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大逆転(後編) - (二十一)救出
(二十一)救出

鉄平は、父親の手当てをしてやっていた。
父はベッドにうつ伏せになって、死んだようにぐったりとしている。
(可哀想な父さん――)
母を家出に追いやった父に対する反感は、鉄平の頭の中からすっかり霧消していた。
それにしても、盛山が男好きだというのは、すぐに分かった。それも、若い鉄平には目もくれず、年上の親父のほうばかり見ていた。親父のでかいチンポを指で弄ぶときの、いかにも嬉しそうな表情――。
手回しよくオイルの容器を持っていたところからすると、部屋に入る前からゴリラ男にやらせようと決めていたようだ。それにゴリラ男が突っ込んでいる様子を見る、盛山の目つき。まるで性に飢えたガキのように、目を輝かせていた。
彼は父の容態を心底気遣った。無類の女好きだった父が、男に犯されたのだ。それも巨大なチンポを突っ込まれて。
局部は熱っぽく腫れて、ゴリラ男に痛めつけられた痕跡は歴然と残っていた。極限まで引き伸ばされた開口部は、裂傷を受けて、伸びきったゴムのように弛んでいる。
父の受けた破瓜の苦しみを思って、鉄平は思わず身震いした。そして彼は、すっかり優しい気分になっていた。
「父さん、腫れはだいぶ治まったようだよ――それにしても、あのゴリラ男、ひどいことをする」
しかし、鉄平の慈愛に満ちた気持ちにもかかわらず、父親は信じられない言葉を吐いた。
「くそっ、半殺しの刑を受けた気分だ。なんであのゴリラ野郎、おれなんかより若いおまえをやらなかったんだ」
鉄平は、黙って消毒液の容器を手に取ると、冷静な手つきで局部に塗りつけた。
「うわあっ!おい、気をつけろ!」
康太郎が、悲鳴をあげた。
「少し沁みるけど、我慢して」
鉄平は平板な声で言うと、局部の状態を克明に説明しだした。
「3ヶ所、裂傷を起こしているよ。無理もない、手首ほどもある太いモノを突っ込まれたんだからね。すっかり弛んでる。あ、それから、色は紫色に変わってるよ。最初のころは、真っ赤に腫れあがってたけど――」
彼は脱脂綿をとると、局部を拭きはじめた。多少、乱暴な手つきで。
「ああっ!――そっとやってくれ」
康太郎がひるんで、腰を引いた。「おまえ、楽しんで、やっているんじゃないだろうな」
「とんでもない。痛むのかい?」
鉄平は、ちっとも真実味のない声で言った。それから最後の仕上げに、脱脂綿に消毒液をたっぷりと含ませ、患部にギュッと押しつけた。
「んぎゃーっ!」
康太郎が、絶叫した。
そのとき、玄関チャイムの音がした。

「だれだ?」
「鳥井だ、開けてくれ」
茶髪は、何の疑いも持たずに、ドアの鍵を開けた。とたん、気分が悪くなった。ドアが引き開けられ、チビのオジンが入ってきた。手には、黒光りするピストルを持っている。
「やあ、お久しぶり。息子たちがお世話になっているそうだね。迎えに来ました」
オジンがにやけた顔で言った。
茶髪は、背後に控える税理士の顔をにらんだ。
「仕方がないだろ」
鳥井が肩をすくめて、のんびりと言った。「ピストルを突き付けられているんだ」
その背後から、茶髪にとっては新顔のデブが、税理士の肩に手を置いて言った。
「さあ、奥に通してもらおうかな」

――**――

国見  3億円ともなると、すごい量ですね。
鉄平  映画で、両手一杯にお札を持って、匂いを嗅ぐ場面があったけど――あまり匂い
    がしないね。
康太郎 新札じゃないからな。どうせ悪いことをして貯めた金だ。
鉄平  だって、3億円だよ。親父、えらく醒めてるな。
康太郎 ふん、そんなはした金で、いちいち騒ぐな。
昌三  そりゃあ、お前は金持ちだからな。でもお前が稼いだ金は、この3億円と同じよ
    うなものだろう。
康太郎 バカ、こんな汚れた金と一緒にするな!わたしのは、まっとうに働いた金だ。

