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リーマン行状記 - シーン(1)
シーン(1)

土曜日の朝、伊藤物産の社長、伊藤千秋は、布製のバッグを肩からぶら下げ、あわただしく自宅を出た。
ラフなジャケット姿にチェック柄のハンチング帽を被り、恰幅の良い体を苦労してベンツの後部座席に沈める。
運転手が慎重にドアを閉め、門まで見送りに出た夫人にむけて丁寧に頭を下げた。

「高木くん、今日は休みなのに悪いね」
車が動き出すと、伊藤は運転手に声をかけた。
「いえ、構いません。女房は朝からエアロビに出かけていますから」
初老の運転手が愛想良く答えた。
中肉中背、根アカでおしゃべり好きの愛すべき好人物である。
「エアロビ――?」
伊藤は、運転手が20ほど年下の女性と再婚して、子供がいないことを思い出した。「若い奥さんを貰って大変だねえ」
運転手は、伊藤の言葉を別の意味に受けとめた。
「それほどでもございません。じつは私、先月62歳になりましたが、あちらのほうは、さほど不自由を感じていません。問題は、女房が嫌がって、やらせてくれないんです」
(奥さんには、他にいい男がいるんじゃないか)
と思ったが、伊藤はとりあえずお世辞を言った。
「ふーん、元気で結構だな」
運転手は温顔をクシャッとさせて、嬉しそうに返事をした。
「有難うございます。今でも少なくとも、週に一回は出来ます」
それを聞いたとたん、伊藤は面白くもないと言わんばかりに、ムスッとして新聞読みに集中した。

伊藤千秋は70歳。彼の年代にしては大柄で、恰幅の良い体つきをしている。薄い眉毛と金ぶち眼鏡の奥でいたずらっぽく輝く小さな瞳、ピンク色のぷっくりした唇――見るからに福々しい顔立ちだ。すっかり薄くなった頭髪に肉付きの良い丸顔は、お日様に見立てて『サンシャイン』と陰で社員たちに呼ばれる所以である。
見た目の温厚さに反して、会社ではワンマンかつ厳格な経営者と見られている。特に重役や幹部社員にとっては、雷より怖い存在である。

伊藤を乗せたベンツは、大型団地の一角に到着した。
道路のすぐ前方には、黒いランドクルーザーが駐車している。そのかたわらに、野球帽をかぶった中肉中背の男が立っていた。
男は伊藤の車に気付いて、大股で歩み寄ってきた。
名前は鬼藤健一、45歳。ちょっと太目のスポーツマンタイプだが、よく日焼けした顔はどことなくとぼけて、のんびりとした性格をうかがわせる。
「おはよう、ケンちゃん」
「イーさん、お元気そう」
二人は親しげに声をかけあった。
伊藤はベンツを降り、ランドクルーザーに乗り換えた。これから二人は、秩父方面にスケッチ旅行をすることになっていた。伊藤が持っている布バッグには、そのための画材道具が入っている。
高木運転手の見送る中、鬼藤の運転するランドクルーザーは発進した。後部窓から運転手の姿がみるみる小さくなっていく。

ランドクルーザーは、ゆっくりと団地外周を大回りした。
5分後、一周して元の位置に戻ってきた。
ベンツ車の姿はすでに無い。そのまま団地内の駐車場にはいると、二人は鬼藤のアパートに向かった。

