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大逆転(前編) - (三)ゲイバー『ダディ』
(三)ゲイバー『ダディ』

その男たちが店に入ってきたとき、ダディのマスター、国見佳明は、瞬時にトラブルを察知した。恰幅のよい初老男に付き従う、ごつい体格をした二人の男たち。一人は背丈も横幅もまるでゴリラだ。そしてもう一人は、角刈り、がっちりした体格で、目つきが鋭かった。なんとなく劇画のゴルゴ13を思わせる。
店にいた他の客たちも、マスターと同じことを考えたのは明らかだった。彼らはそそくさと勘定を払って、店を出て行った。

男たちは奥のソファーに陣取った。
国見はおそるおそる、おしぼりを客の席に持って行った。
「お飲み物は何になさいますか?」
国見は年配の男に聞いた。緊張から、声がうわずっていた。
「わたしは、レミーマルタンだ」
年配の男が、おだやかに言った。
「オールドパー。ロックだ」
ゴルゴ13風の男が言った。
「何でもいい」とゴリラ男。
すかさず年配の男が言った。
「田中、池内と同じにしておけ」
「へい」
ゴリラ男が、すなおにうなずいた。
新しい客たちの様子をうかがっていた国見は、すこしホッとした。どうやら思い過ごしのようだ。ゴリラのような男や角刈りの男は不気味だが、少なくとも太った年配の男はまともなようだ。お坊ちゃまがそのまま大人になったような童顔と、栄養の行き届いたでっぷりとした体つき。物柔らかな話しぶりからすると、おそらくどこかの社長さんかも知れない。それに、この店に来たってことは、お仲間――?

国見はとっておきの笑顔をうかべて、客たちの席に酒を運んだ。そして初老男に問いかけた。
「あのう、お客さまは初めてでしたっけ?」
「ああ、マスターの人柄がいいって、紹介されてね」
年配者の顔に皮肉な表情が浮かんだ。
国見はすこし不安になったが、あえて聞いた。
「この店を紹介してくださった方は、どなたですか?」
「小山って男だよ」
頭の中で、警鐘が鳴り響いた。小山英一。恋人きどりで、一方的に愛を押しつけてきた英ちゃん。国見は、内心の動揺を押し隠して、思い出そうとするように小首をかしげた。
その耳に、揶揄するような声が聞こえた。
「とぼけんでもいい。おまえのいい男だろうが」
太った男は、前の席にいる角刈りの男に向って、命令した。「そろそろ閉店の時間だ。ドアに鍵をかけろ」
命令された男がうなずいて、立ちあがった。

国見は恐怖を覚えたが、震える声で聞いた。
「一体、どういうことですの?」
「コインロッカーのキーだ」と男がひと言。
「キー?」
「とぼけるな。おまえの男に預かったキーだ」
(ああ、あのことか)
国見は思いだした。英一と寝た晩、別れ際に渡された小さなキー。大事なものだから、預かってくれと言っていた。たしかあれは、きのう鉄平くんに――。
国見はなにげない口調で答えた。
「ああ、あれね。確かにキーを預かったけど、どこかにいったみたい」
「なにいっ!」
男の目つきが鋭くなった。「どこかに行ったみたいだと!キーに足でも付いてるのか」
「ごめんなさい」
国見はあわてたが、頭の中では疑問がひろがっていた。なんであんなちっぽけなキーが、問題になるんだ。
年配の男は、もとのおだやかな口調に戻って言った。
「失くしたじゃ済まないぞ。あのキーは大切なものだ」
その声は、穏やかなだけに不気味だった。「小山はそのために、ビルの屋上から落っこちた。素っ裸でな」
国見はギョッとした。そのニュースは新聞で見た。
(あれは英ちゃんだったのか。じゃあ英ちゃんは、この男たちに――)
漠然とした恐怖が、現実のものとなった。彼は急に、喉の渇きを覚えた。
マスターのようすをじっと見ていた男が、静かに言った。
「本当に失くしたのかな?もしも隠しだてをしたら、田中が――」
彼は最後まで言わずに、大男のほうに顎をしゃくった。大男が残忍な笑みを浮かべて、こちらを見た。まるで戦闘兵器向けの顔だ。
「本当にないんです」
国見は震えながら言った。おでこに脂汗が浮かんでくる。「そんなに大事なものだとは知らなかったんで」
「失くしたじゃ済まないと言ったはずだ」
年配の男は目を細めた。「どうも真剣味が足らんようだな」
彼は大男の方に視線を移した。「おい、マスターが欲しがってるぞ。おまえのお仕置き棒を食べさせてやれ」

