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男の隠れ家 - 同性相親しむ
『類は友を呼ぶ』と言う。似たような趣味や傾向を持つものは、自然に寄り集まるということであるが、ほかにも同義のことわざはたくさんある。中でも、お仲間内で一番人気のことわざは、『同性相親しむ』であろう。



(1)

木内俊郎は52歳の誕生日をむかえたとき、取締役に就任した。
これには多くの社員たちが驚いたが、一番驚いたのは当の本人だった。
なにしろ彼は、およそゴマスリとは縁のない直言癖で鳴らし、社内では扱いにくい人物とみなされていたからだ。
その性格のために上司と衝突することも多く、同期入社の社員たちが出世していく中、彼だけは下積み時代が長かった。それに地方支店への転勤も多かった。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり、ある有力な重役が、俊郎の実力と実績を認め、役員候補に強く推したのだ。
しかし、もしその有力者が木内俊郎の裏の性癖に気づいていたなら、彼を役員候補に推していたか、大いに疑問であろう。
木内俊郎の隠された性癖――彼には女房とふたりの子供がいるが――家庭生活の外側で、複数の年配男性たちと性的関係を持っていたのだ。
俊郎は現在53歳、固太りの恵まれた体格をしている。その上、ふてぶてしいほど逞しい男性器の持ち主でもある。
血色の良い顔は、生来のおおらかとひとりっ子育ちのわがままが、奇妙に入り混じっている。取り立てて二枚目でもないが、どういうわけかフケの男性たちによくもてた。
そしてまた俊郎もフケが大好きであるが、その遠因は幼少期に遡る。

幼少時の俊郎は、ふっくらとした体に純真な輝きを見せるつぶらな瞳をして、五月人形のように愛くるしかった。たまに母親が、幼い俊郎を連れて街のレストランに入ろうものなら、店のウエートレスたちが競って面倒を見るほどの人気だった。
高校教師の父親は謹厳実直な人物だった。休みの日も家で仕事をすることが多く、俊郎は父親に遊んでもらった記憶がない。
代わって面倒を見てくれたのが、祖父だった。祖父は孫の俊郎を、それこそ目に入れても痛くないほど可愛がった。
俊郎も祖父が大好きだったが、一番のお気に入りは、一緒に風呂に入ることだった。
祖父は肉の厚い柔らかい手で、俊郎の小さな体の隅々まで洗ってくれる。お返しに、俊郎も祖父の大きな体を洗ってやるのだが、喜ぶところはわかっていた。
石鹸をたっぷりと泡立てて、大きなおチンチンやタマタマ、お尻の穴に塗りつけて、小さな手でニュルニュルとこすってやると、祖父がいかにも気持ちよさそうにする。
それが嬉しくてますます作業に熱中していると、おじいちゃんのおチンチンがムクムクと起き上がってきて、握りきれないほど太くなる。
その変化に、幼い俊郎は無邪気に喜んだが、祖父は多少面映ゆそうな顔をして、「俊坊とおじいちゃんだけの秘密だぞ」とウインクする。
こうして俊郎の、フケ好きの原型は出来上がったのである。

さて取締役に就任した俊郎は、直言癖の態度を改めるつもりはなかったが、年配男性たちとの交際は慎重にならざるをえなかった。
軽はずみな行動がもとでスキャンダルにでもなれば、自分だけでなく、会社にも影響を及ぼすからだ。
――とは言ってもまだ53歳である。
性欲は依然として衰えを見せず、ときにどうしょうもないほど、欲望が募ることもある。
そんなとき、連れ込みホテルやホモサウナのような人目のつくところではなく、秘密の隠れ家があれば便利だと思った。そこでなら、惚れあった男を連れ込んで、人目をはばからず、思いっきり淫らなことができる――。男なら誰しも一度は抱く願望である。
さいわい、俊郎は役員になったとき望外の金が転がり込んで、購入資金は充分にあったし、女房の無関心さもあった。
候補物件を慎重に選んだ結果、勤め先から適度の距離にある、1LDKのマンションを見つけた。管理人やガードマンのいる複数棟のマンションだが、都心部にしては閑静でプライバシーを保てそうな雰囲気が気に入った。
女房には、取締役になって夜遅くなることも増えてきたから、と言い訳した。すでに心の距離が大きく開いていた女房は「あ、そう」と軽くうなずいただけで、さほど関心を示さなかった。
かくして俊郎は、念願の『隠れ家』を手に入れたのである。

――*――

都会の隠れ家を手に入れて、ふた月余りが経つ。
その間、残念ながら、女房への言い訳にした「仕事が遅くなったときのホテル代わり」の用途でしか、役立っていない。
そのころ俊郎に、運転手つきの社用車が割り当てられた。ある副社長専用の車だったが、副社長が顧問に退いたとき、新任の役員に譲ると言ったそうだ。
運転手は68歳の老人で、高齢だが健康状態はいたって良いことから、これも元副社長の要望で、継続雇用されていた。
それは俊郎にとって、大歓迎のことだった。なにしろその運転手は、まさに俊郎の好みを絵に描いたような老人だったからだ。
椙田という名前だが、皆からは親しみを込めて、「スギさん」と呼ばれている。60代後半の年代にしては、大柄な体つきをしている。ゾウのように小さくて優しい目、太い鼻とふっくらとした唇、肉付きのよい顔は艶々として、いたって血色が良い。
いわゆる癒し系の老人で、そばにいるだけで、ほのぼのとした暖かい気分になる。

