目 次
■ 哀愁 - (3)
(3)

“Sir, Where are you from?”
ふと横からなつかしい母国語が聞こえてきた。
声のしたほうに振り向くと、自分より少し若いと思われる日本人が、こちらを見ていた。ハイネックのシャツにブレザーを着て、なにかスポーツでもやっているのか、よく日焼けして立派な体格をしている。
“I’m from America.”
ボビーが答えると、男は白い歯を見せてニコッと笑い、流暢な英語で、すかさず訊いた。
“You are American? Which part of America?”
“New York City.”
“How long have you been in Japan?”
“For about twenty years.”
そこで男は、なあんだという顔をした。
「じゃあ、日本語は話せるんだね」

それから、日本語に切り替えての会話になった。男の名前はタケシ、フリーのカメラマンで世界中を飛び回っている。
話をして楽しい男だった。タケシはボビーに質問を投げかけて、その答えに共通した話題があると、こんどは自分の体験を面白おかしく話しだす。目を生き生きと輝かせ、聞き取りやすい声で話す彼は、憎めないいたずらっ子のようだった。
ボビーは、相手の陽気さに多少とまどいを覚えていたが、死んだサトシと全く違うタイプのこの男に、少なくとも悪印象は抱いていなかった。
タケシは話しながら、店にキープしたボトルから、ボビーの空いたグラスにウィスキーを注いでくれた。
豪勢なことに、オールドパー18年ものだ。フルーツのような甘い香りとまろやかな口当たり――ボビーはこのスコッチが大好きだが、高価なので滅多に口にすることがない。
それをタケシは気前よく奢るのだ。

1時間後、ふたりはすっかり意気投合して、旧来の友のような親しみを覚えていた。
タケシは、ボビーの膝に手を置いて、じっと目を見ながら言った。
「どうだい、ボビー。これからぼくの部屋に行って飲み直さないか」
ボビーは内心、ドキッとした。
(これは男色の誘いだろうか)しかし相手の無邪気に輝く目を見ていると、そうとも言い切れない。彼はあいまいに頷いた。
「よし、そうと決まれば善は急げだ。さあ、ぼくのホテルに行こう」
タケシは快活に言って、ボビーの腰に腕をまわして尻を上げた。
並んで立って、初めて気付いた。日本では中背の部類に入るボビーより、タケシは10センチ近く背が高かった。

ビジネスホテルなので部屋は狭かった。それでもセミダブルのベッドと備え付けの書き物机、それにバストイレも完備していた。
部屋に入るとタケシは、何の前触れもなくボビーの体を強く抱きしめ、唇を合わせてきた。
ボビーは慌てた。顔をのけ反らせて抗議した。
「ちょっと待って!お酒を飲むんじゃないの?」
「その前に楽しいことをやろう。きみはすごくそそられる体をしてる」
言いながらタケシは、なおもしっかりと抱き寄せ、そのままベッドの上に倒れ込んで、ボビーの体を押さえた。再び強引に唇を奪われた。その間、男の手が下に伸びて、ズボンの上からまさぐられた。
(あっ――そこは駄目!)
唇を塞がれているので声も出せず、ボビーは目を見開いて抗議しようとした。
しかし、50半ばといっても、まだまだ性欲は旺盛だ。彼はうずうずとした快感を覚え、ズボンの中で勃起させていた。

その後はボビーの意志に関係なく、ものごとが進んだ。
裸にされ、バスルームに連れていかれ、シャワーを使って体の隅々まで洗われた。あろうことか直腸の中まで洗浄された。
拒むことは出来た。でも、タケシの有無を言わせぬ態度から、拒もうとすれば喧嘩になっていただろう。それは、ボビーの穏やかな性格からすれば、とても出来ないことだった。
結局、ボビーは熊のぬいぐるみ人形のように、タケシの成すままになっていた。
それでもタケシの裸体に、奇妙な興奮を覚えていた。筋肉の発達した分厚い胸や太い腕、腹は引き締まって、太腿にも張りがあった。そして黒々とした陰りから浮き出たもの――むきだしのそれは、見ていてドキドキするようなシロモノだった。松の根っこのように節くれだって、先端部は松茸のように笠が張っている。ボビーは思わず、浮世絵のウタマロを思い浮かべていた。

バスルームから出ると、そのままベッドに連れていかれた。
タケシはボビーの太短いペニスを掴み、包皮をむき、やさしくしごきだした。
「どう、気持ちいいかい?」
「ああ――」
ボビーは快感にのけぞった。他人の手でされたのは初めてだった。彼の肉根を握る手は、見かけのごつさに比べ、驚くほどやわらかだった。
タケシのもう一方の手が背後に回り、さらに下に這ってきた。尻を撫でられ、ボビーは息を弾ませた。
そのとき、タケシが彼の体をそっと押しやって、四つん這いにした。ふたたび尻をまさぐられ、狭間の閉じた小さな門に、指が触れてくる。
「あ――」
ボビーは思わず腰をずらした。
指がゆっくりと円を描くように動いた。
ボビーは、そこから異様な感覚が、体を這いずり上がってくるのを覚えた。彼はいつしか目を閉じていた。