4人は、国見のワンルームマンションにいた。彼らの真ん中には、開けられたトランクケースが二つ。その中には、束にされた1万円札が、ぎっしりと詰まっていた。
康太郎と鉄平を救出した後、すぐ警察に駆け込む道もあったが、昌三の提案で、まず作戦会議を開こうということになった。
昌三や康太郎の家は、すでに敵方に知られている危険性があったので、国見のマンションに集まることにした。
昌三と鉄平は、マンションに行く途中、ほかの二人と別れて新宿駅に行き、地下にあるコインロッカーに寄った。大型コインロッカーの中に入っていたのは、二つの大きなトランクケースだった。かなり古いケースだったが、キャスターは正常に作動したので、さほど苦労せずに運ぶことが出来た。

「それで、これからどうするんだい?」
大金を前にして、鉄平が二人の父親の顔を見た。
「それはもう、警察に行くに決まっている。これまでのことを、ありのままに話す」と康太郎。
「ありのままねえ。じゃあ親父が、ゴリラ男に――」
鉄平が言いかけたところで、康太郎が鋭く遮った。
「黙れっ!その話は無しだ」
「何の話だ?――まあいいか。いずれにしろ、警察に行けば、あらぬことまで詮索されるだろうな」
すねに傷を持つ昌三が、不満たらたら言った。「それにこの金は、MT商事の金庫にあったものだ。あいつらに戻るとしたら、癪に障るな」
「でも、あいつらは、英ちゃんを殺したのですよ。逮捕されれば金も意味なくなる」と国見。
「やつらの犯罪を立証できればね」と昌三。
「じゃあ、父さんはどうしたいの?」と鉄平。
昌三が答える前に、康太郎が言った。
「鉄平、聞くまでもない。この男は、ここにある金を横取りしたいんだよ」
昌三が憤慨して、叫んだ。
「そんなこと、誰が考えるか!」
すかさず康太郎が、断定するように言った。
「じゃあ、警察に行くことで決まりだな。今日はもう遅い。飯を食って、寝るぞ」

昌三は、夢うつつの中で目を覚ました。なにか様子がおかしかった。熱っぽい吐息や体の触れあう気配、絞り出すような息づかい――。
彼は、ハッとした。ベッドの上から暗闇をすかし見ると、床のカーペットの端っこで、絡み合うふたつの影が見てとれた。
首にかかる息を感じて振り返ると、康太郎の顔がすぐそばにあった。あきらかに興奮したようすだ。彼ら二人は国見のベッドを使っていた。
「おい、いいのか?」
康太郎が、ささやいた。
「どうしてだ?」
昌三も、ささやき返した。
「なんて親だ。相手は男だぞ。鉄平がいくら頑張っても、孫は出来ないんだぞ」
「孫なんて、まだ早い。鉄平はやりたい盛りの年頃だ。もうちょっと、おおらかな気持ちで見てやれ」
「おまえ、息子が男とやっているのを見て、楽しいのか?」
「バカ」
息子たちの行為は、いつまでも続きそうに思われた。湿った柔らかいものを穿つ濡れた音、密やかな息遣い――それが嫌でも耳に入ってくる。
昌三と康太郎は、じっとして動かなかった。息さえもひそめていた。
(やりたい盛りの年頃とはいえ、なにも父親がいるところでやらなくてもいいのに。もっとも、おれも昨日の晩は、クニさんとさんざんやりまくったけどな――)
昌三は、苦笑いした。
そのとき、尻に押し付けられた固いものに気付いた。興奮した康太郎が、無意識に性器を、昌三の柔らかいふくらみに押し付けているのだ。
昌三は後ろの相棒に言った。
「おい、おれから離れろ」
「ベッドが狭いんだ。無理を言うな」
「だったら、ベッドから出ろ」
「何を言う。おまえこそベッドから出ろよ」
「バカ。しかし、なんでお前とはこう、ひとつベッドで寝るような展開になるんだ」
「ああ、お前とは不思議な糸でつながれているような気がする」
「気持ち悪いこと言うな」
昌三は文句を言いながら、尻に当たる性器の感触に、興奮も覚えていた。遠い昔、男たちに犯された苦痛も蘇ってこなかった。どうやら悪夢から解放されつつあるようだ。

そのとき、チャイムが鳴った。
「誰だ、こんな真夜中に?」と康太郎。
暗闇で繰り広げられていた熱っぽい動きが、一瞬にして止まった。大慌てで身繕いする気配。しばらくして、マンションの主、国見の声。
「はーい。こんな夜中に、何ですか?」
「電報でーす」
ドアの向こうから、男の声がした。
(何かおかしい?あ、待てっ!)
昌三は、国見に声をかけようとした。
しかし、遅かった。
男たちがなだれ込んで来て、部屋の4人はなすすべも無く抑えられた。
[17/11/06 06:35 神亀]
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