(5)
タケシがいなくなって、空虚な毎日がつづいた。
ボビーの体に刻み込まれた逞しい肉根の感触は日ごとに薄れていったが、逆にタケシへの想いが募った。
その寂しさを紛らわすために、フケ専バーのグランパによく行った。
ケイ爺はいつも優しい笑みを浮かべて、ボビーを迎え入れてくれた。この英国紳士を思わせる老バーテンダーは、粋で、スマートで、ボビーに淡い恋心を抱かせる。
カナディアンクラブのロックをチビチビと飲みながら、ボビーはケイ爺と取りとめのない会話を楽しんだ。
その夜、ほかに客は居ず、店の中はひっそりとしていた。ケイ爺もボビーの酒に付き合って、自分はビールを飲んでいる。
「タケシさんは南米に行ったそうですね」
ケイ爺はふたりの関係を知っているのか、タケシの話題を出した。
「ああ――」
ボビーは言葉少なに相槌を打った。タケシのことを思うと、どうしようもない喪失感が押し寄せてくる。
「ネアカで元気のいい人でしたから、いなくなってみると、歯が抜けたように寂しいですね」
ケイ爺の言葉に、悪戯っ子のようなタケシの顔が思い浮かんだ。ボビーを強引に押さえつけて、男色の悦びを植えつけた男の顔――。
「ああ――強引で厚かましかったけど、憎めない性格だった」
ボビーはぼんやりと言った。
それにケイ爺が頷いた。
「ほんと、あの人は強引なんだから。わたしなんか、初めてのときは、引き裂かれるかと思いましたよ」
(えっ!)
ボビーは驚いた。じゃあタケシは、このケイ爺とも親密な仲だったのか。そういえば「爺さんが好き」とタケシが言っていたのを思い出した。
そんなボビーの思いに気付かず、ケイ爺は懐かしむように目を細めた。
「実際、あんなタフな人は珍しい。そのへんのヘナチョコヤングでは、とても太刀打ちできません」
ケイ爺はビールの小ビンを取って、自分の空いたグラスに注ぎ、そのあともビンを握ったまま、無意識に指を上下に滑らせる。ときおり人差し指で、ビンの上部をそっと撫でたりする。
それを見ていて、ボビーは卑猥なものを見ている気がした。まるでタケシの大事なところを冒涜しているようだ。彼は思わず言った。
「ケイ爺、やめてよ」
「えっ、なに?わたしが何かしましたかね?」
老バーテンダーは怪訝そうにこちらを見た。
ボビーは老人の手元を差して言った。
「その、ビンを握る感じがいやらしいんだけど」
「ビンを握る感じって――」
「ほら、その人差し指で撫でてる感じ――」
ケイ爺も自分の手つきの意味に気付いたようだ。彼はあわてて、ビンから手を離した。
「そろそろお店を閉めなくちゃあ」
老バーテンダーはカウンターの奥から出てきて、店のドアのカギを内側から掛けた。戻ってくるとボビーの顔を見ながら言った。
「ねえ、ボビー。わたしを抱いてくれませんか?」
ボビーは(えっ!)と思って、ケイ爺を見た。
老人は返事を待たずに、ボビーの体にしがみついてきた。
「ああ、この体が大好きです。ふくよかで温かくて――」
ボビーもなりゆきで、ケイ爺の体に腕をまわした。老人の体はほっそりとして、いい香りがした。
ケイ爺が目を閉じて、キスを求めてきた。すでにタケシを相手に経験済みのボビーは、何の抵抗も無く老人の唇を受け入れた。すかさず器用な舌がもぐり込んで、ディープキスとなった。
キスをしながら老人の手が股間に伸びて、ズボンの上から刺激しだした。それから両手でズボンのベルトを緩めだした。
「あ、ケイ爺、駄目。ぼくのは」(――小さい)
ボビーは慌てて言おうとしたが、尻切れトンボで終わった。
老人の器用な指がベルトを緩め、ファスナーを引き下げ、そしてズボンもろともパンツを引き下げた。
体付き同様、ずんぐりむっくりしたペニスがむき出しになった。先端の包皮が、萎れた朝顔のようによじれている。本人が思っているほど小さくないが、でっぷりと肥った体に比して、こぢんまりと見える。
ケイ爺は屈み込んで、じっと見つめた。それから目の前の性器をそっと口に含んだ。器用な舌がチロチロとまといつき、ついで湿ったぬくもりが根元までおおい包んだ。
それらは一連の動作だった。ボビーは抵抗する間もなく、いつしか腰をうねらせ、心地よい喘ぎ声をあげていた。股間で激情がうずまいた。うねりは高く、高く――そして甘美な一瞬をむかえた。
老人が口を離し、口腔にたまったものをコップに吐き出した。彼はそれを見て、にんまり微笑んだ。
「たっぷりと出しましたね」
