■ 大逆転(後編) - (十四)迫る危機
(十四)迫る危機
河合昌三と国見が公園から出ていった後、少し遅れて、若いカップルが公園に入ってきた。茶髪の男と小柄なミニスカートの女。男が何気なく康太郎たちのほうを見て、ハッとして立ち止まった。男はあわてて女の手を引っ張って、木陰に隠れた。それから携帯電話をとりだした。
「もしもし、あ、池内さん。例の男たちを見つけました。割烹屋の親父と息子です」
――なにっ、今どこにいる?
「品川駅の近く。プリンスホテルの横の公園です」
――それで、やつら、まだそこにいるのか?
「ええ、のんびりと話をしています」
――よし、田中をそちらに向かわせる。それまでやつらを見張ってろ。
電話が切れた。
茶髪は舌打ちした。仲間が来るまで、30分はかかりそうだ。それまで、やつらがここにいるかどうか。もしどこかに行こうとしたら――。
彼には、二人を引きとめる自信がなかった。ハゲを見ていると、あのときの屈辱が思い出された。口をテープで塞がれ、恐怖に震えながら座りつづけた2時間――。警備員に助けられたとき、あられもない格好を好奇の目で見られたときの恥かしさ――。
ケツの穴に突っ込まれた異物の感触や、むきだしの尻にひんやりと伝わる便器の感触がよみがえってきて、彼は思わず身震いした。
「ねえ、和ちゃん、どうしたの?」
連れの女が話しかけて、茶髪は我に返った。
風俗店で知りあった女だった。蛸壺のミーちゃん――それが彼女の通り名だ。名前どおり、彼女のアソコは絶品だった。一度味わって、病みつきになった。女を見ていて、ふと彼は思いついた。
「いいか、あそこにいるオジンとガキだ。オジンのほうがスケベそうだ。ちょいといい思いをさせて、時間稼ぎしてくれ。30分でいい」
女がまわりを見渡した。
「だって、どこでやるのよ?」
「公衆便所があるじゃないか」
茶髪はにやりとした。以前そこで、女とやったことがあった。
「いいか、うまくやれよ。あとで礼は、たんまりと出す」
彼は、女の尻をパチンと叩いた。
女が腰をくねらせながら、オジンたちのほうに近づいていくのを、彼は木陰から見守っていた。
「ぼくの代わりに、危険を承知で店を見に行くなんて、横浜の父さんを見直したよ」
鉄平が感心したように言った。
康太郎は鼻であしらった。
「ふん、本当は警察に行きたくなかっただけだ。あの男、かなり前科を持っていそうだからな」
息子に話しかけながら、康太郎はふと前を見た。
ボール遊びをする子供たち。楽しそうに話しながら公園内を歩く若いカップルたち――。
彼の目に、ひとりの若い女の姿が映った。
胸元を大きく広げたオレンジ色のシャツに、膝上20センチの短いスカート。盛り上がった乳房のふくらみが、手に取るように見える。
(ノーブラだな)
彼は想像した。それに足もすばらしい。形よく伸びて、足首のところがキュッと締まっている。
(さぞかしアソコも締まっているんだろうな)
康太郎はすっかり好色な気分になった。その彼の耳に、息子の声が聞こえてくる。
「これまで何度も聞いたけど、キーをどこにやったのか、まだ思い出せないの」
「ああ――」
康太郎は、上の空で答えた。
女がまっすぐに彼のほうを見た。切れ長の色っぽい目つき。女は口をとがらせ、ふっと息を吐いた。そのとき気づいた。唇の端が痙攣したように、ピクリと震えるのを。
(さぞかしあっちのほうも、感度がよさそうだな)
彼はフッとほほ笑んだ。
おどろいたことに、女のほうもこちらを見てほほ笑んだ。
横で息子が言っていた。
「――ひょっとしたら、店の誰かがキーを拾ってるかもしれないな。みんなに聞いてみたらどうなの?」
康太郎は、それどころではなかった。女が彼に流し目をくれ、尻をくねらせながら歩き出した。途中で振りかえり、誘うように彼のほうを見た。
康太郎は、若者のように胸を高鳴らせた。女の姿が小さくなる。女はトイレの前で立ち止まり、もう一度こちらを見た。まるで彼の来るのを待っているように――。
康太郎は、たまらず腰をあげた。
「ちょっとトイレに行ってくる。朝から下痢気味なんだ。ここで待っててくれ」
(下痢気味だって?)
鉄平は、父が太った尻を揺すらせてトイレに向う姿を見て、苦笑した。昨夜、神田の父は、親子どんぶりを食べた上に、ザルソバを2枚注文した。
(食い過ぎの付けが回ったな)
父の戻ってくるのは遅かった。いくら下痢気味だといっても、遅すぎる。鉄平はいらいらして腕時計を見た。そのとき背後から男の声がした。
「やあ、ぼくちゃん。また会ったな」
振り向くと、茶髪の男が立っていた。その横には、ゴリラのようにでかい男がいた。
「いい――」
康太郎は、うめいた。
女の一部が彼のモノを奥深く咥え込んで、吸いつき、生暖かく濡れてうごめく――。
まるで蛸壺に突っ込んでいるようだった。経験したこともないような極上の味に、なんで自分のようなハゲのオジンを、女が誘ったのかなんて疑問は、頭の中からすっかり消え失せていた。
すぐ外界では、何人もの人間が行き交っているのも気にならない。彼の意識にあるのは、分身にからみつく、この世のものとは思えないような快感だけだった。
蜜壺の中で、膨れ上がったイチモツが我慢できずに大きく膨らむ。
そのとき、ブースの外から男の声が聞こえてきた。
「お客さん、時間だよ」