目 次
■ 19番ホール - 前戯
(熟年の男)

「高史くん、この頃ちょっと過ぎるんじゃないのか?」
「お義父さん、何のことですか?」
「やり過ぎじゃないかと言ってるんだ。近頃、以前のような硬さがないが」
「いやだな、お義父さん。私だって年々、歳を取っているんですよ。カチンカチンにおっ立った青春よ、さらば、です」

久しぶりにホテルで、義父と親密なひとときを過ごしているときのことだった。
義父は咥えていたイチモツから口を離して、疑わしそうに私の顔を見た。
「それにしても、きみは少々疲れ気味だよ。それに、腰使いも変わってきた。相手が変われば、腰の使い方も変化すると言うけど――よほど取っ換え引っ換え、たくさんの男たちと、お付合いしているようだね」
「だから、それは誤解ですって。私がお付き合いしているのは、お義父さんだけですよ」
「あっ、そう」
義父は、全く信用していない調子で、軽くうなずいた。「しかしきみは、これといって何の取り柄もない、ごく平凡な男なのに、どうしてそんなにもてるんだろうね」
いつもの調子でつぶやくと、義父は再びおしゃぶり棒にとりついた。

お人好しの義父をこの世界に引きずり込んで、5年が経つ。
ということは、義父はもう76歳だ。その義父からゴルフ場の会員権を譲り受けたとき、ゴルフクラブの理事長を紹介された。なんでも義父の大学後輩だと言う。
私はふとしたきっかけで、この理事長とも親密な仲になった。そのときすでに理事長は、男同士のお付き合いの方法を知っていた。どうやら義父は、私に教えられた男の世界に、後輩の理事長も引っ張り込んだようだ。
理事長は義父に似て肥満体だが、感触は微妙に違っている。トロトロとかき混ぜたバターのようにやわらかく、ねっとりとまとわりついてくる。キュンッと締めつけるような感触はないが、それはそれで刺激がある。それに、艶っぽい喘ぎ声も、興奮を誘う。
――って、私は冒頭から何を言ってるのだろう。

(年配タレント)

あけぼのゴルフ倶楽部の会員になって、20年余りになります。
メンバーの方々は、私がタレントだといって特別視することもなく、ごく自然体で付き合ってくださいます。
さて、あけぼのゴルフ倶楽部での長いクラブライフの中で、今年は、私の人生を変える出来事が起きたのでございます。

孫たちの夏休みが終わった頃、ゴルフクラブ恒例の開場記念大会がございます。このところ映画の撮影がつづいて、ゴルフ場に来たのは3ヶ月ぶりでした。
私は、理事長ほかクラブ役員の方々と、一緒にプレーしました。理事長は私と同世代で、数年来、フランクなお付き合いをさせていただいております。
9月に入ったばかりというのに、早くも秋晴れのようなすばらしい天候に恵まれました。しかし、私のスコアのほうは、天候どおりとはいきません。なにしろ3ヶ月間のブランクがございます。はなから上位入賞など望めません。
予想通り、スコアは惨憺たるものでしたが、プレー終了後、風呂で汗を流しますと、久しぶりに心地よい疲労感を覚えます。
そのあと理事長にお付き合いして、懇親パーティーに参加することになりました。

初めてその方をお見かけしたのは、パーティーの席上でした。
優勝者が発表され、名前を呼ばれた男性が、テーブル間を縫って前に進み出ました。
その男性の歩く姿を見て、私はハッとしました。ゆったりとして、流れるように、それでいて内に秘めた力強さを感じます。日本舞踊をやっている私には、その男性が、天性のしなやかな運動能力を持っていると分かりました。
紹介をする理事長の横で、優勝者がこちらに振り返りました。
私の知らない男性でした。年のころ50代半ば、中背やや太めの体格。ほどよく日焼けした顔は、大人の成熟と子供の無邪気がミックスして、実直そうで好感が持てます。
その男性は、理事長から優勝カップを受け取るとき、ちょっとはにかんだ笑みを浮かべました。
その途端、私はこの男性に、震いつきたくなるほどの魅力を感じました。男性の立ち居振舞いには、心身ともに充実した壮年男の覇気が滲み出ています。それに不謹慎ながら、その男性のズボンの膨らみに気を取られました。左太ももの付け根に、あきらかにソレと分かる長太い膨らみがあるのです。

表彰式が終わったあと、男性の姿を目で追いました。席に戻ったその方は、まわりにいるメンバーたちと親しそうに話をしています。
「なかなかいい男でしょう」
席に戻ってきた理事長が、私の視線の先を追って、話しかけてきました。私は、優勝した男性の姿をもっと見ていたかったのですが、仕方なく理事長のほうに向き直りました。
「私の知らない方ですね。理事長はご存知なのですか」
理事長は、うなずきました。
「ああ、神山さんは昨年、ここのメンバーになられたばかりです。義理のお父さんである芳賀さんの名義を、書き換えられたのです」
芳賀さんはよく存じてます。これまで何回か、一緒にプレーしたこともあります。そばにいて楽しい紳士です。
「芳賀さんの息子さんですか」
「芳賀さんの娘さんのお婿さんです」
理事長は私の言葉を訂正すると、優勝した男性のいる席のほうをそっと見ました。
そのとき、理事長の目つきを見て、私は直感的に思いました。理事長も私同様、あの男性に恋心を抱いているのでは、と。