不意討ちのようなケイ爺の求愛行為があってから、ふたりの仲は客とバーテンダーの境界を越えて、いっきに親密なものとなった。
そして、ケイ爺がボビーのアパートで一夜を過ごすまでに、さほどの時を要しなかった。
「うう――すごい」
ボビーはうめき声を漏らした。「こんなに気持ち良いのは――」
あとは喘ぎ声だけ。肥った体に細波が走った。
ケイ爺は馬乗りになり、ゆるやかに腰をうねらせていた。
「ああっ――」
ボビーがまた吐息をついた。老人の腸壁が、とろけるような柔らかさで吸い付いてくる。すんなりした肉体にすっぽりと埋没したペニスは、久しぶりに硬く、大きくなっていた。
老人がうねるように大きく深く腰を回した。
「あっ!――いいぃ」
ボビーは耐えきれずに呻いた。ペニスが老人の体内深く吸い込まれていく。腸壁の襞が絡みついて、生暖かく濡れて蠢く――。
どこまでも柔らかだった。入り口も行き止まりも判然としないほどだ。すべてが彼のモノをくわえ込んで、蠢いた。
肉棒が我慢しきれないように膨らんだとき、それを機敏に察知して、老人が離れた。そしてボビーの顔を覗き込んで、いたずらっぽくウインクした。
「まだ、いっちゃあ駄目。今夜はもっと楽しむんだから。さあ小休止して、ワインでも飲みましょう。赤ワインのいいのがあるんです」
赤ワイン――もう何年前だったか、あれは東京タワーに登ったあとだった。
「お肉には赤ワインってよく言うけど、ぼくは白ワインが好きだな」
テーブルに出されたステーキ料理を前に、サトシは乾杯するようにグラスを掲げ、そっとひと口味わった。
彼にとっては大冒険をしたばかりで、興奮から目がきらきらと輝いている。
サトシは高所恐怖症だったが、一度は東京タワーに上って、大都会の景色を見渡したいと言っていた。それを今日、ボビーと一緒に実現したのだ。
最上層部の展望台に上がったとき、さすがにサトシの顔は青ざめていた。
「大丈夫だよ、サトシ。さあ、こちらにおいで」
ボビーは安心させるように、サトシの小柄な体に腕をまわした。サトシがボビーのでっぷりした腰にしがみついてくる。まるで大きな父親にしがみつく子供の図だ。
ガラス窓から東京の街並みが一望できた。サトシはボビーの腰にしっかりと両腕を回したまま、こわごわ眼下の景色を見ていた。
ボビーは小さな肩を抱いて、窓のほうへ押しやった。
「ささ、もっと窓に近づいてごらん」
サトシが悲鳴をあげた。
「いじわるっ!」
ワインで喉を潤したあと、ボビーとケイ爺は愛の行為を再開した。
骨細のやわらかい掌が膝頭から太股を伝いあがり、早くもそそり立つ茎を押し包んだ。老人の吐く息が股間にかかり、湿った温かいものが先端部を押し包む。その快感に、ボビーの口からうめき声が漏れ出る。
器用な舌が、くびれをまさぐり、尿道の膨らみを舐め、はりつめた先端を吸った。
同性の強みを発揮して、老人の舌技は痒いところまで手が届くほど、神経の行き届いたサービスだった。

やがてケイ爺は仰向けになると、迎え入れる体勢を取った。
開かれた脚の間に、筋張ったペニスとだらりとぶら下がったホーデン、その下に皺の集合体がひそんでいた。どことなくとぼけた表情をして、ゆるみ気味に口を閉じている。
老人の開かれた秘部を見て、ボビーはふと思った。
(これまで何人の男たちが通過したのだろう)
オイルをたっぷりと塗り付けていたので、挿入行為は滑らかだった。腸壁にそって抽送をくりかえしながら、老人の脇腹に手を這わせた。
マシュマロのように柔らかな手触りだった。
ゆっくりと腰をうねらせながら、老人の顔を見た。品の良い眉をひそめて目を閉じ、あごをのけぞらせている。なかば開いた口から、みょうに艶かしい喘ぎ声が、とぎれとぎれに洩れ出ている。まるで歌舞伎で見た女形のように、色っぽい表情だ。
極度の興奮で、ぼーっとなった。
深く突き入れると、耐えきれずに激しく動き出した。差し出されたやわらかい窪みに、下腹をはげしい勢いで打ちつけた。股間が欲情の地獄と化したようだった。からだ全体で官能が渦巻き、揺れ動き、膨らんでいった。
(ああ、もうすぐ――)
煮えたぎる熱い奔流が噴火して、外に飛び出ようとしていた。
耐え切れず、歓喜の呻き声をあげ、深々と突き入れた。息詰まる一瞬。火山が爆発した。少し遅れて戦慄的な痙攣が続いた。
そのあと、ほっそりとした体にのしかかって、安息の闇にのめり込んだ。