指が小さな円を描きながら、内部に押し入ってきた。オイルでもつけているのか、その指は滑らかに密やかな穴に入ってしまう。
「ああっ――」
ボビーは小さな悲鳴を上げた。長い指が、尻の中で動いた。
「やめて――」
腰をずらして、指から逃れようとした。タケシの指がまた同じところを狙ってきた。
指がつるりと滑り込んできた。
「あ――やめて――」
ボビーの抗議にもかかわらず、指がつるりつるりと抽送しだした。なんの痛みも感じなかった。いままでに感じたことのない不思議な感覚だった。しかし、その感覚は、自分が行ったことのない高みへ連れていかれそうな、不安な気持ちの昂ぶりを覚えるものだった。
ボビーの昂ぶりを充分に承知したように、太い指が内部の秘めやかな構造を探り始めた。肉襞がとろけるように柔らかくなって、入り込んだ指をしゃぶるように絞めつける。
ボビーの息遣いが荒くなった。指に貫かれたまま、でっぷりとした尻がくねった。
指が、体の中で卑猥な動きを増した。
「あ――あ――あ――」
ボビーは、異様な快感のなかに引きずり込まれていった。
いまや指一本に翻弄され、我を忘れかけていた。



腰が引き上げられて、両脚を左右に広げられた。
タケシが背後で膝立ちになる気配がした。そして声が聞こえてきた。
“Are you ready?”
首をねじ向けて後ろを見ると、ギョッとするようなものが目に入った。それはグンと弓なりに反りかえって、先端部は瘤のように縁が盛り上がっている。しかもオイルに濡れて、まがまがしく輝いている。ふたたびウタマロを思い浮かべた。
“No!”
ボビーは思わず叫んだが、タケシは強引に行為をつづけた。
熱く、硬く、恐ろしい男の象徴が、肉襞の蕾に押し当てられる――。

「はあっ!あ、あ、あ――」
押し入ってきたとき、その鋭い痛みにあえいだ。侵入物はあまりにも太く、まるで尻の狭間ぜんたいが押し開かれたようだった。熱した鉄棒のように硬かった。それは彼の内部でなおのこと膨張し、腸壁をこすりながら奥へと入ってくる。
容赦ない嵌入によって秘肛を拡げられ、ボビーはシーツにしがみついて、悲鳴を押し殺した。
先ほど目にしたもの、力をみなぎらせて張りつめ、天狗の鼻のように反り返ったものが、いま自分の体内に収められているのだ。
腸壁を広げて無理矢理もぐり込んできたペニス――それのもたらす息苦しさは耐えがたいほどだった。
ひたいに脂汗がにじみ出た。
しかし、その苦痛のなかで、ボビーは息詰まる興奮を覚えていた。

男のものが埋まっている感覚にもしだいに慣れてきたとき、タケシが動き出した。しびれるような痛みと、マゾ的な興奮がたかまった。逞しい両手が肥った腰を押さえつけ、身動きもできなかった。
肉襞の隘路が猛々しい男の杭によって掘削され、路が通されていく。そのうち、抽送運動に対する肉襞の抵抗がゆるんできた。
ボビーは、何も考えられなくなった。
ただ、成す術もなく串刺しの刑に身を任せ、アヌスの痺れるような苦痛や、後ろの奥深いところに覚える不思議な快感――それらを夢うつつに感じていた。

タケシの動きが激しく、息遣いが切迫したものに変わってきた。
ふいにその身体が強張った。
ボビーは男の射精のうずきを感じ取った。と同時に、体内に埋めこまれたものがなおのこと膨らみ、ほとばしる奔流が直腸内に溢れかえった。
そのとき、ボビーは奇妙な感動を覚えた。まるで彼自身が、久しぶりに射精したような満足感だった。
しばらくして、彼の体からタケシが抜け出た。
ボビーはほっとして、うつ伏せのままベッドに沈み込んだ。尻の奥に、まだ男が入り込んでいる感覚が残っていた。べとつく精液が太腿を伝い落ち、その感触に怖じ気づいた。
一瞬、サトシの罹った病気が脳裏を過った。
男を迎え入れた改悟の念、そして倒錯した悦び――ボビーの頭の中で、複雑な思いが入り乱れた。
[18/11/18 08:17 神亀]
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