■ 大逆転(前編) - (十)お仕置き
(十)お仕置き
弁護士の堀田は、素っ裸でバスルームから出てきた。裸の彼は丸っこく、全身ピンク色に染まっている。
久しぶりに若い男、それも上物を味わって、最高に気分が良かった。思わず鼻歌が口をついて出る。彼は素肌にバスローブをはおり、事務室に行った。
すべてが整然として、その位置にある。彼は満足そうに部屋を見まわした。
事務デスクの上に、毒蜘蛛の入ったプラスチックケースが置かれている。あるブラジル人から、違法で入手したものだ。彼はケースを指先でつつき、ほほ笑んだ。ケースの中で、2匹の蜘蛛がカサコソと這いまわる。
喉の渇きを覚えたので、ポットをコンロにかけた。湯の沸く時間を利用して、ボスに電話をかけた。
「あ、社長。万事異常なしです」と明るい声で言う。
「よけいなことを、してないだろうな?」
ぶすっとした声が返ってきた。
「わたしが、そんなことをするわけないでしょう」とシレッとした声。
「そうか。ところで、和男がそっちに戻らなかったか?」
「池内と一緒に出て行った後、戻っていませんが」
「あのバカ、池内を残して、どこかに行っちまいやがった――」
そこで電話がそっけなく切れた。受話器を戻しながら、堀田はフッと息をついた。
(万事順調!)
こうでなくっちゃあ。彼は鼻歌まじりに振りかえった。
そこで万事順調が、崩壊した。
部屋の中に、二人の男が立っていた。ハゲとブチの年寄り二人。ブチの手には、黒光りする拳銃が握られている。喉もとまでこみ上げてきた悲鳴を、かろうじて押し殺した。
堀田は震え声で言った。
「な、なんだ、きみたちは!いったい、どこから――」
ハゲがふいに手をあげて、堀田はあとの言葉をのみこんだ。
「ドアから入ったんだよ、センセー」とブチが言った。
「でも鍵が――」
「かけ忘れたんじゃないのか?」
ハゲがのんびりと言った。
「そんなことはない!わたしは、ちゃんとかけていたんだ」
堀田の言葉に、ブチがいらいらしたように言う。
「センセー、おれたちはそんなこと、どうだっていいんだ」
ブチはハゲにむかって、顎をしゃくった。
すかさず、ハゲが前に出た。手にはガムテープを持っている。そのときコンロで湯の沸騰する、けたたましい音が鳴り響いた。
二人の侵入者たちは、行動を開始した。
ハゲが堀田の腕をうしろにねじり上げ、ブチはガスコンロの火を止め、そのあと他の部屋を偵察に行く。
まるで、能率の極致を見ているようだった。
数分後には、部屋が静けさを取り戻し、監禁していた小僧は助け出された。そして堀田自身は――後ろ手に縛られていた。
ブチに助けられた小僧が、椅子に座らされた堀田の前に立ちはだかった。
「小父さん、さっきはさんざんお世話になったね」
ノッポの小僧が言い、それにブチが反応した。
「なに、なにかやられたのか」
「いろいろ、変態的なことをね」と小僧。
「やっぱりな。このセンセー、見るからに好きそうな顔をしてる」とブチ。
「さて、何から始めるか?」
康太郎は、昌三に聞いた。
「もちろんお話だ。弁護士先生といろいろな」
振り返って昌三は、弁護士の肩を親しそうに抱いた。
「質問その一。おまえのボスは誰だ?」
堀田はか細い声で答えた。
「知りません。ただ、あの若者を預かってくれ、と言われただけです」
「どうも、弁護士にしては、論理があいまいだな。預かってくれと頼まれたが、依頼人は誰か知らないってか」
康太郎が言って、昌三のほうを見た。「最初の質問でつまずくとは、このセンセー、素直な性格をしているとは、とても思えんな」
「同感」
昌三がのんびりと言った。「すこし痛い目にあわせたほうが、いいんじゃないか?」
「あ、待って!社長に頼まれました」
堀田が、あわてて叫んだ。
「社長?それは何者だ」
「――」
堀田は口を閉じた。
「おんや、今度はダンマリ作戦か」と康太郎。
堀田は、丸っこいあごを震わせた。
「もう勘弁してください。若者は返したじゃないですか」
「返しただと?どうも日本語が、混乱しているようだな」
康太郎が、脅すように手を振り上げた。
