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聖なる杖 - (3)高山秀樹
(3)高山秀樹

高山秀樹は、3才のときに父親をなくし、17才のときに母親と祖父母を事故で失った。その後、父方の伯父にひきとられたが、秀樹の人生はそのときから狂い始めた。
伯父の高山親平は53才にして独身だった。祖父に似て背は低く、ずんぐりした体つきをしていた。そしていつも、にこにこと笑顔を絶やさない。秀樹は、この小熊みたいに愛嬌のある伯父さんが大好きだった。
しかし彼は、このいかにも好人物である伯父の本性を、まもなく知ることとなった。
中学校の校長をやっている伯父は、潜在的な同性愛者だったのだ。彼の秘めた想いは、贅肉ひとつない、しなやかな体をした若者にずっと寄せられていた。そして、甥とのふたりきりの生活が始まったとき、彼の想いは抑えきれなくなった。
ある晩、伯父が秀樹のベッドにもぐりこんできた。そのとき秀樹は、伯父の器用な指とやわらかい口によって、若い精をなんども吐き出した。
その行為は次の日から、ほとんど毎晩のように続けられることとなった。
最初のうちは、とまどいと驚き、そして息詰まるような射出感だけしか覚えなかった秀樹も、いつしか伯父の異常な愛欲に同化して、自ら進んで求めるようになっていた。
性行為そのものも、口腔性交から肛門性交へと進展した。伯父のでっぷりした尻の狭間を侵しながら、秀樹は禁断の快楽の世界にのめり込んでいった。



大学を卒業した秀樹は、ある大手の広告代理店に入社した。しかし、その会社をわずか数年でやめることとなった。
その原因は、年配の男性と恋に落ちたためである。それもまずいことに、会社の上司に夢中になってしまったのだ。
課長の福井晴男は、白いイメージのつきまとう40代後半の男で、お公家さんのような柔らかいイメージがあった。薄いまゆ毛と気弱そうな瞳、やや小太りぎみで、下腹はすでに丸っこく膨らんでいた。
最初のうち、この年配の上司が彼と同じ趣味の持ち主なのか、よくわからなかった。
しかし、一緒に仕事をするにつれ、この上司の年配者らしくないはにかみが、逆にふたりの隔たりをじょじょに縮めていった。どうやら福井には、同性愛嗜好の引け目が、もって生まれた快活さを失わせ、罪悪感のために内向的になっているようだった。

秀樹が入社して2年が経った頃、彼らは出張で大阪の、とある小さなホテルに泊まった。一室しか空いてなく、彼らはツインベッドがある部屋を共用することになった。
ほとんど日中は、商用で過ごした。夕食後、彼らは顧客に連れられて、ありきたりのストリップクラブへ行った。
秀樹は、バーがあって会費制のクラブと称されている店の薄暗闇で、上司の様子をつくづくと眺めた。福井は世慣れた中年男らしく、女たちを平然と見ていた。それでも、顧客の顔に浮かんでいるような、色欲丸出しのいやらしい表情をしているわけではなかった。
ストリッパーが最後の布をわきへ放り投げたとき、秀樹はテーブルの下で、技巧を凝らして上司のふとももをピシャリと叩き、ちょっとの間、手をそのままにしておいた。
福井が彼の目を見つめた。

そのとき、秀樹は知ったのだ――。
めくるめくばかりのその瞬間、彼は本当に知ったのだ。
むろん、今までにもそれらしき徴候には気づいていた。しかし、それを試してみることはしなかった。向こう見ずなまねをして、もし撥ねつけられでもしたら、お互いに気まずい思いをしなければならない。
だが、彼は間違っていなかった。はっきりとそれを知ったのだ。穏和な上司の目には、伯父と同じ思いが感じ取れた。
店での残り時間は、一種の夢見心地で過ぎていった。上司を見るたびに、秀樹の胸ははげしく高鳴った。
脂ぎって好色な顧客は、ふたりのことをぜんぜん疑っていなかった。彼は男であり、男の世界にいて、大きな胸のぶさいくな女たちを流し目で見ながら、湿った肉の裂け目に突っ込むことしか考えていないのだ。

顧客と別れてホテルに戻る途中、福井の気分が悪くなった。彼はさほど酒が飲めないのに、勧められるまま、ウイスキーをしこたま飲まされていた。福井は路上で吐き気をもよおし、ホテルの部屋でふたたび洗面器にしがみついた。
秀樹は冷たい水を用意して、すっかり意気消沈した上司にうがいをさせた。上司の衣服が汚物でよごれていたので、それらを脱がせ、熱いお湯でひどい汚れをふきとってやった。
福井はベッドの上で目を閉じ、ぐったりとしていた。形よくふくらんだ腹が、やわらかく上下に起伏していた。秀樹は、しばらく下着姿の年配者を見ていたが、やがて自分も服を脱いだ。そのまま上司のかたわらに横たわり、身体をおしつけた。

