目 次
■ 哀愁 - (4)
(4)

「いつも爺さんが相手だが、50代の男を抱くのは久しぶりだ」
呼吸のおさまったタケシは仰向けに寝そべり、頭の下に両手を組んで、だれ言うともなくつぶやいた。
ボビーは自分を蹂躙した日本人をそっと見た。強引に犯されたのに、不思議と怒りは覚えなかった。むしろ、この男とは離れがたい何かを感じていた。
ボビーはそっと訊いた。
「お爺さんが好きなの?」
「ああ――オケ専と言えば侘しいから、フケ専にしておくか」
ボビーは、タケシがこれまで生きてきた人生を想像した。爺さんが好きと言うからには、それなりのきっかけがあったのだろう。それは一体、なんだろう?
彼の思いを読み取ったように、タケシがぽつりと言った。
「母方の爺さんの影響だ」
そこでタケシはごろりと横になると、腕枕をしてボビーを面白そうに見た。「その爺さんがおれに男色を教えてくれた」
「――」
ボビーは何とも言えなかった。それで別の質問をした。「爺さん好きのあなたが、なんで私を――?」
「あんたの口だ」
タケシは再び仰向けになった。「あんたの口が、ある爺さんを思い出させた」
そしてぽつりと言った。「尺八の好きな爺さんだった――」
そのあと、タケシは黙り込んだ。
ボビーはその老人のことをもっと聞きたかったが、物思いに耽っているタケシに遠慮して黙っていた。目を閉じたタケシの精悍な横顔。そのとき気付いた、長い睫の目元にうっすらと涙がにじんでいた。
人それぞれの想い――。
ボビーは天国のサトシに問いかけた。
(サトシ、これがきみの言っていた、新しい世界なのか?)
そこでふと思い出した。前にこんな世界を垣間見たことがある。

18年前――
「ボビー、今日は銭湯に行ってみないか?」
「銭湯?」
「ああ、公衆浴場だ。日本独自の文化だよ」
サトシに誘われるまま、ボビーは初めて銭湯に行った。
他人の面前で裸になるのは恥ずかしかったが、ここに来る客はみな、ごく当たり前のように素裸で浴室に入っていく。
富士山のモザイク壁画の前に、大きな浴槽があった。壁際には、シャワーや水栓とプラスチックの椅子が供えられた洗い場がある。
ボビーにとって物珍しい光景だった。
サトシの痩せて小さな体の横で、ボビーのでっぷりと肥った白人の体は目立つのか、何人かの客が物珍しそうにこちらを見ている。
ボビーはサトシの真似をして、湯桶で前を洗い、こわごわ浴槽に入った。湯は熱かったが、じっと我慢していると、心底のびのびしてくる。
「どう、日本の銭湯は?」
湯に肩まで浸かって、サトシが声をかけた。
「ああ、すごくエキゾチックなところだね」
ボビーはまわりを見渡しながら言った。

サトシは何かに気を取られていた。視線の先を追うと、ちょうどふたりの男が浴槽から出るところだった。
そのふたりのどことなく奇妙な取り合わせが、ボビーの関心を惹いた。
年配者と若い男――若いほうは女のようにエレガントな顔をして、小柄な肉体は目を見張るほど色が白い。しっとりとした肌は初心な童顔とあいまって、なにやら妖しげな雰囲気をもっている。脆弱な肉体にしては、けっこう長大な性器をぶらさげていた。しかし、いかにも柔らかそうに生白く、先端部はしぼんだ朝顔の花弁のようにふやけている。
年配者のほうは年の頃60代前半、浅黒い肌をした重厚な体格をして、実直そうな大人の雰囲気があった。その股間では、醒めた茶色の松茸が図太く揺れ動いていた。
ふたりの関係は分からないが、すくなくとも親子とは思えなかった。
男たちは洗い場に腰掛け、仲良く並んで体を洗い始めた。薄明かりの中で、女のように色白の子供っぽい体と、浅黒い肉厚の体が並んでいる。
サトシがつぶやいた。
「あのふたり、できてるな」
ボビーはサトシの言ってる意味が分からなかった。
「なに?できてるって」
「つがってるってことだよ。医学的に表現すれば、肛門性交をやってるってこと」
「どうしてそんなことが分かるの?」
「お尻の形を見ればわかる」
サトシは、生徒に講義する先生のような口調で言った。「若いほうのお尻を見てごらん。横に広がってるだろう。太い杭を打ちこまれて、せっせと耕されたから、ああなったんだよ」
いつものサトシは、生真面目で紳士的な男だった。その彼が下卑た話題を出したことに、ボビーは驚いた。
(なんでサトシは、ゲイ世界のことを知ってるの?)
内心の驚きを隠して、彼は洗い場のふたりに視線を戻した。ひっそりと体を洗うふたりの姿は、サトシの話を聞いたあとだけに、艶かしかった。
年配の男と若い男の秘めやかな関係――。年配者の肉付きのよいお尻は、プラスチックの腰掛けから大きくはみ出ている。その図太い腰回りには、満々と精力が貯えられて、しぶとい力が漲っていそうだ。それにくらべ若者のかわいらしいお尻は、繊細な体つきにしては、むっちりと左右に開いて、ぬめるような艶があった。
浅黒い肉厚の肉体と細い色白の肉体を見て、ボビーはみだらな姿を想像した。ふと自分の股間の変化に気付いて、あわてて足を閉じた。