堀田が避けようと体をねじった反動で、バスローブの裾がめくれ、ぽってりした太ももと陰部がむきだしになった。
それをちらりと見て、昌三は、鉄平に振りかえって言った。
「ポットのお湯が冷めた。コンロに火をつけてくれ」
鉄平がけげんそうに昌三を見て、流しの方に歩き去った。まもなく、ピーっと甲高い音が聞こえてきた。
「ポットを持ってきてくれ」
昌三が言った。
鉄平が、湯気の立つポットを持ってきた。昌三は、おもむろに弁護士の、バスローブの裾をめくり上げた。茂みから頭をのぞかせた丸っこい性器が、あらわになった。堀田が足を閉じて、それを隠そうとした。
「熱湯消毒してみるかい?」
昌三が言った。
鉄平がおどすように、湯気の立つポットを堀田の股間に近づけた。
堀田は悲鳴をあげた。
「やめてっ!話すからやめてくださ〜いっ!」
「そうこなくっちゃな。じゃあ一度だけ勘弁してやるか。いいか、一度だけだぞ。――で、社長ってのは?」
「MT商事の社長です。株の取引をやっている」
「MT?何の略だ?」
「社長の名前、盛山達雄から名づけたと聞いています」
「なるほどね。で、本業は?」
「さっき言ったでしょう、株の取引って」
「聞き方が悪かったな。じゃあ、裏の商売は?」
「――総会屋」
言ったあと、弁護士はうなだれた。
昌三が、やれやれと背筋を伸ばした。彼は腰をとんとんと叩きながら、康太郎に言った。
「バトンタッチだ」
かわって康太郎が、椅子の背もたれに手をかけ、ぐいと堀田に顔を近づけた。
「お前らの欲しがっているキーってのは、何だ?」
堀田は、何のことだと顔をねじって、康太郎を見た。
「社長が欲しがっているキーだよ」
「ああ、あのことですか」
堀田は納得したようだ。
「新宿駅にある、レンタル用コインロッカーのキーでしょう?」
「質問しているのはこっちだ。で、何を預けてるんだ?」
「社長の金です」
康太郎がせせら笑った。
「どうせまともな金じゃないだろう。いくら入ってる?」
「3億円ほど――」
鉄平が、ヒューと息を吐いた。
「なるほどね」
昌三は、弁護士の耳元に口を近づけた。
「ところでおまえ、おれの息子をあずかっているとき、オイタをしたんだろう?」
「いや、わたしはそんな――」
そこで鉄平の視線に気づいて、堀田はうろたえた。
昌三は背を伸ばすと、のんびりと言った。
「とりあえず、ひと休みするか。今度はお仕置きの時間だよ」
「ああっ、何をするんですっ!」
堀田は、床に押さえつけられて、もがいた。
ブチがバスローブのひもを解き、襟をひっぱった。
「お服を脱がせてやってるんだよ、センセー」
「やめて!やめてくれっ!」
堀田の懇願もむなしく、彼は素っ裸にされた。
「おんや、きれいなお肌をしてるね、センセー」とハゲ。
「さて、どんな体位がいい?」とブチ。
「体位ってなんだ?」とハゲ。
「よし、揺り籠ごっこでいくか」とブチ。
「なんか知らんけど、それでいくか」とハゲ。
(何を話してるんだ、この男らは――)
堀田は恐怖の目で、男たちを見上げていた。体の下になった手首が痛かったが、それよりも、これから何をされるのかという不安感の方が大きかった。
ブチがロープを持ってきた。若者を縛っていたロープだ。そのロープを足に巻きつけられ、おむつを替えられる赤ん坊のように、両足を引き上げられて――。
「やめてえっ!」
堀田は、首と両脚にロープを通され、海老固めの窮屈な格好でわめいた。
作業がおわると昌三は、それまで呆然と見ていた鉄平を、部屋の隅につれていった。彼はささやき声で言った。
「鉄平、あの男にお仕置きしてやれ」
「まさか、あいつのオカマを掘れって言うんじゃ――ぼくはいやだよ」
「おまえ、尻の穴に突っ込むのは、初めてじゃないだろ。お前がクニさんとやってるのは、知ってるんだぞ」
「親父、知ってたのか!――だって、神田の親父がいる前だぜ」
「大丈夫だ。あのスケ平親父も楽しんでるよ」
そこに康太郎がやってきた。
「どうした?はやく始めんか」
「おい、あんなことよく思いついたな」
息子があわれな生贄のほうに歩み寄るのを眺めながら、康太郎が言った。
昌三がほくそえんだ。
