■ デッドライン第三部(反撃) - (エピローグ)
(エピローグ)
俺は佳代の墓参りに来ていた。まだ自力で歩くことが出来ず、車椅子に乗っていた。
啓介と福井が一緒だった。二人は、孫と祖父のように仲むつまじく、墓石を水で清めていた。福井は首の傷も回復して、顔色もすっかり良くなっている。
ふと目を転じると、遠くに黒っぽい海が見えた。船が何隻か海に浮かび、レインボーブリッジが伸びている。その手前に、俺たちが死闘を繰り広げた埠頭が見えた。
生きているのが信じられないくらいだった。そして、あの夜の記憶は、薄れかけていた。いや、早く忘れてしまいたかった。
「お父さん、なに考えているの?」
啓介の声に、俺はわれに返った。
「ああ──海がきれいだなって、見ていたんだ」
振りかえると、佳代のお墓はきれいになっていた。竹筒に花が供えられている。
俺はその墓に向かって、両手を合わせた。
啓介と福井がそれにならった。
(佳代、おまえの仇は取ったぞ。──こんなことを言うと、おまえは怒るかもしれんな。とにかく、啓介のことは、俺に任せてくれ。まっすぐな男に育てるよ。約束する)
墓参りがすむと、福井が背後に回って、車椅子の向きを変えてくれた。
俺は病院で考えていたことを、福井に話した。
「福井さん、頼みがあるんだ」
「なんだね、頼みって──」
「俺たちの家で、一緒に暮らしてくれないか?」
とたんに、啓介が歓声を上げた。
福井は突然の申し出に、戸惑っているようすだった。
「ねえ、小父さん、いいじゃない。僕たちの家にきてよ」
啓介が嬉しそうに言った。
「ああ──でも、迷惑じゃないのかい」
「迷惑じゃないよ」
啓介が断定するように言った。それに俺が付け加えた。
「掃除、洗濯、メシの支度──やることはいくらでもあるんだ」
福井に望むことはもうひとつあったが、それは啓介の前で言えない。福井が潤んだような視線を返した。俺の想いが伝わったようだ。
そのとき、俺の言葉に応えるかのように、遠くで汽笛がボーッと鳴った。
俺たちは顔を見合わせて、微笑んだ。
墓地の入り口にたどり着いたとき、表の通りに黒塗りの車が停まった。
その車から出てきた男を見て、俺は凍りついた。
――スキンヘッド!
俺の背後で、福井が息を呑む気配がした。
スキンヘッドは革のジャンパーを着て、サングラスをしていた。彼はポケットに両手を突っ込み、真っ直ぐに、俺たちのほうを見ていた。
俺の頭の中は、目まぐるしく回転した。
(武器はない。脚もいうことを利かない。畜生、どうすればいいんだ!)
そのとき、車の中から、可愛らしい女の子が出てきた。
「パパ、抱っこ」
幼児が両手を広げて呼びかけた。スキンヘッドは、やれやれというように肩をすくめ、女の子を抱き上げた。それから男は、サングラスを取った。その顔は、殺し屋とは違う若い顔だった。
俺は振り返って福井の顔を見た。福井がショックから醒めやらぬ表情で、俺を見返した。それから肩をすくめ、おどけたような表情をした。
啓介が言った。
「二人ともどうしたの。まるで、幽霊に出会ったような顔をしているよ」
俺は、溜めていた息をフーッと吐いた。
「たしかに幽霊を見たのかも知れないな。さあ、家に帰ろう」
完