千秋は恰幅の良い体を波打たせ、くぐもった喘ぎ声をあげつづけた。
中年男の指が、ふっくらとした双丘の狭間に潜り込み、軟らかい秘密の通路をじんわりと這い進む。そこの温もりと潤いを楽しむように、先を急がず、ねちっこく、太い指がうごめく。
指先が柔らかい皺の集合体を押し広げ、奥の小道に侵入すると、たまらず千秋は喘いで、腰をずり上げた。
健一は、しばらく内部の滑らかな温もりを楽しんだあと、その指を引き抜いて、いよいよ主役を登場させた。
育ち過ぎのマツタケを思わせる、禍々しく膨れ上がった亀頭に、たっぷりとラブオイルを塗りつける。
ついで豊満な膨らみを押し広げ、期待にひくつく秘門にヌンッとあてがう。
すぐには入れず、円を描くようにこすりつける。
「あ、あん、早く――」
千秋が焦れて、尻をうねらせる。
それに応えて、健一がのんびりと言う。
「了解」
ほどなく、くぐもった悲鳴があがった。と同時に、熱気が室内に充満した。



伊藤千秋と鬼藤健一が初めて出会ったのは、浅草のフケ専バーだった。
お忍びで遊びに来ていた伊藤は、金縁の眼鏡をべっ甲縁に替え、ハンチング帽を目深にかぶっていた。
店内の客たちを物色していた彼は、ちょうど店に入ってきた男に目を止めた。標準タイプの体格をした中年男で、サラリーマンらしい服装だが、どことなく肉体労働者の粗野が感じられる。その男のとぼけた風貌が、妙に伊藤の心を惹きつけた。
それが鬼籐健一だった。
一夜限りのアバンチュールを求めていた伊藤は、さっそく男にアプローチした。そして気づいた。この男はまったくのノンケで、この店がどういった類いのものか知らずに入ったようだ。
(ノンケを落とすのもいいか――)
胸の内で、欲望と悪戯心がうずいた。伊藤は男に酒を勧めながら、機が熟すのを待った。
「へーえ、千秋と言うんですか。かわいらしい名前だな」
伊藤のおごり酒を飲みながら、男がのんびりと言った。
用心したつもりで下の名前だけ告げたのだが、それがかえってあだになったようだ。伊藤は子供のころ、千秋という名前が女の子のようだと言われて、悪ガキどもにさんざんからかわれた記憶がある。
「ねえ、これからは、千秋ちゃんと呼んでいい?」
「だめだ!どうせなら、イーさんと呼んでくれ」
伊藤は思わず言っていた。
「イーさんか。じゃあぼくは、ケンちゃんと呼んで」
男が無邪気な笑顔で返した。

一時間後、ふたりはすっかり意気投合していた。
店を出ると、肩を組んで夜の街に繰り出した。しこたま酒を飲まされた健一は、少々足もとがおぼつかなかった。
公園にさしかかった時、健一がひとこと「おしっこ」と言って、ふらつきながら茂みに向かった。
千秋にとっては、千載一遇のチャンスだった。
「ケンちゃん、足もとがふらついてるじゃないか。さあ、お父ちゃんが肩を貸してあげよう。――そうら、チャックを下げて――お、でかいじゃないか」
ズボンの合わせ目から、ムキムキ肉厚のおチンチンがぞろりと出てきた。
望外の大きさに、千秋は小躍りした。
「重そうだね。お父ちゃんが持っててあげよう」
さっそくサービス精神を発揮して、現れたものを掴んだ。
ずる剥けの極太チンポ――千秋は大きさを測るように、先端から根元にかけて握った手を滑らせた。ボリュームたっぷりの肉根が、ムクムクと頭をもたげてくる。
「おやおや、こんなに大きくしちゃって。これじゃあ、おしっこが出来ないぞ」
「あっ、あっ、そんなにいじられると、ますます固くなっちゃう」
こうなるともうオシッコどころではなかった。柔らかい手の中で、ふてぶてしい肉棒がグングン容積と固さを増していった。

そのあと二人はホテルにしけ込んで、禁断の関係を結んでしまったのである。
よほどしっくりといったのか、この夜以降も二人の付き合いはつづいた。
社会的地位の高い千秋は、いつも世間の目を気にしていた。
その結果、いつしか逢引の場は、健一の住む2DKのアパートになっていた。幸か不幸か、健一はバツイチの独り住まいだったからである。
[17/10/01 06:54 神亀]
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