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大逆転(前編) - (十二)チームワーク
(十二)チームワーク

翌朝、ゲイバーのマスター、国見佳明が昌三の家にやってきた。徹夜明けのように、疲れた目をしている。彼は鉄平の無事な姿を見て、ホッとしたようすだった。
「クニさん、えらく早いね。どうしたんだい」
「ああ、鉄平くん、ちょっといいかな」
国見のいつもと違う様子に、鉄平は、彼を自分の部屋に通した。

「――というわけなんだ。今まで言いそびれていたのは、きみに連絡すると殺すぞって脅されてね。あれは脅しだけじゃない、あいつらなら人殺しを、屁とも思っていない。ほら、全裸でビルの屋上から落ちた男のニュース、あれもやつらがやったんだよ――」
国見の話が終わると、鉄平は、自分のほうで起こった出来事や、弁護士から仕入れた情報を話してやった。
「へーえ、3億円か。道理であの男たちが、必死になるはずだな」
鉄平の話を聞いて、国見は大きくため息をついた。
「それにしても、鉄平くんも大変な目にあったんだね。大丈夫かい?」
「大丈夫、ぼくのほうは、尺八をさせられただけだから。それより――」
鉄平は、片尻浮かせてベッドに腰掛ける国見を見た。「クニさんこそ大丈夫かい。ゴリラのような大男に、やられたんだろう。さあ、ぼくが見てあげる。お尻を出して」
国見は、苦痛を思い出したように、身震いした。
「大丈夫だよ、腫れは引いたから」
「ダメ。しっかり手当てしておかないと、悪化したら大変だ。ぼくが楽しめなくなるだろ」
鉄平は断定すると、部屋を出て行き、薬箱を持って来た。それから国見のズボンを脱がして、ベッドの縁に屈ませた。でっぷりとした双丘に手を当てて左右に開くと、国見がひるんで腰を引いた。
案の定、軽い裂傷を起こしていたが、すでに治りかけている。念のため、化膿止めの軟膏を塗ってやった。
そのとき、昌三の声がした。
「鉄平、コーヒーが冷めちゃうぞ――」
そこで部屋の光景を見て、昌三は話の途中で息を呑んだ。なんと、ズボンを脱いで尻をむき出しにした国見と、その背後にうずくまる息子の姿が、目に飛び込んだのだ。
「おっと、邪魔したな」
ひとこと言うと、昌三はそのままUターンした。
「違うんだ、父さん!」
鉄平は、ひどくあわてた。

食堂に行くと、昌三と康太郎がテーブルについて、朝食を取っていた。
二人とも寝不足気味に、目をしょぼつかせている。
「おや、もう終わったのかい。朝っぱらから、精が出るねえ」
昌三が、上目使いに二人を見て、のんびりと言った。
「勘違いしないでよ。あれは、クニさんの治療をしてやっていたんだ」
「治療?」
「ああ、あとで話すよ」
鉄平は、面倒くさくなったので、話題を変えた。「それにしても、二人とも疲れた顔をしてるね。眠れなかったのかい?」
昌三が不機嫌そうに、康太郎のほうを見た。
「デブが横で寝たんだ。でっぱった腹が窮屈で、よく眠れなかった。それに、いびきもうるさかった」
「わたしもよく眠れんかった」
康太郎も、憮然として言った。「こいつが布団の中で、ぽっちゃりした尻を押しつけてくるんで、気持ち悪くてな。わたしは、そんな趣味はないのに。鉄平、知ってるか。この男、昔なあ仕事仲間たちに――」
「黙れ〜っ!」
昌三が叫んだ。彼は康太郎に指を突き立てた。「いいか、それ以上しゃべったら承知しないぞ」
「あれっ、何の話?」
国見のためにトーストを焼いていた鉄平が、父親たちに向って聞いた。
昌三が康太郎をにらみつけ、康太郎のほうはシレっとしてコーヒーを飲んでいた。

しばらくして、昌三が息子に向って言った。
「ところで今日、あの弁護士のところに、もう一度、行くぞ」
「なんのためだい?」
「お前のもうひとりの父親のためだ。おまえを捨てた非道の男だといっても、実の親だからな」
「わたしが捨てたんじゃない!」
康太郎が怒鳴った。
「なあに、捨てたようなもんだ」
昌三は平然と言った。「とにかく、店を焼かれたんだ。このあと悪い奴らが、なにをしでかすか分からん。だから弁護士のところに行って、もっと奴らの情報を引き出すんだ」
「情報を引き出して、どうするつもりだい」と鉄平が聞いた。
「それはまだ決めていない。でも奴らにもきっと弱みはあるはずだ。それを見つけ出したら、あとは警察にまかせる」
「じゃあ、わたしも連れてってよ」
それまで黙って聞いていた国見が、突然言った。
「なんで、クニさんが行くんだ」
怪訝そうに、昌三が聞いた。
「わたしも男たちに、ひどい目にあわされたんだ。それに元はといえば、わたしがコインロッカーのキーを鉄平くんに預けたばかりに、皆さんにも危害が及んだ」
そのとき横から、康太郎がえらそうに言った。
「なんだ、おまえがゲイバーのマスターか。たしかにお前のせいで、えらい迷惑をこうむっているんだぞ」
昌三が、黙ってろと言うように康太郎に手を上げて、国見に言った。
「まあ、クニさんの気持ちも分かるが、相手は危険な男たちだぞ」
「でも、鉄平くんも連れていくんでしょう?」
「彼が必要だからだ。鉄平がいれば、弁護士先生も素直に口を開いてくれる。なあ、鉄平」
鉄平が、きまり悪そうにもじもじして、うつむいた。彼は国見に対して、弁護士のオカマを掘ったことは、言ってなかった。
国見は追及した。
「なんで鉄平くんなら、弁護士がすなおに話をするの?」
「恐いからだよ、なあ、鉄平」
康太郎が、ニヤニヤしながら言った。
鉄平は、あわてて言った。
「あ、やっぱ、ぼく、一緒に行くのやめた。大学の授業があるから――」

二人の父親の目が、すっと細まった。
その父親のひとり、昌三が、おもむろに言った。
「おや、鉄平。今度の騒動の張本人が、逃げてもいいのか。お前がクニさんから、キーを預かったのが原因じゃなかったのか」
後を引き継いで、康太郎が言った。
「そうだ。お前がキーを失くしたばかりに」
「ひどい!最後に失くしたのは、親父じゃないか。それに学校の授業をサボレって言うの?ひどい親じゃない?」と鉄平。
康太郎は、鉄平から昌三へと視線を移した。
「親に反抗するとは――おまえ、どんな教育をしてきたんだ?」
そこで、鉄平に向き直って「とにかくお前が必要なんだ。あの変態弁護士が協力しないときは、昨日のようにやっつけるんだ。――マスターにも、詳しく説明するか」
「あ、やっぱ、ぼくも行く」
鉄平があわてて言った。
「そうだろう。おまえに来てもらえれば助かるよ」
康太郎がシレっとして言って、満足そうにうなずいた。
国見は、3人の理解できないやりとりを聞いていたが、きっぱりと言った。
「とにかく、鉄平くんが行くんなら、わたしも一緒に行きます」
年配者二人は顔を見合わせて、どうする?と目で合図を送った。
昌三が代表して言った。
「わかった。クニさんも連れていく。ただし、足手まといになるなよ」

                                  後編に続く
[17/10/28 06:54 神亀]
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