大男がにんまりとして、立ちあがった。
国見はドアのほうに逃げようとした。とたん、角刈りの男が、彼の前に立ちふさがった。
大男が背後から彼の体を捕らえ、片腕で軽々と脇の下に抱え込んだ。
国見は悲鳴をあげながら、足をじたばたさせた。革靴が吹っ飛んで、テーブルに当たった。
大男は、いとも易々と国見の太った体をソファーに押さえつけ、ズボンを引き剥いだ。それから自分もズボンをずり下ろすと、抱っこちゃん人形のように国見の脚を開いて抱きかかえ、ソファーの上にどっかりと腰をおろした。
国見は生きた心地がしなかった。すぐ目の前には、ゴリラのように盛り上がった胸があった。それよりも彼を怯ませたのは、むきだしの股座に押しつけられた性器の感触だった。ちらりと目にはいったモノ――縮れた陰毛から、重々しくぶらさがって――とても人間の持ち物とは思えないほど、巨大だった。
そのとき、股間に押しつけられたモノが、むくむくと盛り上がるのを感じた。
大男がポケットから小さな容器を取りだした。最初からこうなることが予定されていたのか、潤滑オイルだった。大男は国見の尻をもちあげ、べとつくオイルを肛門になすりつけた。それから自分の持ち物にも塗りつけ、いけにえの柔らかい狭間に当てがった。それから、強引に沈めていった。
「いやだっ――やめてえっ――うわっ!うわああっ!」
国見は悲鳴をあげた。あとは言葉にならなかった。
腰がぐいと引き寄せられ、ふたたび悲鳴をあげた。まるで握りこぶしを、むりやり突っ込まれたようだった。引き裂かれるような苦痛と、からだの奥深くを押し上げる圧迫感。息をするのも困難だった。
大男は、国見の体をしっかりと抱き寄せ、赤ん坊をあやすように、巨体を前後に揺すらせた。国見の姿は、ゴリラにしがみつく子供のようだった。

「よし、こっちに向かせろ」
年配の男が命令した。
大男はいったん引き抜くと、国見を逆むきにまたがらせた。そしてふたたび、背後から突き入れた。
「うぎゃーっ!」
マスターが悲鳴を上げた。
年配の男は興味深そうに、縮こまったマスターの性器を見た。それから、顔一面に脂汗を浮かべた犠牲者にむかって、質問を再開した。
「キーをどこでなくしたか思い出すんだ。見つからなければ、おまえがどうなるか――分かっているだろうな?」
返答をうながすように、大男が背後から腰を揺すらせた。
「うわあっ!――わ、わかりました」
国見は、かろうじて声を出した。彼は串刺しになりながら、迷っていた。たしかあのとき、鉄平にキーを渡して、手荷物を取ってきてくれと――。でも、名前を言えば、こんどは鉄平の身に危険が及ぶ。しかし、それを言わなければ、自分の身に――。
国見は、当面の急場しのぎを選択した。

「鉄平って小僧に渡したんだな」
「ええ――」
「よし、今すぐ小僧に電話しろ」
角刈りの男が、携帯電話を持ってきた。国見は震える手で携帯を握り、鉄平に電話した。
「――はい、河合です」
「ああ、鉄平くん、国見です。いま、どこなの?」
「あ、クニさん?いま、親父の店でバイト中。どうしたんだい?」
「昨日、渡したキー。ほら、新宿駅の――」
「ああ、あれなら親父に頼んだよ。新宿に行くって言ってたから」
「どっちの親父さん?」
「神田の親父。ちょっと待って。今、聞いてくるから。いったん切るよ」
電話を待つ間、国見は生きた心地がしなかった。尻に刺し込まれた肉棒を、早く抜いてもらいたかった。まるで、ビールビンを突っ込まれているようだった。このままでは弛みすぎて、使い物にならなくなる。
ようやく電話がかかってきた。
「クニさん?親父に聞いたら、新宿駅に行っていないって。というのは、その前にキーがどこかにいっちまったらしいよ」
「ええっ!――どういうことなの?」
「だから、失くしちまったってこと。ごめんね。――あ、お客さんが来たんで、切るね」
「ああっ、待って!」
国見は切れた携帯を持って、なんとも情けない顔で太った男を見た。
「それで」
太った男は国見をにらみつけた。「まさか、無くなったなんて言わないだろうな」
すっかり言葉を失った国見を見て、太った男はゴリラ男に合図した。「どうやら、可愛がり方が足りなかったようだ。田中、たっぷりと遊んでやれ」

30分後、国見はすっかり消耗しきって、床のカーペットの上で丸くなっていた。むき出しの白い尻の狭間が赤く染まって、処女を摘み取られた乙女のように、はかなげだった。
「小僧には二人の親父がいる。キーを預けたのは、小僧の実の親、バイト先の拓満という割烹屋の親父。名前は松岡。こいつが失くしたって言うんだな」
太った年配の男は、念を押すように言った。
国見は、涙でくしゃくしゃになった顔でうなずいた。悲鳴を上げすぎて、声も出なかった。
「しかし、人から預かったものを簡単に失くすなんて、まったく無責任な親子だ。聞いてあきれる」
太った男はぼやくと、念を押すように国見に言った。「いいか、今日のことは誰にも言うな。もしも言ったら――そのときは分かっているだろうな」
それだけ言うと、男たちは飲み代も払わずに帰っていった。
[17/10/19 06:23 神亀]
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