった。むしろ自分から進んで受け入れていた。
オーナーはすっかり彼女の肉体の虜となった。外目はいかにも初心そうで、それでいて内部は吸いつくような感触――。オーナーは、この娘がまれに見る名器の持ち主だということに気づいた。
佳代は、相手が父親くらいの年配者なら、言い寄ってくる客とはだれかれの区別なく寝た。しかし、若い男たちだけは避けていた。彼らはせっかちで、ひとりよがりで、そしてなんといっても、父親のイメージを想起しないからだ。

あるとき、店の奥の休憩室で、いつものようにオーナーがズボンをずりさげて、佳代の股座に肉槌を打ち込んでいるところを、オーナーの女房に見つかってしまった。彼女はその日のうちに、首になった。
佳代は、店の客だった老画家の家にお手伝い兼モデルとして、住み込むことになった。もちろん彼女のお勤めは、それだけではなかった。
老画家は風変わりな方法で彼女を愛した。彼女はそのとき初めて、肛門性交を経験した。それは気持ちがいいどころか、いつも痛みがともない、とても好きになれる行為ではなかった。
あるときは若い男が一緒だった。老画家が彼女と結合しているとき、若い男が画家の背後にのしかかってきた。
彼女は驚くとともに、気づいた。老画家は、苦痛に顔をしかめながらも陶酔した表情をして、彼女の内部に納められた老いた逸物が、にわかに逞しく息づいてきたのだ。
老画家がめずらしく彼女の中で果てたとき、若い男も老人のお尻の中で到達したのが分かった。

彼女は老画家にたくさんのことを教わった。妊娠や性病、避妊の方法、さまざまな性交のスタイル――彼女はこれまで男たちとの肉体交渉で、ときに避妊措置をしないこともあったが、妊娠したことは一度もなかった。
老画家の話で、いちばん感銘を受けたのは、オルガスムだった。
おそまきながら、オルガスムとはいかなるものかということを教えられ、これまでずっと物足りない思いをしていたのはこれだと気づいた。
彼女のあくなき性欲は、けっして満たされたことがなく、どういうわけか、もっと、もっと、と求めつづけていたのである。
セックスは常に楽しいものではあったが、いまの彼女は、オルガスムを経験しようと決心し、それにむかって邁進するのは、素晴らしいことだと思うようになっていた。
彼女の家はクリスチャンで、今でも日曜のミサに通っていた。彼女はセックスの最終目標が達成できることを、神に祈った。
複数の男達と肉体交渉を持つことがいけないことだとは、一度も考えたことがなかった。神はセックスを楽しむように人間を造られたのだ。でなければ、こんなすばらしい贈り物を、人間に授けられるはずがない。
それにしては、画家の老いた肉体は、彼女の願望を満足させてくれそうになかった。

佳代は老画家のもとを去ると、故郷の町にもどった。ほんのちょっぴり母親の顔が見たくなったのだ。
ところが母は、店の客のだれかにエイズをうつされ、末期症状で死の床にあった。
母が死んだあと、彼女は町に残り、母のスナックを継いでホステス稼業にまいもどった。死んだ母の性病のことが頭に残っていたので、男たちとの交わりはできるだけ控えるようにしていたが、基本的には以前とさほど変わることのない生活だった。

そのころ、ついに彼女の欲望を満足させてくれる男に出会った。
後藤慎二は、すべての点で彼女のお眼鏡にかなう男性だった。52歳という年齢は父親とおなじくらいだった。中背で、ほどよく脂肪がついた固太りの肉体をして、なめらかな色白の顔は、すこぶる健康そうにつやつやと輝いていた。
ちょっと見たところは、気の弱い、おとなしい熟年男といった容貌をしていたが、彼女をひきつけたのは、温厚そうな顔の中心にあぐらをかいている、いかにも精力の強そうな立派な鼻だった。
事実、後藤は口数の少ない善良な男で、まるで自分の精力が強すぎることを恥じているようなところがあった。
佳代の店に後藤がやってきて、ふたりの視線が合った瞬間、おたがい直感的に、やっと自分の精力に見合った相手が見つかったと感じたのである。後藤は店が引けるまで待っていた。そしてふたりして、彼女のアパートに歩いていった。

後藤にとっては、これまで味わったこともない、じつに満足のいくセックスだった。
そして佳代にとっては、今までのお祈りが、いっぺんにかなえられたのである。最初、彼の大きさを見たときはびっくりしたが、同時に、身内が興奮でうずくのを感じた。
かわいらしいおでことおちょぼ口、手足も小さく、どちらかと言えば小太りで人の良い小父さん――そんな外見から、なんとなく想像していたよりも、はるかに大きかった。
まるで毎朝配達されてくる牛乳ビンのようだった。むっちりと肉太で、そしておどろくほど色が白かった。



後藤は最初、やさしかった。これまで彼女が相手をした、どの男よりもやさしかった。
だが、興奮が募ると、すばらしい逞しさで彼女の中へ入ってきた。固太りの白い肉体が、すこしもじっとしていず、彼女のうえを滑り、圧し、打ちつけられた。
彼女もこれに応えて、ありったけの力をふりしぼって、下から腰を突きあげ、脚をよじらせた。ついには狂乱の態で、頂上をもとめて絶叫した。
それに応えて、壮年男の逞しい突きが繰り返され、彼女を気の遠くなるほどの高みに押し上げた。
そのとき、絶頂がやってきた。
息の止まるようなオルガスムだった。
すっかりおわったとき、彼女は男の胸にしがみついて泣きじゃくった。後藤のほうは、彼女の中にとどまったまま、手の平でやさしく額を撫でていた。

後藤には、口うるさい女房と成人した子供がいたので、ふたりが逢引するのは限られていた。しかし、週に一度は愛しあった。佳代はこの、見かけは風采の上がらない中年男だが、ベッドの上では偉大なる男に変身する後藤に、心底夢中になっていた。
[18/12/04 07:00 神亀]
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