俊郎は、椙田の車を利用するにつれ、この老運転手に対する思慕の念を募らせた。
老人は初対面のときから、若い重役に親愛の情を示して、いつもおだやかにほほ笑みかけて挨拶する。ときに俊郎が、冗談まじりに尻を軽く叩いたり、撫でたりしても、いやな顔ひとつしない。むしろ、触られたときの快感を、抑えているような気配さえある。
(ひょっとしたらこの運転手、俺に気があるんじゃないか――)
ふと思うこともあったが、行動に出るのは控えていた。
老人の穏やかな物腰には、裏世界とは無縁のおおらかさがあったし、同性愛者の後ろめたい様子は、微塵も窺えなかったからだ。

ある晩、顧客との付き合いを終えて、椙田運転手の車に乗っていた。
俊郎はかなり飲みすぎて、遠く離れた自宅まで帰るのが億劫だった。さいわい明日は休みで、特に予定もない。結局その夜は、セカンドハウスに泊まることにした。
マンションに車が着いたとき、俊郎はさほど期待せずに運転手を誘った。
「スギさん――ちょっと寄っていきませんか。お茶でも飲んで一服したら」
驚いたことに、椙田は素直にうなずいた。
「ではお言葉に甘えて、少しだけ」
部屋に入ると、椙田は「私がやります」と言って、キッチンで作業を始めた。老運転手の後ろ姿――太い腰まわりや、小腰を屈めて横に膨らむでっぷりとした尻――を目にして、胸がときめいた。
(――この部屋にはスギさんと俺しかいない)
夜中の密室で老人と二人きりだという思いに、ゾクッと震えるほどの興奮を覚えた。

俊郎はお茶を待つ間、浴槽に湯を張りにいった。
洗面所で、ふと思い立って頭上のキャビネットの扉を開けた。そこには男を連れ込んだ時に備えて、直腸の洗浄用具が入っている。このほか、寝室のサイドボードには、ラブオイルやゴム製品を忍ばせている。
俊郎はキャビネットから、ゴム製のシリンジを取り出した。湯を注入して浣腸する器具だ。
――これをスギさんに使うチャンスがあるのだろうか。
俊郎はしばし考えて、シリンジをバスルームの片隅に置いた。

リビングに戻ると、ちょうどお茶が用意されていた。
ふたりはダイニングテーブルで向かい合わせに腰掛け、お茶を飲みながら雑談した。
「もう11時になる。いつも遅くまでつき合せて、すみませんね」
俊郎が言うと、椙田は恐縮したように太った体を小さく丸めた。
「とんでもございません。仕事ですから――」
「でも、毎晩遅いと、奥さんが心配しているでしょう?」
「いえ、女房は早くに死にました。――脳梗塞で」
俊郎の問いかけに、椙田は目も口元も和ませて、ぽつぽつと話をする。女のいない男所帯のような雰囲気が流れた。
「それはお気の毒に――どなたか一緒に住まわれているの?」
「息子がいます――40近くになって、まだ身を固めていませんが」
椙田は微かに眉をしかめた。その話題にあまり触れたくないようだ。
俊郎は話題を変えた。
「しかし、スギさんは70に近いのに、とてもお元気だ。なにか健康法でもあるの?」
「はあ――体の丈夫さだけが取り柄でして。でも、このところ、血圧が高くて――」
そこまで言いかけて、あわてて否定するように頭を振った。「いえ、心配ありません。車の運転には差し支えございませんから」

言われてみれば、椙田の顔はいかにも血圧が高そうに、少しむくんでいる。そのことに触れないで、俊郎は、冗談めかして言った。
「そんなにお元気なら、奥さんがいなくて、不自由に思う夜もあるでしょう」
言ったあと、老人の顔を見て、オヤと思った。福々しい顔に赤みがさして、ゾウのように優しい目が、心なしか潤んでいる。
気のせいだろうか――俊郎は、探りを入れるように話を続けた。
「しかしスギさんは、男の色気というか、お父さんタイプのいい顔をしている。男にも、言い寄られたことがあるんじゃないですか」
「いえ、そんな――重役こそ、素敵なお顔をされています」
言ったあと、老運転手は恥ずかしそうに俯いた。
老人の心の内を垣間見て、俊郎は思い切って尋ねた。
「スギさんは――男色の経験がありますか?」
肉付きの良い顔の赤みが増した。運転手は小さな声で言った。
「――あるお方に助けられたのがご縁で、お付き合いさせていただきました」
一瞬、聞き間違えたかと思った。しかし老人の顔を見ると、信頼しきった穏やかな目が、こちらを窺うように見ている。
俊郎はすこし踏み込んで質問した。
「どういった、いきさつですか?」
椙田は、恐縮したように体を丸めた。
「それは――ご勘弁ください。そのお方のご名誉にも関わることですから」
俊郎は、それ以上追求しなかった。どこまで進んだか知らないが、老人が男色行為を経験しているのは確かだろう。
老人の柔らかそうな唇を見ていると、アナルのふくらみを想わせて、股間がムズムズしてくる。俊郎は、老人の顔をまっすぐに見ながら、思い入れたっぷりに言った。
「スギさん、風呂に入りませんか。背中を流してあげますよ」
[18/05/24 23:09 神亀]
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