パーティーが終わったあと、私は夢遊病者のようにフラフラと、神山さんの後を追いました。神山さんはしばらくカウンターにいるスタッフと話をして、端に置かれた月例大会の申込書にサインすると、パーティー会場で横にいた二人の小柄な老人たちと連れたって、外に出ました。
私が神山さんのあとを追えるのは、そこまででした。来月の月例コンペの申し込み表を見ますと、神山さんと二人の老人のサインがあり、もう一人の枠が空いています。
私は躊躇なく、その空いた欄に、自分の名前を書き込みました。

(熟年の男)

――まさか殿井征史郎と一緒にプレーできるとは。
それを聞いたのは月例コンペの朝、クラブハウスの理事長室に行ったときだった。
久しぶりに会ったので、ドアの鍵をかけるや否や、理事長の熱烈な歓迎――濃密な口づけや尺八を受けた。
ヌチャ、ムチッ、ジュルル――。
老人のまったりとした口淫に、最後までいきたいと思ったが、スタート時刻まで余裕がなかったので、断腸の思いで押しとどめた。

熱烈な挨拶を15分間ほどしたのち、理事長は口元をハンカチで拭いながら言った。
「きょうは殿井さんとご一緒ですね」
「殿井?あのタレントの殿井征史郎ですか?」
「そうです。私は先月の開場記念杯で、あの方とご一緒しました。そのとき、殿井さんはパーティー会場のあなたを見て、えらくご興味を持たれた様子でしたよ」
俄かには信じられない、理事長の言葉だった。
殿井征史郎は、渋い演技の脇役として熟年層に人気のあるベテラン俳優で、近頃はテレビの旅番組やバラエティーものにも出ている。あけぼのゴルフ倶楽部でも、彼の姿を遠目に見たことはあるが、まさか一緒にプレーできるとは。

この老優は、私の好みのタイプだった。年のころ70前後、庶民的で枯淡な風貌だが甘い色気もある。おっとりとした物腰や、飾り気のない振る舞いが好印象だ。
彼の姿をテレビなどで見るたびに、一度でいいから抱いてみたいと思っていた。夢に登場したこともある。でも所詮、高嶺の花だとあきらめていた。
その人物と今日一日、一緒にゴルフができるのだ。
理事長の話によれば、先方はこちらに興味を持っているようだと言う。ひょっとしたらお仲間では――。そう思った途端、股間が素直に反応した。
私のズボンの膨らみに気づいた理事長が、すかさず言った。
「神山さん、よからぬ考えを起こしては駄目ですよ。殿井さんは、ごくノーマルな紳士ですからね」

(年配タレント)

10月の月例コンペは、これまでで最も待ち遠しい競技会になりました。私は神山さんに少しでもいいところを見せようと、その日に合わせて猛練習しました。
そしていよいよ、月例競技会の日がやって参りました。
スタートホールで、あこがれの神山さんの姿を見たとたん、心臓の鼓動が高まるのを覚えました。
神山さんの側には、白雪姫の七人の小人を連想させる、小柄な老人たちがいました。二人とも古株のメンバーで、可愛らしいという形容がぴったりのご隠居さんたちです。
そして驚いたことに、神山さんは私に気づいて、彼のほうから話しかけてきました。
「おはようございます、神山です。今日はご一緒させていただきます。よろしくお願いします」
「あ、殿井でございます――あのう、神山さんは、私をご存知でしたか」
「もちろんです。私はあなたの大ファンですから」
神山さんは、私の顔をまっすぐに見て、にこやかに微笑みかけると、右手を差し出しました。私は初心な乙女のように緊張して、その手を握りました。大きくて、温かくて、そして意外にも柔らかく、包み込まれるような感触にうっとりとしました。

プレーが開始されましたが、私はそれどころではありません。ただただ、神山さんの姿だけを目で追っていました。
そしてたちまち、神山さんのプレーに魅了されました。彼のスイングは滑らかで無理がなく、それでいて、のびのびとした力強さがあります。身長はおそらく170センチちょっと、肩も胸も腰回りも太めで、ほどよい壮年男の粘りと柔軟性があります。
何よりも気になったのは、ズボンの前の膨らみでした。神山さんのちょっとした動きで、左太腿の付け根にもっこりとした大きな膨らみが浮き出るのです。

そのうち、神山さんの癖もわかってきました。どうやら神山さんは、親しい人に対して、言葉だけでなく、スキンシップで親密さをあらわすようです。
最初のうちは、二人の小柄な老人たちに対して、肩を抱いたり、お尻を撫でたりしていましたが、親しさが増すにつれ、私に対しても同じようにしてきます。
神山さんの大きな手で触られたり、抱き寄せられたりすると、思わず声の出そうな快感が走ります。私はただうっとりとして、包容力のある腕や体を感じておりました。
それでも、気をつけていました。神山さんはスキンシップが好きだといっても、それは男らしい愛情からくるだけであって、私のような、人に言えない想いからするのではない。だからいくら親しくなっても、私の性癖を神山さんに悟られて、軽蔑されたくない。そう思って、自分の感情を表に出さないよう、気をつけていました。
[18/01/03 07:51 神亀]
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