高山秀樹は、その夜のことを決して忘れはしないだろう。
彼らは本当に愛しあったのである。
年配の男はその行為に無知だった。もっぱら秀樹がリード役をつとめた。彼は伯父との交わりによって、すでにいっぱしのテクニックを身につけていた。
秀樹のしたたかな愛撫によって、年配者は喜悦のうめき声をあげ、女のように身悶えした。身体つき同様むっちりとした性器を口に含むと、まるで童貞のように喘いだ。その声は、秀樹が尻の狭間のやわらかい裏門に押し入ったとき、苦痛のうめき声に変わった。
年配者のやわらかい体内に完全にはいりこんだとき、秀樹は信じられないほどの充足感にうっとりとした。上司のうしろは、まるであつらえたかのように、彼の大きさにぴったりだったのだ。

その夜から、秀樹は恋の虜となってしまった。
危険はじゅうじゅう承知していた。彼らの交わりの、いかにもろいものであるかも、よくわかっていた。しかも相手には妻子がいる。
だが、彼は幸福だった。やわらかく清潔な肉体をした年配者と愛しあって、はじめて身の洗われる思いがした。
最初のうちは初心だった上司も、秀樹に開拓され、じょじょに積極性をあらわしてきた。後ろから受け入れるだけでなく、手や口を使って、秀樹の若い肉体を楽しんだ。
ふたりはベッドの中で、お互いの分身を口に含んでいるとき、この上ない幸せを感じた。
罪悪感は一掃され、自己嫌悪、自己卑下の念が消えた。ふたりは開放された気分がし、生きがいを――今までにない新しい生きがいを見出した。

しばらくの間は、何事もなく、万事が順調にみえた。
やがて、じょじょにだが、事情がかわってきた。とくにこれといった目立った動きはなかったが、会社の社員たちは、秀樹とあまり口をきこうとしなくなった。ときおり、背後で女の子たちのクスクス笑いを聞くようにもなった。
いつの間にか、ふたりのことは社内の噂の種になっていたのだ。
そのうち、不意に福井が会社を辞めた。「すまないが、これ以上、会社の連中からいやな思いをさせられることに耐えられない」といった簡単なメモを残して、さよならも告げずに去ったのだ。

秀樹の転落のはじまりだった。
彼は会社をやめて、生きることに幻滅した無数の人々の群れに自分を埋没させていった。
行き当たりばったりで職に就いて、その日暮らしをした。そして働く場所も、北海道から九州まで、全国を転々とした。
性の欲望は、同じ労働者仲間の柔らかそうな尻をした老人たちで解消した。相手が合意しなければ、なかば強姦同然に犯すこともあった。
しかし彼の欲望は、完全には満たされなかった。老いぼれてゆるんだ肛門やしなびた逸物は、前に馴染んだ清潔で健康的な福井とは大違いだった。
秀樹は眠っているとき、福井との甘美な交わりの夢をよくみた。快感に波うつ白い腹を眺めながら、肉づきのよいなめらかな男根を口に含み、最後の瞬間、太った体がピクリと痙攣して、生温かいものが口中にじんわりとひろがる新鮮な感動――。そのときのことを思い出すと、無性に会いたくなった。ついには福井の家へ行ったが、とっくにどこかへ引っ越していた。

いつしか彼は45歳になり、甘さを含んだ端正な顔も、長い生活苦で、それなりに渋くて味のある中年男の顔になっていた。肉体労働の連続で、細い体も強靭な筋肉がついていた。
しかし、繊細な心の本質は変わっていなかった。
とうとうある日、福井晴男とよく似た年格好の労働者仲間を、公園の暗がりで襲った。
仕事後、場末の酒場に行った帰りだった。
男は小太りの体をしており、色白でなめらかな肌をしていた。秀樹は男と二人きりになると、関係を迫った。相手がいやがると、むりやり押さえつけ、ズボンをはぎとった。そして、でっぷりした尻の合わせ目に突きいれ、あわただしく性交した。
久しぶりだったので、射精はアッという間に起きてしまった。
彼は欲望をとげると、こんどは男の逸物を口にくわえた。それは丸っこくて、短かった。最初のうち、力を失って柔らかかったそれが、技巧をこらして舐めたり吸ったりしていると、みるみる力を蘇らせてきた。
快感にひたりながらも、男はなお助けを求めていた。秀樹は男の射精のうずきを感じ取り、期待に胸を高鳴らせて、口の動きを早めた。しかし、男の太った体がピクリと痙攣する、あの感動的な瞬間を味わうことはできなかった。

「おまえたち、なにをしているんだ!」
頭上で居丈高な声がした。
振り仰ぐと、警官がふたり、仁王立ちでこちらを見ていた。
秀樹は刑務所に一夜入れられ、そして釈放された。被害者である同僚が、ことをおおげさにしないために、彼を訴えるのをやめたのだ。
警官におどされ、軽蔑され、彼はすっかり人との付き合いが嫌になった。今の望みはただひとつ、故郷の神戸にもどって、静かな生活を送ることだけだった。
[18/12/03 07:47 神亀]
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