「あんただって、調子を合わせたじゃないか」
「いったい、あんなこと、どこで覚えたんだ?」
康太郎は、脚を開いて海老固めにされた、弁護士のほうに顎をしゃくった。
「想像力のなせるわざだ」
昌三が澄まして言った。
康太郎は不審そうに相棒を見た。新宿駅のトイレで若者にしたことが思い出された。彼は昌三に言った。
「お前、男の尻に突っ込むのが好きなのか?」
「バカ、そんなこと、直球で聞くな!」
昌三は、憤った言葉の割には、のんびりと言った。
「だって、お前、茶髪の兄ちゃんのケツにペンライトを突っ込むとき、楽しむように何回も出し入れしてたじゃないか」
「ああ、あれね。全部入るように、お通じを良くしてやったんだ」
「――」
康太郎は言葉を失った。この事務所に入るとき奇妙な形状をした針金一本でドアを開けた腕前といい、この男には驚かされることばかりだ。とてもまっとうな仕事をしているとは思えない。
二人の見ている前で、鉄平がパンツをずり下ろした。現れたものを見て、彼らは顔を見合わせた。
「おい、えらく発育がいいな」と康太郎。
「先生、引き裂かれそうだ」
昌三はつぶやくと、膝まずこうとする鉄平にむかって、声をかけた。
「おい、ちょっと待て」
鉄平が下腹部をむき出しのまま、こちらを見た。昌三は、流しの方に行った。下の戸棚の中に目的のものがあった。サラダオイルの瓶。彼はそれを、息子のところに持っていった。
「潤滑油だ。おまえのナニに、たっぷりと塗りつけないと、裂けちゃうぞ」
康太郎は、退屈そうに眺めていた。昌三が戻ってくると、彼は言った。
「お優しいこって――」
その顔は、よけいなことをしやがって、と言いたそうだった。
「武士の情けだ」
昌三は肩をすくめた。「さて、おれたちも作業を始めるか」
「何の作業だ?」
「なにか役に立ちそうなものがないか調べるんだ。まあ、何もないかも知れんが」
そのとき、弁護士の断末魔の悲鳴があがった。
「いやだあっ!――ひっ、ギャアッ!」
声のしたほうを見ると、鉄平が弁護士の体にのしかかって、むきだしの谷間に、硬直した男根を突き立てていた。
「おお、痛そう――」
昌三が顔をしかめた。
堀田のほうは、痛そうどころではなかった。まさに引き裂かれたような激痛だった。耐え難い苦痛に、尻を揺すって若者から抜け出ようともがいた。ロープがこすれ、膝と首筋が痛かった。突き入れられたモノは、彼の菊門を極限まで押し開き、なおもきしむように奥へと侵入してきた。
「うあーあっ!――あーあっ!」
堀田はのけぞり、うめき声を上げた。息をするのも困難だった。涙と汗で濡れた顔が、衝撃的な苦痛にゆがんでいた。
彼の苦しみをよそに、分厚い肉棒は、なおもじりじりと入り込んできた。それは彼の直腸をいっぱいに満たし、なおも硬度と容積を増してきた。まるで胃の腑までも、突っ込まれたようだった。
それから動きだした。
新たな苦痛が堀田を襲った。
図太い根棒が腸壁をえぐるように行き来し、動きがじょじょに早くなってくる。若者の荒い息が、フイゴのように聞こえてくる。
堀田は意識朦朧となった。股間の苦痛は、感覚が麻痺して鈍痛に変わっていた。死ぬような苦痛の中で、尻の狭間に深々と突き立てられたモノの射精のうずきを感じた。
ふいに若者が動きを止めて、その体がビクリと痙攣した。生温かいものが体内に充満した。
堀田はそのまま意識を失っていた――。
昌三と康太郎は、気絶した弁護士を見下ろしていた。
あまりの苦痛に、涙でボロボロになった顔。太った生白い身体が、妙にはかなげだった。卑猥な格好でひらかれた股間は、陵辱のあとをまざまざと物語っていた。
広げられた狭間は精液でべっとりと濡れ、開口部は熱っぽく腫れ上がっている。部屋の中に房事のあとの、けだるい異臭がただよっていた。
昌三は、弁護士の哀れな姿を見ていて、ふと18年前、男たちに輪姦された自分の姿を重ねた。奇妙なことに、弁護士に対する敵愾心が消え、同情心さえ浮かんできた。
そのとき、康太郎が言った。
「死んでも彼の身代わりには、なりたくないな。そろそろ退散するか」
「ああ」
昌三は気抜けしたように、つぶやいた。