翌朝目覚めたとき、自分がどこにいるのか、すぐには分からなかった。
タケシの顔が目の前に現れた。
「あんたの尻は見ているだけでそそられる。それに、具合もすごくいい」
タケシはすぐ行為を始めた。ボビーを四つん這いにして、背後から浅く突き入れ、小刻みに、滑らかに動いた。
驚いたことに、昨夜の苦痛は消え失せていた。代わって、まだ快感とは言えないが、なんともいえない興奮を覚えた。タケシは深く繋がらず、浅く機敏に突いた。なんだかじれったい気がして、ボビーは自ら尻をうねらせた。
ボビーの気持ちが伝わったのか、タケシが深々と入ってきた。肉の襞で形取られた筒が、脈打つ肉杭を迎えながらじんわりと開いていく。膨れ上がった男茎はボビーの体内にすっかり没入し、大きく、深く、ピストン運動をはじめた。
「ああっ――ああっ――ああっ」
動きに追随して、ボビーは断続的に声をあげた。彼の内部は蠕動する生き物と化し、激しく打ち込まれる肉根に絡みついて絞りたてる。
タケシの筋肉の震えを感じた。その体に息詰まる痙攣が襲った。
すっかり終わったとき、ふたりはしっかりと抱き合っていた。

その後、ふたりは週に1回はデートをするようになった。
がさつと思えたタケシは、意外にも芸術分野に造詣が深かった。ボビーは彼に連れられて、歌舞伎や文楽を観劇したり、オーケストラのコンサートに行ったりした。裕福でなかったボビーにとって、この種の娯楽は初めての経験だったが、虜になるほど好きになった。
そしてまた、タケシの魅力の虜にもなっていた。タケシは、ボビーやサトシとは、まったく違うタイプの男だった。それだけに、馬が合ったのかもしれない。
まるでパズルがぴっちりと嵌るように、ふたりは心も肉体も馴染んだ。タケシが物事に拘泥しない厚かましさがあれば、ボビーは物事に良く気づく几帳面さで応えた。猛々しい力を漲らせたタケシの肉体も、ボビーの包容力のある柔らかい肉体で包み込んだ。
タケシが側にいるだけで、ボビーは最高に幸せだった。
そして彼は、死んだサトシに感謝した。
(サトシ、いま分かった。きみが、ゲイであることに悔いは無いといった言葉が)

しかしボビーのジェントルな性格に対し、タケシはあまりにもアグレッシブすぎた。当然、タケシはひとつの所にとどまるのが苦手で、また、型に嵌るのも嫌いだった。
ふたりの付き合いが1ヶ月ほど続いた後、タケシは南米に行くと宣言した。テレビ番組で見た南米の風景に惹かれ、カメラを持って自由気ままな旅をすると言うのだ。
タケシの決断に、ボビーの意志の入り込む余地はなかった。もしあったとしても、ボビーは相手の考えを覆すような強い性格ではなかった。

タケシが旅立つ前の晩、ふたりは思いを込めて交わった。
未開拓だったボビーの内部は、すっかり解きほぐされ、圧倒的な豊満さでタケシを迎え入れた。熱くてなめらかで、まるで精妙な蜜壺のように、男の分身をぴっちりと寸分の隙間なく咥えこみ、締めつけた。
そしてまたタケシも、全盛期の頃の力を蘇らせたように、荒々しく脈動し、力を湧き立たせた。逞しい腰使いで、グングン打ち込み、クイッと捻りをいれる。
結合部のたてる湿ったにぎやかな音――。濡れた腸壁が、激しく行き来する太い肉矢を覆い包み、絡まり、吸い込み、押し返した。
精を絞りあげようとする肉襞の蠕動を味わいながら、タケシが呻くように言った。
「くうっ――いいっ――そろそろ褒美をくれてやるっ」
強弱付けて抜き挿ししながら、描き回す動きをくわえ、乱れたように打ち込んできた。
「ひいっ!――いいっ――いいぃ――」
恐ろしいほどの快感が、ボビーの全身を押し包んだ。自分でも抑えようがなく秘肛がひくつき、頭の芯が真っ白になった。
うねりは高く、高く――タケシの体にピクリと痙攣が走った。そのあと次から次へと痙攣の連続だった。タケシは呻きながら噴出した。
クライマックスが過ぎると、ボビーはタケシの逞しい体の下で、ゆっくりと沈み込んでいった。陶酔と安逸――そして愛しい人が離れていく寂しさを味わいながら。
[18/11/19 19:21 神亀]
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